玩具修理隊、西へ!
「おーい! 二人とも準備はいいか?」
荷物を限界近く詰めたリュックサックの重みを両肩に感じながら、二階にいる2人へ声をかける。そんなに物は入れていないつもりだがかなりの大荷物となってしまった。
オウブに着いたら洗濯ができると踏んでの3日分の着替えと毛布、日用雑貨の時点ですでに怪しいのだが、そこに少しばかりの食料と電池、その他もろもろが加わる。
こんなことになるならテントや寝袋が欲しい所だが、残念ながらインドア派な我が家にそんな便利なものは無かった。
最初は3人分の食料を持っていくつもりだったのだが、スーが「食い物は何とかなる! 大丈夫だ!」と言っていたので減らしたのだが……少し悪寒がするのは何故だろう。
これだけの荷物ですでにパンパンだったため、妖喚刀は腰に差さざるを得なかった。本来だったら変身ようアイテムであるアヤカシベルトにつけるためのラバー製ホルダーを、むりやり自分のベルトに通し紐で固定する。頼むから旅の間は絶対に千切れないでくれ。片手がふさがった状態での旅は危険すぎる。
そして万が一の時のための替えの電池も欠かせない。事前にロイが充電してくれたものを、3本一組でセロテープで巻いたものだ。それをポケットに一組、残りはリュックに保管してある。
最初は都度お願いする予定だったのだが、疲れていると魔力が出せなくなるらしいので溜めておいてもらった。本当なら自分でやりたいのだが未だ魔力を出せないので、この件についてかなり何とも歯がゆい思いをしている。旅の間に使えるようにならないかなぁ。
それにしてもギミックがたくさんあるとはいえ電池を使いすぎではないだろうか。電池がすぐ買えた時にはすぐ捨てる事もできたが、いざ繰り返して使う事になると多すぎる電池が完全にネックだ。
もし電池を無くしたり、壊したりすれば即生命の危機につながる。大事に使わねばいけないのだ。
「ん! 大丈夫だよ!」
先に降りてきたのはロイだった。最初にであった時と同じ白いブラウスと黒い短パンと三角帽子、サスペンダーにマント。こうしてみるとハロウィンで魔女のコスプレをしているようにも見える。お菓子でも渡したほうがいいだろうか?
以前はブーツで見えなかったが、足にはやや厚手の膝まである白い靴下を履いている。昨日リュウの村で買ってきたものらしい。
マントの代わりに背中には俺が貸したやや大きめのリュックを背負っている。大き目と言っても俺のと比べれば小さい部類に入るものだが、物はしっかりと入る。
ただ15歳にしては小柄なロイには十分な大荷物だ。重すぎて歩けないことを危惧して、物はあまり入れないように伝えていたがそれを律義に守っているようだ。
「おし、ところでスーは?」
「もうすぐ来ると思うよ。」
「いやーごめんごめん。」
その言葉通りけたたましい足音と共にスーもやってきた。時間がかかった割には荷物はカカシから持ってきた斧と小さな布包みしかない。
その布包みもどう見ても本当に最低限の着替えと毛布くらいしか入ってないような小ささだ。
「それだけの荷物で大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫! アタシが初めて野宿したときはもっと寒かったけどなんとかなったし! それに荷物は少ないにこしたことないしな。」
そんなものなのだろうか? いやいやさすがにないだろう。もし怪我とかしたら対処ができないではないか。
ロイが信用しているクロウからの紹介ではある。信用できるはずだが、こんな野宿コーディネーターで大丈夫だろうか。
大丈夫、問題は無かった。むしろ優秀だったとすら感じる。
それを痛感したのは初日後半だった。最初は道もきれいに舗装されているし、ほぼ平坦で景色を見る余裕もあった。
以前は森林を歩くことなどなかったので、美味しい空気を肺一杯に吸い込んだり、様々な動物の鳴き声のオーケストラに包まれるなど新鮮さがあふれていた。
時折、スーの指示でレンガ道をはずれ木の実などをもぎ、少しつまみ食いをしながら談笑しながら歩く。
完全にピクニック気分だったのは間違いない。完全になめていた。
しかしその付けはすぐに回ってきた。最初平坦たっだはずの道に勾配が出来始めていた。加えて今頃になってリュックが肩に食い込んでくる。詰め込めるだけ詰め込んだのが仇になったようだ。
こまめに休憩は取っていたのだが慣れない遠出はこうも体力を取られるものなのか。
スーパーで荷物の荷卸しを主に担当しているので体力には自信があったんだがなぁ。そう聞いてもピンと来ないかもしれないが結構大変なのだ。
ペットボトルやらお酒やら牛乳をもって右往左往する事も多いし、お客様の対応のためバックヤードと売り場の往復も欠かせない。
最近は高齢化社会の為か、足腰の弱いお客様も多く、レジからサッカー台まで荷物を運ぶことも少なくない。そして店としてはありがたいのだがそういうお客様は大抵カゴ一杯に購入していくのだ。
ずっと気になっていたのだがこれって他の所もそうなのだろうか?まさかうちのスーパーが特別サービスがいいなんてことないよな?
まだ思考に余裕がある俺はまだいい。問題は隣で肩で息をしているロイの方だ。もう目がトロンとしてるし話しかけても返事は首でしか行わない。明らかにダメな状態だ。
そんな俺らをよそにスーはずんずんと前を進んでいく。のんきに鼻歌を歌いながらご機嫌な様子で。
スーが荷物を極力少なくしていた理由に気づいたが今更遅い。というか事前に教えておいてくれよ!
時計を見ればちょうど食事時だ。これをダシに長い休憩をとろう。
「スー!」
点のようになった背中めがけ必死に呼びかける。しかし一回では止まってくれなかった。
仕方ない。グロッキーボーイに道のわきで休ませ、妖喚刀以外の荷物番を任せ俺は前行くスーの背中を追いかける。
疲れた体に鞭打って走り、そのうえ大声で呼びかけるも中々反応してくれない。くそっ! 頼むから無駄な体力を使わせないでくれ!
やっとご機嫌娘が反応したときにはロイを笑えない状態になっていた。
「えー! もうすぐ森の終わりなのに!」
そんなぶー垂れられても困る。すでに一人ダウンしているのだ。
「じゃあせめてもうすこし先まで何とか行こう!この先に確か小川があるんだ。」
小川かぁ……まぁそういう事なら仕方ないか。飲み水の残りも心もとないし。
しぶしぶ承諾して荷物を取りに足を踏み出そうとしてバランスを崩す。足が完全に言う事を聞かなくなっていた。情けないが荷物はスーに任せ俺は一足先に小川へゆっくりと向かう事にしよう。
その小川は言葉通りすぐに見つかった。すぐにでもキラキラと光る小川へ顔を付けて浴びるように飲みたい衝動に駆られるが我慢だ。生水をそのまま飲むわけには行かない。
2人が来るまで木にもたれて休むことにしよう。早く来ることを期待しながらつい瞼を閉じそうになる。
駄目だ。眠るわけには行かない。こんな状態で魔物に襲われたらどうにもできない。だから眠るわけには……。
頭ではわかっているのに体は力が入らない。そして意識は体に引っ張られそのまま深い眠りへと…俺を…誘って……。