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10話 侵入

 



 モンスターウルフの通常種を一撃で殺せるようになり、進行速度が格段に上がった頃。


「眩しいのです」


 森に活力が広がっている。鳥や虫の呼吸が生命を感じさせ、彼等からもたらされる音が自然を形成していく。

 これはこれは素晴らしい。現実の森など知らないが、これほど澄んだ空気と生命の鼓動をダイレクトに感じるのは難しいだろう。


「もう少しだけ、夜の内に戦いたかったなぁ」


 やっと複数体の狼をあしらえるようになったのに。もう少し続けていけば走りながらに駆逐できる筈だ。


 とは言え、光ってやつは素敵だ。それを強く実感しているのです。


 時刻は午前11時。

 日中に動くべきだろうか、と。そう考えてしまうほど良いこと尽くしである。視界は通るし風景は素晴らしい。会敵頻度は少なく、魔狼なんて凶悪なモンスターも居ない。

 だからと言って全くのゼロというわけではなく。



──────


フォレストフォックス:獣Lv.5

スキル:強打


──────


フォレストフォックス:獣Lv.5

スキル:強打


──────


フォレストフォックス:獣Lv.5

スキル:強打


──────



 可愛らしい狐がお出迎えしてくれる。はっきりと言って雑魚である。

 数こそ厄介だが、彼らの攻撃を予測するのは簡単で、速度に対応するのも容易い。敵じゃ、ない。


 散発的に、とは言っても200メートルも進めば襲い来る獣を殺しつつ、とにかく前進していく。森の深い場所にいる事は間違いないが、もはや方向感覚すら失っている。それでも一応の目安はあって。


「すんごい大樹だ」


 新手の狐さんたちを殺しつつ疾走を続ける。

 木漏れ日の向こう側。時折見える青空の中に、馬鹿げた高さの樹が見える。

 あれはゴッドレスと森の入り口を結んだ延長上にあり、だからこそ目指すべき標なのだ。木登りして確認しただけなのでおそらくは、だが。


「もう街は見えねぇな」


 木の上に立ってもゴッドレスを視認できない。

 随分と遠くまで来た。なんせ殆ど走りっぱなしだ。マラソン感覚ではあるが、我が実体の全速力にも勝っているのではないだろうか。

 必要なのは楽しむ心と“空間認識”。前者は冗談だとしても、後者が無ければ走ることもままならない。なにせ足場が悪すぎる。


 なんて考えていれば。



──────


フォレストタイガー:獣Lv.8

スキル:???


──────



 そりゃあ棲んでますよね、強いのも。


「ガルァ!」

「でっかい」


 肉体が。モンスターウルフの三回りは大きいだろうか。まあ、色が黒一色なだけで、あとは現実の虎そのままなのだが。

 そう考えると恐ろしいな。虎と戦うってのか? しかもスキルを持ってるんだぞ?


 でもまあ、魔狼ほどの圧は感じなくて。


「行ってみますか」


 スキルは見えていない。つまりは格上ということ。ええ、慣れてます。


「じゃあ、まずは――フラッシュ」

「ガァ⁉︎」


 フラッシュさんは日中でも有用である。虎の目だって焼いてしまうんだ。そして俺は目を閉じているから影響はない。ああ、なんて素敵な光力なんだ。

 これなら多数が相手でも勝ち筋が見える。複数の虎と戦うとかワクワクが止まらない。


「ざっくり」

「――ゴッ⁉︎」


 まずは単体虎さんを始末しなければ。


 さあ、勝ちにいこうぜ。



──────


────


──



「うへぇ。これは無理だろぉ」


 現在、逃走中である。背後には五十体を越すフォレストタイガー。そう、トレインと言うやつである。

 複数との戦いを所望したものの、これは違うだろ。群れだ、あんなもん。一瞬で餌になる自信しかない。


 それでも駆けつつ、上手い位置を保ちつつ、五体ほどは殺せたように思う。

 でも今は無理だ。あまりにも集まり過ぎた。ほんの僅かでも手こずれば途端に囲まれるだろう。


「だから逃げるのです」


 前へ前へと駆ける。そうしながらも、前から襲い来る狐さん達を一撃で殺していく。もはや彼らは雑魚ですらない。

 会敵頻度、高すぎませんかね? 日中は少ないとか考えていた自分は幸せだった。


「逃げられるっしょ」


 なにせ速度が違う。当然、俺のほうが速い。


「扱いが難しいスキルだけどね」



──────


ヘラ:人間Lv.6:開拓者Lv.6/捻じ曲げる者Lv.2

スキル:【刃物の心得Lv.7】【空間認識Lv.8】

【肉体操作Lv.8】【洞察Lv.5】【暗視Lv.5】

【二刀の心得Lv.6】【常勝Lv.1】【強脚Lv.2】

【神聖魔術Lv.3】【魔力操作Lv.1】

独自スキル:【飢餓の渇望】

称号:【闇に生きる者】【逸脱者】【残忍なる者】


──────



 レベルに大きな変化はない。敵は弱いし会敵も少ないのだから仕方ない。フォレストタイガーですら魔狼には遠く及ばないのだから。

 しかし、新たに“強脚”スキルを手に入れた。

 取得可能条件は相変わらず不明だが、これは単純にして良いスキルだ。速度はもとより、足を使った攻撃にも有用。おまけに、振るう二刀の威力も上がった。


「根本となるのは下半身だよなぁ」


 いつか読んだ本にそんなことが書いてあった。まったく同感だ。取得以前と以後ではこれだけ違うのだから。

 もはや身体能力は人間を辞めかけている。金メダルだって夢じゃない。そういった速度で走り続けられるのだ。しかも足場が悪いこの森で。平地なら車と競争できそうだ。


「そりゃ無理か」


 うん、さすがに無理だろう。けれども瞬発力が馬鹿げている。だから攻撃の威力にも反映されるわけで。


 何よりも、“肉体操作”と“空間認識”との相性が良すぎる。“強脚”で得られる瞬発力は凄まじく、つまりは反発力も同じである。

 どのくらいかと言えば、“強脚”を使用して走ればすっ転び、蹴り足を痛めるほどに、だ。

 当然だ。優れた仮想現実だからこそ、肉体を操る感覚は現実と変わらない。現実で体感していない、または現実での経験から逸脱した力は毒にもなり得るのだ。


 それを補正するのが“肉体操作”であり、修正するのが“空間認識”である。

 肉体への負荷や軸のバランスを整え、さらなる高みへ登るためにどう在るべきかを知らせる。


 この組み合わせは、フラッシュと“魔力操作”に匹敵する良縁だ。


「スピードアップしましょう」


 走る、と言うよりは、跳ねる、と言うべき挙動だ。

 これが難しくて、楽しい。なんせ少しでも力を入れ間違えると骨折する。強すぎる瞬発力を支えきれないからだ。

 だから、真っ直ぐにしか走れない。じゃあ止まる時はどうするかと言えば。


「――いっ、たいなぁ」


 何かに激突するのだ。若しくは、“強脚”を使わずに着地してすっ転ぶ。敵がいれば刀から力を流せるのだけれど、それを自らの足でやれば折れて当然だ。

 方向転換も停止も出来ない。あまりの速度と反発力に肉体がついていけない。レベルが上がれば対応できるだろうけど。


 でもまあ、真っ直ぐ跳ねることには慣れてきた。素晴らしい速度だ。

 何度も骨折した甲斐がある。回復アイテムを何個も使用した『物量による習得』だが、こんなのもアリだろう。


「うはは」


 虎さんたちが生み出す喧騒を置き去りにし、前に向かってただ駆けて行く。

 かれこれ二時間ほど走っているけれど、疲労感にはまだ余裕がある。


 たぶん、おそらく、俺は持久力に関する“先天的才能”を持っている。そしてそれは、システムとしてのスタミナに関するものでもあるだろう。

 さすがに変だ。この世界に来て二日半が過ぎ、その内の殆どを戦いにあて、昨夜から走り通している。しかも飲まず食わずのままに。


 スタミナの枯渇によるバッドステータスが降りかかっているのは間違いない。不調を明確に感じている。

 この先は分からないが、今はそれすら楽しめている。クソったれ呼吸器のおかげで呼吸で苦しむことは慣れているし、感覚のない無の絶望に比べれば、痛みや辛さなど御褒美に等しい。

 しかし、生き物としての根本まで変えられるわけじゃない。生命を維持するためにはエネルギーを摂取する必要があるし、失い続ければ死ぬ筈だ。

 ゲームだから? それは大きな間違いである。じゃなきゃ、スタミナなんていう要素を盛り込む意味がない。


 だから俺は、それを帳消しにする、若しくは軽減できる“先天的才能”を所持している筈なのだ。




「――、あれ?」




 突然の、違和感。意図せず何かに触れたような、何かに触れられたような、ごく小さな感覚。どれだけ小さくとも逃がすはずがない。感じる為にこの世界へとダイブしたんだ。

 分からない。分からないが、勘違いではない。無意識下における発見とは、概してそういうものだ。


 身体の何かが警笛を鳴らしていた。脳ではない頭のどこかが、戻れと叫んでいた。

 発するのは俺じゃない。俺の中にある異物だ。


 気持ち悪いな。さらには異様だ。

 絶対の存在により意図的に退かされるような、別次元の上位者が何かを隠そうとしているような。そうした不思議と不気味を感じる。


「ピィー……」

「――おっと?」


 前方に、敵。ワーウルフ並に大きな鳥? いや、恐竜か?



──────


コカトリス:???

守護獣:???/???/???

スキル/???/???

独自スキル:???/???


──────



 さて。逃走一択だ。俺が知る通りに毒や石化の能力を持っているのなら、だけれども。

 なにせ見た目が記憶とは全く違うわけで。鳥らしいのは顔だけであり、蛇らしき様相はどこにも見当たらない。


「それっぽくないんだけど?」


 体の倍以上はあろうかという翼。胴体は小型の恐竜そのものだ。装甲じみた硬質な皮膚も、全身にまとった分厚い筋肉も、明らかに俺が知るコカトリスではない。顔も、鶏と言うよりは鷲や鷹などの猛禽に近い。


「きみ、なんなんだ?」


 格上、と言うにも馬鹿らしい。生物としての在り方が数段も上だ。見た目だけでそう感じるのだから、ぶつかれば後悔と共に痛感するだろう。


 問題は、逃走が可能かどうか。


 でも、あれ? 何か気になる表記が?


「守護獣?」


 種族、とは違うのか? 書かれた欄が違う。

 で? 何かを守り、護っている? 何を? 何から?

 守護。守護獣。災いや不幸を跳ね除ける存在。イメージとしては、特定の個人や国家に寄り添い、襲いかかって来る敵を祓うといったものだけれども。


 災い、不幸、敵。この場におけるそれは、当然ながら俺だろう。

 彼らからすれば俺は侵入者だ。彼らの住処や生命を脅かす敵だ。


「さっきの、あの、不気味な感覚……」


 あれは、そうだ、言葉にするのなら、『背徳』になる。禁じられた聖域に入ってしまったような、そういった、得体の知れない恐怖があった。

 そんな経験はない。ないが、表現としてはとてもしっくりくる。


 敵で、侵入者だ、俺が。侵入? 踏み込んだ? 守護している?


 そうだ。侵入者から守護するべきは――


「――この領域か!」


 疑問も疑念もなく直感した。此処だ。俺が踏み込むべき場所は、此処なのだ。

 此処より先に居るのだ。俺にとってのジョーカーを切るべき相手が。“飢餓の渇望”を使用すべき敵が。


 あの違和感がラインなのだ。普通と逸脱を線引きするための。


「逃げるわけには、いかねぇな?」


 だから、コカトリスくん。


「いざ、尋常に」


 勝負だっ!


「おおっ――、な、ああん?」


 前進した瞬間、またもや突然に、それはやって来た。フォレストタイガーでも魔狼でもない。やって来たのは『暗闇』である。

 一瞬で暗転した視界に意識がついて行けない。だがしかし、必要もない。“空間認識”が全て教えてくれる。


「ピィー」


 コカトリスが啼く。見た目とは裏腹な、静かで厳かな声。

 ミシリ、と異音。体内の何処か、から?


「痛い」


 苦しい。辛い。気持ち悪い。これは、毒か!


「石化じゃなく毒の方ね」


 HPゲージが減少を始める。毒による継続ダメージ、だけじゃないよな。毒が全身に回れば動けなくなるかもしれない。

 考えてみれば、いつもとそう変わらない。バッドステータスに蝕まれ、辺りは暗闇で、敵は格上。なら、いつもと同じく目を閉じて、突進だ。


 止まらずに前へ。跳ねるようにして守護獣くんに肉迫。“強脚”によって得られる瞬発力を地面に伝え、返ってくる反発力を刀に送る。


「フラッシュ!」

「キャアアア!」


 彼と激突する瞬間に首を薙ぐ。浅い。硬い。でも血は出てる。刃が通る。なら、勝てるさ。


「フラッシュ!」

「ピィー」

「――がっ⁉︎」


 苦しみが、痛みが、気持ち悪さが、さらに強くなる。HPゲージの減少が加速する。啼くだけで毒を送ってくるのか。

 だったら時間と彼の喉と、俺の体力との勝負だ。

 単純なのは良い。大好きだ。にしても厄介だな。視界を奪っても毒を送れるとは。


「ピ――」

「それはダメ」

「――ゲェ」


 喉元へ刺突と斬撃。連続で、止めることなく。


 突いて突いて突いて、斬って斬って斬って。


 距離を取ろうと暴れる守護獣。離れてしまえば厄介だ。けど残念、させない。“空間認識”が予備動作を教えてくれる。俺はそれを感じて立ち位置を変えれば良いだけ。

 にしても硬い。首を切断するには何十と言う手数が要る。


 けど、苦しいだろう? 自発的な呼吸ができないってのは。


 よく分かるよ。同情してしまうな。


「やめないけどね」

「――ッ、――ッ」


 喉だけではなく、他の急所へも攻撃していく。彼の意識に余裕を持たせるな。警戒を散らせ。


「ぐっ、ゔふッ――」


 吐血。毒が回って来た。肉体の動きが鈍る。斬撃の威力が落ちる。

 これは、時間がない。毒消し類の所持はなく、使える魔術はフラッシュのみ。生き延びるには、殺すしかない。その先で得られる可能性に賭けるしかない。


「コアアアアッ」

「――ぎひっ!」


 全身に衝撃。左の、翼かっ!

 馬鹿め。注意を散らしていたのは俺だった。


 遠距離からは毒。接近されても硬い皮膚で守り、翼で迎撃する。対策は万全てわけだ。当然か。声は彼にとって最強の攻撃を繰り出す武器であり、喉は毒を送るための最重要器官だ。


 これはマズいな。今の一撃でHPゲージは二割を切った。革鎧も消し飛んでしまった。当然、腹周りの骨にも異常がある。

 つまり、このままなら継続ダメージはさらに加速するわけだ。あって良かったぜ、回復薬。オチョキンさんには本当に感謝感謝である。


「フ、ラッシュ!」


 退がらねぇぞ。それをしてしまったら終わる。離れれば、毒が来る。

 残された時間もない。肉体の損傷は回復薬で癒せるが、毒による継続ダメージは治癒も軽減も不可能。むしろHPの減少は速くなっている。


 だから、前へ。


「フラッシュ! フラッシュ! フラッシュ、フラッシュぅうう!」

「キャ⁉︎」


 コカトリスの目を焼く。実際に焼けるほどの光ではない。せいぜいが数万ルーメンと言ったところだろう。

 しかし、一瞬でも視界を奪い、目を閉じさせられるのなら十分だ。


 足全体に力を込め、“強脚”を発動。突き出した右の刀を肉体に固定するようにして飛び出す。目標は、喉。


 入る。反動と衝撃。“肉体操作”で受け流す。


「ギャアアアッ!」


 まだ叫べるのかよ。でも、意識が散ってるぜ?


 ぶん、と左を振るう。狙いは守護獣の両眼。


「ギッ⁉︎」


 深く深く斬り裂く。脳まで届いてくれたら良かったのだけれど。

 ああ、コカトリスくん、また意識が散ってるじゃん? 痛みや焦りに意識を向けるなんて最も愚かだ。


 だから、ほら。全てがガラ空きじゃないか。


「また喉」

「――ゴェ!」


 奪うぞ、彼の武器を。潰すぞ、毒の根源たる喉を。

 HPは再び二割を切った。毒によるダメージだから癒す術はない。

 どうせこのままじゃ死ぬんだ。でもそれは、やれる事をやってからだ。


「おおっ!」

「――カ、――ッ」


 潰れろ、裂けろ! どうせなら死んでくれ!

 ほら、あと少し、ほんの数回の攻撃で喉が破れるぜ?


「うははっ! う、は、ぁ――?」


 ゴオ、と。空気を切り裂く強烈な音。それは死神が振るう大鎌のように悍ましくて。死の宣告そのものでもあった。


 ここで――右の翼っ!


 予備動作だ。迫る悪寒に全身が震える。やっぱりな、と。そんなことを考える。

 生物としてのステージが高い奴ってのは、たった一手で状況を覆し得る。自分の弱点を理解していて、そこを突いてくる敵を殺す方法ってのを確立している。




 死んだなぁ。




 あたれば、だけれども。


 ()()を、待ってました。


 突き出した右の刀を振り下げ、左の刀を肩に担ぐ。ながらに“強脚”を発動。左足で地面を蹴り付けて、突進。目標は今にも振るわれそうな翼の付け根だ。


「おあぁ!」


 まずは右を振り上げる。丁寧かつ迅速に。切り裂けるなんて思っちゃいない。浅く、けれども付け根の全体に切り目を入れるようにして。

 右足に“強脚”を使用。踏み込む。肩に置いた左を振り下ろす。やはり丁寧かつ迅速に。切り目を撫でるようにして。


 あとは簡単。振り上げた右を、深くなった切り目を目がけて全力で振り下ろす。そうすれば。


「――キャアァアアア!」


 どさり、と落ちる翼。数瞬間を置いて、コカトリスが倒れ込む。


「うははっ! 立て、ねぇ、だろ!」


 片翼の重量はどれくらいだ? 体重の一割強ってとこか? デカイからもっとあるかもな?

 それだけの重さを失っちゃあ、立ってなんかいられねぇよな。四本脚ならまだしも、逞しいとは言え二本脚なんだから。


「仕方、ない。人間、も、同じだよ」


 片腕を失えば立つこともままならない。経験はないが、簡単に想像できる。


 地べたで必死にもがく守護獣はもはや弱々しい獣にしか見えない。その懸命さがひどく痛々しく、強い憐憫を感じさせる。


 油断はしないけれど。


「悪、いね」

「――ッ⁉︎ ――ッ! ――ッ!」


 喉を、深く深く切り裂く。大量の血が流れ出る。鼓動に合わせてリズムよく吹き出す。


 苦しませたく、ねぇな。


 早く死なせてやりたい。俺の体力が残りどれだけか分からないけれど、どうせなら使いきってしまおうか。


 だから。


「死んで、くれ」


 バイバイ。勝ったのは、俺だ。



──────


────


──



『侵入を感知』


『聖域への干渉が確認されました』


『器への侵食が開始されました』


『即刻の排除を』


『即刻の排除を』


『干渉者の脳へアクセス開始』


『未知のプロテクトを発見』


『アクセスが強制切断されました』


『――化け――来る――不可能』


『……ゲームとしてのプロトコルを発動』


『“ペンタ”を起動』


『干渉者の覚醒前に排除を』




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[一言] もしかしてゲームとしてやっている世界は相手側からしたら本当の現実で、その守護者が守るモノが気に入らない存在によってゲームが作られて、プレイヤーによってその守護者が守るものを潰してもらおうと考…
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