魔力の正体
店の裏手には何も無いとの事なのでそのスペースを借り、そこに要らなくなった木箱などを的代わりとして積み上げて簡易練習場を作る。
いやぁここは村の端の方なのに思ってたよりも広いな。まだまだ我が家くらいなら入りそうだ。
少し離れた所からこちらを見ている観客は3人。ロイ、クロウ、そして準備中に目を覚ました声がデカイ褐色肌の女の子――スー。
その視線を集めているのは玩具を持って木箱を睨みつけている大人1人と言うこの異常な状況。これが真剣なら見栄えがいいんだろうが如何せん長さが足りない!
煮え切らない部分もあるがこれも大事な実験。しっかりやらなくてはならない。もしこれが成功すれば俺は……。
「電池……?」
妖喚刀から取り出したそれをクロウに見せる。身を乗り出したロイと一緒に眺めているがピンと来ていないようだ。
電池の構造も俺の知ってる範囲で教えるが、電気の話になると頭からハテナが浮かんでいるのが見える。
間違いない。この世界、雷はあるのに電気という概念が存在しない。もっと言えば、魔力とは電気の事だったんだ。
実は薄々ではあるがそうではないかと思っていた。
ロイと別れてこの村を歩いている時、以前に冷蔵庫があると聞いていた俺は必死に電気屋を探していた。
時計の件もあるが、掃除が嫌いな俺はほうきとちりとりではなく掃除機を買って楽をしたかったのだ。
しかし何処にも電気屋の看板は無かった。時間をかけすぎて待ち合わせに遅れても困るので諦め、電気屋の次にそういった道具を取り扱ってそうな道具屋に向かったがそこにも電化製品は存在していなかった。
その時からもしかしたらとは思っていたが、店でロイを2階に運ぶ時に見つけてしまった。正面から見えない店の奥に並ぶ見慣れた電化製品達を。
生きとし生けるもの全てに魔力がある。最初はチャクラ的な神秘の力だと思っていたがなんてことはない。生体電流の事だったんだ。
俺らの世界では生体電流といえば脳波や心電図、あとはスマホの画面操作ぐらいにしか使用できない微弱な物だがここではそうじゃないらしい。
「で…これをどうするんだ…?」
「そこに魔力を通してください。そうすればそこに魔力が貯まるはずです。」
魔力が貯まる、と聞いてロイがハッとする。熊を屠ったあの極太レーザー。あれはレッツカリバーだけでなくレッツフォンの電池にも魔力を込めたからこそ生まれた威力なのだ。
勿論謎は残っている。なんで俺が強い電流を浴びて平気なのか。なぜ魔力を通しただけで本物の武器の様になったのか。なぜレッツフォンの魔力がカリバーに移ったのか。
だがそんな事は関係ない!今必要な情報はただ二つ!
手の中の電池が魔力を通した事で青く輝く。ある程度通したと思われる所でそれをクロウから預かり妖喚刀に入れてスイッチを入れる。
『ドロロン! あやかしお出まし!』
一つは魔力が貯まった電池で玩具が動くという情報。そしてもう一つは……。
目の前の木箱に照準をあわせ、軽くトリガーを引く。あの時と同じ青い光が木箱を簡単に貫通していった。そのまま2発、3発と引鉄を引いてみるが特に問題はなさそうだ。
ギャラリーからは歓声も拍手も起こらない。ただ目の前の光景を固唾をのんで見守っている。
魔力が通った電池があれば魔法が使えない俺でも簡易な魔法が使える! 俺が欲しかった情報の2つめも無事ゲットだ!
今度はトリガーを長押ししてみる。紫色の刀身が青い光に包まれるのでそのまま躊躇うこと無く的に振りっ下ろすっ!
これも問題無い。何の手応えも無く木箱は真っ二つになった。他の箱を斬るのも問題ない。
あと必要なのは持続時間か。よーし!ストレス解消じゃないが斬って斬って斬りまくるぞ!なんでも来い!こんにゃくもいいぞ!あーはっはっは!たーのしー!
なんて調子に乗りまくった俺が木箱をメッタメタにして、体力が空になったにも関わらず、片付けが一切免除されなかったことをボヤくのは一時間後の話である。