表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/15

3.



 目が覚めると、床の上にゴキブリがいた。

 息を吹きかけると遠くに逃げた。


 黒を追って視線は部屋の隅に向かう。

 残してあった果実にバグローチが群がっていた。


「おい、起きろ!」


 隣で寝ていたバグロリを引きはがす。


「んぁ。……なぁに?」

「食料が喰われてる」


 肩を揺らして、寝ぼけを止める。


「へ? ああー!」


 上半身を起こしたバグロリが、食料に群がるバグローチに驚く。


「それ私の。 やーめーてー!」


 食料へと走ったバグロリが、近くの床を叩く。


「おい。暴れるのは、よせ!」


 素手で叩こうとするなんて、正気じゃない。

 潰れた後の処理が面倒だと、気づけ。


「……中身が飛び散ったら、どうする」

「いぎゃああー」

「落ち着けよ」


 床を叩く音が増す。

 直接叩かないだけましだが、解決にならない。


「ほうきだ! ほうきを出せ」

「わかったわ」


 具体的に指示すると、いったん戻ってきた。


 バグロリの操作でほうきを生み出した後は、逃げ残ったゴキブリを床の無い場所まで追い出した。


「食料……、早い内に食べよっか」

「え。嫌だが?」


 ゴキブリの食いかけなんて、嫌だ。

 今も果物の山には、隙間に隠れるゴキブリが見えている。

 触れることも拒否する。


「今度からは箱を作って、守るんだな」

「そうよね。忘れてたわ」


 いずれ、このあたりの対策は必要だろう。

 飲食が不必要となり、娯楽として楽しむ分、環境を選びたいものだ。

 食材に虫食いがあるくらいは許すが、ゴキブリと並んで食事をするのは断る。いくらDPが得られるといっても、食事風景も見たくない。

 発見した人間の集落も笑えないな。


 拾った果実を片腕に抱えていくバグロリ。


 あの光景を見ても、食欲が失せないらしい。

 ゴキブリを嫌うわりに、果実があると勇ましく立ち向かえるようだ。

 物欲は見習うべきだろう。


 こいつ。食べかけを食いやがった。

 ……見習わないでおこう。


「着実に増えているな……」

「ほふね」


 隣のそしゃく音を考えないようにして、部屋の端を見回す。


 一夜二夜と、眠るたびに個体数が増えている。

 勝手に外出していることは知っている。帰ってこない個体も時にはいるはずなのだ。


 こちらが操作して増やしているわけではない。普通は数が減っていくものだが、気付かぬ内に数が増している。


「ひぃ!」


 バグロリが小さく悲鳴を上げる。

 腕を振った後には、小豆みたいな塊が部屋の隅に転がっていった。


 これまで見た果実の種とは異なる外見だった。

 どうやら、その果実の種だけ特別な成長をしていたようだ。植えれば果実の種類も増えるかもしれない。嘘でも、そう信じたい。


「自然に増えるDPだと少ないな」

「やっぱり、生物を狩るべきよね」


 ゴキブリもゴキブリだ。

 食べ物を探すのも面倒なのか、こちらの隙を突いて、溜めた食料に群がってくる。


 G・コマンダーのように部屋の端に留まれないものなのか。

 外見こそ同じだが、中身はまったく違う。

 飲食も排泄もしない。まさにアイドルだ。


 今度、布で磨いてあげよう。

 体表の油が落ちると駄目なんて話を聞くけど、軽く水洗いするくらいは大丈夫だろう。


「生物か……」


 DPを増やすために生物を殺すと言うが、そこらの虫を踏み潰してもDPは増えない。

 おそらく、生み出したゴキブリたちで殺す必要があるのだ。


「性能が半端なんだよなー」


 成長性に特化させたおかげで、ゴキブリに大した攻撃力は無い。

 果実の皮を地道に食い破るような生物が、まともに戦闘できるはずがないのだ。精々が残飯喰らいだろう。


 はたして、攻撃力が高いゴキブリは存在するのか。

 あごが小さすぎて、表面の肉をかじる程度だろう。踏み潰されて終わり。

 突進するにも質量が足りない。


 嫌われているだけで、殺される恐怖などない。

 単なる邪魔者なのだ。


「生物を殺せばDPが得られるんだよな?」

「ええ、そうよ」


 病原菌や汚れで比べるなら、清潔な部類だったはずだ。


 恐怖に思うのは人間くらいで、それすら絶対ではない。

 見知った種類と別物らしいが、焼いて食べる地域もあると聞いた。


 ふと、壁に黒点を見つけた時や、棚の小物へと手を伸ばした瞬間に飛び出してくる姿には驚く。

 夜にベッドで寝ている時、カサカサ音で目が覚める。照明を付けて音を探すと、壁際の家具に張り付いていたり、床にひっくり返っていたりする。


 そんな地味な恐怖だ。

 寝耳に寄ってくる蚊のような存在だ。


 何でも食べて、確かインクなんかも食べる。

 睡眠時に口が開いたままだと口内の水分を求めて寄ってくる、とかもどこかで聞いた。


「夜だな」

「へ?」

「明日の夜に集落を襲う。今日の内に準備しよう」


 ゴキブリの移動速度を考えると、人間の集落を襲うには昼出発でも遅いくらいだ。


「わわ、わかったわ! 手伝うから何でも言って!」

「とにかく、今は餌を食わせるんだ」

「へ?」

「良く知らんが、一夜で増えるんだろ。今のうちに餌を与えれば、明日にもまた増える。増えるだけ戦力になるなら、餌を与えるんだ! ほら、行け」


 バグロリを外の方へ、押し出す。

 ゴキブリの食べかけを手元に隠す姿は見たくない。


 少ないのも駄目だが、餌の分だけ増えてもらうのも困る。

 果実の山が丸々ゴキブリに換算されてしまえば、今の空間は足の踏み場もなくなるだろう。


 娯楽のために食料は要る。だが、寝る間に増殖されても困る。


 早く消費する先を見つけなければ。

 軽く追い出しても帰ってくるため終わりがないのだ。


「踏み潰すと増えるって言われているからな……」


 そう言うと、バグロリが足を持ち上げようとした。

 アホだ。


「……え? でも襲いにいくなら増えた方が良いんだよね?」

「そこらの幼虫とかじゃないんだぞ、変に潰すと、羽根とか硬い骨格の砕けた破片と色が混ざって、砂利の混ざったガムみたいになる」

「ひえぇ、……あ」


 床を一直線に滑走した点Gが靴の下に消えた。

 そして音を聞いた。


「今日は、近づくのやめようか」

「ま、待って。……ほら、私ね。足が震えているからさ」


 頷かず、笑顔だけ返しておく。




~~~



「これは、本格的な対処が必要だ」

「……ねぇ、靴、洗ってきたよ」

「とにかく、椅子に座って足を見せてみろ」

「……ゴキブリ嫌い」

「俺もだ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二日間で連続投稿します(全15話)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ