魔法が使えるってマジですか
「さてと、じゃあ今度はボクが質問に答える番だね。」
言いながら、先ほど右手につけた指輪を外し、テーブルの上に置く。
「触ってみてもいい?」
「うん。いいよ。」
許可が下りたので手に取ってさらに観察を続ける。ロイに合わせて作られているであるためかやや小ぶりな指輪だ。さすがに成人男性の指は入らない。宝石の地味な発色も相まって、第一印象はおままごとに使うおもちゃの指輪だった。
だが遠くで見ていた時と違い、近くで見ると中々趣のある色遣いだ。確かに宝石ほどの派手な美しさではない。それでも淡く、儚く、健気に光を放っている。銀で作られているリングも一目みると鏡のごとく磨かれているように見えていたが、そこかしこに傷や汚れが残ったままだ。
きっと長い事大切に使っているに違いないがメンテナンスも怠っていない。多分これは俺らの世界でいえばスマホや家電のようなものなの生活を便利にするための道具なのだろう。かさばらないのは素晴らしいな。
「ありがとう。返すよ。」
「ん。」
受け取ったロイはそのままそれを右手にはめなおす。
「この石はカタリザ。この世界ではカタリザに魔力を込める事で魔法を使う事が出来るんだ。」
「へぇ……。」
「ちなみにこれは火のカタリザといって文字通り火を出す事が出来る。他にも水のカタリザや雷のカタリザに替えれば違う魔法も使える。」
「誰でも?」
「うん。魔力さえ使えればね。」
なんかRPGみたいだ。
「他のも今持ってない?よかったら見せて欲しいんだけど。」
少しばかりウキウキしてきた。そういった小物を見るのは楽しいし、なんとなくコレクション魂に火がついてしまう。
「残念ながらボクは今火のカタリザを5個しか持ってないよ。今日はそんなに魔法使う用事が無かったし、不必要な分をもって落としても困るから家に置いて行ったんだ。」
まさか家を下敷きにされるとは思わなかったけど、と皮肉の言葉もついでにいただいた。ちょっと残念。あっ、残念なのは他のが見れなかったってだけで罵られたかった訳ではないのでそこん所よろしく。
いやぁこの世界の魔法というものは思ったよりも簡単な機構のようだけど、魔力か。そんなもの僕は出ないよ。魔法が使えればもし家を追い出されても何とかなるかと思っていたが、話はそんなに簡単にはできていないらしい。そういえばさっき何か高いとか言ってた気もする。弱ったなぁ。
すでに追い出される前提の計画で話を進めているが、生き抜くとはそういう事だ。常に想像しうる最悪を考える必要がある。
国民の大半が魔法使いの世界で魔法を使えないまま生き抜くのはちょっと軟弱な現代人からすればリスクが高すぎる。特にさっきの化け物に森の中でばったりエンカウントしたら今度は逃げ切れるとは限らない。いや逃げ切れないな確実に。
「俺も魔法使えたらなぁ。」
ついつい背もたれにもたれかかって空を仰いでしまう。夢みたいな話の後に突き付けられた現実。
これなんていうんだっけ? 絵に描いた餅? よくわからんが何回俺は地の底に落ちていくんだろうか。
「うーん……できなくはないとは思うけど。」
「できるの!?」
つい興奮してしまい、コップが下に落ちるほどの勢いでロイの方に身を乗り出す。わずかな光、おぼれた先の藁、絶対に逃すわけにはいかない。……いてっ。さすがに近づきすぎたか、無理やり押し返された。
「さすがにすぐには無理だよ。ただ生きとし生けるものすべてに魔力は備わってる。だから魔力さえ出せれば使えるようになるとは思う。おじさんは異世界の人だから当てはまるかどうか微妙なところもあるから絶対とは言わないけど。」
よっしゃラッキー! そうとなれば話は別だ。何とか魔力のコントロールを身につけて、なんとかお金稼げば生活できるかもしれない。さすがに木と板で火を起こすなんてできないけれど、魔法でポンとつくなら安心だ。
空いた時間で元の世界に変える方法が見つかるかもしれない。そうだ! 転移のカタリザなんてものも存在しておかしくない。それさえ見つかれば……。
そこまで考えた所でふとロイを見れば何やら難しい顔をして窓の外をにらんでいる。
「どうした?」
「おかしい。クマが逃げてない。さっきから唸り声が聞こえるんだ。」
言われて俺は耳をすます。かすかだが確かに声が聞こえる。
「そりゃあどう見ても致命傷じゃなかったし、まだ俺たちの事探してるんじゃないのか?」
顔は少しばかり焦げてた気がするけれど。さらに俺の記憶が正しければ熊は獲物を見つけたら最後まで逃がさないって何かの本で読んだ気がする。……やっぱり家に入ったのは間違いだったのではないだろうか。
「ボクは眼を攻撃した。クマは割と単純で、一回視界から外れればあとは大きな音を出したり、目を合わせなければもう獲物を追ってこない。
そうやって簡単に逃げられるからあまり怖くないんだ。」
単眼の熊と双眼の熊の時点ですでに別生物ではあるとはいえるがこうも生態が違うものなのか。というかこんな近距離で逃げるならいっそ炎で全身焼いてくれればよかったのに。
そうすればもっと時間稼げてあんな奴の眼を見ないで……あれ? 目を合わせなければって今言った?
ビー! ビー! ビー!
突然辺りに警報音が鳴り始める。あまりのけたたましさについつい耳を抑えてしまう。待て待て待て、そんな機能我が家にはついて無かったはずだが。
「あいつに結界を一つ壊されたんだ!」
もう! と悪態をつきながらロイは立ち上がり、そのまま廊下に出て階段を駆け上がっていった。俺も急いでその後を追っていく。これ、もしかして俺のせいなんだろうか。