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ExLIA/Heroes イクスリア/ヒーローズ  作者: 篠宮 琉璃
SEASON:01 英雄の目覚め
2/7

File:01 穢界

桐谷陽都(きりたにはると)は自身の腕に刻まれた時計型のタトゥー――烙印を眺めながらほくそ笑んでいた。ついに自分もドラグーン候補なんだ、と。これでようやく"地球に行く"という夢が叶うかもしれない、と。


彼は地球という星の地面を踏んだことが無かった。月と対称の位置で公転している衛星――ユートピアから出たこと経験など一度足りとも無い。ユートピアは安全だった。


食料も豊富ではあるしライフラインもしっかり動いている。人間の敵である"ゼーヴァ"に襲われることもない。地球と違って治安もいい――あんな穢れた場所に住もうなんていう人種はそう多くはないと思うが。


陽都達ユートピアの住民は地球というかつて彼らの先祖が住んでいた星を"穢界(えかい)"と呼び、恐れていた。今や全人類の9割がこの巨大衛星に住んでいる。平和すぎる毎日が続いているので穢界のことなど暇な時以外は誰も気に止めなかった。


ユートピアの資源などは"ドラグーン"と呼ばれる超越した力を持つ傭兵達が穢界まで調達しに出掛けていた。ドラグーンは"烙印"と呼ばれるタトゥーを皆が持っているが、その烙印こそドラグーンの力の源であった。ドラグーンは人類のうちの1割程度しか存在しないが、ユートピアの為に働いているならば十分な数であった。


陽都はユートピアの区画の一つを歩きながら遥か上空に映る地球を見上げた。 穢界とは呼ばれるが景観は素晴らしいというのを陽都は本で見たことがあった。人生で一度は行ってみたい、という夢を抱きながら陽都は毎日を過ごしていた。だが地球に行けるのはドラグーンだけ。つまり特別な人間しか行けない。


ドラグーンになるにはかの救世主"アヴァロン"から烙印を授からなければならない。誰がドラグーンに選ばれるかなど人間には予想も付かない。だが選ばれれば強大な力を手にしたこととなり、刻印された本人からすればこの上ない名誉でもある。


ただし生半可なドラグーンでは地球には行けない。中途半端な実力しか持たないドラグーンなど少しばかり強い普通の人間と一緒なだけだ。だがそれでも地球に行きたい、その一心で陽都はユートピアにあるドラグーン養成校の一つ"フォールクアッド大学"に通っていた。


フォールクアッドはやはり大学でもありドラグーンの養成校でもあるため、周りも秀才しかいなかった。戦闘技術に長けた者、"イオン"と呼ばれる物質を用いた魔術の扱いに長けた者、数多の素材から道具を作ることを得意とする者など、一癖あるが将来的に優秀な人材になるであろう人間ばかりが在籍していた。


陽都はこの大学の戦術学部・剣術学科に所属していた。剣は大昔の武器だったらしいが、この時代ではドラグーンや軍の愛用品だ。数ある剣の中でも陽都は長剣と呼ばれる武器を得意としていた。


剣を振ることは簡単ではない。闇雲に振り回しているだけでは対象への攻撃を外してしまうどころか弾かれて反撃されて終わりという結末まで迎えてしまうことになる。要は機会を逃さないことだ。ここぞと言う時に踏み込み刃を叩き付ける。それがどういう時なのかは己の感覚に頼る他はない。大昔の東洋の剣術の心得は今の剣術界にも浸透している。


今日も素早く対象を斬る練習として、陽都は練習用ハリボテに対し木剣を叩き付けていた。腕で振るのは筋肉頭がやることだ。そんなことは別の学部の話だ。こちらは技と速さが大事だ。手首を使って対象を捉えそして討つ。それさえ抑えておけば問題はない。


1限が終わり、陽都は汗をタオルで拭いながらガジェットと呼ばれるスマートフォン型の携帯端末を開いた。今日は何か変わった出来事は無いかと筋肉痛で痛む腕を片手で擦りながら空いているもう片方の手で画面をスクロールする。


スクロールしていくうちに赤字ででかでかと書かれた記事を見つけた。


"緊急速報:受刑者輸送機が穢界にてゼーヴァの襲撃を受け墜落"


受刑者輸送機がゼーヴァに襲われることなど滅多にない。最近は穢界でのゼーヴァの活動が活発になってるとの噂をよく聞いていたが、まさか本当だったとはと陽都本人も驚いていた。


「僕も完全なドラグーンになれたら穢界に行って戦うことになるんだろうな、憎きゼーヴァ共と」


そう呟きながら陽都は普段着に着替え、次の講義へと向かった。




"イオン"というのは大気中に存在するエネルギー物質のことだ。元々は電荷を帯びた原子のことを指していたそうだが、今この時代ではアヴァロンが地球の人類にもたらした様々な動力源のようなものとなっている物質のことをイオンと呼ぶ。


イオンは別称として"魔力"とも呼ばれており、イオン自体体内に取り込んで魔法と呼ばれる技術などに使用できる。そのため体内のイオンを"カチオン"、空気中のイオンを"アニオン"と区別したりしている。


イオンは魔法的な力を持っているため治療や光源の確保、乗り物の動力など生活の様々な場面で利用されている――最も、イオンを最大限に活用できるのはドラグーンだけだが。


陽都もドラグーン候補としてイオンの扱い方を学ぶべくイオン魔術の講義に参加していた。イオンをどうこうすれば炎を生成できるか、イオンで空間制御はできるのかなど似たような内容ばかりで陽都も飽きてきたところであったが、イオン魔術の実習などを体験してきたこともあってか彼もライターやマッチなしで蝋燭にイオンを用いて火を灯すことぐらいはできるようになっていた。


ドラグーンになればイオンに頼る機会など一般人やドラグーン候補の時より多くなる。


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