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アンフェア・リアリティ  作者: 東師越
第8章 たとえ全てが敵になったとしても
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第7話 思惑が動き出すとき

「100億って……何言ってんだお前!?」


「は? お前も100億狙ってその女連れてんじゃねぇの?」


 何のことか、一瞬分からなかった。


 だが経緯と男達の言葉から、何となく置かれている状況を察する。


「どうでもいい、そいつを寄こせ!」


 各々武器を持つ男達は、一斉に悠真を狙って攻めかかる。


 連携が出来てないので作戦もなさそうだと瞬時に見抜き、悠真は慌てることなく冷静に対抗する。


「ぶほぁっ!!」


 正面の男の顔面を蹴り飛ばし、包囲網から脱けだして壁際に立つ。


 空緒を守りながら喧嘩をするために、背中を取られないよう立ち位置を変えた。


「死ねっ!」


「素人か」


 これまで悠真は、幾多の強敵と相対してきた。


 クレアと暮らしていた頃から護身の術は叩き込まれ、今も有事に備えて鍛錬を怠っていない。


 異能力(ディナイアル)を使わずとも闘い守れる力のある悠真からすれば、この男達がいくら武器を持ってかかろうと負ける道理はない。


「ぐはぁっ!」


「あがっ……」


「いっ! ……うぅ……」


 対人戦闘の術を持たない男達がナイフやバールを振ったところで、悠真には擦りもしない。


 恵まれた体格、重ねてきた鍛錬、培われた経験で悠真は既にチンピラになら余裕で対処するほどになっていた。


 瞬く間に男達を薙ぎ倒し、最後の1人も抵抗出来なくなる程度に痛め付けてから胸倉を掴む。


「言え、100億ってどういうことだ?」


「ひぃ、や、やめ」


「いいから答えろ!!」


「ひゃ、ひゃい!」


 すんなりと話した男達によって、悠真は新たな情報を手にした。


 現在、釘舘空緒には100億円の懸賞金がかかっている。


 顔写真や身なりの特徴も既に日本中に拡散され、本人を警察に連れて来たら100億円が払われるらしい。


 誰がその金額を払うのかは不明だが、強引な手口と執念深さでやはり妖十家で間違いなさそうだ。


「今回はバカで助かったけど、プロとかが来たら俺1人じゃ限界がある」


「どうすればいい? 私に何か出来ることはある?」


「……ひとまず身を隠す、まだ歩けるか?」


「それは大丈夫だけど……アテがあるの?」


「もう少し先を行った場所は土地勘がある……なんせ、茨城のこの辺はちょっと前までクレアと暮らしてたからな」




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃。


 仕事がひと段落し、午後から久しぶりに高校に登校した秀士郎は隣の教室に顔を出す。


 有名人なので皆が視線を向けるが、気にせず教室を見渡した後に水希の元へ歩み寄った。


「おい、悠真はどこだ?」


「え……今日は、定期検診で来てないです」


「そうか、ありがとう」


 接点があまりない秀士郎に突然話しかけられ、水希は困惑する。


 気になることがあったので話そうと思っていた秀士郎は、自分のクラスに戻ろうとすると不可思議なモノを見つける。


「おい、その机は誰のだ?」


「え?」


 秀士郎の記憶では、1年B組の生徒数は19人だったはず。


 にもかかわらず机の数は20と余りがあり、それについて誰も気にしていない。


 この違和感を放置出来ず、秀士郎は水希に再度問う。


「えっと……分からないです」


「分からない?」


「はい、本当に……」


 何かがおかしい。


 強烈な違和感に秀士郎は顎に手を添えて思考し、その正体を考える。


 しかしあまりにも情報が少ないので、三度水希に問う。


「今日、ここで何か変なことは起きなかったか?」


「変なこと…………あ、ありました」


「何だ?」


「えっと……ここの制服を着た知らない人と、廊下でぶつかって……しかもその人、私の名前を知ってました」


 合点はまだいかない。


 だが確実にマズいことが起こっていることは、違和感が胸騒ぎとなって確信した。


 今すぐ悠真と連絡を取ろうとスマホを起動すると、ニュース速報で黒サンタが逮捕されたという記事が出ている事に気付いた。


「黒三泰智が逮捕? 指名手配犯をほう助した? 指名手配犯とは誰だ……」


 そして同じサイトの記事に、件の指名手配犯の情報が記されていることに秀士郎は気付く。


(未成年なのに実名と顔も公表している? いくら凶悪な人間でもその線引きはするはず……懸賞金100億円?)


 釘舘空緒という全く知らない人間を、かつてないほど追い詰めようとしている。


 誰が、間違いなく妖十家の誰かだろう。


 警視庁も動かせて、日本中に影響を及ぼす情報拡散をして、破格の懸賞金を払える財力のある家。


 心当たりは、1つしかない。


(動いたのか、九里ヶ崎家が……!?)


 秀士郎は急いで教室を出て、廊下を駆け抜ける。


 もしも放置すれば東京どころか、日本全体に災厄級の危機が迫るかもしれない。


 九里ヶ崎家の〝秘密〟を知っている秀士郎は、その嫌な予感が当たらないでほしいと願いながら電話をかける。


『もしもしなのだ! 兄様どうかしたのだ?』


「ばなな、九里ヶ崎垓拓の動向を監視して逐一報告してくれ」


『兄様はどうするのだ?』


「釘舘空緒を捜す、くれぐれも注意しろ」


『了解なのだ!』


 秀士郎は学校を飛び出して、ひとまず悠真にも伝えようと電話をかける。


 しかし悠真は電話に出なかったので、念のため仕込んでおいたアプリの位置情報を調べて居場所を特定する。


「茨城? まさか……」


 定期検診を受けているなら、黒サンタのいる第5研究所だ。


 その黒サンタが釘舘空緒を庇って逮捕されたというのなら、悠真が関わっていない訳がない。


 既に巻き込まれていると考えるべきで、何らかの方法で茨城まで飛んだと推測する。


 そこに、釘舘空緒もいるはずだ。


「秀士郎様、お乗りください」


 そこに呼んでいない専属ドライバーの女が、世界最高クラスに加速の速い黒い高級車に乗って現れる。


(あおい)、茨城まで最速で飛ばせ」


「かしこまりました」


 秀士郎が後部座席に座ると、車は法定速度の3倍近い速度で東京のアスファルトを突き抜ける。


 全く動じない秀士郎は、席に備え付けられていたバナナ味の栄養ゼリーを昼食代わりに吸う。


「後でばななに礼を言わないとな」


「ハグをして頭を撫でてほしいそうです」


「チークキスも付けておこう」


 充電器に置いたスマホで悠真を追いながら、秀士郎は茨城へ向かっていった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 同じ頃。


 取調室で座って向かい合う露城と黒サンタ。


 露城はやや苛立ちが見える表情を浮かべ、それを黒サンタは余裕げに眺めていた。


「意地でも話さねぇ気か」


「話したでしょ、君のお上の陰謀だって」


「はぁ……何でそれで通ると思ってんだ」


「お腹空いたんだけど、カツ丼出ないの?」


「出ねぇよドラマの見過ぎだ!」


「まあいいんだけどさ、僕にばっかり構ってたら手遅れになるかもよ」


「ならいい加減認めろよ」


「君はいつからそんな腑抜けになったんだ? 警察はヒーローであって犬ではないと思いたいなぁ」


 露城とて、この異常な状況を分かっていないほど鈍くはない。


 しかし責任ある刑事として、ここで黒サンタに加担する訳にもいかない。


 本音と責務のジレンマに潰されそうな露城に、1つのメッセージが送信された。


 宛先はメアリー。


 その内容に、露城は腹を括った。


「それでこそ葛吏だよ」


「うるせぇ」


 その数時間後。


 指名手配犯の一覧に、空緒だけでなく黒サンタと露城の情報も追加された。

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