魔法雑貨 カカシ
自然あふれるヒウン地方で唯一魔法関係の道具を売っている店。それこそが今向かっている『魔法雑貨 カカシ』である。カタリザもここでしか売っていないが、かわりに生活するための最低限のカタリザならここで全て揃う。
もしもわからないことがあっても、愛想の悪いボサボサ髪をした色白の男性店主が可能な限りのサポートをしてくれるヒウンに無くてはならない店、それこそがカカシである……というのがロイから聞いた話だ。店主だけディスられすぎて不憫だ。
「でも悪い奴じゃないよ。」
悪い奴じゃなければ何を言ってもいいわけではない。まぁ物事をオブラートに包めないのは短い付き合いながら十分わかっているつもりだ。多分事実ではあるんだろう。
とにもかくにもレッツカリバーの修復、そして俺の考えを詳しい人から聞けることが重要だ。少しでもなにかつかめればいいんだが……。
「いぃらっっしゃいませーーーー!!!!!!!!」
村の最奥付近まで歩かされて、やっと店に入った瞬間にこれである。中々斬新な入店BGMだ。店の真ん中に備え付けられたカウンターに満面の笑顔を振りまいている、愛想のよい赤髪褐色肌の女性が立っていなければ実は魔獣の巣か何かと勘違いするところだった。
しかし前評判とかなり違うんだが。まさかこの世界では彼女のような人の事を「愛想の悪いボサボサ髪をした色白の男性」と表現したりする。
「わけではないか。」
顔がすっかりボーリングの球になっているロイを尻目に、外に出て店の看板を確認する。うん、店の名前は間違っていない。入るときから知ってたけれど。
もういちどカウンターを見る。店員は上がチューブトップ、下はショートパンツという健全な男子にとってかなり目のやり場に困る服装をしていた。そこから伸びる肢体は余分な肉が付いておらず引き締まっており、かなり健康的な印象を受ける。
……そう余分な肉はついていない。胸部を見て改めて思いなおす。待ってくれ違う、これは男子として健全な反応だと思うんだ。だから俺が悪いわけじゃない。みんな一度は見るにきまってるだろ!
まぁあれだ、端的に言えばこんな薄暗い店内でじっとカウンター業務をするというより、外で農作業とかしているタイプだと言いたいのだ。
「お客様っ!!! 何かっっ!!! お探しっ!!! で! しょうかっっっ!!!!!」
店の入り口に突っ立っていた俺たちに全く悪気のない笑顔でそうたずねてきた。だがうるさい!さっきよりもだ!
ああああ、鼓膜がバキバキに割れそうなほど痛む。狭い店内がゆえに音の反響も著しいし。……ロイ? ロイさん? さっきから顔変わってませんがもしかして気絶してらっしゃいますか?
すこし揺さぶってみるが目が点滅する以外の反応が見受けられない。
「いかっ!! がっ!!! しましたっっ!!!! かっっっっ! おっっっっ!!! 客様ぁっっっっ!!!」
文節切るところがおかしい! 違う! お前のせいだお前の! そう言ってやりたい気がやまやまだが、耳が痛くてそれどころじゃない。さらに追い打ちをかけるように、だんだんと眩暈までしてきた。
頼むから汎用人型超音波兵器に接客させないでくれ! あっ、連れの目も光が消えかかってる。しかたない、一回出直すしかない! そう判断を下した時だった。
「あだっ!?」
音の発生が止まった。発生源付近には先ほどまでいなかったはずの男が立っていた。手に丸めた雑誌を持ち、フラフラしている赤髪の娘をにらみつけている愛想の悪いボサボサ髪をした色白の男性……たぶん本当の店主だろう。
にしてもどれだけ力入れて殴ったんだ。いくらやりすぎたからってそこまでしなくても……。
「うるせぇなぁ…。息切れするまで力入れるんじゃねぇって言ってるだろうがよ……。」
黄色い瞳の三白眼が怒気も隠さずそうぼやく。……若手お笑い芸人のコントでも見せられた気分だ。当事者じゃなくて舞台越しか画面越しで見たかったよ。まじめすぎるのも大変だなぁ。
「ハァイ…すみ、ま、せ。」
全て言い切ることなく拡声器ちゃんが床に倒れる。その振動につられて、なぜかうちの小さいのも床に倒れこむ。
えっマジで?店主に助けを乞おうとして目と目があう。別に恋に落ちたわけではない。完全に混乱しているのだ。少なくとも俺は。
「二階に運んでくれ…。」
先に口を開いたのは店主だった。そう指示をして自分の足元に倒れてる赤い赤い赤いアイツの足をつかみ引きずっていく。俺も慌ててすっかり目を回してる黒い黒い黒いコイツを背中に担ぎ後を追っていく。
追いついた時にはすでに階段を半分近く上っていたが、持ち方は一切変えていなかった。……もしかして疲れてたんじゃなくて雑誌の一撃でとどめ指されたんじゃないのか?
喉元まででそうになったが飲み込んで俺も後に続いていく。背中からは何故か良い香りが漂っていた。




