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毒白  作者: つかれた
3/8

佐島良想2




「佐島さん」


 名前を呼ばれて振り返る。

 夕焼けが人物をシルエットにしていた。それが、にこりと笑った気がした。

 シルエットに徐々に近づいてくると、それが同じ学校の制服を着た男の子だったと分かる。

 彼はやはり笑っていた。とても不快な顔だった。

 名前は中川君だったと思う。だったというのは、初めて名前を聞いたのはつい先日の事。私が飽田良祐が住んでいた部屋の窓から飛び降りた日だった。


 奴の部屋を捜索し、あるものを見つけた。目星のものでは無かったが、次の手掛かりになるものを鞄の中に入れた。その時、外から、カンカンと、階段を上る足音が聞こえた。乱暴に足音を鳴らしてくるところをみると、恐らく大柄の男ではないかと思わせる。

 カッ、と頭に血が上る。

 私はつま先立ちで窓まで走り、開けた窓から飛び降りた。

 ふわりとスカートがめくれ上がったのを感じる。私は、誰かに見られたらどうしようと、羞恥に顔が熱くして、とん、と着地した。そして、直ぐさまスカートを押さえた。

 今さら押さえたところで、先ほどめくれ上がった事実は消えやしない。しかし、反射的に押さえてしまう。そうしなければ嫌だったし、悔しかったからだ。

 私は歯を食い縛り、その場をあとにした。

 最悪な気分だった。

 その気分は翌朝、中川君に呼び止められる時まで続く。なんと彼は、昨日の最悪な瞬間を写真で撮影していた。新聞部の彼はいつも、カメラを制服の内ポケットに、し舞い込んでいるらしい。


「今日もどこかに?」


 私は首を振った。彼がこのジェスチャーをどう解釈するのかなんて、知ったことか。私は答えない。けれど、無視することは出来ない。

 出歯亀に弱味を握られている限り、下手に刺激を与えるわけにはいかない。

 そんなことをして、彼が私に取り返しのつかないことをしでかしては、たまったものではない。

 もし仮に彼が恐慌に走った場合、その時、私はどう行動するのだろう。目なり鼻なり潰して、徹底的かつ非情に正義を執行することを妄想しているのだが、いざ現実におこった時、私はきっと怯えているんじゃないだろうか。悲しみに枕を濡らして、微睡みの中、痛みと快楽に溺れて、陶酔するのかもしれない。

 私は弱い。トンと体を押されれば、力の流れのまま倒れてしまう。そして、二度起き上がれない。だから今、このいつ崩されるのか分からない関係は、私にとって恐怖でしかない。


「僕、佐島さんの名前って、好きなんだ」


 聞いてない。


「良く想うって書いて、『りょうそ』って読むんだよね。『りょうそう』じゃなく『りょうそ』。その響きが凄くいい。流石は飽田先生だと思うよ。先生はきっとその響きが良くて、佐島さんにその名前をつけたんじゃないかな?」


 不快極まる。私の名付け親はお婆ちゃんだ。


「だからさ。僕も、良想さん、て呼んでもいい?」


 何がだから? 前後の言葉に全く繋がりが無いのだけど。

 会話不足がたたる、彼の怪文みたいな言葉。私の我慢は限界にきていた。

 本当に、最悪な虫が付いたと思った。

 中川君は照れているのか、視線をキョドロかせなから、こちらを覗いては視線を背ける。

 私は眉間をひきつけながら言った。勿論、彼には見せないように。


「いやよ」

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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