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さよなら安定雇用。勇者よ、死んでしまうとは情けない。

「スギ―さん、隣の部屋に3匹です」

「『散雷』」

「スギ―さん。この部屋の出口に敵が密集してます」

「『召雷』」

「スギ―さん」

 といった具合で、アルカの「マッピング(地図化)」と俺の「召雷(超遠距離攻撃)」の相性がしこたまよく。俺らは苦境と言える苦境に立たされずに、絶炎の洞窟の一回の探索を終えようとしていた。


「居ませんでしたね」

 言葉の中に主語がなくて少し戸惑ってしまったが――、勇者たちが、ということなのだろう。俺たちの目的はあくまでもダンジョンの探索でもなければレベルアップでもない。勇者たちとの再会なのだから。

「勇者のパーティは何人だ? お前が抜けても支障なく先に進めるものか?」

「ええと、私を抜かして四人ですね。

 勇者さまであるマルクさま、聖騎士リョハネ、僧侶リース、それから魔法使いランカ。魔法使いのランちゃんは器用だから、魔法で私の『マッピング』もマネできちゃうかもしれませんね」

 ……それは存外にお前が居なくても成り立つってことじゃないのか。

 けれど直接的に言葉にすると傷つけそうだからそれは黙っていることにして。

「ところで、勇者たちの目的は何だ? 魔王城がすぐ目の前にあるんだから、こんな洞窟で足止めされずにスキップしてもよさそうなもんだけど」

「この洞窟の地下には骸龍エンゲルスが眠っています。ただしエンゲルスを倒せば、精霊様の加護を受けれますからね。超重要な洞窟です」

「……なんとなく話は分かった。

 んで、おまえは?」

「私? 私は超、重要キャラですよ!」

 アルカは腰元から鍵束を取り出した。じゃらりと金属のぶつかる音がする。

「最下層には扉があって、そこから骸龍エンゲルスにたどりつくには門がいくつおあるわけですよ。そこでローグスキル、「鍵解除」の私が大活躍! もはやキーキャラクターといっていも過言じゃないですね。鍵だけに」

 つまらぬ冗談を聞いている時間はないのだ。

 ふふん、と自慢げにない胸を逸らすアルカの頭を、俺は無言でたたいてやる。なによりつまらないジョークを聞いてやるほど暇な人間ではないのだ。

「つまり、最下層までたどりついても勇者たちは足止めを食う。

 遅かれ早かれ、俺らがそこにたどりつけば、勇者たちとも合流できるってわけだな」

「そうです! ありがとうございます!」

「礼を言うにはまだ早すぎるだろ」

 俺は溜息をついて、この元気娘をどうするか思案したが……。

 ま、将来について楽観的であることは別に悪いことではない。

 とりあえず元気娘はそのまま放置することにして、俺らは次の下層へと向かう階段をくだっていく。


「『召雷』」

 俺の両手から黒い雷が生み出され、圧縮されたエネルギーは行く先を求め、一直線に俺の狙ったターゲットへと向かっていく。

 ……うむ。ずいぶん飛距離と威力が上がってきたような気がする。

「スキルレベルが上がってきましたね!」

「スキルレベル?」

「ま、ありていにいえば練達度、とでもいえばいいんでしょうか。

 同じスキルを使い込むほど威力と精度が増していくという……。スギーさんはプレイヤーキャラクターじゃあなくてNPC扱いなのでステータスは一切上がりませんけど、勇者の師匠ポジということでスキルレベルの上昇は許可されてるみたいですね」


 そしてさりげなく知らされる「俺のステータスが一切上がらない」という衝撃の事実。


「俺って強くならないの?」

「ええ。なりません、まったく」

「……スライムとも戦えないレベル?」

「まあ肉体的には、初級モンスターにぼこられるレベルだと思って差し支えないかと」


 ま、まあそうだよな。異世界からの転生者が魔法も制限なしで使えて、ステータスの上昇も無制限だったら、チート過ぎるもんな。この世界の勇者に申し訳がたたないっていうか。転生者が世界を救っちまえば手っ取り早いっていうか。……別に悔しくなんてないんだぜ。

 それにしても。

 スキルレベルが上がる、ということが分かっただけでも行幸だった。今いるには2階層とはいえ、少しずつ敵の体力と密度が増してきているのは確かだった。

 この村に来たばかりのころの俺のスキルレベル1のおれの「召雷」ではおそらく一撃で倒せていないだろう。

 ……と、冷静に現状を分析をしている俺の目の前で、アルカがあくびをしやがった。俺は思わず肩を小突いてやる。


「痛いっ、何するんですか」

「こっちの台詞だよ。戦場だろ? 気を抜くなよ」

「そりゃもー、気を抜けますって。敵の居場所はまるわかり。こっちは相手が攻撃できない場所から狙撃できるわけですからね。安全率100パーじゃないですか。最高に余裕です」

「だから、そういう余裕を……」


 言いかけて、俺はアルカの「マッピング」に敵を示す赤い点が横切るのを見逃さなかった。

「アルカ、おまえの魔法で敵を見つけられない確率は……。

 『もし敵の隠密スキルがお前の地図化よりレベルが高かったらどうなる』?」

「それはほとんどありえないません! モンスターが隠密スキルを保持、使用した例は今までに聞いたことがないからです」

「モンスターじゃなければ確率があるわけだな」

「そりゃそうですけど……、もう、意地悪な質問ですよ!」

 意地が悪いと言われればそうだけど……。俺はアルカが仲間とはぐれた理由を……まあいいか。本人を目の前にして、傷つける必要もないだろう。


「スギ―さん、隣の部屋に5匹密集しています!」

「ああ、分かったよ」


「『召雷』」


 そんな風にして、俺らはなんとか2階層の最奥部にたどりついたのだった。俺はもちろん怪我はないし、アルカにも見たところ外傷はない。……って当たり前か。二人とも直接戦闘を避けるようにしてきたんだから。


「スギーさん、居ました! 勇者さまたちです!」

 アルカはマッピングに表示された3つの青い点を示してみせた。

 3つの点は動かずに、下層へと進まないようだった。

「このままなら追いつけそうです。ありがとうございます、スギーさん!」


 言ってアルカは駆け出すが……。



 通路を折れたあたりから、3人の男女の話し合う声が聞こえてくる。

 声の感じがからするに、険悪な雰囲気なようだった。


「ちょっと。マルク。この先どうやって進むつもり?

 ランカの魔法も敵に通じなくなってきてる。前衛二人だけじゃ消耗戦になるだけよ」

「一度引き返そう。この洞窟を抜けた先にサイーゴの村と呼ばれる村がある。

 魔王城へと向かう途中の最後の村だ。そこで装備を整えよう。

 噂ではスキルを金を出して買うこともできるらしい。この洞窟に適した魔法もあるかもしれない」

「引き返すって、……あの子を捨ててここまで進んできたのに! 今更引き返すなんて」


 捨てる、という発言に。

 アルカの足がぴたりととまる。


「捨てる? 違う。あれは判断だ。アルカは軽騎士でここまではたしかに役に立った。

 だけどここからじゃ足でまといになる」

「だからって!」

「俺は懸命な判断だと思う」

 ずっしりと思い声がそれに賛同した。

「それにアルカはハーフエルフだ。この洞窟で受けられる精霊の加護を受けられない」

「だからって捨てるの?」

「それが本人のためだ」

「最低よ、そんなの」




 おやおや。

 なんだか碌でもない話をしているようだった。

 俺の目の前で、走り出そうとしていたアルカが。

 その足を止めていた。

 背中越しに、その表情は見て取れないが。

 ……肩が震えているのはよくわかった。


「それならそうとはっきりあげればよかったのに。

 あんなモンスター呼びの罠にはめるようなやり方……」

「……遅かれ早かれ、あいつはそうなるはずだった。

 俺は自分の判断が間違っていると思っていない」



 さあて。

 これが修羅場というやつか?

 向こうに居るのは世界を救わんとしている勇者たちパーティ御一行。こちらに居るのはそこからはぐれたハーフエルフが一人。足でまといとして切られてしまったと。

 話から察するにパーティからはぐれたのは偶然ではなく、どうやらしかけられた恣意的な罠のようで……。

 そこに俺が割って入って「お前ら間違ってるぞ」と説教を垂れるのはどうやら……俺が単なる村人だからだけではなく、部外者だから、それは違うのだと思ったのだ。

 じゃあどうする?

 見捨てられたこの少女をそのままにしていくのか?

 「勇者に再開できてよかったね、めでたしめでたし」とその後には責任を取らずに。

 それもなんだか違うような気がしたんだ。


 一つだけ、俺の中に芽生えた気持ちがあった。

 ……それは。


 仲間を平気で見捨てるようなやつらに、勇者面してほしくないってことだ。



 俺はアルカの震える方に腕を回して、耳元で助力を仰いだ。

 それは――アルカを人質にして、ほんの少しだけ勇者たちに痛い目をみてもらおうという計画だった。


「はあーーはっはっは! 話は聞かせてもらったぞ勇者たち!」

 俺は叫びながら、勇者たち一行の中へと近づいていく。俺の手の中にはナイフが握られ、その切っ先はアルカの首筋へとつきつけられていた。

「見慣れないハーフエルフが居る、勇者の仲間だというから助けてやったが、見捨てるつもりだったとはな! 魔王にもおとる畜生だな!」

「見捨てたのではない。合理的な判断だ」

 前に一歩踏み出してくる。金髪の青年。おそらくこいつが勇者マルクというやつなのだろう。

「何が合理的なものか。勇者はお人よしと相場が決まっている!

 戦力外だからと仲間を切り捨てるようなやつは、断じて勇者などではない!」

「……ふ。僕たちをなんだと思ってるんだ?

 義憤でつどったボランティア集団だと思ってるなら、それは勘違いだ。

 僕らはプロだ。魔王を退治するという目的のために集った。

 そのためになら非情に徹することも厭わないし、……そのための覚悟もできている」

「覚悟ぉおぉおぉ? 目の前でこの女が殺されても、同じことが言えるかなぁ?!」

 俺はぐっとナイフに力を込める。

「やめてください!」

 叫んだのは神官の服に身を包んだ女。

「確かに私たちはアルカを見捨てた。そうなじられても仕方ない。

 けれどやっぱり、間違ってたんだわ!」

「リーリャ。今さらだ! ここで意見を翻したところでアルカを救えるか?」

「いいえ。マルク、あなたは……」

「うるさい! 貴様らひよっこの仲間割れなんて聞くにたえん。

 ともかく俺はお前らが気に入らない。仲間を見捨てたやつも、それを止めようとしなかった奴らもな。黒炎でもって罪を贖うがいい!」


「『召雷』!」


 俺が叫ぶと、かざされた手から黒い稲光が現れ、勇者たちの驚愕の表情をよそに、「いかづち」は勇者たちパーティを一閃した。


 バリバリバリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!



 洞窟に響き渡る、黒い影。それにつられてフロア全体を揺るがすほどの轟音。

 目の前には、勇者たちの屍が死屍累々と……。



 ……。


「しまった! やりすぎた!」

 俺はナイフをほうりなげ、真っ黒焦げになった勇者マルクの身体を抱き起す。

「すまん! 殺すつもりじゃなかった。ただ反省して欲しいと思っただけだったんだ!」

「ふ……。今のは火炎と雷術両方を極めしものだけが使える「黒炎」系魔法。お前がサイーゴの村の住人だったとはな。

 ……俺らはここで死ぬが、これがアルカを見捨てた報いだったのかもしれないな」

「いやいや、死なないでくれ!」

 俺は今にも絶命しかけている勇者の身体をがくがくと揺さぶった。

 勇者の生命力が弱くなっていくにつれて、俺の中で不安が増大していく。いや、そもそも俺平和な国から来た人間だし。勢いあまって、怒りのあまり魔法の矛先を人間にむけてしまったけど、そもそも人殺したこととかないし。良心の呵責とか、それからもしかして勇者が死んだら俺が勇者にでっちあげられて、旅を再開させられるんじゃないかとか、自己保身も考えてみたりした。

 だから頼む!

 勇者よ死ぬな!


「スギーさん落ち着いてください」


 救いの声は、俺の背中から降ってきた。

 ふりかえると「うおっ」と、思わず声を出したくなるほど冷たい表情をしたアルカがこちらを見下ろしていた。あまりの驚きに勇者の身体を地面に落としてしまう。

「スギーさんなら、回復魔法が使えたはずです。

 スキルレベルが1でも」

「そ、そうだったな! マロンに教わった!

 ええい、迷える子羊を導かん! リ・ジェネレート(極大回復呪文)!」


 俺がさけぶと天からまばゆいほどの光が舞い降りてきて、勇者の全身を覆っていく。

 ……。


 ……だが。

「全然回復する様子がないぞ! だまされたのか!」

「いえ。リ・ジェネレート(極大回復呪文)は瞬時に治癒させる、といったたぐいの魔法じゃありません。

 徐々に。それから信仰心の深いものほど早く傷が癒えるような仕組みになってます」

 ……前から思ってたけど、俺の使える魔法って「召雷」以外、クセがありすぎていまいち決定打にかけるというか。使いどころが難しいとうか。ま、使いづらいわけだ。


「だけどこれで勇者たちが死ぬことはなくなったわけだ!」

 俺はもろでを上げて喜んだ。

「そうです、ねっ、と」


 アルカはがすっ、と勇者の肩をけりあげた。

「ひ、ひいいいい、な、なにをしてるんですかアルカさん」

 アルカは多少回復しているとはいえそれでもまだ動けない勇者の身体に蹴りを……それこそ何度も何度も蹴りこんで居た。

「ふん! 我ながらみじめですよ。こんな見てくれだけのボンクラに騙された私がね!

 そりゃーそうですよ、軽騎士もローグも、戦闘じゃロクに役に立ちませんもんね!

 それにアンタとランカができてたのだって知ってたんですからね!

 そのくせ、こっちにもアプローチしかけたりしてきて……いざとなったら切り捨てる。

 本当はそっちのほうがめんどくさかったんじゃないですか!」


 がすがすがすがすがすがす。


 正直、死体に鞭うつとはこのことだと思う。俺は見るに見かねて、アルカと勇者の間に割って入る。


「ま、まあ。そのぐらいにしといてやろうぜ。まさに死ぬところだったんだし」

「ふん。死ねばよかったんです! 死んだってどこぞの教会で生き返り、やり直すだけだったんだから。わざわざ回復魔法なんて使わなくてもよかったのに! 死ね! いっぺん!」


 がすがすがす!


 おお、勇者たちが死んだとしても、俺が勇者の代わりに旅にでるとかそういう致命的なイベントは起きないらしい。よかったぜ。なんせ旅になんか出たら有休どころの話じゃなくなるからな。

 あくまでも俺の目的は安定した公務員(村人)としての生活だ。世界の破滅とか、勇者の動向とかどうでもいいのだ。完全週休二日で、有休が好きなときにつかえればな。それ以上のことはない。


 そして「アルカと勇者との再会」という目的は果たしたはず……だから、万事オッケーだよな? なんか釈然としないものを感じるが。



 洞窟を出ると、久方ぶりの日差しに思わず目を細めてしまう。ああ、世界は明るい! 世界は素晴らしい!

「はああ、なんかすごく長い旅をしてきたような気がしますね!」

 と、当然のようにして俺の横に立つアルカが言った。

「……なんでお前居るんだよ」

「ひっどい! スギーさんんまで私を捨てるんですかぁ?」


 「まで」という言葉に俺は少し胸が痛くなり、黙り込んでしまう。しかしそんな俺の所作を見てアルカは苦笑すると、

「冗談ですよ。あいつらのことは許せませんけどね。スギーさんに恨みはありませんからね」

「そ、そうだよな。俺、わりといいことしたはずだし」

 俺は死体に蹴りを淹れ続けるアルカに若干怯えながら受け答えをする。

 こいつはまた同じことをする。俺が裏切ったら自分が満足するまで俺に蹴りをいれ続ける。そんなに女性経験はないが、アルカに限ってはそんな確信を持てる!


 まあそれはそれとして。

 俺は疲労を取るべく支給されたこの村の、自分の家へと向かっていたところだったのだが。家に近づくにつれ、甲冑を着た騎士団が俺の家の周りに10人程度だろうか、隊列を組んでいるのが見えた。おそらく騎士団は、警察のような役割なのだろう。村人に話を聞いては、手元に何かメモを残していた。……その中でも取り立てて白銀の甲冑をつけたリーダーらしき男と目が合った。


「お疲れさまです」

 俺が頭を下げると、

「居たぞ!」

と、そいつは俺を指さして叫んだのだった。

 その掛け声につられて、散り散りになっていた騎士団は隊列を組み、俺の周囲を取り囲んでくる。

「ど、どういうことだ……。ここは俺の家で、何か事件でもあったんですか」

 相手をできるだけ刺激しないように俺はできるだけ低姿勢になりながら、相手の様子をうかがう。

 けれど、

「貴様はPKプレイヤーキルのペナルティを犯した! 

 それだけならまだしも、死体に強盗まで働き、貴様のカルマ値は-300を下回っている。

 したがって貴様の家は没収、カルマが0に戻るまで貴様は村での生活を制限される!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺が人を殺した? 強盗?

 そんなの誤解ですって」

「貴様が勇者一行にスキルレベル25の『召雷』を行使し、絶命せしめたことは記録に残っている!

 さらには勇者の遺体を何度も蹴り続けたそうではないか!」


 あー。

 たしかに俺は勇者一行に頭に来て、感情の赴くままに魔法を使った。

 でもそのあとに回復魔法も使ったはずだろ? 完全に治癒したら復讐されそうで怖くて、放置して帰ってきたけど、結局あいつら死んだの?

 しかも死体を蹴り続けたのは俺じゃなくてアルカがやったことだ!


「……う、だが1つだけ間違いがある!

 勇者の蹴り続けたのはアルカだ! 俺じゃない!」

「アルカ殿はPCプレイヤーキャラなので、たとえ反乱を起こしてもペナルティを課されない! 問題はスギー殿、貴様なのだ! モブキャラの分際で勇者に反逆を起こすなど許されざる重罪! 即刻この処罰せねばならん!」



 おいおいまじかよ。

 俺の安定した生活は?

 週休は? 有休は?

 隣を見ると、アルカがニコニコと――いや、ニマニマと微笑んでいた。

 「やってしまいましたなぁ」と言わんばかりの笑顔だった。

 頭にきたのでとりあえず一発肩を小突いておく。

 ちくしょう! 俺はまだ捕まりたくない!


 俺は騎士団に手をかざす。

 ……けれど今度は初手から「召雷」をかますような下手を踏まない。


「『微雷』!」


 ギリギリまで制御された黒い稲光が一閃。騎士団に襲い掛かると、騎士団はみなその場にうずくまり、動けなくなっていた。


「敵を弱体化させる魔法を、覚えたほうがいいですよ」


 と言ったいつかのアルカの顔を思い出す。


 ……こいつ、こうなることを見越してたんじゃないだろうな。


「逃げるぞ!」

「へへっ、楽しそうですね!」

「楽しいわけあるか!」


 俺は心の中でそっと自分の涙をぬぐう。ぐっばい安定。さよなら有休。俺の安定した村人生活は一週間もしないうちに終わりを告げた。俺もすっかりアウトローとして生きるしかないらしい。



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