第10話 意外な情報源
「先走りやがって」
「サーセーン」
様々な方法を探ろうと頭を回した大人達だが、結局悠真が勇翔の意志を尊重して手を組む事となった。
そして勇翔を含めた4人は、具体的な話し合いをするためにメアリーが現在暮らしているホテルの部屋に集合した。
「まあ嫌いじゃねぇよ、迷った時は人情だよな」
「訳分かんない理論ね、けどこれが最善になるように尽くす他無いわ、私達も、あんたも」
「もちろん! 死力を尽くします!」
九里ヶ崎区内最高級のホテルのスイートルームは、ビルが立ち並ぶ夜景が綺麗な景色を楽しめたり、部屋の1つ1つがとにかく大きい。
テレビのホテルを紹介するコーナーでしか見たこと無いような高級感溢れる光景は、そんな世界とは無縁な男4人の目をチカチカさせる。
「テレビデカッ!!??」
「何でホテルにキッチンがあるんだよ……」
「東京都の待遇すごいなぁ」
「俺ここに泊まりたいです……」
「乙女の1人部屋に泊まり込もうなんていい度胸してるわね」
ちなみに入り口の扉の前とメアリーが使う部屋の扉の前には、黒服でサングラスをかけた筋骨隆々なボディーガードの2人がそれぞれ配置されていた。
(そういえばこの2人の名前知らねぇな)
あの事件はこの2人がいないと失敗していたであろうが、この前礼をさせて欲しいと悠真が言っても「No problem」の一点張りだった。
異能力を除けば、この取り巻きで最強のポテンシャルを持っているのは間違いなくこの2人だろう。
「何も触らないでよ」
「なあ泰智、お前女の1人部屋入った時まず何する?」
「え、僕はとりあえず座るけど」
「そうか……俺は弱味を握る」
キッチンで紅茶の用意をしているメアリーの目が届かないスキに、露城は何かを物色しようと部屋を歩き回っていた。
「あの人って刑事なんですよね?」
「違うぞ、あれはただの変態だ」
勇翔が勘違いしそうになっていたので、悠真が正しておいた。
「クッソ、何もねぇな……せめてドエロいパンティでも出て来たら」
瞬間、露城のこめかみに凄まじい勢いでコルク栓が放たれ、モロに受けた露城は高級カーペットの上に受け身を取れずに倒れた。
「念のため荷物全部移動させといてよかったわ」
湯気を立てる透明なポットに入った色鮮やかな紅茶と、4つのカップを乗せたトレイを片手にピストル型コルク銃を持ったメアリー。
アンバランスそうな姿勢ながら崩れる様子が一切無く、体幹の強さや体の柔軟さが常軌を逸していることを知らしめていた。
「俺、あの人には逆らわないようにします」
「それが賢明だ」
※ ※ ※ ※ ※
「……美味っ」
「そりゃどうも」
さすがは本場と思った紅茶にはうるさい悠真は、王室御用達と言われても納得のいく甘いクッキーと共に口に運ぶ手が止まらない。
「そうか? 緑茶と煎餅の方がいいんだが」
「ズリさんちょっと表出ろ」
「何で喧嘩腰なんだよ……」
何人であろうと優雅なティータイムに文句を垂れる奴は許さない。悠真のその信念が揺らぐ事はそうは無いだろう。
「で、蘭堂薫の情報はどうやって手に入れるんだ? 証拠がねぇ以上警視庁は動けねぇぞ」
「クロさん何とか出来ます?」
「僕は研究者であって何でも屋じゃないんだよ」
蘭堂薫の顔が写った写真があればメアリーの異能力で特定は容易いが、生憎誰も持っていない。
手がかりが何も無い以上地道に僅かな情報を手繰り寄せるしか無いが、迂闊に動けば悠真の周囲──水希や水玖──に危険が及ぶ。
「ホントは俺も情報を集めてから悠真さんと会いたかったんですが、偶然にはさすがに対処出来ませんでした」
「まだ敵の存在や名前を知れただけマシよ、あなたには感謝しているわ」
「ありがとうございます、最も今のところそれしか分からないですが……九里ヶ崎区内にはいるはずです」
「どうして?」
「動機は言えませんが……奴は直接悠真さんを殺したいと思っているはずです」
「ざっくり言えば私怨か」
「俺なんかしたっけか、クレアを崇拝してる宗教の教徒とかかな」
不老不死の〝最悪の魔女〟クレア=ブラッドフォルランス、その強烈な存在感や逸話の数々に敬愛し崇める者達で結成した宗教団体も少なくはない。
クレアもその存在を知っており、ある程度の地位を得ていた団体は集う場所や信者の人数なども把握していた。
報道はされていないがどこかのツテからクレアが死んだと知り、殺したのが悠真だと特定して憎悪をぶつけようとしている者もいないとは言い切れない。
「それは無いです、そもそも恨む相手を間違えているんです、なので悠真さんはとばっちりを食らっているだけで」
「そうか……何で俺とばっちり食らってんだろうな」
「ただ、本当に恨むべき相手と近しい関係だからです」
「なるほど」
心当たりの第1候補となった3人に目を向けてみるが、3人とも確実に不特定多数の人々から何かしらの恨みを買っていそうな経歴なので探るのはやめた。
「中々進まねぇなぁ……ん?」
解決への糸口が中々見つけられずに辟易としていた悠真のスマホに、水希が通話をかけてきた。
「出ていい?」
「切っとけよ電源、まあちょうどいいから蘭堂の事聞いとけ、こうなりゃ手当たり次第だ」
「分かった」
『あ、出てくれた、もしもし? そっち終わったの?』
「目下進行中だ、要件は?」
『うん、金曜日の球技大会なんだけど、ポジションの希望とか無い?』
「今じゃなきゃダメかそれ」
『これから戦略練るから』
「どこでもいいよ」
『そう、じゃあゴールキーパーでいい?』
「おう、それだけか?」
『うん、途中だったのにごめん、すぐ切るから』
「俺からもいいか」
『え、何?』
「蘭堂薫って名前に聞き覚えあるか?」
『え? 蘭堂先輩がどうしたの?』
明らかに知っている口ぶりに、悠真は一瞬何かの間違いじゃないかと耳を疑った。
動揺して言葉を失ったが、すぐにスマホをテーブルに置いてスピーカーホンに切り替えて通話を続ける。
「周りに誰もいないか?」
「うん、今更衣室だけど1人だよ」
「よし……その蘭堂先輩の事教えてくれ、特徴とか知ってることは何でも」
他の4人は悠真の言葉に驚愕しながらも、黙って悠真のスマホに注目する。
「えっと……2年B組で、事故で足を悪くして車椅子に乗ってて、綺麗な人、くらいしか知らないけど」
「お前何で知ってんだよ、俺全然知らなかったのに」
「単純に車椅子が珍しいから知ってただけで……その人が水玖の事に関わってるの!?」
「落ち着きなさい水希、後で話すからこの事は他言しないこと」
「え、ちょっとま──」
会話の途中だったがメアリーは通話をぶち切り、機内モードにしてから悠真に返した。
「これで後はしっぽを掴んで捕らえるだけね」
「けどよ、そんな上手くいく方法あんのか? 証拠だってねぇし」
「それなら問題ないわ、悠真」
ニィッと不敵に笑むメアリーは立ち上がり、弾の入っていないピストル型コルク銃を悠真の額に向けて言葉を言った
「あなた、1度死んできてもらえるかしら?」
「は?」




