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旅は道連れ世は無情

 薪にくべられたヤカンのふたが揺れ始めたので、火から外して人数分のカップ麺にお湯を注ぐ。ついでに余ったお湯で貰ったお茶を入れる。

 ティーポットなんて洒落たものが無いので茶こしで代用してるが、そもそもの入れ方もわからないのでイーブンと言ったところか。

 本日の食事は塩味のカップ麺と日切れの近いロールパンでございます。あと野菜嫌いのお子ちゃま用にざく切り野菜のスープもつくってある。カップ麺とスープで汁物がダブったが気にしてはいけない。

 さて食事はできたが、家の中からは掃除担当が出している、とても綺麗にしているようには聞こえない音がするのでしばらく放置しよう。この様子なら呼んだって来やしない。

 いっそこのまま麺にスープ吸わせた方が、レシピの被りがばれない分ちょうどいいのでは無いだろうか。文句は聞き流す方向で。いや食べ物を粗末にするのはだめだな。反省反省。

 くだらない思考とともに見上げれば、いつも見慣れた我が家がいつも通り堂々とそこに立っている。ここに来て二日目なのに順応してやがる。

 そんなこいつと明日から約一週間離れ離れかと思うと寂しい気持ちもある。なにせこの家に住んでから約10年間、俺は一週間なんて長い間この家を離れたことが無い。

 それでもこいつはきっと俺を、いや俺たちを待ってくれているんだろうと言う根拠のない自信もある。あの台風の中俺を守りながら一緒にこんな世界まで来てくれたんだ。きっと待っててくれるはずだ

 おっと家の中が静かになったしそろそろ呼んでやるか。


「できたぞー!」


 声に反応して、ドタドタと階段を駆け下りる音が降り注いでくる。その勢いを落とすことなくドアが180度回転する。頼むからドアを破壊してくれるなよ?


「やったー!ご飯だ!」


 頭に三角巾、手にはたきを持った何とも昭和のお母さん風ないでたちでロイが顔を見せる。


「いやぁー腹減ったなぁ!」


 と、その後ろから赤い髪を揺らしながら大げさに腹を抑えながらやってくる女が一人。スーである。ロイの掃除のサポートをするためにつけて貰ったエプロンのせいで、チューブトップとショーパンがいい感じ隠れちょっとばかしToLoveるな感じになっている。なってるのになぁ……うん、起伏がなぁ。

 そんな俺を気にかける事もなく通り過ぎ、楽しく会話しながら食事をとる二人には聞こえないように空を見上げてつぶやく。


「どうしてこうなった。」




「お前ら…野宿できるのか……?」


 発端はこの一言だった。全ての実験(と片付け)が終わった後、ロイと話し合ってタイガの町に行きカリバー修理と電池の仕組み解明をしてもらう事に決めた直後に出た素朴な疑問だった。

 自慢じゃないが俺は基本引きこもり体質なのでそう言った経験は無い! あるとしたら小学校のキャンプぐらいだ。でもこの世界の人間であるロイなら問題ないだろう。と楽観していた。


「……したことない。」


 なん…だと……!


「で、でも宿泊施設に泊まればいいよ! 村だって全くないわけじゃないし!」

「金…足りるのか……? 貯金は崩させないぞ……。」


 その一言で言葉に詰まってしまいションボリとうつむく哀れな小動物がそこにいた。ロイの生活費は此処から出ていたのか。どうでもいい疑問が解けてしまった。

 ただそれがわかったところで『少しぐらい出してください』とは俺の口からは言えない。俺の個人的な用事に他人の金を使わせるのは良心が痛む。子供に銃を撃たせたとき以上にだ。

 あー! 出発前から計画が頓挫してしまうとは! 野宿すればいいじゃんって? 簡単に言うなよ! 野宿とか何が全っ然必要かわからないんだぞ! 無理だ!

 そんな混乱した現場にさらに巨大な岩を投げ入れられた。


「スー…ついて行ってやれ……。」

「えっ?」

「……へっ?」

「「ええーーーっ!?」」


 急になんてウルトラCをぶっこんで来やがった! ほら急に言うから、言われた本人が一番テンパってスリラーみたいになってるじゃないか。で、なんでロイはこの発言を聞いて正気に戻ったんだ!


「ナナミの人間がいるなら問題ないよ。」


 それは答えになってない!


「ナナミの人間は…遊牧民族だ……。完全な野宿ではないが…知識はあんたよりもある。」


 つまりコーディネーターとして連れていけってことか。まぁ知識もない人間の2人旅よりは断然いいが、本人の意思は?どうみてもあまり快く思ってはいないみたいだが。


「魔法の使い方…知りたがってたな……?」

「ああ……じゃなくて、はい。」

「さっきのを見ただろ……。こいつらについていけば…少なくともここより勉強になる。」


 それが鶴の一声だった。手をポンと打ってわかった!と一声叫びながら階段を風のように駆け上がったと思ったら荷物をもって転がり落ちて顔からダイブを決めていた。そしてノーダメージで起き上がり俺に駆け寄ると、最初に見たあの満面の笑顔でよろしくと握手を求めてきた。

 ……まぁベテランがいるのは大いに助かる。それに旅は道連れっていうしな。俺も満面の笑顔で握手を返す。もし願いがかなうなら、手の感覚がなくなるまで握手するのはこれで最後にして頂きたい。




 後で聞いた話によるとナナミの人間は魔法が使えるほどの魔力がなく、その分身体能力が高いらしい。不思議な事にこれは親が他の地方の人間でも変わらないという。それがいやで何とか魔法を使えるようになるために、着の身着のまま自分のグループを抜け出しここまでやってきたそうだ。

 カカシで働いていたのもカタリザを近くで見たかったかららしいが、その行動力が実にまぶしく映る。思いのまま動けるなんて羨ましいと心からそう思う。

 俺も自由に動いている部類ではあるとは思うがさすがに自分から手持ちも持たずに家を飛び出すだけの度胸はさすがにない。……やめた考えただけで悲しくなる。

 さぁ、俺も明日からの大冒険への活力の為に飯にするか。そういって飯場に近づくと何やら不穏な気配。なんだ? スープは鍋に残ってる。パンも1つだけだがちゃんとある。紅茶も入ってる。後は空のカップ麺が三つ……三つ!?


「俺の分のカップ麺は!?」


 返事代わりに返って来たのは赤い方からのケプッと言う満足を知らせる音だけ。


「だってトトぼーっとしてて食べないんだもん。もったいないからスーと2人で食べちゃったよ。」


 麺は伸びると不味いしね。と臆面なく言われる。


「美味しかったぞ。ト、トス、トスィ……。」

「……いいよトトで。」

「そうか!ごちそうさまトト!」


 満足した様子で家に入る二人の後ろ姿を眺め、俺も食事を始める。ぬるくなったスープがやけにしょっぱい。いや満足してくれたならいいんだけどね。

 この先うまくやっていけるのだろうか……すごく不安だ。

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