こんなこともあろうかと!
「あぁ何だ…。悪かったな…。」
二人を寝かせたあと、俺はカウンターでお茶をご馳走になっていた。これが俺にとって初めての異世界の飲食物になるのか。
匂いは……俺の知ってる紅茶だな。そこになんの違いもありはしない。意を決して、口に入れると薔薇の匂いが全体に広がって行く。
美味しい、そして何よりいい香りだ。紅茶は苦手だったけれどもこれならいくらでも飲めそうだ。
「『働かせてくれ!』、って言うから雇ったんだが…変に生真面目すぎるどころかあってなぁ…。」
そこまで言うと頭を掻きながら自分も紅茶に口をつける。愛想は悪いかも知れないが大らかな人だ。よくあの状態を生真面目で済ませられるなぁ。
口では大丈夫ですよ、と社交辞令を伝えながら店の様子を伺う。青い光の間接照明に照らされた数々の装飾具や家電……これらの総称が魔法雑貨なのだろう。どれも綺麗にショーケースに収められていた。見る限りどのカタリザも鈍い輝きを放っている。
どうやら別段ロイのが使い込まれているわけでは無かったらしい。見る目が無いなぁ俺。
「ところで…あんた…。あの子の……何なんだ…?」
「……はぁっ?」
思いがけない言葉に視線を戻す。最初はからかっているんだと思っていた。昔なじみだと聞いていたし。
だが違った。先ほど騒音発生器をとらえたその目は、迷いなく俺を貫いている。
これ下手なこと言ったら、すっごく上手に焼かれたりするんじゃないだろうか。汗が額から地面へ落ちる。長い沈黙が場を支配していく。
「いたたた…ボクいつの間にお店に入ったんだろう?」
階段の上から聞こえたロイの声をきっかけに、張り詰めていた空気が消え去った。助かった。助かったけど何でプレッシャーかけられたの? すっごく腑に落ちないんだけど。
「おう…起きたか。」
「あっ、クロウ。ベッド借りちゃってごめんね。」
答えの代わりにヒラヒラと手を振るモジャ男改めクロウ。表情もさっきより幾分柔らかくなった気がする。いやなってる! 確実に! まさか、そういう趣味をお持ちだったりするのだろうか?
そんな気配を察したのかクロウが先ほどの睨みを再びこちらに向ける。その勢いに負けつい目をそらしてしまう。ああ、なんと情けない事か。
「……。わからん…。」
レッツカリバーを分解して30分。それがこの地方で一番頼りになる男から出た言葉だった。三人からため息がこぼれる。
ある者は未知のアイテムを触る事による緊張感から、ある者は退屈だった無音の時間からの解放から、そしてある者は結局進展が無かったことによる徒労感から。
「ここまで複雑になると…俺の手には負えない…。」
「やっぱりタイガまで行かないとダメかな?」
もとの状態に直しながら首が縦に振られる。タイガとは確かリュウの村の正反対の場所にある、シャシイ最大の町の名前のはずだ。さっき地図で見たから覚えている。
中心のオウブまで2日としても往復で8日。一週間以上かかるのか。考えるだけで疲れてきた。
「しかし信じられん…。こんなもので本当にクマを…?」
すっかり元通りになったレッツカリバーをしげしげと見ながら至極当然の疑問を口にする。それもそうだどう見たって弾を発射する機構なんて無いもん玩具だし。俺もロイも実際見なければ信用しなかっただろう。
だがどんなに壊れた物だけ見せても仕方ない。こんなこともあろうかと実はレッツカリバーの他にも玩具を持って来ていたのだ。
リュックをまさぐりもう一本、刀を取り出す。背中側に軽くカーブがかかった紫色の短い刀身。その鍔には背面側にダイヤル、正面には発光するランプが仕込まれている。持ち手にはお約束のようにトリガーが仕込まれている。
「それは…?」
「妖喚刀……さっき見て貰ったやつの仲間みたいなものです。」
DX妖喚刀。亜人ファイターシリーズ第3作「亜人ファイター妖」のメインウェポンであるこの武器は見た目通りの斬撃の他に、鍔から銃撃できるという遠近一体型の武器である。
また、ダイヤルを回す事でランプ部分が銃撃モードと、「妖之札」と呼ばれる非接触型ICタグ内臓カードを読み込んで、妖怪の力を開放する召喚モードの2モードに変わるという面白さ2倍のお得商品なのだ!
小話として召喚と言いつつ妖怪そのものではなく、その力だけ使うのが全国のオタクの不満点だったというのがあるが今は関係ないので省略する。
「これで試したいことがあるんです。……手伝ってくれませんか?」