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第61話 焔の槍

★コミカライズのお知らせ★

3月26日(木)よりコミック アース・スター様にて「人間だけど魔王軍四天王に育てられた俺は、魔王の娘に愛され支配属性の権能を与えられました。」の連載が始まります!


原作となる書籍版の流れはそのままに、コミカライズ用にセリフを大幅に調整!

原作との違いを見比べてみるのも面白いかもしれません。

さらに、かじきすい先生によって活き活きと描かれるキャラクターたちは特に必見ですので、どうぞお楽しみに!


https://www.comic-earthstar.jp/news/#update_1585

「でぇえええやぁああああああああッ!」


 腹から出た声とはこういうことなのだろう。

 さながら咆哮の如き雄叫びと共に、ルシンダさんは大蛇に向けて身の丈ほどもある剣を振り下ろした。


「温いッ!」


 大蛇は迎撃とばかりに口から魔力の閃光を放つ。だがルシンダさんの刃は真正面から閃光と激突し、強引に魔力を斬り裂くと、そのままの勢いで巨体に激突。鉄板に金属を強引にぶつけたような音が鳴り、大蛇が周囲の珊瑚礁を派手にまき散らしながら地面に叩きつけられた。


「固いな。まるで分厚い鉄板を殴りつけたような感触だ。まァ、だとすれば何度も刃を叩きつけるまでだがな!」


 叫びながらルシンダさんは再び大剣を手に突っ込んでいく。


「エルフ族って、意外とパワフルな方が多いんですね……?」

「あんな力強い戦い方をするのはルシンダお姉さまぐらいでしてよ」


 あれ? 姫様と戦った時はローラ様も拳を叩きつけていた気が……。


「何か?」

「いえなんでもありません」


 藪蛇とはまさにこのことか。

 気を取り直して、俺たちもルシンダ様に続いて大蛇へと接近する。


「海にも華は咲きましてよ!」


 ローラ様がさっそくとばかりに『神秘』属性の権能を発動。

 魔力を元に生み出された神秘の華が周囲に展開され、凝縮した輝きが光線となって大蛇に殺到する。強靭な鱗の装甲を持つ大蛇には決定打にはならないものの、踊るように次々と放たれる光線は牽制としての役割を十二分に果たしていた。


「ほう。腕を上げたではないか、ローラ」

「お褒めに預かり光栄ですわ」

「よし、あとは決定打を叩き込めば……」


 道はローラ様が開いてくれた。生じた隙を見逃さず、巨体の懐に潜り込む。


「ほう……面白い、やってみろ!」

「やってみます」


 滾る炎の魔力を拳に集約。けど、それだけじゃダメだ。


(……思いだせ。あの時の感覚を)


 姫様と二人で顕現させた俺の『レベル2』。


 本来は『剣』を形にするはずの『レベル2』が、なぜあのような形になったのかは分からない。ただ一つ確かなのは、あの力は一時的に俺と姫様の力を共有するもの。

 その時に感じることが出来た。姫様が普段、どのようにして魔力を振るっているのか。


 姫様は膨大な力をただ振るっているわけじゃない。

 膨大な力を自在に操り、必要な場所へと瞬時に集約させ、爆発させていた。


(魔力を集めて……研ぎ澄ます!)


 燃え盛る焔を集約させ、刃のように研ぎ澄まし、拳に纏う。

 それはまるで焔の槍――――焔槍拳フレイムジャベリン


 狙い、研ぎ澄ませ、一息に穿つ!


「……そこだ!」


 槍刃に研ぎ澄ませた焔を叩きつける。

 鋼の如き強度を誇る鱗をそのままの勢いで貫き、轟音と共に大蛇の巨体が浮いた。

 一瞬の浮遊の後、重苦しい音を響かせながら大蛇はその活動を停止する。


「終わりました」


 大蛇が完全に動きを止めたことを確認しながら、ルシンダさんとローラ様に報告する。

 懐かしいな。魔界にいた頃は、こういう大型の魔物を仕留めるために、俺も現場に駆り出されてたっけ。


「あの分厚い鱗の装甲を一撃だと……? リオンよ。今の技はなんだ? 貴様の奥の手か?」

「いや、奥の手なんて大層なもんじゃないですよ。今はじめて試してみた技です。ぶっつけ本番でしたが上手くいってよかったなと」

「試し撃ちだった、ということか……!?」


 ルシンダさんは驚いたように目を丸くする。


「はっはっはっ! そうか、試し撃ちか! それで随分とアッサリ仕留めてくれるじゃあないか!」


 彼女はそのまま大蛇の死骸に近づき、焔槍拳フレイムジャベリンで穿ち抜いた箇所を観察する。


「それにだ。核を一突きか……随分と手慣れているな?」

「魔界にいた頃、大型の魔物を仕留めるためによく現場に駆り出されたりしてたので」

「ほう……それはそれは。どうだ、リオン。一つ私と手合わせでもしてみないか?」


 なんだろう、この……獣を彷彿とさせる目は。

 ローラ様もエルフ族としては枠に外れたお方だろうが、このルシンダさんも俺の考える一般的なエルフ族とはかなり違うようだ。


「そ、それよりも、この大蛇の死骸はどうするんですか?」

「放っておけばそのうち自然消滅する。こいつらはローガンの持つ『培養』属性の権能によって生み出された存在だからな。絶命すれば基本的には魔力の塊となって飛散する」

「基本的に、ということは例外があると?」

「例外というほどではないがな。どうやら奴の『培養』によって生み出される魔物は二種類に分かれているらしい。一つは魔力のみで生み出された雑兵共。そしてもう一つは、魔力に特殊な魔法薬などの触媒を加えて生み出したもの。この大蛇は恐らく後者だ」


 説明しながら、ルシンダさんはここではないどこかを睨みつける。


「奴が行っている何かしらの実験も、恐らく強力な培養魔物を生み出すためのものなのだろう。先程の大蛇のような強力な魔物も、日を追うごとに出現するペースが増している。一刻も早く奴を止めねばこちらもジリ貧だろうな」


 話しているうちに、大蛇の死骸が魔力の塊となって霧散していく。


「では一刻も早く首都に攻め込まねばならないということですか……」

「そうしたいところだが、我らの現状は知っての通り。守護神様がいなければ満足に休息をとることも出来なかった有様だ。ましてや相手は倒しても倒しても湧き出てくる傀儡共。日夜休むことなく活動し、疲れも知らない。参っているというのが正直なところだよ」

「『培養』の属性……想像以上に厄介ですわね」

「ああ。せめてどこか付け入る隙か、策でもあればいいのだが……そう都合よく思いつかんというのが現状だ」

「……………………」


 霧散した魔力の欠片から微かに薬品の匂いがする。

 たまにお邪魔したことのある姫様の実験室で嗅いだことのある匂いだ。

 これも恐らく触媒にされたものの一部……けれど、この魔法薬はそう簡単に作れるものじゃない。複雑な調合と、それを為すための大掛かりな設備も必要になってくるはずだ。


「ルシンダさん。占拠された首都の神殿には、魔法薬を創るための設備でもあるんですか?」

「いや。そんなものはなかったと記憶しているがな。あそこにあるのは海神様の像と、浄化装置だ」

「浄化装置?」

「魚人界各地に設置されている大型の魔道具だ。この辺り一帯の海を浄化し、清い状態に保つ機能がある。元々、海の浄化は海神様が担っていたらしいのだがな。海神様が消えたことで、こうして人工的な浄化機能を造る必要が出てきたというわけだ」


 海の浄化。つまり水の浄化か。

 そういう類の魔道具は姫様が昔、作っていた記憶がある。

 ただ海の規模となると相当な魔力を必要とするはずだ。


「浄化装置を動かすためには大量の魔力がいるはずです。それはどこから賄ってるんですか?」

「浄化装置は魔力の精製装置としての機能も兼ね備えている。魔力はそこから捻出しているのだろう。それがどうかしたのか?」

「…………これはあくまでも仮設なんですけど」


 ローガンの持つ『培養』の属性。

 確かに厄介で強力だ。

 幾らでも生み出すことのできるまさに不死身の軍団。

 倒しても蘇る終わりなきリビングデッド。

 邪神より授かった『裏の権能』という反則的なまでの力があってこそなのだろうが、果たしてそれは『裏の権能』だけの力なのだろうか?


「ローガンが『権能』で生み出すあの雑兵たちは、活動限界があるんじゃないでしょうか?」

「なぜそう思った?」

「雑兵を生み出す方法ですよ。あれはローガンの魔力や触媒を用いて生み出す魔物。だとすれば、製造時に使った魔力分しか活動できないはずです。逆に言えば、魔力切れを起こせば自然と消滅するはず。なのに……」

「……奴らが魔力切れを起こす様子はない」


 ルシンダさんの考え込むような声に、俺は頷く。


「一体ずつにどれだけの魔力を込めているかは定かではありませんが、あの数からして量はそう多くないはず。普通なら、日夜活動出来るなんてありえない」

「何か、絡繰りがあると仰りたいんですのね?」

「その可能性が高いと思います」

「成程な……そこで浄化装置というわけか」

「はい。複数の浄化装置を用いた連携術式による魔力供給。それが奴らの高い持続性の秘密なのかと」


 『四葉の塔』での一件で黒マントを一時的に掴まえた際、講堂に仕掛けた術式。

 招待状や魔道具と組み合わせたあの術式も一種の連携術式のようなものだ。

 あれを知っていたからこそ今回は気づけたといっても過言ではない。


「つまり、都市の浄化装置を抑えてしまえば、あとは長期戦を仕掛けるだけで奴らは崩れる」

「むしろ逆に利用するという手もありますけどね。連携術式はかなり繊細ですから、浄化装置から繋がる魔力の供給経路を通じて自壊させることも出来ると思います」


 むしろ姫様なら逆に傀儡共の支配権を奪うぐらいのことはやりそうだけど。

 残念ながら俺にそこまでの技術はない。

 ただ、それでも――――これだけは言える。


「ありますよ。付け入る隙は」


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