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毒白  作者: つかれた
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佐島良想4




 美しき森のなかに、立ち並ぶ宿泊施設。

 日々の疲れを癒し、日常から離れるためにやって来た人たちが賑わっている。子供たちが明るく、楽しげに歩道を駆け回る。

 そんな明るい子供たちを見て、私の心が温かくなるのを感じながら、彼らの道を、そっとあけた。

 子供たちは、私が開けた道を駆け抜けていった。

 温かな気持ちに包まれながら、歩道を歩き続ける。宿泊施設から徐々に離れていき、気付けば景色は木々と道だけとなった。生い茂る木葉は太陽の光を遮断し、辺りは夕暮れのような暗さとなった。こうなると、先程まで美しいと感じた緑も、今では恐怖を掻き立てる不気味な存在でしかない。

 私の心は、すっかり冷えきっていた。

 トボトボと歩き続けて15分。目的の家が見えてきた。

 大きな家。だが、見渡す限り、屋根や柱の所々は瑕疵んでいた。

どんな大きな家だって、人が住まなくなれば傷むらしい。調べれば、空気の換気不足や水回りの錆びが瑕疵の原因とのこと。

 そう言われると納得するが、人が住む方が家は傷まないなんて、直情的に矛盾している気分になる。今まさに、この朽ち果てた空き家を目の前にしても、その矛盾は晴れずにいた。


 この家の所有者の名は、飽田良祐。不浄なやり方で泡沫の名誉と、大金を得てしまった盗作作家だ。この家はその大金が泡となる前に購入したもの一つらしい。舐めた話だ、バカやろう。

 ため息の一つも吐きたくなる(事実吐いた)男の豪遊に飽き飽きしながら、私は家だったものの中へと入る。

 開け放たれた玄関から、真っ直ぐに伸びる廊下、左手には二階へ続く階段がある。

 私は一階から散策しようと思った。

 私は土足のまま踏み入れると、ぎしりと、床が音をたてた。一歩、一歩と踏みしめる度に、ぎしり、ぎしりと音をたてる。段々とその音が、傷みに耐えようと歯を食い縛る床の悲鳴のように感じる。このまま床に苦痛を強いていると、床が大きな口を開けて、私の足首を食いちぎるのではないか。

 そんなあるはずかない妄想が、頭のなかで浮かびあがり、私の精神を恐怖ですり減らしていく。

 一歩、二歩、三歩。

 足を進める度に軋む床の音が、私の心を、山芋をおろすかの様に擦っていき、早くも帰りたくなった。

 無駄なことをしている自覚はある。しかし、行動するものがそこにあるのに、何もしないのはモヤモヤする。


(だから……、でも……、いや。だって、しかし…………もうっ! バカ!!)


 頭のなかでは、複数の私が顔を並べて会議をするが、いつも通り誰かが怒って、会議終了。なんのことはない。いつも、悪い感情が起伏したとき現れては、あーだこーだと、そしりあう。そしてそれは、ネガティブの起因が過ぎ去った後でも続けている。要するに無駄無駄の無駄、全くもって無駄な時間なんだ。

 考えるだけ無駄なことにエネルギーをまわすのは馬鹿馬鹿しいと思いつつも、余計なことというのはどうしてか、考えずにはいられない。癖のようなものだ。


(嫌な性格。直したい)


 何度も考えたことだか、一向になおる気配はない。

 と、そんなことを考えてたお陰か、先程までの恐怖はすっかり鳴りを潜め、廊下の突き当たりまで来ていた。正面と左右には煤けた扉。私は左の扉を開けたが、そこはトイレだった為、直ぐに扉を閉めた。

 次に正面の扉を開けたその時……!!

 大きな悲鳴が聞こえたと同時に、私の体がガクッと揺れた。


「っ!!!!」


 バランスを崩し、転びそうになる。私は両手を床につけた。

 心臓が煩く警報を鳴らす。

 私は荒い呼吸を繰り返し、高鳴る心臓を必死に落ち着かせる。


(冷静に、冷静に)


 荒い呼吸から、深い呼吸へ。ゆっくりと、ゆっくりと、気持ちを落ち着かせる。少しだけ冷静になってきた私は、何が起きたのか、足元に目を向ける。

 そこには、床が大きな口を開けて、私の足首を噛んでいる姿があった。



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