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ExLIA/Heroes イクスリア/ヒーローズ  作者: 篠宮 琉璃
SEASON:01 英雄の目覚め
5/7

File:04 邪神

騎士は穢れた存在と対峙していた。漆黒の剣が相手の攻撃で弾かれては火花を散らす。


「…ふん、これが邪神――ディオスの力か」


「人間ごときが僕に歯向かうか、愚かな奴め」


敵の方も油断はしていない。一歩下がったかと思いきや魔弾を生成し騎士に向けて幾度と撃ちこんでいる。だがそれでも騎士は怯まず敵の弾幕を己の剣で凌いでいる。だがこのままでは攻めの態勢に入れないのが問題だ。ずっと受けているだけでは進捗しない。


「――馬鹿だな、君は」


そう吐き捨て、敵は攻撃パターンを変えた。弾を撃つだけでなくそこに実体ではない剣を作り出し叩きこんだ。騎士の体勢が崩れ、遥か遠くに吹き飛ばされた。

「がはっ」


彼の全身は痛みという感覚しか感じていなかった。無理もない、敵の剣の威力は重厚な鉄骨で叩かれるようなものとは比べ物にならないものだったのだから。


「貴様、許さぬぞ…!」


そう言って力尽きた騎士のうなだれる姿を眺め、敵は呟いた。


「念のためもう一度教えてやろう」


その足元に禍々しい花々が咲き始めた。その花はまるで棘の鋭い黒薔薇のようであった。


「僕の名前はグリムヴェルト――ディオス・グリムヴェルト。罪を裁くという務めをあの方から命じられている。君は罰せなければならない」


不敵な笑みを浮かべながらグリムヴェルトが指を鳴らすと騎士の甲冑に、先ほどの黒い花がぽこぽこ咲き始めた。


「僕の手を煩わせたその罪、"禍花"の苗床の刑で償ってもらうとしよう」






その頃、穢界のある区域では――


「ここはどこだ…?」


ゼーヴァの襲撃を受けた輸送機から脱出したエドウィンたちが着地したのは一面銀世界の不思議な大地であった。


「"瘴海"ってやつじゃないか、こいつは?」


兵士から奪った銃を持ちながらパラシュートを背中から外しつつカルロスがぼやいた。それにつられて他の積荷や兵士達もパラシュートを外し始めた。


「しょうかい?なんだよそれ?」


エドウィンは瘴海が何かも知らない。ろくな教養を受けていない彼からしたら仕方ない。だがなぜ犯罪者であるカルロスが知っているのか、彼は少し疑問に思った。


「坊主、知らねえのか?だったら教えてやる。瘴海ってのはな――ゼーヴァの塊だ」


「ゼーヴァの…塊?嘘だ、こんなでかいゼーヴァなんかいるわけないでしょ」


「ああ。確かにこんなでかいゼーヴァはいない。だが瘴海はそんな成り立ちじゃない。この穢界のゼーヴァの死骸が塵のようになって風とかそんなものに一定の海域に運ばれ海水に溶けそのまま結晶化したものがこの瘴海だ」


「なるほどね…つまり今僕らが歩いているところはかつては海だったってわけか。でも崩れたりしないんだね」


そう言いながらエドウィンは地面もとい海面を爪先でこつこつとつついた。


「当たり前だ。ゼーヴァはもともと結晶化するとダイヤモンド並に硬化する性質を持ってるんだ。だから人間が何人かその上で暴れまわったぐらいじゃビクともしねえよ」


「それなら安心したけど、なんであんたそんなにここのこととかに詳しいんだ?」


するとカルロスは急に黙りこんだ。まるで思い出したくない過去を思い出したかのように。


「なあ、教えてくれ――」


その刹那、カルロスが持っていた銃を構え直し周囲を見回した。エドウィンや他の生存者は一体何事かとその場から動かなくなった。


「おい、兵士で戦える奴は武器を持て。"敵"が来るぞ」


「は?おい貴様、冗談は通じ…」


兵士の一人が反論しようとした瞬間、"敵"は現れた。


「ゼーヴァの塊の上だからってゼーヴァがいないと思ったか、このポンコツ兵士が。でかい口叩くのはもう少し索敵能力上げてからにしろ」


か弱い人間達の目の前には首の無い巨人のようなゼーヴァが数体現れた。その大きさ約2メートル程度。首が無い代わりに胸の部分に口がある。その歯は釘のようであった。腕は太く、筋肉の塊といっても過言ではない。


「こいつらもゼーヴァなのか…?」


「おうよ、こいつら倒さねえと他の生存者にも被害が出るぞ――おい、坊主。他の生存者共にゆっくり後退するよう伝えろ」


「…だけどカルロス、後ろにも同じような奴らがいるんだけど」


不幸なことに、エドウィン達非戦闘員の背後にも同じような巨腕のゼーヴァ達がいた。


「逃げるんだ!」


エドウィンが叫ぶと生存者達はカルロス達のいる方向へ後退し始めた。その途端、


「う、うわああああああ!!」


生存者の男の一人が悲鳴を上げながら腰を抜かしていた。


「頼む、見逃してくれ…!」


「おい、こっちにこい!」


だが、そんなエドウィンの叫びも虚しく、男はゼーヴァ達の正拳をまともに食らった。顔面を殴られ頭が吹き飛んだ。腹を殴られ臓物が首の断面からどろっと飛び出した。


「やめろ、やめろ…!」


ゼーヴァ達は男だったものを気が済むまで殴ると胸の口を開けてその屍に喰らいついた。その姿はまるで屍肉を貪るハイエナの如くであった。


だが悲劇はこれでは終わらない。


「撃て撃て撃て!!」


兵士達がゼーヴァ達を撃ち続けている中、そこに新たな敵が舞い降りた。


「カルロス、なんか上から敵が…!」


その瞬間、兵士の一人が飛行する何者かに捕まえられ空の中に消えた。一瞬しか見えなかったその敵の正体は紛れもない、ゼーヴァだった。


「飛行型か、くそ!油断した!」


ようやくゼーヴァ一体の生命活動を止めたカルロスは苦し紛れに叫んだ。


「エドウィン、このまま撤退だ!先導を頼む!陸からも空からも攻められては話にならん!」


そう吐き捨て、カルロスは隣の兵士から銃をもぎ取りエドウィンに投げ渡した。


「まさかこの状況で戦えませんなんていう泣き言吐かねえよなぁ!?」


エドウィンは受け取った銃を眺めた。突然武器を渡されて一瞬思考が止まったが、それでも彼は銃を構え直し生存者達の先頭に立った。


「皆さん、僕についてきてください!」


その言葉に続いて生存者達が動き始めた。


「他の人間には手ェ出させねぇよこの糞共がっ!!」


カルロス達もじりじり下がりつつ生存者達の背後の防衛に当たった。




その情景を見下ろしていたのは一組の男女だった。


「あいつら、面白えな。俺らの眷属相手に結構耐えてやがるぜ、ヒヒッ」


「でも笑えないわね、私は。なぜあの子達は人間共をさっさと狩り尽くさないのかしら。不快にも程があるのではなくて?」


「そう焦んなって、"イルゼリア"。どうせ死ぬんだよあいつら。待ってるだけで勝手に餌食にされるさ。今に見てろ、もっと面白いことになる」


「貴方の価値観というのが未だにわからないわ、"オルネイド"。獲物を弄んでから殺すのがそんなに楽しいのかしら?」


「お前さんは何もわかってない。この海にはちょっとした細工を施してあるんだ」


「何よそれ。ここは私の管轄区域じゃないの?勝手なことしないで頂戴」


「いやいや、ここの管轄はお前じゃない。ここの支配人はあいつだ」


男はエドウィン達よりもずっと向こうにある氷山を指差した。


「あれがどうしたっていうの?」


「まだわからんかお前さんは。あ・れ・こ・そ、奴らをしっかり仕留めてくれる奴ってことよ」


「つまり?」


「つまり、そう――"ディオス・ファナスケナウス"だ」

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