夢と春
暗いところに私は浮遊していた、さっきまでの夜の暗さではなく黒色の絵の具を辺り一面に塗りたくったような闇とも言える居心地の悪い暗さだ。
ここを見渡すと自分の体さえも認識ができない。
動かしてるつもりだが自分の肌色は愚か、黒以外は色が認識できなかった。
どのくらいたったのかはわからないが辺りから少しずつ音が聞こえるようになってきた。
雪の踏む音、アスファルトを駆けていく子供の声、いつも聞いていたチャイムの音、心地よい風が吹く音。
はっきりと聞こえてくるようになる。
少し遠くから鈴の音が聞こえた、先代猫のマメだろうか多分そうだろう。
二、三歩離れたところから聞いたことのある声が聞こえた。
「濃緑、貴女に時間をあげる。」
青ちゃんの声だった。
「時間。」
声を出したらしい、私には自分の声は聞こえなかった。
「そう、時間。四十九日は知ってるでしょ。」
緋澄の声だが口調がマメだ。
「そんなことどうでも良いでしょ。つまり貴女はもう三十日ぐらいしかないの。」
いつの間にか19日経過してたんだ、でも一ヶ月もあるじゃん。
「貴女ねぇ。言っとくけど一ヶ月で未練を無くさなきゃいけないのよ、そうなると一ヶ月しかないのよ。」
なるほどそれは大変だ。私には未練はあんまり無いのだが。
「好きな人とかいないの貴女、青璃ちゃんとか。」
まさか、女の子同士だし緋澄もそんな感情は抱けないし。
「なら桜黄くん」
……………。
「図星ね、なら目標として一ヶ月以内に告白をするってサブクエストでもたてれば良いのよ。」
図星で喋れない私に意地悪く笑い混じりにマメは恐ろしい、(多分本ミッションより難しい)クエストをたててしまった。
これを実行しないと私は黄泉の国やらなんやらに行けないってことか。
「そういうこと、じゃあ頑張ってね。」
「……くそ猫」
自分でも驚くぐらい低音で憎悪のこもった声が聞こえた。
鈴の音が遠退く、そうして完全に聞こえなくなると次はなにかが割れる音が聞こえる。
パリッパリパリ
よくみると少しずつ闇のなかに光が差し込んでくる。
眩しくてどうしようもない、いつの間にか自分の体が浮かび上がり瞬時に目を瞑った。
【19日目】
次に目を開けると雪が溶けた学校の前にたっていた。
もう春なのか少し暖かくなった感じがして、また自分だけ取り残された感じがした。
「寂しいなぁ」
ポロっと漏れた言葉は聞こえずに自分のであろう咽び泣いている汚い声しか聞こえなかった