プロローグ
不老不死、最悪の魔女は死んだ。
血の1滴、体の一欠片も残さずに。
3月某日。突如観測された異能力の波長から、北関東のある地点でクレア=ブラッドフォルランスが戦闘状態にあると断定。
東京都が派遣した調査員の情報によると、008の霧宮在摩が在籍していた──対クレア=ブラッドフォルランス専門異能力者傭兵部隊〝魔女狩り〟──の壊滅が確認。
死体はおろか肉体を一欠片も残していなかったが、個々の波長の変動が定義上死亡扱いとなるほど動きが無いため、死亡と断定。
またクレア=ブラッドフォルランスも同様の定義に当てはまるものの、例外措置が執られその場での断定は行われなかった。
半年後。各国異能力における理事会のトップが東京に集結、クレア=ブラッドフォルランス対応措置に則り同氏の死亡を断定するか否かの決が採られた。
11ヶ国による多数決の結果、日本を含む10ヶ国が死亡断定に賛成。過半数を占めたためこれを採択。
唯一意義を説いた英国の見解は、たとえ何百年波長の変化が無くとも生きていると言われても信じられる。何故ならクレア=ブラッドフォルランスなのだから。というものであった。
あくまで仮説。根拠の無い説明だと意義を却下。クレア=ブラッドフォルランスは死亡したと断定。
理由として上記の通り波長の変化の無さ、そしてある少年の証言によるモノだった。
──〝クレアは死んだ、俺が殺した〟
各国の読心系異能力者による調査により、派遣された異能力者の全会一致でこの少年の証言に嘘偽りは全く無いと断定。
尚、未成年のため実名は伏せられるが、この少年は10年前の一家死亡事件により消息不明となっていた当時7歳の男の子と同一人物と判明。
この少年は東京都が保護。異能力者が集う公立高校への編入が決まった。
しかし殺したという証言には些か疑問が残った。
少年には跡形も無くクレア=ブラッドフォルランスを殺害出来うる異能力が確認されなかった。
右手にその異能力があると言うが、右手はおろか右半身のどこにも異能力の波長は確認されなかった。
今もなお調査は続いており、東京都は明確な死亡理由の早期判明を目指している。
※ ※ ※ ※ ※
この世界の異能力者の中でも、国際連合異能力協会の選定により選ばれし強者──〝記号保持者〟
地球上のどこかで異能力を初めて発動させた者が現れた際、衛星で波長を受信した協会が発動者を異能力者と称する。
地球上の異能力者全員分の波長のデータが、専用スーパーコンピューター〝OMEGA〟に保存、更新されている。
その〝OMEGA〟のあらゆるデータから総合した、脅威となり得る程に力を持つ異能力者を001~999まで序列を組んでいる。
若い番号であればあるほどその力は強力になり、一桁台になると一国の軍隊で総攻撃をしてもかすり傷が付くかどうかも分からない。
また〝記号保持者〟になると、名前、生年月日、年齢、性別、異能力の開示を条件に援助金が支払われる。額は不明。
そんな〝記号保持者〟の上位達は協会の発表など待たずとも、クレア=ブラッドフォルランスの死亡を肌身で感じていた。
最強にして最凶にして最狂である最悪の魔女、その絶対的象徴の損失は、世界全体に混沌をもたらした。
後に永世記号保持者として、000の称号を与えられたクレア=ブラッドフォルランス。
空席となった008はすぐに埋まったが、001が未だ埋まらない。
何かの特権がある訳では無い。賞金が出たり賞品が当たる訳でも無い。それでも001を目指すためになりを潜めていた本物の強者が目指す。
理由は単純。
400年間、誰も到達出来なかった最強という名声と矜持。
ただ、それだけ。
※ ※ ※ ※ ※
「……行ってきます」
そんな事情はつゆ知らず、400年間001に君臨していた不老不死を殺した少年は、誰もいない寮のワンルームを出る。
本当に夢が叶った少女の、あの日の手の温もりはまだずっと残っているまま──