第59話 鶲輝の生い立ち
未来からやってきたのはナイスバディな、女版貫太郎を十年くらい成長させたような美女が現れた。知的な眼鏡女性だが、どこか貫太郎とは違って雰囲気が柔らかく、愛嬌のある目元をしている。
彼女はこの召喚に驚いていないのか、周りを見やると僕らに向けて笑顔を浮かべた。
「あー、みんな若いなー!」
え? いや、ちょっと待って? 貫太郎の未来が女ってことは、これってたぶん、性別が女で固定されているってことではないだろうか。ありえるのだろうか。いや、現実世界で性転換薬を飲み続ければ、確かに女性として性別が固定されるだろうが、本当にやるか?
「懐かしい! 学生時代の濃ぉい時間を思い出すわー」
「貫太郎が美人になってる。というか本当に本人?」
「本人よー。闇音ちゃんちんまいわ。そうそう、このとき初めて性転換薬を使ったのよねー」
闇音が恐る恐る近づいていくと、大人なフェロモンを漂わす眼鏡美人が両腕で力一杯ハグしてしまった。「ぎゃー」と騒ぐ闇音を純度100%で可愛がっている。
「未来のおめーが女になっちまってるじゃねーかよ。そんなに女が良かったのかよ」
「あー、鶲輝ちゃん! ちびっ子シスターズじゃない。もうレア」
おらおらで近づいた鶲輝も捕食され、「ぎゃー」と虚しい叫びが上がった。
「貫太郎くんは未来で女性になっちゃうのー?☆」
「それはこの時代の本人の行動次第だと思うわ」
「え~? どういうこと~?」
「私は興味を持って最終的には女になったけど、女にならない世界線だっていくつもあるからね。というか私の世界線がたぶんバグだったと思うけど」
首を傾げる夜蘭と緒流流だったが、未来の貫太郎はひとつひとつ受け答えしてくれている。
「いいじゃねえか。やりたいことを見つけられたならよぉ。それが女になることだってオレは否定しねえぞ」
「女体化の魅力は確かにあるけど、ボクは双子の妹いるから女になりたい欲求はないなあ」
「えー、藤磨って妹いたの?」
「元同級生の子たちね。みんな綺麗だわ。それと、ワタシのことはメイサって呼んでね。女性名にしちゃってるから」
貫太郎改めメイサ氏は物腰穏やかに話している。両手に闇音と鶲輝をがっちり抱きしめながら。
「性格も変わってるよな」
「女になって吹っ切れたとか」
「あー、本当の私デビューなやつ?」
「そうかもしれないわね」
その後しばらく質問&雑談をしていたが、一時間を過ぎた頃、メイサ氏は「あ、そろそろ」と言ってふたりを解放した。
「じゃあ、昔のわたしをよろしくね。人見知りで距離感わからないだけで、中身はただの陰キャ男子だから」
「まるで保護者のように言うやん」
解放された鶲輝が少し怯えながら距離を取っていた。闇音をガードに持ってくるのはやめてあげて。
そう思っていたらメイサ氏はテーブルの皿を片付けていた僕に笑顔で近づいてきた。そして顔を寄せて、そっと耳打ちしてくる。やばい、大人の女性のいい匂いがする! と思ったのも束の間、その言葉に顔が引き締まった。
「ワタシのことは捕まえておいたほうがいいよ。キミならわかると思うけど、時魔術は手元に置いておいた方がいいわ」
「それは貴女のためでもある?」
「もちろん。ワタシはワタシの身を守るためによりよい未来を選んでるけど、それはアナタたちの未来も絶対良くなるはずだわ」
「元からスーパーレアの時魔術は欲しいと思っていたんだけど、時任氏がクセありすぎて後回しにしてた」
「女の子のワタシは素直で可愛いわよ。ここにいないキサラとタッちゃんと……あとはクランに入ってないんだっけ? とにかくみんなにもよろしく」
ちゅっと頬に口づけされた。「あ-!」と鶲輝や闇音、緒流流の声が重なる中、メイサ氏は光に包まれた。そして目の前には現代版女貫太郎が。
「ななな、なんで距離近いんだ!」
「あ、ごめんなさい」
「ここ、困るんだよ、ボクのパーソナルスペースは三メートルあるんだ。無闇に近づかないでくれ」
しきりに眼鏡を押し上げながら女貫太郎は離れていく。眉がつり上がったまま。
「メイサちゃんって呼んだらいいかな?」
「それは未来の姿だからなあ。いま言ったってわかんないよ」
「……いまメイサと言ったか? ななななんでその名前を知っている?」
女貫太郎が地獄耳で反応した。むしろひどく動揺している。
「メイサちゃん怒らないで」
「だからなんで知っている!」
「知ってたらおかしいかな?」
「いや、おかしくない」
「反語だな」
二年生は女貫太郎の剣幕をどこ吹く風で聞き流していた。
「どうせ好きな女の名前だろ」
「違う! ネトゲのハンドルネームだ!」
「メイサって女性名だよね~?」
「ネカマってやつだよきっと☆」
「なんだよ、女に興味津々じゃねえか」
「もうやめろよぉぉぉ!」
女貫太郎が頭を抱えだしたので、とりあえずお開きとなった。思い思いに部屋へ戻る道すがら、僕はメイサ氏の言葉を思い返していた。時魔術に関する可能性なんて、最初聞いたときから考えている。僕がこの世界に飛ばされる前の時間まで戻せないか、最短で翼蛇コアトルという神級のボスを倒すヒントを未来からもらえないか、とかだ。現状の貫太郎のレベルでは、どうやら『確定したわけではない未来の自分』を一時的に呼び出すくらいしかできないが、果たして時間移動までできるだろうか。もしタイムリープできるとしたら、未来の貫太郎が使っていない方がおかしい。未来でもできないと考えた方がいいのだろうか。いや、メイサ氏の存在のように限定的に未来から呼び出す方法はあるのだから、なにかルールのようなものがあるとか。バタフライエフェクト? タイムパラドックス? そもそも迷宮の外では魔術的な能力がかなり下がることも忘れてはならない。大規模なタイムリープを行うとしても、迷宮の中限定だとしたら? 迷宮学校の迷宮のルールで、内部で何年過ごそうが入場時の状態に戻るというものがある。このルールがなければ、在学中に親の年齢を超えてしまう可能性だってあるのだ。そういったルールが貫太郎の能力を阻害している可能性はある。ならば野良迷宮で試せばいいのだろうが、彼を連れて行くことはできるだろうか。まだ基本レベルが低すぎて、いま連れて行ったところで無駄足の可能性もある。
しかし今回の合宿イベントで、レベルは大幅に上がっていると思う。二十階層から先の適正は種族Lv.80を超える。鶲輝はLv.60を少し言ったところだったから、最初はきつかったのではないだろうか。それでもひと月もすれば80を超えるし、三か月経とうとしているいまは、90に届きそうになっている。本当ならばもう少し時間がかかるのだが、パーティを組んでいない藤磨先輩とふたりだけで魔物を狩っているため、鶲輝が倒した魔物の経験値は等分されず総取り状態だった。逆に藤磨先輩が倒した分の経験値は鶲輝に入らないので、トドメは刺さずに鶲輝に任せていた。
ときどきヒーラーの夜蘭が治癒魔術や付与魔術の熟練度を上げるために参加したり、僕がサポートで参加したときだけ分配された。非戦闘要員には必要な経験値なので、爆速でレベル上げをしたい鶲輝には悪いが我慢してもらっていた。
ともあれ貫太郎や緒流流も赤迫先輩から攻城兵器の組み立てを教わって、メキメキと土魔術の熟練度とレベルを上げていた。大砲をぶっ放して魔物を一網打尽にする様子は見ていて爽快だ。赤迫先輩が地形をイジることも教えて、袋小路をいくつも作り、そこに溜まった魔物へ砲弾の雨を降らすという戦術も指南していた。彼らは魔物と戦争をしているのかな。幸いにも魔物が一定数を切ると勝手に無限湧きするので、一夜明ければ壊滅させたはずの魔物が袋小路に溜まっているのである。
翌日から貫太郎は女貫太郎として――いや、メイサ氏として受け入れられることになった。どうせだからと三日おきに女貫太郎も性転換薬を服用することになった。本人も強く否定しないので、まあ興味はあるのだろう。しばらくは赤迫先輩の着せ替え人形になりそうである。
二十八階層、拠点、夜――。
乾いた風が荒涼とした大地を撫でていた。まばらに生えた低草がさわさわと揺れ、遠くから鳥系魔物の地鳴きが聞こえてきた。空には地球にはない星の配置で、月は三倍も大きい。迷宮内であることを忘れそうな開放感がある空間だ。涼しさに身を預けていると、後ろから急にど突かれた。
「おーい、どうした、リーダー」
「痛いよ鶲輝。湯上がりでちょっと涼みたくて」
「おー、あたしも風呂に入ったばっかだぜ」
首に腕を絡めてぐいぐいと身を寄せてくる鶲輝の体から、ほんわりとした香りが立ち上っていた。いつもはない胸の感触がなぜかする。
「なんか柔らかいものが当たる気がするんですが」
「おう、サラシ巻き忘れたぜ」
「刺激的なのは勘弁してください」
「狙ってやってねえよ!」
慌てて離れる鶲輝は、若干顔を染めて胸を掻き抱いた。そういう可愛い仕草はちょっと反則である。そのまま部屋に戻るのかと思いきや、僕の隣で月明かりの荒野を眺めだした。
「最近頑張ってるね。藤磨先輩が褒めてたよ。負けず嫌いで猪突猛進だって」
「それ褒め言葉じゃねえんだよな」
「いや、真面目な話、途中で投げ出さずに良く喰らいついてると思うよ。普通は一年掛けて実践的な状態に持って行くのに、一日目から戦闘訓練だもん」
「無茶な要求をされてたってのはわかるがよ」
「でもそれが鶲輝には合っていると思うよ。あれこれ口で言われるより、実戦で調整したほうが吸収力は高いし。闇音もそんな感じだったから」
「舎弟と同列に扱われるのも癪だけどよ」
闇音と鶲輝は割と似たもの同士だと思うのだ。本人には絶対に言わないが。気質がダウナー系とアッパー系の違いだろうか。
「……リーダーはよう、オレなんか拾って後悔してないか?」
「拾うというと語弊があるような。捨てられてたわけでもないし。一緒に十階層突破したら舎弟になれって言われたよ」
「捨てられてたよ。誰も組んでくれねえ。組んでもうまくいかねえ。理由がわからなかったんだよ。なのにここにはオレがオレのままいられる。意味が分かんねえ」
「ひとりひとりの役割がはっきりしてるからかな。いまはそれぞれが力の使い方を学んでいる状態だから、いざパーティで動き始めたらもっと窮屈になるかもしれない」
「細かいことはいいんだよ。オレのことが必要なのかどうかが大事なんだろ」
「必要だね。それははっきりと言えるよ。前衛のヒーラーとか最高じゃん」
鶲輝の目が一瞬輝いたような気がしたが、すぐにいつものへの字に戻ってしまった。しかし油断すると、への字がゆるんでいる。
「そうかそうか。オレの力が必要か。しょうがねえなあ。舎弟の頼みだ、困ったことがあったら何でも言えよ」
「鶲輝って面倒見がいいよね。なのに、ひとりだったのが不思議なんだけど」
「あたしにだって仲間がいたっつの。でも、この学校は良い子ちゃんばっかりでつまらねえよな。だから留年するくらいなら辞めようと思ってたし」
「仲間って言うと?」
「近所の姉ちゃん兄ちゃんたちだな。野良迷宮の無断侵入でみんな院送りになっちまったよ」
「そ、それは過激なご近所さんだね」
「懐かしいなあ。もう出てきたかな。出てきても地元には戻ってこなかったんだよな」
鶲輝は昔のことを懐かしそうに思い出しているのか、口元が緩んでいた。それだけで彼女が信頼していたのが伝わってくると言うものだ。
「なぁ、オニとトカゲのふたりに言われたんだけどよ、おまえって何が楽しくて迷宮に潜ってんの?」
「迷宮生活が楽しいからだけど?」
手すりに体を預けた僕らは、しばし見つめ合う。何か決定的な齟齬があるのか、鶲輝の何とも言えない顔は、言葉選びをしていて、不器用に口をパクパクさせている。
「えーと、あれだ、最終的な目的はなんだよ?」
「僕の目的は学校を超えて、強い仲間を集めることかな。最終的に、怪物を倒す最強パーティを作ること」
「倒したいボスでもいるのか?」
「いるよ。僕ひとりでは絶対に勝てない相手だから、手を貸してほしい。もちろん鶲輝にも」
「はは、まるで魔王を倒す勇者パーティみたいだな。オレはただのヤンキーだぞ?」
「ヤンキーにもなれない中途半端な不良娘でしょ」
「おまえ言うじゃねえか。ぶっ転がすぞ」
割と本気で目に殺気が籠っていたので、僕は諸手を挙げて白旗を振った。
「逆に鶲輝の目標はなんなの?」
「オレかー……なんだろうな」
床にマットを敷き、ふたり大の字に寝転がって夜空を見上げた。地上に明かりがひとつもない所為か、迷宮の中だというのに星々の輝きが鮮明に見えた。
「よかったら迷宮高校に来るまでの鶲輝を教えてよ」
「知ってどうするんだよ。」「より仲良くなると思ってるけど」
「仲良くなってどうするって話だよ」
「仲間なら仲良くなってもいいと思う」
「はっ、口説いてるつもりかよ」
頭の後ろで手を組んで、鶲輝は夜空を見ていた。白い翼がマットからはみ出て床に広がっていた。
「つまんねー話だぞ?」
「僕の過去話のほうがつまらないと思うよ」
あー言えばこう言うと愚痴りながら、鶲輝はぽつぽつと話し始めた。
三歳くらいのとき、喧嘩ばかりだった両親のうち、父親のほうが蒸発した。母親は鶲輝と生活を守るために夜の仕事をするようになる。
五歳くらいのとき、母親が酔って家に連れて来た客――元両親の後輩であった悪人面の蜥蜴人族に鶲輝は懐くようになる。学生時代の後輩だったというのは後で聞いた話で、まともな人間ではないと自分から話していた。
以後、ベビーシッターとして駆り出され、不器用な母親に代わって鶲輝の面倒を見ることになる。といっても子守経験などなく、教育委員会が目にしたら発狂ものの生活を送る。鶲輝の口調がこの頃にほぼ確定した。ヤンキーの集会場にも連れて行かれ、そこに屯していた少女たちに影響されて、ゆくゆくピアスを開けることになる。タバコに興味を持ち吸わせてもらうが、焦げ臭くて好きくないので鶲輝は吸わなかった。代わりに飴を舐めるようになる。
八歳頃、屯していた不良仲間が野良迷宮に出入りするようになり、次々にそちらに深入りするようになる。不良たちは裏稼業との繋がりもでき、危険度が増したがその分の稼ぎが多くなった。蜥蜴人も何度か野良迷宮に潜っていた。援助交際するよりも稼げてしまうため、少女でも始めるものが後を絶たなかった。鶲輝だけは幼すぎるという理由で関わらせてもらえなかった。仲間だと思っていたのに仲間外れにされたと思って、鶲輝は拗ねたのを覚えている。というかそんな危険な場所に連れて行ったとなれば、さすがの母親がぶちぎれることを蜥蜴人は恐れていたのだ。
十歳。未確認迷宮対策委員会が立ち上がり、全国的に免許を持たないものが迷宮へ入ることを大々的に取り締まりだした年だった。警察の一斉検挙によってヤンキー仲間が拘束され、集会に入り浸っていた鶲輝も巻き添えを喰らって補導される。
少年院に送られることはなかったが、母親にすべて知られてしまい、捕まった仲間のことを最底辺と侮辱し、鶲輝は初めて母親に反発した。以降母親と険悪になる。
十四歳。不登校だったが、将来を考えるにあたって迷宮に潜っていた仲間の顔を思い出し、なんとなく迷宮高校を目指すことにした。自分には頭もないし大した技術もない。あるのは不良仲間譲りの度胸くらいのものだった。
十五歳。奇跡的に迷宮高校に合格した。訣別の意味も込めて母親に入学することを告げる。
母親は、「アンタの父親はオランダ人なんだけど、母国の名前も付けたのよ。最近まで忘れてたんだけど、ここ最近よくあの人を思い出すの」と独り言のように、鶲輝の方を一度も見ずに言った。
返事はしなかった。母親は関係なく話していた。「生まれてきたときはうっすい髪で白かと思ったよ。くしゃくしゃの顔のアンタを見て、あの人は花のように可愛いと言って泣いてたわ。ナルキッシナ。それがアンタのもうひとつの名前よ」夜の仕事のために、バサバサの髪を梳かし、くたびれた肌にファンデーションを塗って皴を隠していく母親。鶲輝は姿見に移る母親の顔を直視することができなかった。
結局言葉を交わすことはなかった。母親が仕事から戻らない朝早い時間に、鶲輝は大した荷物も持たずに家を出た。蜥蜴人の兄貴を悪し様に言ったことをいまだに許していなかったが、それだけではない溝は最後まで埋められなかった。
入学したはいいものの、周りはお上品な生徒ばかりで馴染めず、見た目の初見殺しもあって軽薄な声を掛けられるが、それは鶲輝を苛立たせるだけだった。そして時間とともに孤立を深める。
このまま留年するようなら退学しようかという頃、虎牟田先生から無理やり紹介されて、教師側の救済措置の臨時パーティへ放り込まれる。ちなみに虎牟田先生はかつてのヤンキー上がりで、母親や蜥蜴人を知る先輩だった。鶲輝の様子を時たま心配してなのか、声を掛けてくることが何度かあった。鶲輝が幼い頃に一度だけ会ったことがあるのを覚えていた。虎牟田先生の傷だらけの顔は忘れようと思ってもなかなか離れてくれないから。
臨時パーティを経て十階層を攻略したが、それ以降の目標なんてなかった。ただただ迷宮というものがとても快適なものに変えるリーダーの手腕が気に入り、舎弟にすることを決めただけだ。
「あの虎牟田ってセンコー、実はあたしの兄貴分の知り合いみたいで、なんかめっちゃ目を掛けてくるんだよな」
「虎牟田先生は面倒見がいいよ。時代錯誤でパワフルだけど」
「いつかあのセンコーをぶっ飛ばす。頭に拳固落とされたこと忘れてねえかんな」
いつしか先生の悪口に話が変わっていた。迷宮高校の教員勢は変わった人間が多いのも事実である。
「虎牟田先生も暇な時間に迷宮潜ってレベル上げてるから、いまの鶲輝じゃ天地がひっくり返っても勝てないかな」
「やらなきゃわからねーだろ」
「いま鶲輝が鍛えてるダメージを受けた傍から回復するゾンビアタックが形になればわからないけどね」
「でもあれ魔力喰うし、スタミナまでは回復しねえよ」
「だから訓練して体力つけるんだよ。マッチョになっても肉体は戻っちゃうけど、ステータス上昇は変わらないからね」
「だから死ぬほどランニングさせられてるのか」
「闇音と一緒に体力付けたらいいよ。スタミナポーションで回復する方法もあるけど、やっぱりステータスは裏切らないから、上げておいて損はないし」
スキルのレベルアップとともに上昇するステータスは、スキルを外しても三割は残る。だから自分の持つ不要スキルすべてをLv.50まで上げるだけでも、そこそこのステータス値になる。しかしこれは浅層でやっていては時間と効果が釣り合わない。Lv.150推奨地帯で一気にスキルレベルを50まで上げるのが効率的だ。そして攻略組の三年生は深層付近でこれを行っているので、基礎ステータス値だけでも埋まることのない圧倒的な差ができてしまうのだ。
「僕には鶲輝の戦い方を指導することができなかったから、藤磨先輩には感謝だね」
「後ろで回復するだけなんてオレの性に合わねえし」
「それはそうだろうけど、ヒーラーは欲しかったし」
「舎弟はオレに守られてりゃいいんだよ。おまえ戦えないんだから」
「知らないの? 戦闘を禁止する制約の効果でサポート力が爆上がりしてるんだから」
「ごちゃごちゃうるせえ。オレの鉄バットの後ろにいりゃいいんだよ」
金髪で天使みたいな見た目の少女が、ヤンキーのような口調で守ってやると豪語するのだ。身長は150もない少女がこちらに寝返りを打ち、肩に拳をぶつけてくる。
金髪天使の背中に守られる自分を想像して、情けないより前に不純なことを思ってしまう。天使ちゃんの頭に顔を埋めてスーハースーハーする自分だ。なんだかダメ人間になったような気がした。白い翼だって、触れればふわふわで肌触りは良い。鳥臭さよりも柔軟剤と少女の爽やかな汗の匂いがしそうだった。サラシを巻いていない鶲輝の前面部に顔を埋めることを想像したら、なんだか犯罪臭がした。
「変なこと考えてんじゃねえ」
「ぎゃー」
気づけば鶲輝に馬乗りになられていた。下から見上げる鶲輝の胸元は、いつもよりどーんと盛り上がっていて迫力があった。トランジスタグラマー。背が低いくせに爆乳の持ち主がどれほど凶悪か、僕は思い知った。




