この国の向こう
チッチッチッ……
待ち合わせ場所についたが、まだ約束の時間ではないためかロイの姿は見えない。……いや逆にありがたいか。俺は時計をしまいながらその場で腰を下ろし、先ほどの道具屋でのやりとりを思い出す。
「ここ以外に国なんてないだろうが。」
この狭い国しか存在しないだって? そんな馬鹿な。それが素直な感想だった。その割には体に感じる重力だって元の世界とおんなじだ。別におもりを外した少年漫画ほどとは言わないが、もう少し動きやすくならないだろうか。
ああでも国と重力は直接関係あるわけじゃないかと思いなおす。重力は星の大きさに比例して大きくなるはずだ。……記憶が正しければだけど。
となればこの世界は地球と同じくらいの大きさがある事になる。それだけの広さの所にここしか陸地が無いなんてことはあるまい。
「じゃあこの国から出たいときはどうするんですか? やっぱり船? それとも飛行機?」
店主の目が完全に疑いの目に変わった。……やばい聞き方をミスったらしい。異世界人だと話すか? いや今言ったところで信用されるはずがない。となれば俺が撮るべき行動はただ一つ……!
「変な事聞いてすいませんでした!」
逃げる事だ。
「全くなにやってるのさ。」
約束の時間ちょうどにやってきたロイに経緯を話した時のありがたい言葉だ。
くぅ、年下にこういわれると悔しさが増してくるのは、俺がプライドだけが高い小さな人間だからなのだろうか。まぁ軽率だったのは認めるが。
「この国の端は淵部っていう深い渓谷が周りを囲っているんだ。船なんて出せるわけがないよ。」
はぁ…地図で国の周りの線だけ太かったのはそういうわけだったのか。断崖絶壁に囲まれた島があるのは知識として知っているけれど、まさか地面の方ががえぐれているとは。
「じゃあ飛んでいく方法とかないの?飛行魔法とかさ。」
ハァとため息をつかれたと思ったら、立ち止まって空を指さすロイ。それにつられて見上げればそこには雲一つ無い、きれいな青空が広がっていた。
ああなんて清々しい天気だ。このまま日向ぼっこでもしたいなぁ…きっと気持ちいだろうなぁ。
「そんなのあったらみんな使ってるよ。」
……忘れてたがそういえばそんな話をしていたんだった。一気に現実に戻されテンションがおちる。ピクニックはお預けだな。
ちなみに人が乗れるような大型の飛行生物もいないそうだ。たくさんの烏に紐をつけてブランコみたいに乗るなど論外だと言われた。日本では有名な移動法なんだぞ!
「じゃあ淵部の先がどうなってるのかは。」
「さっぱり。だからこの世界にはこの国しかないっていうのが常識なんだ。」
籠の中の鳥、水槽の中の魚。この世界ではそれが当たり前ではあるのだろうけど、何とも味気なく感じてしまう。決して海外旅行が好きだったわけではない。
でも選択肢が無いのは寂しい。この狭い箱庭の中で一生を過ごすという事に退屈を感じたりしないのだろうか。傲慢な考えではあるのはわかっている。わかってはいるのだが……。
「そういえば、何処に行くんだっけ?」
変な考えを振り払うように話題を変える。ロイの手には別行動中に買った物が入ったレジ袋が握られている。合流時に両手がふさがるぐらい購入していたので、買い物と言う事で家からいくつか持ってきた物を渡したのだがかなり気に入ったようだ。
その際、再度荷物持ちを申し出るとともに何を買ったか尋ねた所、しばし黙った後、服だと答えた。やっぱりちくわぶはお気に召さなかったか。もちろん荷物持ちも拒否された。
「結界用のカタリザを買いに。それにトトだって銃を直してもらうんだって言ってたじゃないか。」
確かに朝そういった話をした。昨日の戦闘で壊れたレッツカリバーを直したいと言ったら、村にそういう施設があるから持ってくるようアドバイスを貰ったので、リュックに詰めこみ持って来ていたのであった。
冷静に自分の姿を顧みて思ったが、日本だったら特撮玩具を持ち運んでショタと外出する成人男性とかかなりアレな人物ではなかろうか。
自意識過剰と言われるかもしれないが、たとえ鞄からブツが出ていなくても周りの視線は気になるものだ。もし持ってるのばれたら普段からそういう事をしている奴認定される。それを考えると非常に恥ずかしい。
まかり間違って不審者情報としてホームページに掲載されていてもおかしくない。そういう意味で今自分が異世界にいて良かったと感謝したのは初めてかもしれない。
「あーそうだったそうだった。……なんて店だっけ。」
「魔法雑貨 カカシ。僕のなじみの店だよ。」