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怯える騎士よ、いざ少女の元へ

 森を抜けた先は峡谷だった。木々がスパッと切れたその先は砂と土と岩でできており、その先には谷が横に伸びていた。

 こちらに向かう途中で妖喚刀のスイッチは入れておいたのでいつでも戦闘に入れるようにはなっている。

 しかし一体どこに? 森の中から声の主を探す。

 いた! たぶん要救助者であろう人物は峡谷に掛かる橋の前に座り込んでいた。

 身体を鎧甲冑に身を包んでいるが手には何も持っていない。兜は既に破壊されたのだろうか、綺麗なブロンドの髪が風になびいていた。こちらに背中を向けているので顔までは確認できない。

 でも声の感じからして男ではないだろう。

 足に力が入らないのか完全に尻餅をついて、どう見ても戦意喪失と言った感じだ。

 相対するのはやはり魔物だった。四つ足に赤銅色の体、そこに生える立派な毛皮とたてがみ、口から除くのは肉を切り裂くための鋭い牙。そして顔の真ん中には大きき血走った瞳がひとつ。

 獅子(ライオン)だろう、たぶん。少なくとも猫ではない。

 現実のライオンは雌に狩りを任せてないで、少しこいつの爪の垢でも飲んだ方がいい。煎じず生で。

 それぐらい威風堂々としていた。まるで自分には敵などいないかのように優雅にそれでいて力強さも感じた。

 その姿はまさに百獣の王と呼ぶにふさわしいのだが、体から漏れ出すどす黒いオーラがその凛々しさよりも醜悪さを引き出す結果となっていた。

 俺がそんな無駄な評価を下している間に獅子(ライオン)はその太い前足から爪を出し、その少女に向かい振り下ろす。遠くからでも風を切る音が聞こえた気がした。

 すばやく、そして正確無比な一撃が少女の頭部へ……!


「あひぃぃぃ!」


 対して少女は身を縮めながらも左手から青い光を放ち身を守る。光はまるで盾のように広がりながら彼女と魔物の前に現れる。

 もしかしてあれもカタリザを使った魔法なのだろうか? それとも魔力の使い方の一部なのだろうか?

 どちらにせよ使えるなら使いたいものだ。

 ただ不意に出てきた邪魔な存在は魔物の怒りに触れたらしい。何度も何度も前足から繰り出される重い一撃が光の盾に振り下ろされる。

 振り下ろされるたびに少女は小さく悲鳴を上げながら、やや小さな体をますます小さく縮める。

 攻撃は上からだけでなく左右からも仕掛けられるが、器用に場所を調整しながら体だけは傷付かないように守っている。だが反撃にはどうしても転じれないようだ。

 無理もない。あんなのが目の前にいて、絶えず攻撃を受け続けているのだ。逃げる隙さえ与えてはくれない。

 だからこそ、だからこそ助けに行かなければいけないのに。そのために来たはずなのに。

 足は地面に飲み込まれてしまったようだ。手の中の妖喚刀も細かく震えている。


怖い


 魔物なんて一度見たこともあるし、倒したこともある。それにいま俺の手の中には対抗するための武器もある。

 だから大丈夫。何も恐れる必要は無いんだ。無いが……


怖い


 この感情から逃れる術がない。何をやってるんだ砺波! 本当に情けない。

 いっそ逃げるか? 幸い今ならどちらも俺に気づいていない。このまま後ろに下がれば簡単に逃げられるだろう。

 それはつまり女の子にはこのまま犠牲になってもらうと言う事。赤の他人を見殺しにする。耐えられるのか、その重圧に?

 少しづつ息が荒くなる。恐怖はプレッシャーとなり、体を蝕んでいく。

 頼む! 動け! 動いてくれ! もうこの際動いてくれるなら前でも後ろでも構わないから!


グアアアアアア!


 魔物が今まで以上に大きく前足を右に振りかぶる。度重なる攻撃をうけた魔力の盾はヒビだらけで、もう主を守る余力は残っていないだろう。

 それでもか弱き女騎士は必死に盾に身を委ねる。盾は獅子(ライオン)の一撃でその役目を全うし、砕け散る。

 それでも攻撃は止まらない。直撃した前足は少女をいとも簡単に弾き飛ばす。

 だが盾は最後の最後までしっかり彼女を守ったようだ。派手に飛ばされてはいたが、すぐに上半身を上げて獅子(ライオン)へ目線を向けている。目立った外傷もないようだ。

 しかしやはり心は折れているのだろう。そこから反撃に移る様子はない。そんな少女に一歩一歩悪意が近づいてくる。

 そして目の前に立ち、爪を振り上げる。もう盾は出せないのか姫騎士は手で頭を覆うだけだ。

 つまりこのまま爪が振り下ろされれば……彼女は……。


「う、うわぁぁぁぁぁ!」


 本当にとっさの出来事だった。

 俺は体を支配していた恐怖を振り払うように大声で叫びながら修羅場へと駆け出していた。

 3つの目がこちらに向けられる。敵意と戸惑いの視線の中間を走りながら妖喚刀の銃口を単眼野郎に向ける。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


 そのまま弾を連射! 連射!! 連射!!! もともと射撃なんて苦手だし、それを走りながらだなんて当てられる自信が無い。

 だからとりあえず撃つ! 体が横になったおかげで的も大きくなってずいぶんと当てやすくなった。

 気を付けるのは彼女に当てない事だけ。


「あぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」


 効いてなくても良い。こちらに意識を向けてくれればいい。そしてある程度近づいたところで銃から剣に切り替える。

 どうせこれについてるのは豆鉄砲だしな。だから元々の目的はこの剣を


「てめぇの眼にぶち込むことだよ!」


 魔物の目の前に仁王立ちになる。片手で持っていた剣を両手で持ちなおし、その目に思いっきりフルスイングする。

 慌てて目を閉じたみたいだが関係ない!喰らえ!

 閉じた瞼の上から斬り付ける形となり獅子がよろける。顔を前足でこすりながら後退するところに手を緩めることなく次々と追い打ちをかけていく。

 決して綺麗な剣技ではない、もっと言えばめちぇくちゃに振り回しているだけだ。だが勝算はある。

 それに向かって徐々に相手を追い詰めていく。もう少し、あともう少し……。

 そして、その時は訪れた。獅子(ライオン)の足が崖の淵へかかる。よし、あと一息!

 そのまま…落ちろぉ! 最後にもう一度振りかぶって妖喚刀を巨体に打ち込む。

 渾身の一撃はしっかりと相手にダメージを与え、そのまま崖の底へと飲まれていく。

 ……ふぅ何とか終わったか。それにしても意外となるもんだな。

 妖喚刀をしまい女の子の元へ向かう。

 うるんだサファイヤのような瞳がこちらを見る。びっくりだ。かわいい姫騎士とか想像の中だけのものだと思ってた。


「大丈夫?」


 手を伸ばすと体をこわばらせる。そんなに怯えなくてもなぁ。確かに奇人みたいな行動してたけど。

 伸ばした手のやり場が無かったので地面に手を置く。……濡れてる? おかしいなここ最近雨なんか降ってなかったはずだし、ぬかるんでればさっき足をすくわれてるだろうし。じゃあなんで?

 そういえばこの娘の周りだけ濡れてるような……。


「ひぃっ!?」


 あれ? もしかして顔に何か出てたんだろうか?ああ、違う決して俺にそんな趣味があるわけじゃないんだ。

 いや世の中そういうのが好きな人間がいるのは否定しないよ。趣味は人それぞれっていうし、それを頭ごなしに否定するのやっぱり間違ってるって思う。

 でも俺はノーマルな性癖のはずだ。そういえばこの子、そこそこ大きいなぁ。いやいやいや下心丸出しで助けたわけじゃなくてさ。

 それに今そういう関係になるのはまずいっていうか


ザリッ


 プレッシャーを背中に感じる。

 後ろに立っているのは王だった。余裕も慢心もなくこちらに敵意だけを込めた視線の刃が俺に向けられる。と言うか刺さっている。

 俺が奴に切りつけた数だけの殺意が跳ね返ってきているような感覚に陥る。

 確かに崖に落としてやったのに昇ってくるか普通!?

 眼の傷も幾分回復してるみたいだし。


「……逃げて。」


 精一杯の強がりで言葉を絞り出す。せめて彼女だけは、彼女だけは逃がさねば。


「えっ…ですが……。」

「俺なら大丈夫! まだ手は残っている。だから早く。」


 少しぶっきらぼうだが手で彼女を追い払いながら妖喚刀のスイッチを入れなおす。


『ドロロン! あやかしお出まし!』


「こっちだ!」


 もう一度化け物の背を崖側に誘導するように動く。もちろん彼女から離れながらだ。

 そしてリュックの方へ手を伸ばす。

 残された手。それはリュックにしまっっているサブウェポン。その名も【ブルーシューター】。

 亜人ファイター(かがやき)の派生フォーム【ウォーターガンマン】の武器であるこれは銃口に六角柱の宝石である【マギスタル】をセットする事で様々な属性に変化、そして必殺技を放てるようになるのだ。

 妖喚刀はカードを使うため持ち運んでボロボロになるのが嫌だったので置いてきてしまったが、こっちなら壊れにくい。

 だから最後のとどめ用に持ってきたのだ。

 さぁ受けてみろ!これが俺の、俺の……あれ?

 背中に伸ばした手が宙を切る。そういえばさっきから背中がずいぶん軽いような……。

そうだ! リュックはロイと一緒に置いてきたんだった!

 つまり、俺はこれ(妖喚刀)一本でこいつと戦わないといけないのか!?

 最大のピンチが今まさに俺へと迫っていた。

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