ひそかに村人を続けるのも、大変なものですね
自分がみじめだった。
たしかに、俺は労働条件にわがままを言ったかもしれない。土日祝日完全休みで、年間休日120日以上。有休取得率100パーセントで定時に帰れる。年収もそれなり。そんな風に、労働条件を求めた。俺の知っている世界にはそんな仕事はなかった(断言)。いや、俺のまわりになかっただけなのかもしれないが……、それはさしたる問題じゃない。
とにかく俺は身の丈に合わない求人を探していたのだ、ということに最近になってやっと気づいた。
働き始め、社会人になった初めのころは俺にも憧れがあった。スーツをばりっと着こなして、エリートサラリーマンになるような幻想を持って居た。けれどそれは間違いだったのだ。……間違いだったのか?
「『射雷』」
俺の人差指から、一筋の雷が放たれ、それは空中を舞う一羽の黒い大きな鳥を射抜いた。鳥は一瞬で絶命すると、そのまま重力に任せて地面に落ちる。ぼとりと。
俺はそれを、つまりは今日の食料を引きずりながら我が家(横穴式住居、いわゆるただの洞穴)に向かう。するとその入口にはアルカが立っており、
「おかえりなさーい、スギ―さーん!!」
と俺のことを出迎えてくれる。裸にエプロンといういわゆる新妻スタイルである。……というのは俺の妄想である。いつも薄緑色のローブみたいなのを羽織って、色気も糞もない。
アルカは俺の引きずってきた鳥を見つけて、喜色を浮かべた。
「うわあこれはデイダラ鳥ですね! 丸焼きにして食べてもいいし、
目玉なんかソテーにすると絶品ですよ」
「……俺、ちょっとそういうワイルド系苦手かも」
「もう! それじゃあいつも通りに作りますよ?」
頬を膨らませながらもアルカは手馴れた様子で鳥をさばき、血抜きをして、それをアルカが拾ってきた果実や香草なんかといっしょに煮込んでスープにしてくれる。いわゆる料理ってやつだな。聞いてみたらアルカは「調理スキルレベル5」らしい。どのくらいのランクかと問うと、10人に一人は居るぐらいのレベルらしいけど、冒険者にはなかなか居ないから重宝されるとのこと。まあ、木の実や狩猟したもんでうまい料理を作ってくれるのは確かにありがたい。
俺はここ数日の記憶を思い出す。この洞窟に逃げてきた初日。俺は空腹に耐えかねて「召雷」で同じくデイダラ鳥を撃ち落とした。あまりの威力に一瞬で黒焦げになってしまった。けれど俺は腹が減っていたからとりあえずそれを口にすることにしてみたのだ。結果、まずかった。いや、まずいとかいうレベルじゃない。血の塊を食ってるようなにおい、獣臭が口いっぱいに広がるのだ。たしかに肉を食ってるという感じはあるが。
それ以来俺は川魚を取るようにした。ただし、やはり「召雷」を試したり機雷、微雷などを使っても魚は黒焦げになるばかりだった。やはり俺は日本人。味にこだわりはある。ということで俺は線状の雷をレーザーのように打ち出す「射雷」という技を生み出した。
このスキルは中々に便利でうまく急所を狙えば一撃で仕留められるし、他のスキルのように黒焦げにしてしまう心配もない。俺は「射雷」でひたすら獲物をしとめられるようにスキルレベルを上げていた。と、そんなある日だった。アルカが俺の隠れ家にやってきたのは。
「いやあ、はははは、すいませんね、どうも」
と、こいつは軽い口調で俺に謝罪の言葉を口にした。
「私がクソ野郎(勇者)のことを蹴り飛ばしたせいで、スギーさんに苦労を背負わせちゃったみたいで」
俺はつかみかかりたい衝動を抑え、
「何しにきたんだよ」
と不機嫌に答える。
「いや、謝罪とそれからお詫びに……。
スギーさんが今一番欲しいものを考えたんです!」
「安定した雇用と住居だよ馬鹿野郎」
たしかに田舎で晴耕雨読のスローライフにあこがれたこともあったが、決してそれは今じゃない。バリバリ働いて、おじいちゃんになってからでも遅くないはずだ。
アルカは俺の言葉をスルーして、
「私も冒険者ですからね、分かります!
ずばりかわいい女の子とおいしい料理! この2つでしょう!」
「はあああ?」
お前頭おかしいんじゃねえの、と俺は口にできなかった。
「私は料理が得意です。それに若くてかわいい!
スギーさんがカルマペナルティを背負わせてしまったお詫びに、私が食事を準備してあげます!」
してあげますってどんだけ上から目線なんだよ、とは思ったものの。
アルカは山のように背負ったリュックから、自前の調理器具を用いて俺に簡単なスープを作ってくれた。材料はアルカがその辺で採集した木の実とハーブ。それだけだった。
それだけだったはずなのに。
「うまい……」
俺は久方ぶりの「料理」に思わず涙を流していた。火の通ったもの、火加減がちょうどいいもの、料理の腕前がこんなの重要だとは思わなかったからだ。
だからアルカに関しては感情的なしこりがあったが(そもそもことの発端はこいつである)口からは勝手に、
「お前、採用」
という言葉が出ていた。
それ以来アルカはこの洞窟に住み込んで、あれこれと俺の世話を焼いてくれるのだった。……。たしかに衣食住は原始人なみに確保できて、生きていくに不便ではない。ないし、俺のスキルレベルは日々向上し続けている。成長するというのは実に素晴らしい。だが、俺がなりたいのは冒険者ではないし、俺のしたい生活はこんな仙人のような隠遁生活ではないのである。ごくまっとーに村で暮らしたい。自分で狩った動物ではなくふつうに店先で肉が買いたいし、ベッドの上で寝たいのである。
「なあ、そろそろ思い浮かんだか?」
俺はモグモグとスープを頬張るアルカに問いかける。
「思い浮かぶ? 今夜の夕食の献立ですか?」
「ちげえよ。俺が村に戻る方法だよ! 俺のカルマポイントが-300なんだろ? そのポイントをゼロに戻して、元通り村で暮らす方法だよ!
俺は冒険者や勇者にあこがれてるわけじゃないんだ!」
ごくん、とアルカは口に含んでいたものを飲み込んで、
「そうだったんですか?」
「そうだったんだよ! 何いまさら気づいたかのように言ってるんだよ」
「だってマメにスキルレベルを上げにいったりしてるし、村に近づくそぶりもないし。
心機一転、チートキャラとして魔王退治に向かうつもりなのかと思いましたよ」
「スキルレベルを上げるのは生活のために仕方なく! 魔王退治しに行くなんて一言も言ってないだろ!」
「じゃあ誰が倒すんですか」
「知らん! あいつらだろ」
あいつら、というのは俺のスキル「召雷」で粛清された勇者どもである。アルカを見捨てた見下げたやつらだ。粛清されたとは言っても、アルカの説明によればどこかの教会で勝手に復活しているらしい。そうなのであれば、そのうち目的を思い出して魔王退治に向かうだろう。やつらの目的が俺への復讐にすりかわってなければの話だが。
……。
うん、まあきっと大丈夫だろう! 勇者なのだから敵にやられたことも一度ならずともあるはずだ。今回はちょっと俺がやりすぎたかもしれないが、アルカを見捨てた報いと思えば、少しは反省して、その怒りの矛先が俺に向かうことはないだろう! そんな風にポジティブに生きることにした俺である。
「それならそうと早く言ってくださいよ」
「早く? お前、いつまでここに居るつもりだったんだ」
「もぐもぐ。私はローグのスキル持ちですからね。当然のように「隠密スキル」も持ってます。前居たパーティじゃ個々の実力が高くてあまり使うことのなかったスキルで、スキルレベルも低いですが……、ついに使う時場面が来ましたね!」
えへん、とアルカは胸をはる。
「……ほんっとうにお前は戦闘以外には役に立つな」
「む……それは禁句ですよ」
戦闘で役に立たず、勇者パーティに捨てられたトラウマはいまだ癒えてないらしい。
「私の隠密スキルなら二人まで、敵とのエンカウント率を下げられます。
そうですね、村に行ってもこちらから何かしかけない限り村人にバレる恐れはありません。おそらく」
「おそらくって言うな。確信を持て。俺を不安にさせるな。
まあいい。お前がそれで大丈夫っていうなら、とりあえずそれで村の様子を見に行くか?
俺の家(まだ一泊もしていない)もどうなってるか気になってるし」
「仕方ないなあ」
「めんどくさそうに言うな! もとはと言えばだな、お前が……」
「へいへい分かりましたよ。小言恨み言は聞き飽きました。
それじゃ早速」
アルカは俺の肩に手を乗せて、何事かをつぶやいた。
次の瞬間。
「おおっ!」
俺は自分の手を見て声をあげる。なんとなくぼんやり透けてみえる。これが隠密スキルの効果なのだろう。思わず感動してアルカに声をかけようとするが、姿が見えない。
「驚きましたか? これがスキル隠密です」
声は俺の正面から聞こえてくる。
「……お前の姿が見えないんだが」
「そりゃそうでしょう。術者のほうがより強く効果が表れるわけですからね。
スギーさんも、存在感が薄くなって見えにくくなってるとはいえ、魔法なんか使ったら一度でばれますからね。それに鉄則が1つあります。一度注目されてしまうと、隠密スキルは効果がありません」
「……村の中で注目を浴びたら、隠密状態が解除されるわけか。そしたら走って逃げて、人気のない場所でスキルを再発動させるわけか」
「理解が早くて助かります。ま、スギーさんが余計なことしなけりゃ大丈夫ですよ。
それでは村にレッツゴー!」
俺は自分より、お前が余計なことをしないかどうかが不安なんだが。
そんな俺の不安をよそに俺らは村へと歩き出した
〇
……。
村に到着した俺らは、村人がなんだかざわついているのに気がついた。
商店街を通れば「いけにえ」などという物騒な単語のやりとりも聞こえる。
かといって姿を現して誰かに話しかけるわけにもいかず……とりあえず俺らは自宅、ただし今度は洞穴じゃないほうの、木製の住宅にたどりついた。
「ふいぃー」
溜息と大きな伸びをしながら、アルカが久方ぶりに姿を見せた。
「疲れましたね。久しぶりにこのスキル使ったから。ついでにスキルレベルも上がりましたよ。さあーって、買い物でもしてこようかなぁ」
「お疲れさん……ってちょと待て」
今ふと聞き捨てならん台詞が飛び出た気がしたんだが。
「……お前は村の中を歩けるのか?」
「そりゃーそうですよぅ。指名手配されてるのはスギーさんだけですからね。
こんな純真無垢な美少女が天下の往来を歩けないわけないじゃないですかぁ」
このナルシストっぷりには一言いいたいことはあるが、まあそれはとりあえずスルーしておいて。この村で情報収集する手段があるってことなのか。アルカが村人に聞きまわればいい。
「なら、頼む。とおりの人に話しかけて、少しでもいいから情報を集めてくれないか?」
「別にいいですけど。きっとスギーさんの悪口ばかりだと思いますよ」
「カルマポイントってそんなに重要なの?」
「ですね。もしスギーさんが村中で顔を出したら、村民全員から石ころ投げられまくり、自警団きまくりの、血祭ですよ。特にステータス上昇のないスギーさんが、石ころを何発耐えられるかなぁ? って痛い! 今殴ったでしょう!しかもグーで!」
「調子に乗るからだ。買い物ついでに、話を聞いてきてくれよ。
それから――」
できればマロンをこの場につれてきて欲しい。
俺がこの世界にきて最初に出会った人間だ。親交が深い――とはとても言えないけれど、相談くらいには乗ってくれるかもしれない。
俺の頼み事にうなずいて、嬉々としてアルカは家を出ていった。
〇
びし。
びしっ。
と俺に向けて小石が投てきされる。俺はそれらをはじき、あるいはキャッチしながら真面目な顔をしたマロンと対峙していた――。いてっ。今すこしこいつの投げた小石がひじをかすめた。
「スギーさんすいません。私たちモブキャラはカルマポイントがマイナスになったキャラクタを見ると無条件で石を投げてしまう習性があるのです。というか、そういう風に設定されてます」
「いててて、だけどこんな風に会話が成り立つのは運がよかったぜ。
じゃなきゃ今後の打開策も打ちようがないからな」
「そうですね、最初に出会ったことで僕とスギーさんの間に親交度が深まったからでしょうね。スギーさんに聞かれるまえに先に行っておきますが、今村の状態は非常に悪い」
「いたいいたい。そこなんだよ。どうしてだ? たしかに勇者の到来は遅れてるかもしれないけど、かといって勇者が絶滅したわけでもなし……。なんでみんなが悲壮感にくれているのかが、いまいちよく分からないんだ」
「スギーさんがやってしまったんですよ。勇者が絶炎の洞窟の中で全滅すると、封印されていた骸龍エンゲルスが復活し、この村が滅ぼされる、というフラグが立つんです」
「え? 嘘? まじで?」
「おおマジです。もともとこの村で売ってる武具やスギーさんのスキル等は、チート扱いですからね。まあ、初心者むけの救済措置と言いますか。魔王は直接この村を攻めることはできない。その代りに、勇者がしくじれば全滅する仕様となっているのです」
なんたることだ。
俺が。
俺が勇者と殺ってしまったばかりに!
「で、でもほら居るだろ? それだけ強い武器防具が売ってる村だ、傭兵を雇うだとか、自分たちで剣を手に取って戦いに行くだとか。……まだうてる手はあるはずだ。そうだろ?」
「ダメなんですよ。いくら強い装備があっても。
アルカさんに言われたはずです。僕ら『村人』は。
『レベルを上げてもステータスが上昇しない』んです。
レベルを上げれば能力が上昇、格上のボスにも挑める、というのは勇者として祝福されたものにだけ許された特権なのです」
説明するマロンの声は、震えていた。
いかに自分たちが非力で。
……なおかつ絶望的である、ということを説明するかのように。
本当にそうなのか?俺たちは……いや、確かに俺はこの村にきて一週間と経っていないが、俺が住む予定だった村は潰れてしまうのか? いかんともしがたいのか。俺は労働条件を求めたばかりに、無職になってしまうのか。ここでの経歴は履歴書を汚してしまうだけなのか。
いや、そんなことはないはずだ。というより、そんなことさせない。
そう思えば俺の心に不屈の炎がめらめらと燃え上がってきた。
骸龍エンゲルスは敵だ。俺の夢(年間休日120日以上、定時上がり、有休可)をしいたげる、忌むべき敵である!
「大丈夫です、手はあります」
「ほう。それはどのような」
「アルカです。あいつは勇者パーティの一行でした。
戦闘レベルもあれば、ステータス上昇も起こる。少し無謀かもしれませんが、
あいつにかけましょう」
マロンは少し考える仕草をしたあと、
「……可能性は低い」
「それでも!」
ただ指をくわえて、破滅を待つよりは。
〇
俺らの話を聞いてアルカは一思いに引き受けず――に、しかめ面をした。
「なんだよ。俺を助けるためだと思って手伝ってくれよ」
「問題点はいくつもあります。
……たとえば私の職業が軽騎士であること。あいつらに見捨てられたみたいに、戦闘の能力はあまり伸びない。たとえレベルを上げたとしても……、骸龍に勝てるほどのステータスを持てない。そのうえ一人で戦うなんて、縛りもいいとこです。
二つ目。この村に売ってる武具の数々を、私は装備できません。というより、私の装備してる道具が、私が装備できるもののなかで、わりとトップクラスなのです。だからやっぱり、私の強さの上限はこのくらい、ということになってしまいますよね」
哀愁を含んだ表情で、アルカは笑う。
きっとその勇者に捨てられたトラウマが――、心の中ではどこかで正しいと思っているのだろう。戦力的に考えて困ることはない。
……ま、それが合理的だとしても。仲間を見捨てるようなやつは気に食わない、と俺は思ったわけだが。俺はパーティを組んだことがないが、パーティの中に前衛後衛の役割分担ができるのはごく自然なことで――、アルカのような中衛は確かにどっちつかずではあるけれど……。
と、そこまで考えて。
俺は一つのアイディアを思いついた。
「アルカ、マッピングのスキルレベルはどのくらいだ?」
「えぇと……スギーさんに出会った時がレベル5だから、今はレベル7ぐらいです。
具体的に言えば、半径50メートルぐらいなら敵の探知が可能ですね」
「今から言うスキルは持ってるか? 罠探知、隠し部屋発見、目くらまし、あるいは一度見つかった敵から100%逃げられるスキル」
「確かにあります。スギーさんに言われたスキルはどれも持ってます。罠探知、隠し部屋発見、敵から逃げる「とんずら」スキル。でも、それが何の役に立つんです?」
「なら問題ないな。アルカ、俺とパーティを組もう。というか、継続だな。
お前ひとりに任せない。俺ら二人で骸龍を倒すんだ」
「え? え? え?」
「作戦は簡単だ。俺らは『骸龍にエンカウントすることなく倒す』。
見つかったら眼前から姿をくらます。ヒットアンドアウェイで距離を取りつつ、
超遠距離……相手の攻撃が届かない場所から……具体的には、別の部屋から骸龍を狙い打つ」
「そんなことでき……、できますよね。私たち、そうやって散々戦ってきたんですもん」
「だろ? 俺は何発でもスキルを連打できる。一撃の威力が低くても、向こうの体力にだって限りはあるはずだ」
「隠し部屋発見のスキルは何に使うんですか?」
「勇者たちは骸龍に勝てば『精霊の加護』を受けられると言っていた。
おそらく骸龍に勝てば開かれる隠し部屋が存在するのだと思う。
もし可能なら骸龍にばれないように、先にその部屋へ侵入し、『精霊の加護』を受ける」
「でも部屋が分かっても封印されてたら――」
「持ってるんだろ? 開錠スキル。一番最初に教えてくれたじゃないか。
スキルレベルを上げとけよ。「扉」と名がつく以上、お前の開錠スキルで中に入れないわけがない、と俺は判断する。……ま、どうしようもなくなったらその手は諦めよう」
すう、とアルカが息を大きく吸い込む音がした。
そしてその次の瞬間、
「すっっっっごいです、スギーさん! そんな卑怯な作戦、誰も思いつきませんよ!」
「……なんだそれ。褒めてんのか」
「褒めてるし、感動してるんです! 戦わずして勝つ。あいつらパーティにありえない発想ですよ」
ま、そりゃそうだろうな。
勇者といえば正攻法が売りだからな。
逃げ回ってチマチマと敵を遠距離から攻撃するような作戦を取ったりはしないだろう。
「それに、この方法なら私も戦える。
役立たずじゃない……!」
そしてアルカは。
ボロボロと大粒の涙を流したのだった。
よほど――。
よほど悔しかったのだろう。悲しかったのだろう。勇者パーティにいた期間は俺には分からないが……。その旅が一筋縄でいかなかっただろうことは、想像できる。そんな苦楽を共にした仲間に裏切られたこと――というより、そんな仲間の役に立てなかったなことのほうが、アルカの心に傷を作ってしまっていたのだろう。
だから俺は、アルカの頭に手を置いて。ぽんぽん、とその頭を撫でてやって。
「頼んだぞ。この作戦のかなめはお前だからな」
そういうと、アルカは、
「任せてください!」
そういって涙をぬぐうと、笑顔を浮かべたのだった。目には強い決意の光と共に。