表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンフェア・リアリティ  作者: 東師越
第0章 魔女と悪魔
4/331

第0話 転章 異能力

 悠真は自分の異能力(ディナイアル)の正体を知らない。


 そして全知全能のクレアですらも分からない。


 ただ分かっている事は2つ。


 1つ、その右手は人を血の1滴も残さず、世界から抹消するように跡形も無く殺し、それは不老不死のクレア=ブラッドフォルランスすらも殺せる程に強力である。


 そしてもう1つ────




 ────左手には(・・・・)別の力が(・・・・)宿っている(・・・・・)






「……どういう理屈だ」


 光速に近い速度で側頭部をモロに蹴り込まれたはずのリーダー格の男は、蹴られた部位の僅かな出血以外に傷は見られず、普通に立ち上がって悠真を見る。


 クレアを押さえ込むエネルギー波を放つ男も、クレアの顔面を幾度も蹴り付けていたメガネをかけた男も、悠真の叫びに視線を移す。


「……悠……真……」


 謎の注射により心臓が止められたクレアは、立ち上がった悠真を止めようとは思っていない。


 ここで止めても無駄だろうし、強引に止めてもプライドを傷付けるだけだろう。


 ならばクレアは最低限だけ悠真の手伝いをしようと考える。


(私を押さえ込む男のエネルギー波はリロード時間をほぼ必要としないが、回数制限がある……撃ててあと1発か──


 ──メガネはこいつらの身体能力を底上げしている、私の攻撃を全部かわせたのも受けてもケロッとしているのもそのせいだな──


 ──悠真がさっき殺した女は瞬間移動系、つまり奴らは逃げる術を失ったに等しい──


 ──リーダー格であろうあの男は1番ヤバい、おそらくは一桁台の異能力者(ディナイアラー)か、力は視覚系、だが遠くのを見るだけだとか見えないモノを視認するだとかを兼ね備えた1つの力ってところだな)


 この間僅か3秒。


 心臓が動いていれば1秒もかからなかった。


(だが不可解だ……視覚系なのは違いない、なのにさっきの違和感は……)


 リーダー格の男に左手で触れられかけた際、クレアは何らかの違和感を感じた。


 異能力(ディナイアル)の複数持ちはクレア以外は絶対不可能。しかしあの左手の違和感は間違いなく異能力(ディナイアル)の類の違和感だった。


(まあまずはこのメガネからだ)


 クレアの心からの叫びに呼応するように叫んだ悠真は、状況の不利さは大雑把な感覚でなんとなく分かっている。


 とにかく冷静に呼吸を整え、未知故に警戒する〝魔女狩り〟の動向をうかがいながらクレアにも注目する。


 それが分かっていたクレアは、メガネの男の方に僅かに視線をやり、悠真へ合図を送った。


「うおおおおおおおおああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 情報が0に等しい〝魔女狩り〟は、悠真の右手に宿る異能力(ディナイアル)は体のどの部位まで効果が及んでいるのか分からない。


 故に愚直に正面から突っ込む悠真でさえ、スキだらけで駆け出した位置から自身の間合いに来るまでに何十回と致命傷を与える行動が出来てさえ、恐怖の対象に他ならない。


 だがそれでもド素人の突進にそこまで焦る必要は無い。警戒を怠らなければ問題ないと結論付けるメガネの男は、悠真の重心のブレまくった右ストレートをあっさりかわす。


「いきがるなガキ、戦闘のプロたる我々を全員殺すだと? そこの魔女が出来ない事を世界中の誰が出来ると?」


「だとしても!! 俺はお前らをぶっ飛ばすって言ったんだ!! この程度が出来ねぇでこの先何にも出来る訳ねぇんだよ!!」


「理解に苦しむ、勇気と蛮勇を履き違えるな」


 メガネの男は中指でメガネをクイッと上げながら、胸ポケットから取り出した拳銃を悠真に向ける。


 黒い銃口を前には生身の悠真は無力──なのだが、それでも悠真は迫り続ける。


「馬鹿馬鹿しい」


 その拳銃が通じるかどうかも不明ではあるが、少なくとも突き付けられた際に動けなくなっていたためダメージは受けると見て、迷わず引き金を引いた。


 パァン!! と乾いた音が炸裂し、空気を捻じ回すように一直線に悠真の左胸へ突き進む弾丸は──消えた。


「なっ!?」


 数瞬、思考が止まったメガネの男に迫る大振りの右ストレートの構えの悠真。


 即座に装填し再び引き金を引くが、何の感触も無い。


 そこから2度引いてもカチカチと鳴るだけで、火薬が炸裂する耳をつんざく音は出ない。


(あの男の異能力(ディナイアル)? いや違う、奴の力はさっき見たとおり瞬殺の拳、だったらこれは……)


 再度思考が止まった。


 今度は想定外などではない。異常過ぎるほどに膨大な異能力(ディナイアル)が働いた事への恐怖。ただそれだけだ。



「おいおい、私を忘れるとは……それでも戦闘のプロか?」



 身動きが取れなかろうが、心臓が止まっていようが、脳さえ働いていれば発動出来る異能力(ディナイアル)は幾らでもある。


 1人1つのルールを無視し、400近い数の異能力(ディナイアル)を保持し扱う最悪の魔女──クレア=ブラッドフォルランス。


 その存在が僅かながら頭から離れるなど、この場に置いては死を意味する。


「……ぁ……」


 さらに全身が金縛りに遭ったように立ったまま、不発の拳銃を構えながら硬直し、死神の鎌のような右拳が振り抜かれる瞬間を誰よりも間近で確認する。


「ぬあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




 パサリと、衣類が地面に舞うように落ちる。


 カチャリと、拳の衝撃で曲がったメガネが落ちる。


 そこには誰もいない。いた形跡はあって無いようなモノだ。


「はぁ……はぁ……」


 両手を膝につき、少し叫んで突っ走っただけとは思えない呼吸の荒れ具合と汗の量に自分自身も驚く悠真。




「ボヤッとするな戦闘のプロ」


 またしてもあり得ない光景に見とれてしまっていたエネルギー波の男は、メガネの男の異能力(ディナイアル)による身体強化が消えた事に気付くのが遅れ、クレアの脱出を許してしまう。


「クソおおおおお!!!」


 半ば自棄(ヤケ)になった男は右手を未だ立てないクレアに向け、残り出力量たった1回のエネルギー波を真っ直ぐに放つ。


 立ち位置だけ見れば絶体絶命のクレアは、余裕の笑みを浮かべてこう吐き捨てた。


「言ってしまえば、お前が1番雑魚だ」




 ボゴオオオオオオオオオッッッ!!!!!!


 2人の間にあった僅かな距離の地面は大きく削り取られ、空間は爆ぜ、カッと辺りを眩い輝きで覆った。


 しばらくすると舞い上がる土埃が晴れ、夜の暗闇に2つのシルエットが現れる。


「クレア!」


「問題無い、はね返しただけだ」


 うっと吐き気が込み上げる悠真。クレアと自身の目の前に横たわるグチャグチャに潰れたモノ──エネルギー波を放つ男だった物が、この場所での血生臭さを際立てる。


 悠真はすぐに鼻と口を左手で覆い、屍を見ないように振り向く。


「ごめんな、悠真が全員ぶっ飛ばすって宣言したのに、ついカッとなって」


 どういう意味でカッとなったのかを聞くとまたくだらない理由っぽかったので、あえて聞かない悠真。


「いや細かい事はいいんだよ、てか立てるか?」


「しばらく無理そうかな……思った以上に分解に手こずっている……それに」




 まだ全てが終わった訳では無い。


 悠真が女を殺してから、1歩も動こうとしないスーツを着崩した男。


 その男の笑みは、いつからこぼれていたのだろうか──




   ※ ※ ※ ※ ※




「何がおかしい」


 右拳を握り締めたまま、悠真はその男に面と向かう。


 楽しげでも無い。ニヒルともまた違う。企みが順調に進んで嬉しくてつい笑ってしまっている悪役の笑み。


「クククク……001、お前でも騙せるなら俺は大したモノだなぁ」


 未だ肘を付いて這う格好のクレアを見下し、見下ろす男は悠真に一切興味が無いように見える。




「俺は008、霧宮(きりみや) 在摩(ありま)だ──たかが視覚系(・・・・・・)がそんな高位に(・・・・・・・)着けるとでも(・・・・・・)?」




 心臓が動いていない反動は大きい。


 きっと万全であれば、男──霧宮のフェイクも見破れていたのだろう。


 しかしタラレバを言った所で状況は何1つ変わらない。


 悠真は戦慄する。


 プレッシャーだけで悠真の全身にドッと鳥肌が一斉に立ち、思考を真っ白にし、強気な姿勢の悠真が思わず足を後ろへ1歩、また1歩、擦るように下げていく。


 今すぐここから逃げ出したいと嘆願する弱い気持ちと、こいつを倒して戦いを終わらせるという強い気持ちが交錯し、グチャグチャな心が唇を乾かす。


 気持ち悪い笑い声は、止まらない。


「クククク……クハハハ……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 泣きそうになる。


 明確な敵意を前にして初めて知った、格の違い。


 霧宮は絶望に絶望を覆いかぶすように嘲笑を止め、笑みは崩さないまま滑らせるようにそれを口にした。


「こんなに愉快な気分にさせてくれたんだ、礼の1つに俺の異能力(ディナイアル)を教えてやろう──




 ──〝拒否権など無い(フォーシブリー)〟回数制限の限り、俺の命令には逆らえない」




 その瞬間、悠真の右腕が弾け飛ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ