ほとばしる想いよ届け
俺より先に駆け出したロイは既に階段を上がり切り2階奥、入口の真上の窓から外を伺っていた。俺も肩越しに外を覗き見ると、さっきまで境目にいたはずの熊がこちらに歩いて来ていた。
「……!」
嘘だろ! もしこのままこっちまで来られたら家が壊される! 熊が木々をなぎ倒しこちらに向かってきたときの姿を思い出す。
さすがに金属でできているぶんここの方が耐久力はあるんだろうけどだからといって殴られ続けて大丈夫なわけじゃない。仮に壊れる前に撃退できたとして果たしてそれに家としての機能が残っているんだろうか。
ここがどんな気候かはわからないがもし夜はかなり冷え込むとしたら暖房が使えない今、ベッドだけで寒さがしのげるのだろうか。そもそもしのげるレベルなのか?
昼間はわりと元の世界と変わらない気候だったけれども夜もそうだという保証はどこにもない。
ここは魔法で何とかできるし、冷蔵庫もあるチート世界だ。そんな世界ならではの電化製品の力がないと夜を明かせないとかまさか無いよな?
さっき常に最悪の想像をとのたまった自分を殴りたい。神様仏様お願いします、どうかあの悪魔が急に方向転換してどこかに行きますように!
普段信心など欠片もないけれどそんな事を願いながらもう一度外を見る。うん普通にこちらに来ている。神様へのお願いガチャはどうやら外れてしまったようだ。
しかし境目と家のちょうど中間地点までくるとその動きがぴたりと止まる。まるで見えない壁に阻まれているようだ。
「ふぅ、二重に結界を張ってあってよかった。」
どうやら神はもっと身近にいたようだ。
「で、どうするの?」
「もう一回眼を狙う。」
言いながらカタリザに魔力を通していく。手の中に再び火の玉ができて。
「おい!家の中で火使わないでくれよ!燃えるだろ!」
残念ながらその願いは聞いて貰えずそのままチャージを続けていく。一応壁紙などを燃やさないよう手を壁に近づけないなど少し配慮してくれてはいるようだけどかなりひやひやする。
でも唯一の対抗手段だしなぁ。神様のの様お願いします。どうかこの家を火からお守りください! 火の不始末だと火災保険が下りないんです。
『…t……y』
その声は今いる窓の左側、俺の部屋の中から聞こえた。えぇ…まさかこのタイミングでさらに侵入者とかないよな?
今日は招かれざる客が多すぎる。探偵ものならみんな怪しすぎて犯人が絞り切れなくなるぞ。カーテンは開けたけど窓まで開けた記憶は無いんだけどなぁ。
ロイはどうせこちらの話も聞いてはくれないだろうし自分で確認しに行くしかないか。もしいたとしても俺が対応できるものであることを願っておこう。
静かに自分の部屋の扉を開ける。右……は壁なので左だけ確認。パッと見た感じは問題ない。朝起きたままの散らかった部屋だ。
「ああ!外したぁ!」
残念ながら一投目は失敗したようだ。さっきもスローイングで魔法をぶつけていたが、魔力で軌道を変化させたりとか速度を上げたりとか調整できないのだろうか。それともロイがただ下手なんだろうか。そこは今後要検証だな。
「頼むから家燃やさないでくれよ!」
わかってる! と半ば投げやりに返事が返ってきた。相当イライラしてるのが伝わってくる。感情のまま指輪増やして取り返しのつかないことにならなけらばいいが。
『Stanby』
聞こえた。確かに背後から。……レッツフォンのシステム音声が。振り返れば奴が、じゃなくてベッドの上にレッツゴーベルトとレッツカリバーがいる。
おそるおそる近づいてみれば発光していた。間違いない起動している。
だけどおかしい。こいつらは朝にも触っているのだ。その時動作確認もしっかり行った。ほんの数時間前の話だ間違いない。玩具は全て電池が切れていて。
「動いてなかったはずなのに……。」