第35話 そわそわの学院、リオンのおねだり
【お知らせ】
本作「人間だけど魔王軍四天王に育てられた俺は、魔王の娘に愛され支配属性の権能を与えられました。」が、この度アース・スターノベル様より書籍化することになりました!
イラストレーターはmmu様。
発売日は8月を予定しております。
書き下ろしにアリシアが「わたしのリオン」と呼ぶ理由について触れた短編も収録しています!
既にキャラデザがあがっておりますが、リオンとアリシアは素晴らしい出来となっておりますので、公開できる日が今から待ち遠しいです!
特にアリシアのお姫様っぷりが素晴らしいので、ご期待ください!
詳しくは活動報告にて!
人間族の王様を乗せた船が到着したのは、翌日のことだった。
水を自在に操るレイラ姉貴にとって海の移動は地面の上を走るよりも容易いことだ。夜の闇に紛れて深海を通り、王を乗せた船に合流。島に到着するまでの護衛を立派に果たした。その後、姉貴はすぐに魔界へと戻った。祭りを狙ったアニマ・アニムスたちへの対応の件もあるのだろう。
そして王が到着したことで俺と姫様が何をしていたかというと――――特に何もしていなかった。レイラ姉貴を通じた伝言で、「普段通りにしていてほしい」とあった。それに従い、今日も今日とて学院で普段通りの生活をするようにした。
とはいえ、その学院はというと人間界の王の訪問によってざわついている。浮足立っているといってもいい。『四葉の塔』での事件で種族間の対立なんてものもあったが、神より『権能』を授かった王族は世界的にも特別な存在であり、邪神に立ちむかった英雄でもある。魔王軍四天王の方々がそうであるように英雄視されている(そういった事情があるからこそ、種族間対立の一件では権能を授かった王族であるデレク様とローラ様がトップに祭り上げられたのだが)ので、無理もない。
浮ついた空気がありつつも学院での日常は恙なく進行し、放課後の時間が訪れた。
生徒たちは皆が楽園島の港に停泊している王船を見物しに行くべく、急いで荷物をまとめている。そんな中、姫様は優雅にゆっくりと教科書などの荷物をまとめていた。
「……今日は騒がしい一日だったわね」
「『権能』持ちの王様なんて滅多にみられるものじゃないですからね。かくいう俺も興味はありますよ」
「リオン様は、人間族の王に興味があるのですか?」
「王様に興味があるというより……あの船に乗っている精鋭たちかな」
「精鋭……?」
マリアが首を傾げる。それを受けて、教科書を鞄に詰め終えた姫様が口を開いた。
「人間族の王族が持つ権能の属性は『団結』。権能の『保有者』の数だけ、魔力を強化する力……あの王船に乗り込んでいるのは、人間族の王から権能を授かった『保有者』たちの中でも、上位の実力を持つ騎士たちの集まり……『団結の聖騎士団』」
「数は全部で五十人。……そのたった五十人だけで、国一つ落とすことも出来るんだそうだ」
人間族の『団結』属性が有する魔力の強化という能力は、シンプルながらその実かなり強力だ。魔力とはエネルギー源。体力的な面でもそうだが、魔法という強力な武器を扱うための力でもある。それが強化されるということはすなわち安定性に繋がり、安定性とは即ち強さに繋がる。
「元々実力のある者達を『団結』の権能で更に強化する……単純ながら、いえ。単純であるが故の安定した強さ。流石は王直属の騎士団といったところでしょうか」
「ああ。彼らは王を護ることを得意としているっていうからな。俺も姫様の護衛として、学ぶべき点は沢山あるだろうし」
「確かに……私も、人間界が誇る最高峰の戦士たちには興味があります」
俺は姫様にチラッと視線を移す。……護衛の身としては、姫様とそうホイホイと別行動をとるわけにもいかない。
「リオン。わたしにおねだりしてくれているの?」
「えーっと……はい。姫様に、おねだりしています」
護衛の身としてはあまり良くないことだというのは自覚している。俺の中にある好奇心を優先させるなんてあってはいけないことだ。だから、ここで姫様が断ればそれはそれで仕方がない。…………前までなら、こんなおねだりをすることもなかったな。今こうしているのはきっと、彼女と婚約者に……恋人になったからだろう。だからこうして甘えてしまった。
「いいわよ。素直でカワイイ、わたしのリオン」
「ありがとうございますっ!」
やった、と内心で喜んでいると、俺の方をじーっと見ていたマリアが、
「……なるほど。リオン様は、そうやってアリシア様を誑かしているのですね? 純粋そうな顔をしながら、中々の手際。流石です」
「人聞きの悪いことを言うなよ!? 俺は別に姫様を誑かしてなんか……」
「あら。わたしはリオンになら喜んで誑かされるけど?」
「姫様⁉ それ結構返答に困る発言ですよ⁉」
慌てていると、姫様がくすっと笑みを零した。……それを見て、俺はほっとしてしまった。ここ最近の姫様は様子が少しおかしかったから、こうして笑った顔を見せてくれてよかった。
「それじゃ、行きましょうか。人間族の王様ご自慢の、聖騎士団を見物しに」
姫様の言葉に、俺とマリアは静かに頷いた。