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出会いはほんの僅かな偶然から

 サンダルをひっかけドアを勢い良く開ける。その結果、なし崩し的にだが初めて外を探索することになった。家の中からはわからなかったが、どうやらここは広場の様にになっており、家を中心に円形に開けている。

 その周りをぐるりと木が立ち並び、地面はまるで人の手で均したかのように綺麗に整えられていた。草一本はえていなかった。

 そんな本当の意味で開けた場所だからだろう、俺は声を出したであろう人物の特定にそこまで時間はかからなかった。




 割りと小柄なシルエットがちょうど森と広場の境目に立っていた。

 黒いショートヘアの髪は濡羽色に輝いていて、その上に同じく真っ黒の三角帽子をその頭にのせていた。服装はシンプルに白いブラウスに黒の短パンにサスペンダー、あとこれまた黒いマントを羽織っていた。

 上半身に比べ、足もとは少しオシャレに脛くらいまでの高さのブーツを履いていた。革製だろうか? 茶色い生地でできており、踵は銀色に光っていた。

 んー、服装とか身長的に俺より年下のようだ。13〜14歳ってところか? 助けが来たとおもっていたがどうやら違ったようだ。

 俺は少しがっかりしながらもそいつに近づいてみる事にした。


「やあ、君……」

「お前! 良くもボクの家を!」


 どうやら友好的な話し合いはしてくれないらしい。満面の対お客様スマイルを身に着けた俺の服を引っ張り、胸倉を掴まれた。

 その時服が盛大に巻き込まれ、首がしまったせいで割りと息苦しい。


「砺波君、君さぁ通信簿によく『もっと落ち着きましょう』って書かれてなかった?」


 そうバイト先のリーダーに言われたのは入社して一週間ほどたってからのことだった。スーパーでバイトを始めた俺はお客様に尋ねられた商品を間違って先輩に伝え、それによりお客様を酷く怒らせてしまった。

 それまで面倒を見てくれていた先輩から離れ、初めて一人で作業をしていてテンパっていたとは言え、もっと落ち着いて行動すればと今なら思う。ただ当時はそこまで気が回らず、ただお客様が困ってる何とかしなくちゃという気持ちだけが先ばしっていた。

 それが確か2年程前か。三つ子の魂百までとはよく言った物だ。昔の人は偉大だなぁ。とか感心している場合じゃない!

 このままだと俺もその人らの仲間入りだ。とりあえず手を離して貰わなくてはならない。


「ちょっ、ま、待っ……」

「どうしてくれるんだ! 明日からボクはどこで寝泊まりをしろって言うんだ! カタリザだって安くはないんだぞ! お前のせいで全部土の下だ!」

「い、やあ…あの」


 うわぁ、すっごく怒ってらっしゃる。というか段々手に力が入って来てて、頭がスッゴク揺さぶられている。このままじゃ頭だけ取れて俺とこいつの頭でアメリカンクラッカーになってしまう。

 朦朧としかけている意識の中、俺の首根っこを掴んでる手を叩いて伝える。それでやっと気づいたのか何とか手を離してくれた。

 もう何年も息をしていなかったかのように肺が空気を求めてやまないのでそれに従う。


「ハァ…ハァ……とりあえず……ゆっくり…話して…くれない?」

「んっ。」


 そう言って家の方に指を指された。……話してくれの対応が『ん』の一言なのはきっと親の躾がなってないんだな。あとで思いっきり叱ってやる。それはともかくとして指の先を見ると俺の家の下に何かが挟まっていた。近づいてよく見てみればそれは木片と瓦の破片だった。


「……何これ?」

「ボクの家だ!」

「……この木片が?」

「お前が木片にしたんだ!!!」


 えっとつまり……


「俺の家が君の家を下敷きにしてる、ってこと?」

「だーかーらー!そうだってさっきから言ってるだろーー!!」


 いや直接は聞いてないですよ!? というか家が家の上にあるってどんな状態だ。シュミレーションゲームじゃあるまいし家の上に家なんか置かない。

 と言うことはだ、もしかしてあの台風で俺は家ごと飛ばされたのだろうか。いやいやまさかそんなの漫画やアニメだけだって。いやでもなぁそうとしか言えないよなぁ状況的に……。


「マジかよ……。」

「何を突っ立ってるのさ! 早くなんとかしてよ!」


 ガキんちょの声が聞こえて意識を元に戻す。そうだよ! 家を壊したってことは100%こっちが悪いじゃん! 瞬時に今の貯金額を思い出す。

 いや待てそもそも俺の貯金程度で何とかなるだろうか。何とか交渉の余地はないだろうか。


「ねぇ君、ご両親は?もうすぐ来るの?」

「いないよ!」


 こんな森の中で子供一人で生活? そんなバカな。


「あのさぁ、人をからかうのは良くないよ? 別に弁償しないって言ってるわけじゃない。ただお金の話をするから大人の人とお話したいんだ。」

「だーかーらーいないって言ってるだろ! そこはボクの、ボクだけの家だったんだ!」


 駄目だ相手は完全に頭に血がのぼっていてまともに話ができる状態じゃない。どうすればいいのか考えはじめたその時だった。



 グゴォォォオォォオオォオォ!!!


 何かの声が聞こえた。うん今度は明らかに人の声ではない。


「まずい…クマだ!」

「えっ熊!?」


 熊の生息域って事はここは北海道あたりなのだろうか。ねぇ知ってる? 最近漫画でバカスカ熊を退治する話が多いけど本当は熊って怖いらしいよ。

 死んだふりとか聞かないんだよとか、あーもうなぜそんか悠長な事を考えてしまっていたのか。もうミシミシと木が無理矢理折られる音と何かの息遣いがこちらに聞こえ始めていた。

 いや音が聞こえ始めたなんて生易しいものじゃない。既に脅威は俺たちが姿を確認できる距離まで近づいていた。

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