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第28話 エピローグ

 姫様を装置から救い出うと、彼女はすぐに魔法で腕の止血を行った。部屋にあった包帯を借りて、そのまま姫様の腕に包帯を巻きつける。


「すぐにここから脱出しましょう。ノア様やマリアもそうですが、外の様子も気になります」


「…………おめでたい、奴だな……」


 消耗したことが分かるその声は、ナイジェルの物だ。

 身構えたが、魔力の蠢きは感じられない。本当に、喋ることだけで精いっぱいのようだ。


「いくら、獣人族と妖精族が……協力、しようが…………あれだけの、邪竜の複製体を……そう簡単に処理できるわけがなかろう。アレは……この、島を……滅ぼすつもりで、用意した戦力だ…………クククッ……」


 身体が一切動けなくなったにも関わらず、ナイジェルは邪悪に嗤う。


「私の、勝ちだ…………!」


「それはどうかな」


 視界に赤いローブが揺れた。

 見間違えるはずもない。

 魔王軍四天王の一人にして、火のエレメントを司る戦士。


「――――イストール兄貴!」


「うむ。少々遅れてしまったが、駆けつけたぞ」


 俺を安心させてくれようとしているのだろう。

 笑みを浮かべ、フラついている俺の身体を受け止めてくれた。


「ど、どうしてここに……」


「以前から我々が追っていた魔法犯罪組織と暴走魔物の足取りを追っていたところ、この島に行きついたのだ。賊共はこの島から最新型の武器を入手していたらしい」


 兄貴は周囲を見渡し、その表情を確信に変える。


「なるほど。どうやらこの部屋の持ち主……あのナイジェルとやらが武器を製造していたようだな。暴走魔物も、おそらくは竜人化の実験による副産物だろう。それと、島中に響き渡る声は聴いていた。下の階層にいるノア殿やマリアから話を聞いて事情は大まかに把握している。…………よくやったな」


「ありがとう、ございます……!」


 嬉しい。兄貴に褒めてもらえたことが、こんなにも嬉しかったことは初めてだ。


「イストール。それじゃあ、外で暴れてる邪竜の複製体は……」


「他の四天王たちと共に、殲滅いたしました」


「そう……ありがとう。感謝するわ」


「お褒めに預かり光栄です、姫様」


 イストール兄貴はチラリと倒れているナイジェルに視線を移す。


「あの者はこちらで拘束しておきます。姫様は、リオンと共に外の様子をご確認ください。ちょうどここは塔の最上階。外に出れば、学院の様子も一目で確認できましょう」


「そうするわ。いきましょ、リオン」


「あ、はい」


 兄貴に礼をしつつ、俺は姫様に連れられて外に出る。塔の最上階にはちょうど外を一望できるスペースがあった。風に頬を撫でられながら景色を眺めていると、獣人族と妖精族の歓喜の声が響き渡ってくる。


「……最初はどうなることかと思いましたけど、これなら何とか任務も果たせそうですね」


「そうね……」


 呟いた後、姫様は何かを思いついたかのようにハッとする。


「というか、これはもう任務を果たしたといってもいいんじゃないのかしら。少なくとも、デレクとローラは和解したようなものだし」


「そういえば……そうですね。兄貴から言われたのは、『島主同士の和解』でした」


「そうよね。うん。それじゃあ、これで任務完了ってことよね。うん。オッケー」


 うんうんと、姫様は一人で何度も頷く。


「リオン」


「は、はい」


 珍しく姫様は何かに緊張しているらしい。頬を赤らめ、深呼吸して……なんだろ、この雰囲気。なぜかドキドキしてきた……。


「あのね……わたし――――好きよ。あなたのことが、好き。大好き」


「あ、俺もです。姫様のこと、大好きですよ」


「ほ、ほんと? …………………………いや、待って……それって、イストールたちと同じぐらいじゃないでしょうね?」


「はいっ! イストール兄貴も、レイラ姉貴も、アレド兄さんも、ネモイ姉さんも……姫様も含めて、皆さんのことが大好きです!」


「………………………………危うく、手放しで喜ぶところだったわ」


 はぁ~……、と姫様は盛大なため息をつく。


「リオン。わたしのリオン。あなた、とても大きな勘違いをしているわよ」


 姫様はちょっぴり不機嫌そうで、おまけに俺はジトッとした目を返されてしまう。


「わたしがあなたに言っている『好き』っていうのはね、あなたが思っている意味の『好き』とは違うものなの」


「ち、違う? それって、どういう――――」


「こういうことよ」


 完全に不意を突かれた。姫様はいきなり俺の制服の胸元を掴んだかと思うと、強引に引き寄せてきた。そのまま姫様の美しい真紅の瞳が近づいてきて……唇に、柔らかい感触が触れた。それがキスだと気づくのに数秒ほどの時間を要した。それぐらい頭が混乱していたし、それだけの時間、姫様の唇が触れていた。しばらく経ってから、名残惜しそうに姫様が離れる。


「…………分かったかしら。わたしが言った、『好き』の意味」


「わ、分かりました……」


「じゃあ、もう一度言うけれど……好きよ、リオン。大好き」


 愛らしい笑みを浮かべる姫様の言葉に。

 俺の気持ちは、ずっと前から決まっていて。


「…………俺もです。姫様のこと……大好き、ですけど……」


「『けど』って何よ」


「…………俺は、人間です」


「知ってる。わたしの傍にいてくれた、優しい人間の男の子よ」


「…………俺は、魔族じゃありません」


「それも知ってるわ。魔界の為に、たくさん戦ってくれたわよね」


「…………それでも、いいですか」


「いいに決まってるでしょ」


 むすっ、と子供っぽく頬を膨らませる姫様。どうやら何かご立腹らしい。


「なによ。実はわたしのこと、嫌いなの?」


「そんなわけないじゃないですか」


「ならいいじゃない。リオンが人間だとか、わたしが魔族だとか。そんなこと、どうだっていいじゃない」


 まったく、このお方は……この島がこれだけ種族間の問題で色々と大変だったっていうのに、『そんなこと』で片付けちゃうんだからな。


「ねぇ、リオン。わたし、まだちゃんとした返事を貰っていないんだけど」


「……俺も、好きですよ。姫様のことが、世界で一番……他の何よりも大切で、大好きです」


 ちょっとぎこちないけれど、俺の想いを伝える。姫様はちょっぴり頬を赤くして、笑いかけてくれた。


「……ふふっ。嬉しいものね。こうして、リオンから『好き』って言ってもらうのって」


「それはよかったです」


 こうして告白すると、気恥ずかしい感じもするけれど……彼女に対するこの感情が、とても愛おしいものだと素直に思える。


 それからしばらく、俺たちは一緒にいた。

 互いに肩を寄せ合って、景色を眺めて。


 ――――俺たちは、主従から恋人になった。


 ☆


 『四葉の塔』での騒動を終えた翌日。真新しいベッドの上で、俺は気配を感じて目が覚めた。


「…………姫様?」


「あら、おはよう。目が覚めたのね」


「…………なんで俺のベッドに潜り込んでいるんです?」


「前からしてみたかったことを、恋人になったから遠慮なく実践してみようと思ったの」


 にへーっと幸せそうに笑う姫様を見ていると、もはや注意をする気力も起きない。……まあ、いいか。


「せっかくだし、お散歩に行きましょう」


 有無を言わさずとはまさにこのことで、俺は姫様に連れられて外に飛び出した。

 手を繋ぎ、指を絡めながら散歩をして。辿り着いたのは、噴水のある街の広場だ。

 ちょうどここでデレク様とローラ様の衝突を目撃したんだっけ。


「この広場って、恋人たちがよく手を繋いで過ごす場所らしいの」


「そうだったんですか。……ああ、だから魔界にいた頃、熱心に島の情報を調べてたんですね」


 そんなところも愛らしいとか言わない方がいいかな。……恥ずかしいし。


「ここで、こうしてリオンと恋人として過ごせるなんて……とっても嬉しい」


「あはは……それはよかったですけど…………魔界に帰ったら、大変なことになりそうですねぇ」


「あら、どうして?」


「いや、だってほら、魔王様に俺たちの関係も説明して、挨拶もしなくちゃですし……」


 魔王様は姫様のことをかなり溺愛していらっしゃるからなぁ……最悪、殺されてしまうかもしれない。死ねないけど。


「それなら大丈夫よ。島に来る前、お父様と取り引きしたから」


「取り引き?」


「ええ。『獣人族と妖精族の島主を和解させる任務を無事に終えられたのなら、わたしとリオンの結婚を認める』って」


「俺当事者ですけど何も知らないんですが!?」


「今教えたわ」


「遅すぎますよ!」


 なんてメチャクチャをするお方だ!


「……だから。わたしたち、もう結婚しても大丈夫なのよ?」


「えっ」


 姫様の綺麗な指が、俺の唇を抑えた。まるでこれ以上、うだうだ言わせまいとしているかのように。


「――――リオン。わたしと結婚しなさい」


「あ、はい…………」


 姫様と恋人になった翌日。


 ――――俺たちは、恋人から夫婦になった。

これにて第一章完結となります。


当初はもうちょっと早く終わる感じだったのですが、なんかめちゃくちゃ長くなってしまいました。


第二章についてはまだ何も考えていません。第一章では殆ど触れていなかった学院要素だったり、ノア関連のことをやるかもしれませんし、やらないかもしれません。


その第二章は出来るだけ早くお届けできるように頑張ります。


ひとまず、ここまで読んでくださった方々に感謝を。

せっかくなので、「面白かった」「続きが気になる」と思って頂けましたら、下の方にある評価ボタンやブックマークで応援してもらえますと幸いです。


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