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第57話 海の妖精族

「大変だったよー。任務でこの辺を飛んでたら、ヘンな光に巻き込まれちゃってさー。気がついたら魚人界に落ちてて参ったよねー」

「任務ですか? ネモイ姉さんが自ら行動しているとなると……」

「うん。『裏の権能』を持ってる連中についてちょっと調べてたんだー。元々、この辺で何かやってるっぽいってことまでは掴んでたんだけど……いやー。まさか守護神様をやることになるなんてねー」


 あっけらかんと笑うネモイ姉さんは魔界で見知った彼女そのものだ。


「妙な結界がはってあって外に出れないし、魚人たちもなんか大ピンチだったからさ。ほっとけなくて」

「感謝しております。守護神様のはってくださった風の結界があるおかげで、我らはこうして生き延びることが出来ているのですから」

「でも守護神様ってのはやめてほしいかなぁ……なんか妙にくすぐったいし。そういうのガラじゃないんだよね」

「では救世主様と」

「えー。それもやだなー」


 確かに守護神様やら救世主様はネモイ姉さんのガラではないかもしれない。この方はもっと自由奔放なところがあるから。


「……ってあれ? ねぇリオン。姫様はどうしたの?」

「どうやらはぐれてしまったみたいで……ひとまず無事だとは思うんですが」

「ん。なるほどね……リオンたちもあの光に巻き込まれてここに来たんだよね?」

「はい。突然のことだったとはいえ、姫様をお守りすることが出来なかったのが悔やまれます」

「そう。突然なんだよね、あの光。ボクがここに来てからも何度か起きてたけど、どうやらあれは意図して起こしているものじゃなくて、本当に偶然起きているものみたい。だから効果範囲もバラバラだし、別々の場所に飛ばされることもある。ひとまず無事ってことは解ってるんでしょ?」

「あくまでも感覚でしかないのですが……」

「分かってるだろうけど、その感覚もたぶんリオンの『レベル2』の影響だと思うからそれなりに安心していいと思うよ……まあ、その『レベル2』については色々と気になる点はあるけど」


 ネモイ姉さんはメイナードさんに視線を送る。


「……ま、お話はひとまずこれぐらいにしよっか。メイナード。リオンたちを休ませてあげてくれる?」

「承知いたしました。守護神様」

「んー。だからその守護神ってのはやめてほしいんだけどなー」


 苦笑するネモイ姉さんに対し、恭しく頭を下げるメイナードさん。

 どうやら相当尊敬しているらしい。その気持ちは大いにわかる。

 そんなメイナードさんに連れられ天幕を出た俺たちは、そのまま洞窟の中を歩いてゆくことになった。


 特に今の時期だと外から来る人は珍しいのだろう。

 魚人の人々達の視線が俺たちに向けられる。


「……不躾な視線だろうが、どうか許してほしい」

「状況が状況ですもの。仕方がありませんわ」

「そう言ってもらえると助かる。動こうにも戦力が不足して動けない現状を、皆が歯がゆく思っているゆえな」


 それでか。緊張感だけじゃない……何かが溜まっているような、このどこかピリついた空気は。


「おお、戻ったか。メイナード」


 この空気を物ともしないとでも言わんばかりの堂々とした足取りで一人の女性がメイナードさんのもとへと近づいてきた。凛々しい顔つきに薄緑色の髪。そしてローラ様と同じ形の長い耳。魚人族ではない……妖精族の女性だ。


「守護神様から話は聞いたぞ。単独で外の異変を調査していたらしいではないか。まったく……なぜ私を連れて行かなかった?」

「ルシンダ、お前は調査に向いていないだろう。ローガンを見るや否や飛び掛かるに決まっている」

「ではやはりローガンに会ったのだな。惜しいことをした。私がその場にいれば、あやつの首を討ち取っていたものを」

「……そういう無茶をする奴だから、連れていけないんだ」


 メイナードさんはため息をつきながらも俺たちに向き直る。


「紹介が遅れたな。こいつはルシンダ。元は私と同じ、首都の防衛隊の一員で、その中で最も腕のたつ戦士だ……ルシンダ、この方たちは守護神様のお知り合いの、地上の戦士たちだ」

「ルシンダだ。よろしく頼むぞ、地上の戦士たち……まァ、中には見知った顔もいるがな」


 言いながら、ルシンダさんはローラ様とデレク様へと視線を送る。

 そして当のローラ様はというと、驚き混じりに目を輝かせ、優雅さの中に尊敬の念を込めた一礼をして見せた。


「お久しぶりでございますわ、ルシンダお姉さま。お会いできてとても嬉しいです……! 魚人界でもその名を轟かせているとは、流石お姉さまですわ!」

「立派になったな、ローラ。最後に会った時はもっと小さかったのに。それと……デレク。貴様も元気そうで何よりだ。あれから鍛錬はかかさず続けているか?」

「当然です。いつかルシンダさんと手合わせした時、落胆されないようにしようと誓いましたから」

「フッ……それは楽しみだ。後にはなってしまうだろうが、望み通り後で相手をしてやろう。積もる話もあるだろうしな」


 どうやらこのルシンダさんという方と二人は知り合いらしい。

 王族であるこの二人とも顔見知りということは、彼女はエルフ族の中でも特別な立場にいたのかもしれない。

 そんな俺の視線に気づいたのだろう。ルシンダさんは俺たちに向け、


「かつて私はローラの父親……つまり妖精族の王に仕えていてな。こっそりとローラとデレクに戦いの手解きをしていては怒られたものだ」

「ルシンダお姉さまはお父様直属の親衛隊の隊長でしたの。妖精界でも随一の実力者で、ワタクシもお姉さまに色々なことを教わりましたわ!」

「……オレもこの人にはかなり世話になった。ある日突然、魚人界に行ってしまわれた時は大層驚いた」

「メイナードの強さに興味が湧いてな。うっかり妖精界を飛び出してしまったのだ!」

「それはうっかりで済ませてもよいのでしょうか……」


 珍しくマリアがまともなツッコミを入れた。


「ルシンダさんは元々、伝統や習わしを重んじる妖精界でも異端の存在だったからな……」

「お姉さまが飛び出したと聞いた時は、全員が頭を悩ませつつもすぐに諦めてましたわね」


 それはようするに「あいつならいつかやると思っていた」ぐらいの意味ではかなろうか。


「ま、元々いつかは出ていくつもりだったからな。部下たちも私がいなかろうと十分立派にやっていける程度には育てていたし、何より妖精界は私にとって狭すぎる」

「…………そうですわね」


 ローラ様は色々と思うところがあるのだろう。

 珍しく愁いを帯びた表情を浮かべ、頷いた。


「呼び止めてしまい悪かったな。貴様らがここを訪れた事情は後で聞くとして、地上から来て疲れたろう。まずはそこで休息でも……」

「メイナード様!」


 焦りを滲ませた声と共に、魚人の兵士が駆け寄ってきた。


「どうした」

「先ほど警戒任務にあたっていた兵から報告が……例の培養魔物が現れました。この隠れ家からは離れた場所ではあるですが、場所に問題が……」

「……狩り場か」

「はい。あそこには食料となる魔物たちの狩り場ですから……」

「……捨ておくことは出来ないか。分かった。こちらで対処する」


 兵は下がり、また慌ただしくどこかへと駆け出していく。


「ルシンダ」

「分かっている。その魔物とやらは私が対処しよう」

「でしたらお姉さま! ワタクシもお供しますわ!」

「それは助かるが……いいのか?」

「勿論ですわ! 成長したワタクシの力を是非ご覧くださいな」

「フッ……では遠慮なく頼らせてもらおう。何分、今はどこも戦力不足なのでな」

「それでしたら俺もお供しますよ。外に出れば姫様を探すことも出来ますし」


 何よりこれからお世話になる場所だ。ただ飯食らいというわけにもいかないだろう。


「ほう……貴様は?」

「リオンといいます。魔界の姫君、アリシア・アークライト様にお仕えしております」

「魔界の……ふむ。なるほど? それは面白い。では貴様もついてくるがいい」


 それからルシンダさんはデレク様とマリアを見る。


「デレク。それとそこの妖精族の娘はここにいて休んでいるがいい。メイナードが面倒を見てくれるだろう」

「オレも戦えますが」

「これだけの戦士が揃っていれば十分だ。私もいるしな。それよりも、貴様はいざという時のためこの隠れ家の防衛に加わってくれると嬉しい。どうやらそこの妖精族の娘も、かなりの使い手のようだからな」


 俺とローラ様はルシンダさんと共に魔物退治へ、そしてデレク様とマリアが隠れ家に残るという分担となった。


「よし。では行くぞ。あまり長く隠れ家を空けたくもないしな……早々に片付ける!」


本日書籍版最新第2巻発売です!!

書き下ろしエピソードでは魔界での日常を過ごすリオンとアリシアのお話を収録しています。

アリシアの髪に揺れる赤いリボンについてちょっと語られたりしています。


mmu様の美麗イラストで彩られた第二章をどうかよろしくお願い致します!


アース・スターノベル様の特集ページ

https://www.es-novel.jp/booktitle/85shihaizokusei2_r.php

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