表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

身近なピンチ

「はい、水」 


 命からがら熊だけど熊じゃない少し熊な化け物から逃げ出した俺達はひとまず休戦する事にした。

 そんな同盟相手が飲み物を所望したので冷蔵庫で冷やしていた水を提供させていただく。まぁ今じゃあすっかりヌルくなってしまっているが。

 彼はというとすぐには飲もうとせず、コップをしげしげと眺めている。大方プラスチックというものが珍しいのだろう。少し匂いを嗅いだり様子を確かめていたが遂に口をつける。


「ヌルい……。」

「冷蔵庫が壊れているんだ。」

「……そっかぁ。」


 そう言うと渋々と残りを飲み始めた。まぁあれだけ大声で叫んだら喉も乾くよな。俺もそのままグイッと行かせてもらおう。

 そういえば朝から殆ど飲まず食わずでてんやわんやあってそのまま流れであんなのと対峙したんだそりゃ喉も渇く。……ん?待てよ


「冷蔵庫知ってるの?」

「もちろん。だって家にもあったし。」


 冷蔵庫あるのかこの世界。思ったより文化が発展しているようだ。これは少し気持ちが楽になる。

 そう、「この世界」。まさか今流行りの異世界転生なんてものに自分が巻き込まれるとは思わなかった。ああいう流行り物ってどうも苦手でついつい敬遠してたが読んでおくべきだったと少し後悔している。あ、死んでないから異世界転移か。

 だがお陰で俺の最後の希望であった『もしかしたらここは日本の何処かで案外すぐ帰れるかも』という願いは断たれた。いやそう簡単には戻れない事は大きなマイナスではあるが、幸いな事にここは日本語は通じるし、俺自身が人間のままだったのは大きい。

 もしこれがスライムとか蜘蛛とか剣とかだったら、こうやって向かい合って水を飲むことすらままならないかも知れない。交渉さえ出来れば生き残る可能性はぐっと高くなる。……はず、俺が交渉失敗しなければだけど。


「よし、まずは自己紹介をしよう。俺の名前は砺波俊樹。君は?」

「ボクは……ロイ。ロイって言うんだ。ひとまずよろしくおじさん。」


 うんうん思ってたよりは中々素直な子だ。だが聞き捨てならない単語があったな。


「誰がおじさんだ! 俺はまだ25歳だ!」

「えっ、そうなの! ……10歳も離れてるとか十分おじさんだね。」

「……。」


 ああ若いなぁ。俺も昔は10歳年上の人は大人だと思ってたよ。実際はそんなに離れてないんだけどなぁ。少なくとも15と25で違うのは体力ぐらいだ。

 テンションとか、ノリとかそういったものではまだまだ負けないと自負している。自己評価という注意書きはつけるが。少し自分が老けたのを身にしみたところで本題に入ろう。


「ところでロイ君。」

「ロイでいいよ。あんまり君付けで呼ばれるの慣れてないんだ。」

「……じゃあロイ、さっき手から火を出したのは何?」


 それを聞いたロイは少し驚いたような顔をしていた。……まぁそりゃあそうだよなぁ。多分ここでは普通の事なんだろう。


「えっ、いや何って……魔法だよ?」


 明らかに何言ってんだこいつなテンションで言われた。まぁそうだろうさわかるよ。ここではきっと常識なのだろう。だがまさか一言でこんなにも傷つくとは思わなかった。いい勉強になったよ。


「あー、……、実は俺、この世界の人間じゃないんだ。」

「……? どういうこと?」


 そりゃいきなり信用しろって言われても無理な話か。なのでかいつまんでロイに自分の世界の話とこれまでの経緯を話す。

 ……経緯と言っても台風で飛ばされたとしか言いようはないけど。一瞬小難しい顔をしたが、こんな夢みたいな話をロイはウンウンと頷きながら最後まで聞いていた。やっぱり根はいい子なんだろうか。


「なるほど。おじさんも苦労したんだね。」


 そう言ってロイは空になったコップをクルクルと回していた。


「……疑ったりしないのか?」


 最初の態度とは裏腹にいともあっさりと信じてくれた。少なくとも表面上は。魔法なんて物が存在している国だから?

 いやいやだからと言ってそんなホイホイ自転車感覚で世界を渡られてたまるか。そんなことしたら世界は文化が色々混ざりあいすぎて大混乱するだろうに。いやでもそういった世界の方がもしかしたら元の世界に帰りやすいかも知れない。うーんだとしたらありがたいなぁ……。


「まぁ、話の内容自体は全く全然信用してないんだけど」


 信用してなかったのか。


「話し方が妙に必死だったからまぁ信用できるかなって。それにクマを見てあんなにビビる人ここらへんにあんまりいないし。」


 なんか嫌な納得のされ方をした気がする。でも言われて見ればロイは焦ってはいたが怖がっていた記憶が無い。どちらかといえば冷静に迎撃する準備をしていた。まさかアイツって意外と弱いとか? ……ないないそれだけは絶対に!

 最後見た目を思い出しながら確信する。あれはヤバい。まだ少しだけ背中がゾクゾクしている。俺にとってあれは完全に非日常の生き物、絶対に出会ってはいけない類の物だったのだ。


「だから信じるよ。それに多分ボクおじさんより強いからいざとなったらここから追い出せばいいもんね。」


 そう言って満面の笑みをこちらにむける。ここまで純粋に言われると思いっきり顔面を殴りたい衝動にかられる。おかしいだろ! ここは俺の家だろうが!

 でも多分ロイの言うとおりだ。相手側に魔法なる遠距離攻撃がある以上多分俺が負ける。少しでも変な動きをすればすぐに丸焼きにされる可能性がある。

 なんと恐ろしい……あれ? もしかして俺、割とピンチな状況なのではないだろうか。今のところ本気で俺を追い出すつもりはなさそうだけど、少なくともアイツをやっつけるまでは機嫌を損ねないようにしなくてはいけないようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ