やな予感しかない部活動体験は
今さらですが、配色設定に気づいたので、変えてみました。
自分的には白より見やすいかも
「それでは。定例の部会を始めたいと思います」
英治の言葉に、高校の一室に集まった各部活の代表がうなずいた。
そんな中、明日夏はおずおずと手を挙げた。
「えーと。その前にひとつ質問なんですけど。なんで、ぼくが生徒会の集まりに参加しているのかなぁ?」
武西高校の生徒会は、会長・副会長・書記(雑用)の三人と、各学年クラスの委員長で構成されている。会長ら三役は二年生が務めるのが通例である。
英治はその会長を務めているのだ。ちなみに副会長は海斗である。つい最近知ったけど、性癖が真逆のツートップだ。もっとも二人とも見た目はいいので、様にはなっている。
「はっはっは。まぁそんな警戒するなって」
明日夏の横に座って、お気楽にそう言ったのは、一樹である。
らしくないうえに、めったに仕事しているところを見たこと無いけれど、いちおう一樹が、書記をつとめている。
以上三名。
彼らに加えて、部会ということで各部活動の代表たちも出席しているが、部活にも所属していない明日夏にとっては無関係のはずだ。教室ではもう慣れてきたけれど、顔見知りでない相手がたくさんいる中で、一人女子の制服を着て座っていると、けっこう心もとない。
「これは各部からの要望なんだよ」
「要望?」
一樹の言葉に明日夏はきょとんと首をかしげる。
そんな明日夏を見て、海斗は意地悪く笑う。
彼は立ち上がると、室内の皆に向け、ふざけた口調で宣言した。
「それじゃ、ま、始めますか。第一回、秋津明日夏ちゃん争奪、部活動ドラフト会議ーっ」
「はぁっぁぁっ?」
「まぁつまりは、そういうことです」
椅子を押し倒さんばかりに立ち上がった明日夏に向け、英治がおもしろそうに告げた。この二人、他人事だと思って楽しんでやがる。
「女子が入学すると言うことは、当然部活動にも参加だろ。その写真も欲しいって校長からの要望もあってな」
海斗がさらりと言った。また校長に買収されたのだろう。
「それに女子が入部するとなれば、いろいろ問題点も出てくるはずです。そのときのために、問題点を洗い出さないといけません」
英治の言葉に、そーだ、そーだ、と部活動代表組から声が挙がる。
「スキンシップがどこまで許されるか知っておくべきだっ」
「基本的に、お前らが考えているスキンシップは全部、セクハラだっ!」
「女子部員と一緒にプールに入って、股間が反応しないか確かめる必要があるだろっ」
「知るかっ」
部活動代表の声(もちろん三年の先輩もいる)相手に、明日夏の怒涛のツッコミが炸裂する。
「大体、そもそも部活って、普通は男女別でしょっ」
「――ふっふっふ。そこで男女平等の文化部というものがあるのでござるよ」
きらーんと、眼鏡の主張がはじまる。
「女子と一緒にゲームをして、負けたら罰ゲームと言って、服を脱が……」
「普通にアウトだーっ!」
なんでこの学校にはこんなのしかいないのだろう。
がくりと肩を落とす明日夏に向け、英治が無情に告げる。
「いずれにしろ、部活動の参加については校長の方からも言われていますので、一通り参加してもらいますよ」
「えっ。それじゃ、この中から選ばれるんじゃなくて……」
「ええ。全部体験してもらいますよ。今回は順番を決めるだけです」
「ドラフトはどこに行ったっ!」
「まぁまぁ、心配するな」
ツッコミ続きの明日夏を落ち着かせ、なだめるように一樹が告げる。
「俺が書記として同行して、部活体験中に暴走がないか、全部ちゃんと見張ってやるから」
生徒会代表としての見張りがいれば、暴走に対する抑止力になるだろう。それに明日夏が本当は女の子だと知っている一樹なら、色々フォローしてくれるかもしれない。けれど……
「それって単に、ぼくの部活姿を見たいだけじゃないよね?」
明日夏の問いかけに、一樹は露骨に目を逸らしやがった。
☆☆☆
結局誰一人味方もいない状態で抵抗できるわけもなく、明日夏は強引に部活動体験をさせられることになってしまった。ちなみに、高確率で部活動側に寝返りそうな一樹はおいてきた。
というわけで、まず呼ばれたのは、テニス部である。
テニスというと、大学のサークルで男女がきゃっきゃしながらやっているイメージなので、男子だけで何が楽しいんだろうと明日夏は思った。
「おい。今、男子校でテニスなんかして何が楽しいんだろうと思っただろう」
「ぎくっ」
テニス部部長の鋭いツッコミに、明日夏は後ずさる。
「心配するな。俺たちもそう思っている!」
「思ってたのっ?」
「しょせん、強豪校でもないテニス部。中学でテニス部に入っていた奴らが、何となく集まっただけの集団だ」
「まぁ自覚があるのならいいけど」
「だが! ここに女子が加われば――」
「加われば?」
「堕落した集団は、きゃっきゃうふふ集団となるのだっ」
「そこは、強豪校になる、っていうのが普通だよねっ?」
そろそろツッコミ疲れてきた。
だがこれだけは言っておかなければいけない。どうせ着せようとしてくるはずだし、先に言って釘を刺しておこう。
明日夏はすぅっと息を吸うと、テニス部の連中に向かって言った。
「その前にひとつ、先に言っておきたいことがあるんだけど」
「ん、なんだ?」
「――リアル女子テニス部は、ジャージか体操着を着ているだけで、テニスウェア姿で練習なんてしないっ!」
びしっと言い切った。――決まった。
だが部長はぽりぽりと頬をかきながら平然と返した。
「まぁそりゃそうかもしれないけど。今回は撮影やユニフォームのチェックもあるって、学校側に言われてるし。カメラマンも来てるし」
「どーも。この間は。これ、今回の衣装なんで、よろしくお願いしますねー」
この間撮影したときのカメラマンがどこからともなく現れると、ピンクと白の布地を明日夏に手渡した。すでに学校側が用意していた試作品のようだ。
「うぐぅぅ……」
「というわけで、よろしく。そこの部室で着替えていいから」
いい笑顔で部長が、テニス部の部室を指さした。
「……盗撮カメラとかないよね?」
「心配するな。普段男しかいない部室にそんなものがあるわけ無い」
「そりゃそうだねー」
というわけで、これ以上抵抗して問答になるのも面倒なので、明日夏は素直にテニス部の部室へと入った。
爽やかなイメージのテニス部なのに男臭いごちゃごちゃした部室内を見渡して、変な物がないのを確認してから、明日夏は体操着を脱ぎ始めた。
体育のとき更衣室で下着姿になるのにはもう慣れたけれど、明らかな「男の園」で、女の子として肌を晒し下着姿になるのは、ちょっとむず痒いような変な感じだった。
「――はっ? まさか、これがいわゆる、露出の悦び?」
なんて馬鹿なことを考えつつ、明日夏はまずユニフォームの上着を着込む。ピンク主体に白のストライブが入ったポロシャツだ。着心地は悪くない。
そして次はテニス部定番のスコートだけど。
「へー。なるほど。こうなってるんだ」
スコートを広げその構造を確認して、明日夏は感心した。
普通に見るとただのミニスカートだけど、広げてみるとその中にフリル付きのアンスコが付いていて一体化していた。
スカートを穿いた状態で、パンツの上にさらに何かを穿くよりも、こうやって一体化している方が、見られても、パンツじゃないから恥ずかしくないもん、的な気持ちは強いかもしれない。
「でもどうせするなら、もっと長くしてスパッツみたいにすればいいのに……」
そんなことを考えつつ、スコートを穿く。
「んー。意外と悪くないかな?」
大きな鏡なんてないので、下を向いて自分の身体を確認するだけだったけど、けっこう似合っている気がする。せっかくなので、おさげの髪をほどいて、見よう見真似にポニーテールにしてみた。うん。いい感じかも。
何だかんだあっても、元男としてテニスウェア姿の女子は好みなので、意外と乗り気な明日夏であった。
少し長くなるので、話を分けました。




