第三章 二幕 『上陸・クラメシア帝国』
船は北東へと、風を帆に受け海原を進む。日が昇り、沈み、また昇る。
カモメが鳴いている。潮騒が遠く、細波の音が耳に心地よかった。
「う〜〜ん…ムニャムニャ。」
微睡むジョージ。丸い船窓からは、爽やかな朝日が射し込んでくる。穏やかなその時間を打ち破ったのは、他でもないイリューンの声だった。
「おっはよ―――――ッッ! ジョージッ! 起きてるかぁッ!」
「うわぁぁぁぁぁっっっ!?」
ベッドから上半身を起こし、反射的に身構えた。目の前にはいつもの逆立った銀髪。そして、無表情な金髪の少年。イリューンとディアーダが立っていた。
「…もう朝ですよ。食事が用意できてます。」
顔色一つ変えず、ディアーダがそう呟いた。イリューンはにっ、と歯を見せて笑い、ジョージの肩をばん、と叩くと言った。
「さ、いこうぜッ」
まだ寝ぼけ眼だったが、わざわざ食事に誘いに来てくれたのか、とジョージは少し照れくさい気持ちになった。思い返すに、この数日は天国だった。ベッドで休むのも、暖かい食事が出るのも、久しぶりの事だった。
「食堂で待ってるぜ。急げよなっ?」
そう言って、イリューン達は先に部屋を出ていった。よし、と気合いを入れ、ジョージはベッドから立ち上がった。
身支度をし、後に続いて船室を出る。辺りを見回しながら一路、食堂へと向かった。
香ばしいオニオンの匂いが辺りに漂っていた。その元を辿れば、食堂の場所はすぐに知れた。殊更に大きなドア。開ければ、食欲を誘うスープの匂いが部屋中に充満している。イリューン、ディアーダは既に席に着き、用意されたパンにかぶりついている真っ最中だった。
ジョージに気付き、イリューンは行儀悪くスプーンを頭の上で振り回した。
頭を掻きながら、ジョージもまた椅子を引いて席につく。と、それに合わせたように、ドアの向こうからアドンが姿を現した。相変わらず、マッチョだ。
「お・は・よ、ウフ。もうじき、船はクラメシア港に着くわ。それで…イリューン、あなたクラメシアがどんな所か、知っているの?」
「知るわけねぇじゃねぇか。」
「…あっきれた…! ラキシア二大大国の一つを知らないなんて。いいわ、説明してあげる。でも、その前に食事ね。折角のスープが冷めちゃうわぁ。」
ガタン、と椅子を引き、しなを作りながらアドンは何故かイリューンの隣に座った。ぐいぃ、と身体を擦り寄せる。あからさまに迷惑そうな顔をし、出来るだけアドンから離れるべく、仰け反りながらイリューンは訊いた。
「…で…で、アドン、ど、どんな場所なんだよ? ってか近ぇよ!」
「つれないわねぇ。…ラキシア大陸の中では2番目に大きな国よ。竜族信仰の最たる都市。共用語はラキシア語だけれど、一部の人間はクラメシア語しか話さないからカルチャーギャップを受けるかもね。…でも、それよりも、南の人間に対する敵愾心が凄いわよ。コーラス領と違ってギルドの支配も及ばない。だから、アタシはイリューンが心配で…」
「だから、近ぇって! ま、まぁ…大体解ったよ。今までのように簡単な旅じゃねぇ、って事なんだろ? ま、心配すんな! な、ジョージ!?」
いきなり話を振られ、「え?」と素っ頓狂な声を上げた。今までだって簡単な旅じゃねぇだろ、と言いたい気持ちもあったが、取り敢えずジョージはその場の空気を読み、首を縦に振っておいた。
「…クラメシアは、コーラスと戦争するつもりなんでしょうか?」
ディアーダがポツリと呟く。アドンはそれを聞き、うーん、と考えた素振りを見せると、
「第二次ラキシア戦争が終結してもう十年。あの時はアタシもまだ子供だったけど…世界情勢を見る限りでは、今コーラスに攻め入るメリットは無いと思うんだけれどね。まぁ、その辺りはあんたらがギルドの査察団として謁見に行くんでしょ? そっちの方が確かな情報になるはずよ。」
と、軽く言い放った。
確かにその通りではあった。民間の商船団であるアドンより、政治的には自分達の方が真相に近づけるのは間違いない。しかし、それでも腑に落ちなかった。
何故、今更クラメシアが邪教と手を組むのか。何故、魔剣を集めようとしているのか。そして、サブリナは何者なのか。
考えて答えが出る筈もなく、ジョージはスープに口を付けた。暖かい味わいが広がり、少しだけ気分が晴れるような気がした。
そうこうしている内に、銅鑼が鳴った。威勢のいい船員の声が船室内に轟いた。
「船が着くぞ――――――ッッッ!」
声を合図に甲板へ出ると、三人の前に今までに見たこともない街並みが広がった。丸い屋根を中心に、尖塔がその周りを囲んでいる。石壁で作られた建物。ちょうど、海に面した湾岸からは、椰子の木が風に揺れていた。
「うわぁ…! が…外国だ…!」
ジョージは何故か当たり前の事を口にしていた。今まで遠方へ出ても、コーラス領最南端のダバイがせいぜいだった彼にとって、クラメシアは諸外国。何が待ちかまえているのかも解らない、文字通り未知の領域だった。
接岸される緩やかな震動が足下に伝わる。船板が甲板へと取り付けられ、遂に三人はクラメシア帝国に上陸した。
街の中心は港から東に数百メートルといったところか。初めての風景に辺りをキョロキョロ見回す三人の背中に、アドンは高らかに声を投げ掛けた。
「――あ、イリューン! 言い忘れていたけど、もうすぐ新入りが入る予定なのよ! 来たら紹介するわ。なかなか見所がある三人だから!」
「そ、そうか…良かったな! まぁ、機会があったらな!」
「ウフ。あぁ、それとね! 昔、あんたが追っ払った海の主が、最近この海域で暴れているらしいのよ。だから、数日はアタシ達もクラメシアに滞在するわ。何かあったら遠慮なく言って頂戴!」
「……わ、解った。い、色々サンキューなッ!」
大声でのやり取りを横で聞きつつ、思わずジョージは「本当の海の主って、実はあんたなんじゃないのか?」と心の中で突っ込みを入れた。そうとも知らず、アドンは嬉しそうに笑い、手を振って船内へ戻っていく。商船本来の仕事、荷下ろし作業を開始するのだろう。船員達にテキパキと指示を出すその姿は、お姉言葉の時とはうって代わり、男らしかった。
取り残され、イリューンはポツリと呟いた。
「…さて、と。どうすべかな。」
「まずは宿ですね。近くに無いか、探してみましょう。今までと違い、皇帝閣下への謁見は一筋縄ではいきませんから。」
いつも通り冷静なディアーダが、こういう時だけは妙に頼もしい。頷き、ジョージ、イリューンはディアーダの後に続いて、港出口と思わしき検問所へと向かった。
バラックのような粗末な建物が、国境を示す柵の境界に建っている。入り口にはクラメシアを象徴する竜と交差する大剣が描かれた紋章。熱射予防だろうか、褐色の肌をした厳つい男が、フードを頭からスッポリ被る形で小屋から姿を現した。ジロリと三人を睨め付ける男に怯むことなく、ディアーダは胸元より旅証を取りだし言った。
「ギルド査察団ディアーダ・エントラーダです。お通しいただけますか。」
「同じくイリューン・アレクセイ。」
「…じょ、ジョージ・フラット。」
フン、と鼻を鳴らし、それぞれの旅証に目を通すと、顎で「行け」と男は指図した。
感じ悪いな、と思いつつも検問所を抜けた瞬間、三人は広がる異国の風景に目を丸くした。
視線の先には、クラメシア皇帝アムルドが鎮座する巨大な皇宮――アジ・アダフが望んでいる。中央通りには椰子の街路樹が等間隔に並び、幾何学的な美しさを演出していた。それは誰にとっても初めての光景。しばし三人は感傷に浸り、その場に立ち尽くした。
やがて、誰ともなく足を動かし始めた。物珍しそうに辺りを見回しながら、三人は通りを歩き続けた。流石にコーラス領とは違い、アーリア信仰の欠片も見えない。基本的に竜族信仰のクラメシアでは分かつ物――即ち、剣を重要視する。そこかしこの建物に剣の紋様が取り入れられた様は、南では全く見られない物だった。
突然、イリューンが足を止めた。背中にぶつかり、ジョージは目から火花を出す。何事か、と顔を上げれば、イリューンはある一点を呆然と見つめていた。
教会らしき建物。しかし、それは普通ではない。ジョージが今までに見たこともない奇怪な建造物。尖塔には巨大な黒い竜の彫像が鎮座している。コーラス領では同じ場所に主神アーリアが彫られているのに対し、こちらでは竜。それが、ジョージが感じた違和感の正体だった。
「…黒竜…ですね。ハルギスを呼び出し、神々との戦いの最前線に立った竜族の指導者。クラメシアの信仰対象ですよ。」
ディアーダが解説を入れる。ジョージはもう一度教会を見上げた。
黒竜が叫んでいるようだった。不吉を感じ、ジョージは少しばかり寒気を覚えるのだった。
――――
イリューンは、その場からピクリとも動けなかった。
その脳裏に、遙か昔の思い出が流れ込んできた。セピア色の失われた記憶が走馬燈のように駆け巡り、頭が割れそうだった。
(…う、うが…ぁっ! …お、俺は…!? 俺は、一体…ッ!?)
自問自答。次から次へと、過去の記憶がフラッシュバックする。
目の前の景色、往来。見覚えのある路地裏。空気の匂い、木々の面影。
確かに、ここは昔歩いた場所。子供の頃、歩いた地面。それがハッキリと感じ取れる。
しかし、その映像の中では、教会は建っていなかった。過去、数百年が経っているであろう筈の建物が、影も形も見えなかった。
何故、と考える暇もなく、次に浮かんだ映像は幼い頃の自分の姿。そしてその隣には、銀髪の少年が立っていた。少年の名をイリューンは知っていた。
(…あれは…バルガス…?)
はしゃぎ合う少年と、幼き日のイリューン。やがて、小さな玩具を奪い合い、最後にイリューンがそれをひったくると、少年は大声を上げて泣き出した。
(…あぁ、そうだ。…昔はよく、ああやってアイツを泣かしたモンだっけか…! だから、アイツと仲が悪いのかって…。けど…未だに、こんな小せぇ時の事を根に持ってやがるのか?)
場面が変わる。映像は止まらない。気が付けばそこは活火山。溶岩が巻き上がり、黒煙が立ち上る灼熱地獄だった。
幾分か成長したイリューン。そしてその傍らには、同じく青年になったバルガスの姿。目の前には白髪の老人が、もう一人の男と対峙している。
漆黒の鎧、漆黒のマント。腰元まで流れる長い黒髪。そして、手にした巨大な剣。そのどれもが威圧感を漂わせる、悪鬼の如き男だった。
男が何かを叫んでいる。だが、声は聞こえない。後ろのバルガスが猛然とイリューンを押し退け、二人の間に立ち入ろうと駆け出した。
刹那、イリューンは、手にした剣を投げ付けた。
一瞬、その剣に黒い男が気を取られる。が、あっさりとそれを弾き飛ばすと、一気に白髪の老人との間を詰めた。
大剣が唸りを上げる。咄嗟に、白髪の老人が杖でそれを受け止めた。
ギリギリと鍔迫り合いが続く。バルガスが血相を変え、何事かを叫んだ。
瞬間、イリューンの意志は強制的に、元の場所へと戻された。
――――
ガツン、と何かに殴られたかのように、イリューンの身体が思い切り後ろに仰け反った。
「…っぷはぁッ!? な、何なんだ!? 何なんだ一体!?」
いきなり隣で大声を上げられ、ジョージは驚き、思わず腰を抜かしそうになる。
「い、いきなり何だッ!? な、何があったって、そ、それはこっちの台詞だぁっ!」
怒鳴るジョージ。しかし、イリューンはいつもとは違う様子で自らの顔を手で覆うと、片膝を地面につき、脂汗を流しながら肩で息をしてみせた。
ディアーダが首を傾げつつ訊いた。
「どうしたんです? 顔色が真っ青ですが…!」
「…記憶が…、どうやら、俺はここに…住んでいたらしい…!」
「――何だって?」
ジョージが訊く。イリューンが過去を失っていることは以前にも聞いた。しかし、それが今になって思い出されるとは。一体何があったのか、と体を乗り出し様子を伺った。
しかし、イリューンは自嘲気味に薄笑いを浮かべ、
「…けどよ、…無ぇんだ。…おかしいだろ? この教会、建ってから随分経つに違ぇねぇ。なのに、俺の記憶では、この場所に教会なんて無ぇんだ…! おまけに、生まれてこの方、来たこともねぇ街だってのに、ここでバルガスと育った思い出までありやがる…! 俺は、俺はどうしちまったってんだ…っ!?」
そう言って弱々しく頭を振った。こんなイリューンは初めてだった。狼狽し、血の気を無くした表情で頭を抱える。いつもの豪快さからは、想像もできない姿だった。
「…取り敢えず、宿を探しましょう。すぐにでも横になった方が良さそうです。」
ディアーダの言葉に異論無く、ジョージも頷いた。
やっとの事で大通りへと出れば、そこは物凄い人混みだった。
多くの人々が検問所の男と同じ、フードを頭から被っている。クラメシアはラキシア大陸でも中東に位置する。文化の違いという物なのだろう。
芋を洗うように道を歩くと、やがて大きな宿らしき建物に辿り着く。チェックインするべくディアーダが入り口のドアを開け、正面のカウンターへ向かった。
羽ペンを走らせ、身銭を切る。振り返るなり、ディアーダは言った。
「明日は朝一でアジ・アダフへ向かいます。皇帝閣下への謁見が得られるか解りませんが…使者として出向いた旨だけは伝えなければならないですし。」
その言葉に、ジョージは頷いた。イリューンは未だに俯いたまま、過去の記憶を思い返し暗い顔を見せるばかりだった。
――翌日。
三人はチェックアウトすると、一路クラメシア中央通りを西に向かった。
正面には皇宮アジ・アダフ。その両端には規則正しく緑が配置され、石畳の舗装された道路が縦横に敷延する。観光スポットとしても名高い、美しい風景だった。
アジ・アダフは、三代前のクラメシア皇帝ハビタッドが、持ち得る奴隷を総動員して作り上げた最大級の宮殿である。総大理石の床とモザイク造りの天井が美しい、ラキシア大陸の中でもエレミア大聖堂に並ぶ歴史的建造物。現在は、クラメシア帝国皇帝アムルドの居城であり、帝国の政治経済を司る中心として有名な建物だ。
皇宮が近付くにつれ、警備の数が増えていくのが解った。フードを被った屈強な男達。腰に着けた物々しい装備の数々。こちらの衛兵は主に曲刀を使用すると聞いていたが、コーラスにあるようなサーベル紛いの物ではない。それはまるで、牛刀の類だった。
ギラつく衛兵の視線を感じる度、ジョージは背筋が凍る思いだった。
やがて、アジ・アダフ正面門へ三人は辿り着いた。想像通り、門前までも強固な防衛戦が張られていた。すぐ目の前の兵士に対し、ディアーダは恭しく話し掛けた。
「ギルド査察官ディアーダ・エントラーダと申します。ギルド長マナ・ライの命により、皇帝閣下に謁見を申し出たいのですが、如何でしょうか?」
ジョージ、イリューンはその後ろで様子を伺った。一筋縄ではいかない事は解っていた。今日の所は、これで一旦宿へ戻ることになるだろうと、ジョージは生欠伸をしてみせた。
すると――衛兵は突然、殺気を孕んだ目で睨め付け、声を荒げた。
「話は聞いている…貴様達が、皇帝陛下暗殺を企てるコーラス軍の一味か!」
「――!?」
「…な、ななっ!?」
目を見開くディアーダ、慌てふためくジョージ。同時に、衛兵達が押し寄せるように集まると、一斉に腰に差した曲刀を抜き放った。
あっという間に数十人の衛兵が三人を取り囲んだ。凄まじい圧力に、イリューンが鋭い視線を返した。背中のハルバードに手を掛ける。まさか、こんな状況でやり合うつもりか?
ジョージはぞっとし、「穏便に、穏便に…」と腰が引けた様子で呟き続けた。しかし、そんな人の心露知らず。
「面白ぇ…! 昨日から、ワケも解らずイラついてやがるんだ。相手になるってかッ!?」
イリューンはそう叫んだ。ジョージは頭を抱えた。終わりだ。一巻の終わりだ。
と、その時。聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…その分だと、少しは記憶が蘇ったようだな…! …えぇ? イリューン…ッ!」
突如、衛兵達が背筋を伸ばし、その輪が中央から真っ二つに割れた。
壁になった衛兵達の奥から、こちらへと向かい歩く影。黒い鎧、短く刈り揃えられた銀髪。顔中に残る傷、そして蛇のような灰色の視線。
「…貴方は…!」「…な…何故、テメェが…!?」「げ、げぇぇッ!?」
イリューン、ジョージ、ディアーダが同時に叫んだ。
現れたのは――見紛う事なき敵、黒騎士バルガス。かつて戦った時の事を思い出し、ジョージは思わず足を震わせた。
イリューンが一歩前に出る。敵意が目から吹き出すようだった。
「…ワケが解らねぇが…ゴードンのオヤジを襲ったのはテメェだな? えぇッ? ラヴェルナはどうしたッ! 答えろ、このヤロウッ!」
イリューンの問いに、バルガスは答えない。コツ、コツ、と踵を鳴らしながら三人に近付く。そして、周りを取り囲む衛兵をぐるりと見渡し、徐に右手を挙げるや、高らかに指を弾き鳴らした。
途端、衛兵達はまるで何事もなかったかのように、持ち場へと戻り始めた。三人の姿も、バルガス自身さえも、全く見えていないかのようだった。
「な……な…っ!?」
慌てふためくジョージを余所に、イリューンは緊張を崩そうとしなかった。バルガスの目が怪しく輝いた。
刹那、辺りの風景はまるで薄皮を剥ぐように――
ざぁっ、と風景が反転した。色のない世界が辺りを包み込む。気が付けば三人とバルガスは白いドーム状の空間に立っていた。見覚えのある空間。異次元空間だった。
「…ま、ま、またかぁ…っ! またここかよぉッ!?」
「――へっ…! いいのかよ? ここじゃ、あの衛兵達も手出し出来ねぇぜ…?」
今にも泣き出しそうなジョージを気にも留めず、手にしたハルバードを相対する胸元へ突き付け、イリューンは尚もバルガスに問い質す。隣では呪文を唱えつつ、ディアーダが掌を構えた。二人の様子にジョージも一応、気休め程度に腰の剣を抜き放った。
バルガスは含み笑いをした。やがて堪えきれず、それは哄笑へと変わっていった。
「ふ――ふぁっはっはっは! ははははははッ!」