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毒白  作者: つかれた
6/8

佐島良想……

 床が大きな口を開けている。

 冷静にみれば、それが単に床に大きな穴が開いただけの事なのに、先程の妄想のせいで、それが現実になったのだと、頭のなかで勘違いをしてしまった。ちなみに悲鳴は、床が抜けた時の音。つまらないオチで申し訳ない。

 こぼれ出すため息。私は、床穴に視線を向けて、ゆっくりと噛まれた足を引っこ抜く。だんと足音を立てて、少しだけ痛む足首に、傷はないかと裾をめくる。運がいいのか、どうやら目立った傷はないようだ。

 今度はほっと一息付く。だか直ぐに、それは恐怖を圧し殺す悲鳴に変わった。

 視界の中に収まっていた。だけど、今まで認識していなかったもの。それは、開かれてた扉の先、その床下にくっきりと残った足跡だった。

 認識した情報がスイッチとなり、私の頭の中に電流を走らせる。冷静ではない思考が飛躍し、限られた情報を断続的に繋ぎ、瞬く間にそれが何を意味しているのかを知った……!

 そして私は、どうしてこんなところに来たのかと、本気で後悔した。


(ああなんてこと! なんてことなの! こんなところに来てしまうなんて! どうかしていたに違いない!!)


 乖離(かいり)する精神。舞台上で演技をする役者を眺めているような、ふわふわとした感覚。けれどもこれは、間違いなく自分の身に起きたこと。ならば立ち上がらなければ!

 私は急いで立ち上がる。噛まれた足に痛みが走る。

 この足跡がいつ付けられたのかは分からない。足跡の主がここにいる方が圧倒的に低いだろう。分かっていても、もしかしたらという恐怖は紛れない。不幸とは、確率的にあり得ないタイミングが招くものだから。なんでこんな日に限って、という時にやってくる。

 どちらにしても、早くここから逃げなくては……!

 足跡の主が何者であれ、この老朽化が進んだ家に出入りする者なんて、マトモじゃないに決まってる!

 私は足の痛みを堪えながら、引きずる様に玄関から外へと抜け出した。


暗転。


 一階から、大きな音が聞こえた。丈夫な板が折れたような音だった。

 俺は何が起きたのだろうかと、小首を傾げる。そして、直ぐに周囲を警戒する。息を殺し、自分の存在を消しつつ、わずかな音をも聞き漏らさぬよう、耳を澄ませる。

 この家全体の床は脆い。特に一階の広間は所々に穴が開いているところもあり、歩くのが困難だ。そして今現在に至るまで、大きな音のあとに、別の音が聞こえないところをみると、下にいるのは一人だけ。それも自分と同じ、この家に『何か』を探しに来たもの。

 所持品を仕舞うトートバッグには、スマホや財布などの貴重品と、ここで手にしたアイテムのみ。武器になりそうなものは、今手にしている軍手と懐中電灯。どれも、対抗する武器としては頼りない。

 俺は忍び足で、扉の横に近付いて、壁に背中をつける。

 扉は外開きだから、決して死角にはならないが、心理的に隠れることをしなければ落ち着けなかった。


(階段を上る足音だけは、絶対に聞き逃さない……)


 そう言い聞かせ、全神経を耳へと集中させる。

 緊張感で、浅くなる呼吸を時おり整えながら待つ。すると、ドタッ、ドタッ、という音が聞こえた。

 俺の緊張はピークに達する。直感で、自分の存在がバレたのだと感じてしまったからだ。

 脳内で、少ない情報を断続的に繋げていく。俺は、忍び足で対面の窓へと向かう。

 駆け寄ってから、こっそりと窓を覗く。

 眼下には、片足を引きずりながら逃げる人物が見えた。

 ポニーテールの髪型と、黒一色の服を着た、怪しさを全面に押し出した女。素人感丸出しの探索者のようだが、知らない相手である以上、注意をしておかなければならない。

 取り敢えず、必死で逃げる姿からみて、恐らく敵対する者ではなさそうだ。


(少なくともいきなり殺されたりはしないはず)


 そう思い、胸を撫で下ろす。

 それでもまだ周りを警戒しつつ、一先ず仲間の一人に連絡を入れる。こちらで手に入れた情報を共有しなければならない。 

 俺がここで見たもの全てを、仲間の一人に共有した。

読んでくださりありがとうございます。

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