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その汚い眼をふっ飛ばしてやるぜ!

「ねぇ、本当に大丈夫なの?」


 大丈夫だと適当に返事をして敵を見据える。先刻まで痛みと熱さに悶ていた熊は立ちあがれる所まで回復していた。諦めずに立あがるその敬意を賞して君に褒美を与えよう。頼むよロイ君。

 投手からスナイパーへの転職を済ませた少年に目配せをする。その顔にはどうにも消しきれない不満の色が浮かんでいる。

 俺だって不安要素を他人に任せるのはいい気持ちがしない。けれども魔力に反応している以上俺がこれを使う事は不可能なのだ。

 もとの通りの音のなるコケ脅しにしかならない。だが彼なら大丈夫だろ。きっとドジな眼鏡の小学生にも引けを取らない名スナイバーになれる。弾切れしないのが大きな強みだ。


「僕、銃なんか使ったこと無いんだけど。」

「大丈夫だって。それに俺だって無い。」


 うわぁ不信感を消さなくなったよ。


「さっきも言ったけど俺にはこれに魔力を込めて撃ち出すなんて芸当はできないんだ。君だって見たろう?」


 クールに決めたつもりの立ち姿で、音だけがピコピコなる玩具を持った悲しい大人を。


「かなりかっこ悪かったね。」


 オブラートってこの世界にはないのかなぁ。


「家を燃やすリスクなんて極力避けたいんだ。とりあえずやってみて。ほら、動きが鈍いうちにまずは試し撃ちだ。」


 ん、といつもの空返事を返しながらもレッツカリバーに魔力を通し始める。徐々に銃口が青く発光していく。そしてある程度光った所でトリガーをひく。


 パシュン!


 思ってたよりは控えめな音ではあったが実験は成功した。溜まっていた青い光は真っ直ぐ、そして手で投げた火の玉よりも早く対象へ狙い定め飛んでいきそのままヒットした。

 いやはや初めての割にはうまいな。これはまさか本当に名スナイパー誕生の瞬間に立ち会ってしまったか? いずれは「報酬は満額スイス銀行に振り込んでくれ。」とか言い始めるのではないだろうか。

 そんな人生初発砲を行った少年は未だ事実が受け入れられてないらしい。ポカーンとしながら立ち尽くしている。


「……凄い。」


 そこからの切り替えは凄まじかった。次々に魔力をチャージして弾を放っていく。先程までの困惑の表情は既に消え去り、瞳はただ獲物の動きだけを静かにみている。

 眼、脚、耳、眼、肩、眼、眼、脚、眼……ここまで撃った物は全部命中している。本当に初めてなのだろうか?的が大きいとはいえこんなに当たるか普通。もはやその才能にドン引きなんだが。

 そうこうしているうちに熊がバランスを崩し、前のめりになる。先程までの荒々しさや威圧感は消えさり、このままいけばじきに死ぬ事になるだろう。だが済まない。可哀想だがこのまま実験は続けさせてもらう。

 攻守が逆転すると余裕も出てきた。トリガーハッピー君を一度静止して今度はレッツフォンを渡し、魔力を込めてもらう。程々の所まできたらそれをレッツカリバーにセットしEnter!


『Over Drive!Go!Go!!Go!!!!』

「うわぁ!?」


 音声がが鳴ったせいでビックリした彼はそのまま銃を落としそうなる。ここで壊れては困るので必死で受け止める。

 さっきまでの自信は消えさり代わりに不信感の仮面が装着されている。そういやこっちの説明何にもしてなかったっけ。


「ごめんごめん。後で説明するから、さっきと同じ感じであともう一回だけよろしく。」


 人の声がした不気味な銃に明らかな警戒心を示しているがここまで来たら最後までやって貰わなくてはならない。再び熊に照準を合わせて魔力を入れていく。

 一瞬で銃口は真っ青になり銃が振動を繰り返している。握っている本人は俺以上に困惑しているのか未だに魔力を入れるのをやめない。これはまずいぞ。


「う、撃てー!」


 さながら軍隊の上官のように半分叫びながら手を叩く。その音に反応してトリガーが引かれる。


 ズォォォ……


 銃口の5倍ほどにまで膨れ上がった光の帯が放たれる。いやいやいやいやさっきまでの閃光はなんだったんだ!? 流石に極端すぎるだろ。二人して顔を見合わせる。黒真珠のような瞳が俺に訴えかける。


 これ本当に大丈夫?


 ……さぁ?わかんない。


 そんな二人の困惑を他所に光はまっすぐ熊の瞳を貫いていた。断末魔の悲鳴をあげることなく、顔に大きな風穴が形成されていく。もう、結果はわかってるし死体の冒涜をする気持ちはさらさらないので早く解放してあげたいのだがどうやら銃はそうでもないらしい。

 まさかいつまでも続くのかと思っていた矢先、終わりはあっけなく訪れた。


 パン!


 乾いた音が家に響いた瞬間に光はスッと消えてしまう。終わってくれたのは助かったが何の音だ?力が抜けヘナヘナと座り込んだ少年から銃を預かる。……なんか焦げ臭い。

 電池蓋を開けてみれば中のアルカリ電池は基盤ごと真っ黒にこげていた。たぶんこれではもう使い物にはならないだろう。ハァ、買ったばかりだったのに。

 外を見れば実験に協力してもらった肉塊がそのまま置かれていた。動物の死体を見るのはいつぶりだろう。あれがさっきまで動いていていたという事実が未だに信じられない。

 でも事実命をこちらの都合で奪ってしまった。やらなければやられるとは言えそれは本当に許されることなのだろうか。俺はもしかしてとんでもない事をしてしまったのではないだろうか。今更ながら後悔と恐怖が体を締め付ける。

 想像の世界では何と命が軽すぎるからだろうかすっかり感覚が麻痺していたようだ。震えが止まらない。自分ももしかしたら……。


「大丈夫。」


 下から声が聞こえる。まだ腰は抜けているようだが大分落ち着きは取り戻したらしい。


魔物アイツは生き物じゃない。だから大丈夫。」


 そう言って端正な顔がこちらをまっすぐ見据えている。何が大丈夫なのだろうか。判断はつきかねるがその言葉が体の震えを止めてくれた。

 短い間に色々あったけれど、まさか殴りたいと思ったその顔から安心感を貰うことになるとは思わなかった。ささやかなプレゼントのお返しにこちらは手を差し出す。というか今はそれしかできない。

 今回の功労者は黙ってその手を取り立ち上がる。互いに何か言おうとはするが何も出ず、ただ外を見る。

 それにしても魔物とはなぁ……死体が少しずつ闇に飲まれる様に真っ黒になり、そのまま消滅していく様をどこか他人事のように眺めている。

 そこに何かがいた証は風がどこかへ飛ばしてしまった。光る結晶を残しながら。

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