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アンフェア・リアリティ  作者: 東師越
第2章 それが世界のためならば
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第2話 ゲーセン行くか

 「あれ、いたのね」


 同じ日の正午。


 確かに鍵を閉めたはずの悠真の部屋の玄関は開いており、普通に開けて普通に入ったメアリーは、散らばっている男物の革靴と揃えられたサンダルを見る。


 廊下を抜けて部屋に入ると、今や古き良きゲーム機として認知されるVRゴーグルを取り付け、コントローラーを忙しなく操作するおっさんが2人。


 「おっ、ちょっ、あっそこ、待て待て待て待てダァァアアアちきしょう!!!!」


 そして細マッチョな方がコントローラーをカーペットに投げ捨て、ゴーグルを取って叫び散らかす。


 「はっはっは! そもそもレースゲームで僕に勝とうと思ったお前が愚かなんだよ!」


 「何だよあのショートカット! レース中に見つけれる訳ねぇしカットしすぎだろクソゲーが!!」


 「学生かお前ら」


 「うおおおいたのかよ!!」


 オフの日はツインテールでロゴの入ったピンクのパーカーに黒スカートと、職務中の露出の多い服装よりも中学生っぽいメアリー。


 おっさん2人は映画やドラマでよく見る囚人が着る灰色のパジャマ姿で、エリート国家公務員と国立研究所教授が端から見れば無職にしか見えない。


 「お前もやるか?」


 「嫌よおっさん臭いVRとか」


 「ひっでぇなオイ」


 あの事件以降、仲良くなった4人は暇さえあれば悠真の部屋にたまるようになっていた。


 悠真は友達が出来たのが嬉しくて、つい合鍵を3人に渡したりいつでも来ていいと言ったせいで、最近プライベートな時間がかなり削られてきていた。


 本来暇な時間があるはずの無い3人なのだが、何故こう何度も集まれるのかという真相は本人しか知らない。


 「そういえば今日は悠真いないのね」


 冷蔵庫の中はおかげで酒やつまみが大半を占め、今もメアリーが昼間から缶ビールを飲み始めている。


 「アクーニャランドだと」


 「へぇ、デート?」


 「水希ちゃんと水玖ちゃんの3人ですよ、露城がこの前の件でささやかながらお礼にチケットを渡してたんです」


 まだ5月中旬ながら暑そうにうちわを扇ぐ黒サンタは、家から持参したゲーム機を箱に入れて部屋の隅に置いた。


 「意外に粋なことするわね」


 「意外言うな、ガキが手伝いしてくれたんなら小遣いやるのは大人として常識だろ」


 そんなこと言いながらテレビをつけると、悠真と水希が電車内で観た例のフルダイブ型VRゲーム機のCMをしていた。


 「俺もやりたかったなぁ先行体験、泰智は行くのか?」


 「各研究所の所長とあと1人が来賓扱いになってて、現場には行くよ」


 「フルダイブって事は、ゲームの中の飯食えば食費浮くじゃねぇか」


 「バカね、味覚嗅覚は働くけど胃には溜まらないわよ」


 「あ、そうか……フルダイブ実装するからそっちで対応出来る捜査班とか作られねぇかなぁ、俺そこに就きたい」


 そうやってだらけて寝転がりながら、ついでにメアリーのスカートの中を拝見出来るかと覗こうとするが、察したメアリーは移動して定位置に座り、飲みきった缶を額に投げつけた。


 「なぁ俺らもアクーニャランド行こうぜ」


 「おっさん2人と遊園地とか嫌すぎるわ、吐き気がする」


 「とか何とか言って~、メアリーたんもリッキーと写真撮りたいだろ~?」


 「私も行きたいわよ、ただあんたら2人とは嫌って事、悠真と4人なら考えるわ」


 メアリーは座りながら腕を伸ばし、テーブルの上の灰皿を自分の前に置いてから1本吸い始めた。


 どうやら高校生のひとり暮らしの部屋とて罪悪感は無いらしく、露城もつられて吸い始める。


 「暇なのねエリート国家公務員さんは」


 「公務員なんだから週末は休ませろってんだ、お前も休みとか無さそうだけど」


 「非常時でも無いのに日曜日に仕事なんてごめんよ」


 「あっそ、泰智はすっかりニートが染みついてんな」


 「いや仕事はあるよ、在宅だとやること少なくなるから暇が出来ただけ」


 若い頃はヘビースモーカーだった黒サンタだが、研究所で働き出してから託児所があるので禁煙した。


 持ち込んだポテトチップスを食べながら、都内オススメグルメスポットを紹介する番組を観ていた。


 「……お腹空いたからどこか行くわよ」


 「お前が作ってくれるんじゃねぇのかよ」


 「悠真がいないから作る気起きないわ」


 「メアリーたん悠真が好きなの?」


 「もちろんよ、レディーのために無茶出来る男を嫌いにはならないわ、あとリアクション良く食べてくれる」


 「ライクかよ、つまんねぇ」


 「僕らも割と無茶したんですがねぇ」


 「そうだったかしら?」


 「ざけんなよてめぇ!!」


 「いいから、どこか美味しいところ知らない?」


 灰皿にタバコを擦りながら、テレビに映る絶品インドカレーを観て思わず腹を鳴らしたメアリーだが、恥じらう様子は無い。


 日本に来て日が浅いメアリーは、今のところコンビニよりも美味しい店を知らないのだ。


 「ゲーセン行くか」


 「話聞いてなかったの?」


 「俺も知らねぇよ、泰智はどっか知らねぇか?」


 「近くの映画館のホットドッグ美味しいよ」


 「飯っつってんでしょ!! 東京にはレストランは無いの!?」


 「つっても日本はイギリスと違って不味い飯が無いのでどこと言われても……」


 「バカにしてんでしょ、価値観古すぎよジジイ」


 「じゃあゲーセンで」


 「死にたいの?」




   ※ ※ ※ ※ ※




 という訳で3人は悠真の部屋を出て、昼食を求めて近くの大型娯楽施設の中にあるゲームセンターにやってきた。


 「帰る」


 「まあまあ待てよメアリーたん、ここのゲームを今から3つやって、最下位の数が1番多い奴が奢りってのはどうだ?」


 「全員が1回ずつ負けたらどうすんのよ」


 「サドンデスだ、そこで負けた奴が奢り」


 「はぁ……いいわ乗ってあげる、私に勝てるとでも思ってんの?」


 「はっはっは! 大学時代のバイト代をほぼゲームに費やした俺の腕は鈍ってねぇぞ!!」






 「嘘だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 第1回戦、VRシューティングゲーム。


 敗者、露城葛吏。


 「あの弾が当たんねぇとか訳分かんねぇ……クッソぉ……」


 「あ~らエリートさんどうしたのかしら~? 私の華麗で俊敏な動きにその老眼じゃ着いていけなかったのかなぁ~?」


 「すんごい楽しそうですね」


 「クソが、おっぱいねぇから俊敏だという事を考慮すべきだったぜぐほぁっ!!」


 ただでさえ負けて落ち込んでいる露城に、さらに腹への鉄拳制裁が加えられた。


 「つ……次だ……」






 「う~ん、やっぱり苦手だなぁ」


 第2回戦、和太鼓型リズムゲーム。


 敗者、黒三泰智。


 「ふはははは! 今度は俺の勝ちだ中学生!!」


 「音ゲーと聞いて油断してたわ、まさか和太鼓のだったなんて……」


 「いや負けたの僕なんだけどね、ちゃんと落ち込ませてほしいな」


 スコアで最も低かった黒サンタの敗北なのに、それ以上に悔しがるメアリーを見てると負けた気がしなくて不完全燃焼となった。


 「何としてもこいつに奢らせてぇ、サドンデス持ち込むぞ泰智!!」


 「えぇ……」


 「何としてもあいつに奢らせる、次で決めるわよ黒サンタ!!」


 「もうどうにでもなれ……」






 「そ……んな……バカな……」


 第3回戦、雑学クイズ。


 敗者、メアリー・ケイン。


 「よっしゃ来たああああああああ!!!!」


 「これは日本よく知ってないと不利だなぁ……」


 露城のセコい策略が功を奏し、終始苦戦を強いられたメアリーが敗北したため、勝負はサドンデスへと持ち越された。


 「ああいうタイプは負けをズルズル引っ張る、この調子なら俺の勝ちは決まったも同然だ!」


 「そ、そうなんだ……」


 もはや勝負なんてどうでもいい黒サンタは、早くご飯が食べたいとさっさと最終決戦の場へと向かうのだった。






 「嘘……」


 サドンデス戦、レースゲーム。


 敗者、メアリー・ケイン。


 「クックック、勝負ありだなお嬢ちゃん、俺はこのレースゲームで過去に全国2位になった事があるんだ、受けたからには真剣勝負だよな?」


 普段悪を取り締まるお巡りさんが、このゲームセンターの中で1番悪い顔をしていた。


 ちなみに当時の全国1位は黒サンタである。


 「そらさっさとフードコート行くぞ、めちゃくちゃ高ぇ定食頼んでや……」


 中々椅子から動かないのでふと見てみると、メアリーは額をハンドルにつけて涙を流している。


 声を堪えよう必死に歯を食いしばる様子が、俯いていても分かる。


 「おいおい、本気だったのは分かるがいい大人が泣くんじゃねぇよ、たかだかゲームだろ」


 「……たかだかじゃないもん……本気だったもん……」


 「もん?」


 「でも分かった、おじさんのご飯代出す! これでいいんでしょ!」


 「おじさん?」


 泣き顔を自身に向けて叫ぶメアリーの言動が理解出来なかった露城だが、周囲を見渡して納得した。


 今日は日曜日、子連れの大人達もかなりいる中で、現状を端から見ると中学生くらいの女の子にゲームで負かせて泣かしたどころか昼食代まで催促するヤバいおっさんという図だ。


 どうしても払いたくないメアリーは、泣き落としという強攻策に出たという事だろう。


 「泣いたって結果は変わらねぇ、さっさと立て」


 手を取ってメアリーを無理矢理立たせた露城は、目の前に人々が集まっているのを確認する。


 「嘘だろあいつ、子供に奢らせるのかよ」


 「ひっど、大人気なさすぎ」


 「いじめ? 虐待?」


 というひそひそ話が全部聞こえてきて、泣き落としと分かっていても気まずくなる露城。


 「うぅ……せっかくママの誕生日プレゼントのためにお小遣い貯めてたのに……ごめんねママぁ……」


 このメアリーの嘘だらけの一言が決定的となり、周囲の視線に耐えられなくなった露城はついに折れる。


 「分かったよ!! 俺が奢るからもうやめてくれ!!」


 「あらそう、じゃあお言葉に甘えて」


 態度がコロッと変わったメアリーは涙を拭き、上機嫌でスキップしながらゲームセンターの外に出て行った。


 「クソが!! でも言っちまったもんはしょうがねぇ、俺が払う!!」


 「あぁ別にいいわよ、あんたがただのクズじゃないか確かめたかっただけだから、悪い事したわね、もちろん負けた私が3人分払うわ」


 「いや! 男に二言はねぇ!!」


 「何でそこで食い下がらないのよ、いいから落ち着きなさい」


 「心配すんな、俺はエリートだから金には困ってねぇ!」


 「いいって言ってんでしょう!? それを言ったら私もエリートだから胃が爆発するまで食べてもいいのよ!!」


 「うるせぇな俺が払う!!」


 「いいえ私が払う!!」


 いつの間にかどちらが奢るかのベクトルが変わっており、結局言い合いになってしまう2人だった。


 「はぁ……仲良いな2人は」


 最終的にどちらも折れなかったため、2人が割り勘して黒サンタが奢ってもらったという結果になった。


 (いつか2人に何か奢ろう……)

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