切札は俺の手の中に
「はぁ……。」
話は戻って一度部屋から出たところまで遡る。出たところまでは良かったのだがついついコンセントが気になって戻ってきてしまったのはすでに説明した通りだ。
家を漏電で無くすよりはましだがやっぱり掃除は面倒だ。特に今回はいつもはないイレギュラー、倒れた棚を起こすという貴重な体力を使うことがわかりきった作業もある。
やや低めの棚だったので防災用具を一切使っていなかったのがまずかったかもしれない。いずれ技術が進歩して棚に起き上がりこぼし機能を作ってくれないだろうか。そうすればこんな無駄な時間を取る必要もなかったのに。
文句を言ってもメイドアンドロイドなんか出てこないので、泣く泣く自分で起こそうと試みる。玩具が棚と床の間に入りこんでいることに気付かなかったおかげで、うまく立ち上がらず四苦八苦した。
で、棚を戻したら今度は玩具だ。持ってるものが特撮の玩具なだけに自分の年齢をマイナス20くらいした気分になる。ふと幼稚園で耳にたこができるほど言われた言葉。
「使った玩具はおもちゃ箱に片付けましょう。」
だが待ってほしい俺は大人なのだ。少なくとも実年齢と肉体は。ただ漫然とおもちゃ箱にポイポイ入れるなんて雑な仕事をしない。
なんとぉ、棚にディスプレイしていくのだぁ!決して出しっぱなしにしているのではない。あくまで飾っているのだ。場所をとるのは頂けないがぱっと取り出せてぱっとしまえるナイスアイデアじゃないか!
ちょっと言い訳ぽいけどな!……さてアホやってないで壊れてないか確認するか。
信じられない事に全ての玩具が動かなかった。正確には電池が必要なギミックが。いくらスイッチをオンにしてもうんともすんとも言わない。
他のものに入れ直したり、電池のプラス部分を服にこすりつけたりしたけれどもなんの効果もなかった。棚に飾ってあるものだけならまだしも、昨夜遊んでたレッツゴーベルトとレッツカリバーすら動かないってどう言うことだ?
電池は昨日新品を入れている。流石に電池が無くなるまで遊び尽くすには時間が足りないだろう。……そういえばこういった玩具の電池何時間持つんだろう。中々の時間持つ気がするけどまさか1時間程度で切れる訳はないだろう。
……玩具の謎も気になるがまずはブレーカーだな。スマホ、もしくはパソコンさえ使えればなんとかなるはずだ。まずは早急な電気の回復をめざそう!
で、現在にもどる。そう、玩具だけじゃない。ゲームも時計もリモコンも電動ひげ剃りも動かなかった。
この家すべての電化製品が使えなくなっている状態だったところに、電子機器の不調にブレーカーが関係なかった件が重なったせいで俺の意識は強制スリープに入ったはずだ。
なのに何で今になって? レッツフォンとレッツカリバーを見る。特に見た目に変化はない気がする。
だが確かに使える。ボタンを押せば小さいながら音がなる。カリバーも同様だ。ガンモードに変形させたらどうなるだろう。
「ああ! もう! 動くなよぉ!」
丁度ガンモードへの変形が終わったころに悔しそうなロイの声が響いた。さっきまでイライラだけだった声にちょっと涙が混じり始めてる。
首だけ出して様子を見てみればいつのまにか5個の指輪全部が装着済になっていた。そのまま魔力を注ぎ込み始め、先程より明らかに大きな炎が生まれようとしていた。
白かった壁紙も少し黒くなり始めてる。
「あっ、ちょっと待てって!」
家無くなっちゃうって! 周りが見えなさすぎだろ! かくいう俺も慌てててせいで両手に玩具をもったままという実におマヌケな様相で駆け寄ろうとした時だった。
『Stanby』
さっきより大きな、そしてクリアな音でレッツフォンが声をあげる。まさかとは思うが魔力に反応してる?
手の中のレッツフォンは先程より強い発光になったし、ガンモードなんか本来光らないはずの銃口が光っている。
「えいっ!」
ロイから意識を離したその一瞬のすきをつかれ、残念ながら3投目がいつの間にか投げられてた。3発投げただけで肩で息をする迷投手様はどうでもいい。
家はどうだ? 落ち着いて見てみれば壁、天井に窓枠もれなく焦げていた。おい誰だ家を燃やさないって言ったやつは。
ガァァァァァ!
窓の外で熊がまたしてものたうち回っている。だが今回は眼ではなく体に当たったらしい。胴体が黒い煙をあげながら鮮やかに燃えていた。熱気が顔ににかかるのかぶんぶん腕を振り回しながら地面をゴロゴロと転がっている。
「しぶといなぁ……!」
さっきまでヘロヘロだった気もするがそんな素振りを見せることなく自然に手の平を上にする。させるか! 一旦発動されたら止め方がわからんのでとりあえず羽交い締めの刑だ!
脇の下からグイッと腕を入れてそのまま持ち上げる。急に体を触られた事に驚き、ヒッと声を上げたがすぐ盛大に抗議の声をあげる。
「何するんだよ!」
「家主としてこれ以上家を燃やさせてたまるか!」
本当は父親だけど。
「誰がそんなことするのさ!」
「お前だー!」
わかってない様なので被害をそのまま見てもらうことに決めた。ジタバタと手や足にダメージが蓄積されていくが我慢して宙吊り状態でご案内させてもらおう。感謝しろよ、高級ホテルのボーイさんだってここまで詳しく部屋を見せたりしないからな。
一通り見て自分のしたことにやっと気づいたのか、大人しくなったので降ろしてあげることにする。全くそのまま他に燃え移らなかったのは幸運だ。これは朝に惣菜のつまみ食いをしないと誓った俺のおかげだな。
「でもだったらどうするのさ。ここまできたらもうアイツは逃げないし、他のカタリザだって無い。どうやって攻撃するのさ!」
「大丈夫。もしかしたらだけど方法はある。」
そう言いながら手の中の銃を見せる。もしかしたらと曖昧な言い方をしてしまったが俺は確信していた。
少なくとも今この玩具の銃は本物の様に使える。そしてもし俺の予想が正しければ、こいつが切り札になるはずだ。