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第66話 おはなし

「ノアさん!」


 地下の暗さをものともしないヴェロニカの元気な声に、ノアは手を挙げて応えた。


「あの、お時間ありますか? よろしければ……」


「ああ、ヴェロニカさん。ちょうどよかった。今からそちらに行こうと思ってたんですよ」


「そうなんですか? みんな喜びますっ!」


 ぱあっと花のような笑顔を見せるヴェロニカ。彼女の嬉しそうな手に引かれて、隠れ家たる地下の廊下を進んでいく。ノアは既に地下空間の構造の大半を覚えるに至っていたが、あえてその手を離さなかった。


 しばらくして、ぽっかりと開けた広場のような空間に出る。

 そこにはヴェロニカと同い年ぐらいの子供たちが集まっていた。

 ローガンによる都市襲撃の際、親とはぐれてしまった子供たちを集めている区画だ。


 中には襲撃の際に親が命を落としている子もいる。

 ノアはこの地下空間に訪れてから子供たちの面倒を見るようになっていた。

 別に頼まれたわけでもない。自然とそうしていた。


 ノアは血の繋がった本当の親に、僅かな金銭と引き換えに売り飛ばされた身だ。

 その後に待っていたのは偽りとしての、影武者としての人生。それを選んだのは自分だ。理由は単純。焦がれたからだ。家族の愛というものを。


 故にこそ。


 理不尽な暴威によって引き離された子供を放っておくことなどできなかった。

 『ソレ』が大切なものであるということを、誰よりも知っているから。


「あっ、おにーさんだ!」


 ノアが来ると、子供たちがわっと集まってくる。

 地下空間に訪れてから頻繁に顔を合わせて遊び相手になってくれたノアは、すっかり慕われるようになっていた。


「皆さん、元気そうで何よりですね」


「おにーさんがきてくれるもん!」

「ねぇ、きょうはどんなおはなしをきかせてくれるの?」

「はやくおしえてよー!」


 引っ張られるがままに奥へと歩み、座るのに丁度いい形をした岩に腰を下ろす。

 ここに来てからというもの、この岩がすっかりノアの定位置になっていた。子供たちはそんなノアを囲むようにちょこんと座り、わくわくと目を輝かせる。


 広大な地下空間とはいえ、元気な子供たちが退屈を感じずに遊べるだけのスペースはない。そこでノアは『おはなし』を聞かせることにしていた。

 が、内容は童話などの物語ではない。

 算術や歴史を始めとした『授業』といえるもの。子供たちも最初は残念がっていたものの、ノアの巧みな話術に聞き入り、今ではすっかり人気講師の座を射止めていた。


 そして今日もまた、ノアは己の知識を惜しみなく伝えていく。

 幼子でも理解できるように。


「ふわぁ……! おにーさん、ほんっとうになんでも知ってるんだねっ!」


「流石に何でもとはいきませんがね。たくさん勉強しましたから」


「じゃあ、わたしもたくさんべんきょうするっ!」

「わたしもっ! おにーさんみたいになる! そうしたら、海神様の神官にだってなれるよね!」


「おや。君は神官になりたいのですか?」


「うんっ! ……おとーさんがそうだったから。神殿にある、海神様の宝石を守ってるの。だからわたしも、おとーさんのお手伝いをするんだ!」


「……そうですか。なら、もっとたくさん勉強しなければなりませんね」


「がんばるっ! だからいっぱいおしえてね、おにーちゃんっ!」


 無邪気に笑う子供たち。ノアがここを訪れた当初はこうではなかった。

 皆が俯き、地下空間の暗さに溶け込むような、陰鬱な空気が流れていた。

 だが今は笑顔を花咲かせている。本来持っていた明るさを徐々に取り戻している。


 ……されど、それも空元気なのかもしれない。


 既に頼るべき親はこの世にいない者もいる。仮に現状が解決したとして、その後の彼ら彼女らがどのような道を歩むのか、ノアは知る由もない。

 だが……だからこそ。

 幼く小さな足でも歩むことが出来る力を、少しでもつけるべきなのだ。

 最後に頼れるのは己のみ。己が下す選択でこれからを生きていかねばならないのだから。


 ☆


「今日の授業はもう終わったの?」


 子供たちとの『おはなし』を終えたノアが戻ってくると、アリシアは一人機材と格闘していた。


「ええ、まあ。それより貴方は何をしているのですか?」


「ちょっと思いついたから『仕掛け』の調整をね」


 ここに来てからのアリシアは、まさに大活躍だった。

 治療用魔道具を手早く創り上げて怪我人の治療にあたり、今度は地下空間のあらゆる場所に『仕掛け』を施し、更にはいざという時のために幾つかの武具も創り上げていた。

 元は全てガラクタ同然の素材であり、さしものセルマや魚人たちも目を丸くするほど。


「私が言うことでもありませんが、少々働きすぎでは?」


「手を動かしてた方が色々と気がまぎれるのよ」


 信頼はしている。が、心配しないわけではないということなのだろう。

 彼女の中に浮かぶ一人の少年の安否を理解していながらも、その心は止められない。


「……ねぇ。貴方はどう思ってるの?」


「別に貴方とリオン君の仲は認めているつもりですよ? あえて義兄として何か言うとするなら、少し距離が近すぎるかと思いますが」


「こんな時に兄アピールはやめてくれるかしら。リオンはわたしのものよ……ってそうじゃなくて」


「解ってますよ。敵の目論見について、でしょう?」


「……いちいち自分が主導権を握らないと会話が出来ないのかしら。貴方は」


 ある程度の自覚はある。が、それもまたノアにとっての処世術だった。


「灯台元暮らし……とはよく言ったものだけど。いくら何でも、敵がこの地下空間の存在に勘づいてないわけがないわ。潜伏してからそれなりに日数は立ってるでしょうし」


「同意見ですね。となると、我々は敵に泳がされていることになる。狙いは大方、時間稼ぎといったところでしょうが……」


「『なぜそんなことをする必要があるのか』ね。相手の戦力を鑑みるに、こんな怪我人だらけの場所を潰すのは容易いはず。それをしないのは……相手の狙いが『魚人族の壊滅』じゃないから。必要だったのは、都市にある神殿」


「……海神ですか。ですがアレはあくまでも言い伝えでしょう?」


「言い伝えではないとしたら?」


「……海神が実在したと?」


「分からないわ。けれど実際に、海神の心臓とも言うべき『宝石』は実在するんでしょう?」


 本来は神官が護っていたとされる海神の『宝石』。それは神殿に最深部に祭られていたが、現状は敵の手に落ちていると考えていい。


「では敵の狙いは、海神の復活だと?」


「復活……それで済むならいいのだけれど」


 アリシアの瞳に映る景色。それはおそらく、他者よりも先を見通している。


「心臓を手中に収めた。もしかすると奴らは……神を造り変えようとしているのかも」


 彼女から言葉が零れた、その直後。


「――――っ!」


 激しい振動と共に、耳をつんざくような爆発音が地下空間に響き渡った。




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