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前世と今世の幸せ  作者: 夕香里
彼女の今世
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episode40


(それにしても、何故原則参加して欲しいなどと書かれていたのかしら)


 数分経ってクリスティーナ様とフローレンス様が到着され、御二方に会釈をしながら私はそんなことを呑気に考えていた。


 ここに来る前も考えたが、一向に理由が思いつかない。


 最初は毎年欠席している私だけに記載されていたのかと思い、先程エレン様に尋ねてみると同様のことが書かれていたと教えてくれたので私だけではないらしい。


 となるとこの茶会が大きく関係することが近い日程で何か──


「あっ!」


 唐突に耳に入ったキャサリン様の声。入口の方を見ると、遅れてやってきた皇后陛下とアルバート殿下がちょうど温室に入ってこられるところだった。


 皆が立ち上がって頭を下げる。


「皆さん。今回も集まってくださってありがとう。先ほどから主催の私が席を外していてごめんなさいね。少し立て込んでいて……」


「────陛下、猊下がお会いになりたいと来ておられます」


 サッと1人の侍従が皇后陛下の隣に現れ、陛下の言葉を遮って耳打ちする。


「今日の予定ではなかったはずよ。まだ終わってないと伝えたわよね」


「書状は受け取られておられました。ですが、それでも今日お会いになられたいと……神官たちの監視の目を潜り抜けて1人でお越しになられて」


 焦っているのか早口に侍従は言う。


「全くあの方は……分かったわ。すぐに向かうと先に言っておいて。絶対にここまで来させてはダメよ。猊下は首を突っ込む気だわ。今日来たのもわざとよ」


 チラリとこちらを皇后陛下は見る。


「どうぞ私たちのことは気にせず行ってくださいませ皇后陛下」


 本来、主催側が招待客を迎えず、席を外しているのはマナー違反だ。しかし、この茶会の主催者は皇后陛下。普通の貴族とは訳が違う。皇族がどれほど多忙なのか身をもって知っている私はさりげなく言葉を発した。


 この茶会が開かれる理由は殿下と婚約者候補の仲を深めるためのもの。今までは私たちの年齢も低く、監督者として参加されていたのだと思うが、私達も12歳。大人が居ないと何も出来ない幼子ではない。そうなると茶会の優先順位は皇后陛下の中で下がってくる。


 侍従の顔色を見ても、あまり良い状況では無さそうだし、どのような案件なのか知っている訳では無いが、〝猊下〟という名が出た時点で確実にそちらの方が優先順位が高い。


 他の方も同様のことを考えたのか、私の言葉に口添える。


「……気を使わせてしまってごめんなさい。私が居なくてもいつも通り始めていてね。あと、私が戻るまで絶対にここから出ないでいただけると嬉しいわ」


 そう言って申し訳なさそうにしながら、皇后陛下はつまづかないようドレスの裾を少しつまみ、侍従と共に駆け足で温室を後にした。


 1人、残されたアルバート殿下は用意されていた上座の席に座る。専属魔術師であるジョシュア様ももちろん一緒に来られていたが、彼は殿下の少し後ろに移動した。


「お待たせして申し訳ない。さあ始めよう」


 今まで気配を薄くしていた侍女達が一斉に動き始め、綺麗な紋様が刺繍として刺されたテーブルクロスの上に、色とりどりのクッキー、そして他国の様々なお菓子も置かれていく。


 お菓子の種類はふんわりと柔らかく甘いメレンゲケーキから、少し塩辛い林檎タルトまでバリエーションが多岐にわたった。


 茶会では毎回このように様々なお茶菓子が出てくる。これは他の茶会と比べても数が豊富。なんでも皇后陛下が茶菓子がお好きで、様々な場所からよく取り寄せるらしい。そうして取り寄せたお菓子を茶会に出していると以前陛下自ら仰っていた。


「リーティア様、よければお取り致します。ご希望を」


 スイーツとティーポットを載せたワゴンを引きながら、侍女が話しかけてきた。どうやら何も手を伸ばさなかった私を見て、気を使ってくれたようだ。

 紅茶も追加で注いでくれようとしたが、喉は十分に潤っていたので丁重にお断りする。


「オススメは何かしら」


 ワゴンに載っているものを見るとテーブルに置かれているお菓子とはまた違う種類で、ひとつに選べそうにもない。


「気温が高く、食欲がなくなってしまう時期なので、清涼感のあるこちらはいかかでしょうか」


 手元に出されたのは、見た目が涼やかな蒼空色のゼリーだった。


「それでお願いします」


「かしこまりました」


「あっ私もリーティア様と同じゼリーを頂いても?」


 小さく手を上げて尋ねたのはアイリーン様。彼女は甘いものがあまり好みではないと言っていたので、会話を聞いて同じのにしようと思ったのだろう。


 私たちの要望を聞いた侍女は直ぐにデザートグラスに入ったゼリーをスプーンと一緒に置いてくれた。


 お礼を言って、ゼリーにスプーンを差し込むとプルプルと表面が揺れる。


 口に含むとゆっくり舌の上で溶けていき、ひんやりとしているのが全身の熱を奪っていってくれるように感じる。


(これは夏にぴったりね。貴族以外にも市井で人気が出そう)


 帝国のお菓子の流行りは大方皇宮から広まる。理由は簡単。皇后陛下のお眼鏡にかなったお菓子だから。


 皇宮で出された、というだけでその茶菓子は美味しさを保証されたものだ。甘すぎもせず、かと言って味がしない訳でもないゼリーは大勢の人に好まれるだろう。


 加えて皇宮で出される分には高級な食材が使われているが、材料の質を落としてコストカットをすれば安く売れる。ゼリーの作り方はお菓子の中では簡単な部類なので市井にも広がるはずだ。


 堪能しながら考えていると、いつも通りフローレンス様達はアルバート殿下と会話を繋いでいた。


 定期茶会の構図は大体いつもこう。クリスティーナ様、フローレンス様、キャサリン様がアルバート殿下と会話をし、残りのエレン様、アイリーン様、そして私は他愛もない会話を展開したり、時折殿下から振られる話に答えたり。


 普段はこれでお開きの時間になって解散となる。


 今日も同じように終わることを願いつつ、少しだけ耳を殿下方の会話に向けると、春の訪れを感じる頃に行われる大祝祭のことを話しているようだった。

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