佐島良想3
最悪な気分を抱えて、帰宅した。私は直ぐ様靴を脱ぎ、自室に駆け込んだ。ドタドタドタ、と足音を立てても、今この家には誰もいないから問題なし。
仕事で忙しい母は、夜遅くまで帰ってこない。祖母は先月から高齢者施設へと入居している。物忘れの多くなってきた祖母を、これ以上家でみるわけにはいかないとのこと。だから私は、祖母に私の顔を覚えていてもらう為、週に一度は顔を見せに行こうと思う。しかし、それは早くも頓挫することになる。
自室に入り、鍵をかける。
鞄はベッドの脇におき、ベットの対面にある自習机の引き出しを開けた。整頓された文房具とルーズリーフ。それらを机の上に置き、底に仕舞ってある茶色い封筒を取り出す。それはあの日、飽田良祐の自室で手に入れたものだ。
中身を抜き取り、確認する。入っていたのは、物件購入時の契約書と物件情報が載ったパンフレットだった。
私は、まず契約書を読み、次にパンフレットを確認した。そして、飽田良祐が購入した家の住所をメモする。とんでもないことに、あの男は資産が増えてから直ぐに、2件もの家を購入していた。
頭を抱えながら、両方の住所をしっかりと控えておく。
(さて……どっちから先にいく)
立ち上がり、ぐっと両手をあげて、背伸びをしながら考える。
ざっくばらんに言えば、山か温泉か。どちらも探索を含めれば丸1日はかかるであろう、遠い場所。
(面倒。でもやる)
脳内の端から、だらけた私がひょっこり顔を出してきた。悪い癖が表に出る前に、私は行き先を山へと決め、支度をする。
出発は今週の土曜日。手にいれたものは日曜日にまとめて精査する。祖母には会えないと思っているが、時間が空けば会いに行こう。そう意気込んで、私は祖母に会えない理由を作り上げたのだった。