第57話 二年の性転換野郎ども
闇音さんアイテムボックス買った話あったよと感想で教えていただきました。
第28話「鑑定士」で確認しました汗。8/22修正しました。
ギャグもそこそこに二年の三人が講師となり、得意分野の授業を行う。クルセイダーズの藤磨先輩から近接戦の手ほどきを受けている闇音と鶲輝は、一向に当たらない短剣や釘バットを軽快なステップで避け続ける先輩相手に振り回していた。
赤迫先輩からは素早く堅固な城壁を作る訓練を課されており、緒流流と貫太郎が組み上げた防壁に対し、大砲をぶっ放して崩すというダイナミックな光景が繰り広げられていた。
《付与術師》と《治癒術師》のふたつのジョブを持つ夜蘭はやることがないかと思いきや、名無先輩から有用なバフについて教わっていた。音の出ない靴や、速く走れて疲労感を減らすズボンなど、一時的ではあるが、場面場面で攻撃や防御を上げるだけではない方法で仲間をアシストする付与術師の真髄を授けられていた。
初日から数日間は、迷宮攻略よりも各自のスキルの熟練度を先輩たちが把握し、鍛え上げることに費やされた。初日に赤迫先輩が平地に城塞のような拠点を作り上げたおかげで、魔物に邪魔されることなく、闇音などは夜蘭から付与術を授けられながら、名無先輩の指導で朝から魔物狩りに駆り出されていた。
鶲輝は近接戦の他にも、夜蘭と藤磨先輩からヒーラーとしての立ち回りを教わる重要課題がある。本人は嫌々だったが、藤磨先輩は《聖騎士》の他に《聖職者》のジョブも持っているので、近接アタッカー兼ヒーラーの立ち回りを要求されるわけで、前に出てガンガンぶっ飛ばしたいけどヒーラーの仕事もしようね、という鶲輝の課題にぴったりな人選だった。藤磨先輩は専業ヒーラーの夜蘭にも戦闘中の有用な立ち回りを教えているので、かなり有用な時間だと思う。
鶲輝と闇音と夜蘭は藤磨先輩と名無先輩のふたりが面倒を見て、赤迫先輩は緒流流と貫太郎の面倒を一手に見るようだった。
「ただの石壁を作るなら土魔術師であれば誰でもできる、わ。だが拠点作成の醍醐味は、どれだけ堅牢に作るか、あるいは、再現しようとする具体的なものがあって、いかに近づけられるか、の二点だ、わ」
「先生、思い出したような女口調はいらないでーす☆」
「そうかしら。ようやく慣れたのに、だわ」
「どこがだ」
「ごほん。本題に戻すが、城跡なら石垣の石の積み方ひとつまで拘るのが男ってもんだ」
「女ー☆ あたし女ー☆」
「究極拘るのは理解できるが、そんな時間はないと思うのだが」
「そこは錬成時間の短縮と魔力運用の効率化がネックだな。どうしたって器用さや熟練度は上げなきゃならない。だが最初は砂の城に見えたものだって、何十回、何百回作っていれば立派な城塞になるだろう。ここで重要になってくるのが、想像力を補完する知識だな。石垣ひとつとっても崩れない積み方や、あえて崩す積み方もある。自分の興味のある要塞について、座学の時間もやるからな。石垣は打込接か切込接のどちらが好きかも、最終日には自信を持って言えるようになるだろうぜ」
「そんなことまでする必要があるのか」
「でもうちらの石壁は簡単に崩されたじゃん☆ 同じ壁を作っても先輩の壁はびくともしなかったし☆ たぶん、想像するところの密度が違うんだとウチ思うな☆ 崩されない方法を知識で補うのは大事だと思う☆」
留年眼鏡とロリドワーフの緒流流が女マッチョな赤迫先輩とディスカッションしている。まずやってみて己の実力を知り、なぜ劣っているのか座学で説明して知識の必要性を説く。赤迫先輩は一見するとオラオラ特攻隊長だが、面倒見がいいし教え方も理に適っている。あのプライドばかりが高い留年眼鏡の貫太郎が大人しく話を聞いているのも、その実力と筋の通った理論を認めているからだろう。
「じゃあ今日も頑張っていこうか」
「いやじゃー」
「大丈夫大丈夫。一撃で死なない程度の敵を見繕うから」
「なにが楽しくてチキンレースしなきゃならないんだー」
「これも近接戦に慣れるためだよー。怖くない怖くない」
闇音が踏ん張って抵抗するも、ずるずると名無先輩に連れて行かれている。楽しそうな名無先輩が初日の夜に言っていたが、闇音は敏捷性をもっと伸ばせば暗殺者系の優秀なアタッカーになれるようだ。それには相手の攻撃を紙一重で避けるくらいの胆力と動体視力が必要だが、幸いにも闇音の眠っているポテンシャルは名無先輩の期待に応えるだけのものがある様子。
「あんまりビビるってことしないんだよね、あの子。感覚が鈍感なのか、想像力が乏しいのか難しいところだけど。でもそれくらい狂ってたほうが冒険者らしいよ。だってそうでしょ? 死ぬほどギリギリのエンタメを全身で試せるんだから」と目を輝かせる名無先輩は超えちゃっているタイプの人間だなと感想を持ったが、闇音の先生には中途半端よりそれくらいぶっ飛んでいたほうが頼もしい。
《神速業師》と呼ばれる敏捷系最上級ユニークジョブを持つ名無先輩のお眼鏡に適うなら、それだけの成長が見込めるということだ。伸び代しかない闇音には、ここらでいくつもの死線を潜ってもらおう。どうせ怪我しても《治癒術師》の練習になるからと夜蘭がいる。即死でなければなんとかなりそうな布陣だ。一応、闇音のメンタルがゴリゴリに削られて再起不能にならないを祈りつつ、暇な僕もときどきついていった。それ以外は大抵は拠点を住みやすいようにしたり、食事や部屋の掃除、《薬術師》のレベルを上げるための調合などを進めている。興味があったので性転換薬の調合を教えてもらおうとしたのだが、『しゅき兄』のクランリーダーの寿々木先輩が独自のルートで手に入れているらしく、門外不出のようだ。確かに複雑な調合が予想されるし、アングラでもほとんど出回らない。
「そうなんだ~。あの薬ってすごいよね~。あーしも男になれるかな~?」
「なってほしくないなぁ。中性的なイケメンになりそう」
「え~、そうかな~。ルルちゃんはショタっぽいよね~」
「それはわかる。でもどっちもホストっぽいイメージなんだよな」
「なにそれ~」
夜蘭には付与魔術を模索してもらいつつ、そのステータス上昇値を確認するという作業があった。その片手間に拠点の維持を手伝ってもらったりした。一年女性陣の洗濯物は彼女が一手に引き受け、僕は男ふたりと二年の三人を担当している。僕と同じ裏方なので、今回いちばん話しているかもしれない。料理もできるので、自然と厨房に一緒にいる時間も多くなる。他愛ない話をしたり、音楽の趣味について話すことも多かった。
「あーし、戦うのとかあんまり好きくないから~、本当は冒険者って合わないって思ってた~」
「僕も暴力はあんまり好きじゃないかな。それに、直接戦えない呪いもあるし」
「リーダーはすごいよ~。できないことを嘆いて諦めないし~、できることを徹底的に極めるし~」
「目標があるからね。夜蘭はやりたいことないの?」
「あるよ~。音楽~。でもそれってぇ、迷宮だとあんまり役に立たないし~」
「そんなことないよ。暇な時間に演奏してくれると気分転換になっていいと思う。ずっと気を張り詰めてるとすぐ限界が来ちゃうから」
「え~? そう~?」
嬉しそうにはにかむ夜蘭は火にかけた鍋で炒め物をしている。僕は野菜をザクザクと切っていく。
「ルルちゃんと藤のんは小学校からの友達でね~」
「へー、その頃から仲良かったんだ」
「ルルちゃんがいつも手を引っ張ってくれたんだよ~。藤のんは気が強くって、クラスでも仲のいいグループが違ったんだけど~、中学のときに吹奏楽部に入ったのあーしたち三人だけで~」
夜蘭の取り留めのない話を聞きながら料理を仕上げていく。中学のときから本格的に音楽にハマった三人は、より自由な校風を求めて迷宮高校を受験した。そして三人とも運が良かったのか揃って合格し、いまに至るという。
穏やかな性格で迷宮学校をやめようと思ったこともあったというが、緒流流と藤乃のふたりに励まされてここに残っているのだという。
「そしたら自分だけの目標ができるといいね。ふたりに付き合って残ってるっていうより、自分が残りたい理由があったほうが、ずっと続けられると思うし。音楽だって最初は誘われた感じだったけど、結局は夜蘭が好きだから続けてるんだもんね」
「そうだよ~。あーしだけの理由か~。難しいけど、考えてみるね~」
友人への義理で残っている夜蘭。きっとどうしようもない壁にぶち当たったとき、心が折れるのが早いと思う。だからいまのうちに、自分の中にまっすぐな芯を作った方がいい。そうしないと、姫叉羅の友人のように誰かを理由にして辞めて、そして後悔を引きずることになると思うから。
できた料理を食堂に運ぶと、朝ご飯の匂いにつられて続々と起きだしてくる。ボサボサ髪をなんとかふたつにまとめた緒流流が目をこすりながら現れ、「おはよう☆ いつもおいしいごはんありがとう☆」と元気に挨拶してくれる。本当に彼女らは礼儀正しい。
鶲輝は藤磨先輩と次の階層へ行き、近接と治癒の複合戦闘を行っているだろう。アタッカーとしては攻撃力の低い鶲輝は、やはりダメージ調整がカギになってくる。聖騎士としてタンクとヒーラーの両輪をこなす藤磨先輩は、そのまま鶲輝の完成形を示している。いや、大人しく後衛で治癒に専念してくれればいいのだが、枠に収まるタマではないので苦肉の策であった。
指導者に付いてそれぞれ行動していたが、拠点の中身は三日の間にほぼ完成に近い形で出来上がっており、必要なものは置いてあるので各自で食事や補給は行えるようになっていた。
「さー、さっそく第一村人発見だ。殺してこーい」
「うぇーい」
「言い方がちょ~物騒~」
「殺してこいと言う割に一緒に並んでいくのが意味不明」
夜蘭と僕が並んで眺めている中、駆け出す闇音とそれに余裕で並走する名無先輩が、太った一つ目オークに接敵して切り刻んで倒している。闇音は年末年始に僕が連れ回し、ひとりで魔物狩りを行っていたので、手際もだいぶ良くなっていた。もう指示しなくても背中側から魔石を刳り抜きだして、無言で僕に渡してきた。受け取った僕は、彼女の汚れた手を水で濯いであげるまでが仕事である。
「向こうに第二第三の村人だ。殺害せよぉぉぉ!」
「うぃー」
「なんで村人にたとえるのかね~」
「たぶん元ネタがあるんだろうけど」
手が乾く前に駆けだしていく闇音。敵を見つけてゴーサインを出したら、迷わず飛び出すように教えた成果が出ている。名無先輩の方は闇音にぴったりくっついて手を貸すわけでもなく、「どうした! そんなもんか!」「本気出せよ! まだできるよ!」と声かけを行っており、暑苦しさがひどい。見た目が黒髪の女子というのがなおさらひどい。あれも熱血選手の真似だろう。基本、『しゅき兄』の人たちって元ネタありきの会話ばっかりだった。
「そうだ! よくやった! 足は絶対に止めるな! おまえは止まったら死んでしまう世界最速の獣だ! 牙を研いで、よだれを垂らす獣だ! 腹を空かせて、何にでも飛びかかるバカな獣だ! 雄叫びをあげろ! うぉぉぉぉ!」
「うぉぉぉぉ!」
「おう、バカがふたりおる」
「ユニコーンて言ってもあれじゃあ雑食の獣だよね~」
しまいには名無先輩も無手で魔物に飛びかかって虐殺タイムが始まった。興奮しすぎだ。一つ目オークは周辺の魔物を呼び寄せる類いの大群系で、場合によっては連戦で疲弊して負けるようなタイプだ。だが、名無先輩と獣になった闇音は近寄ってくる傍から、ボーリングのピンを吹き飛ばすように蹴散らしていくので、どちらが手強い魔物かわからなくなってくる。討ち漏らしが見守っている僕らのほうに流れてきたところ、闇音が後ろから飛びかかって短刀を延髄に突き刺していた。血まみれの闇音が流れ作業のように魔石をえぐり出し、僕に手渡すと次に向かって弾丸のように飛んでいくのだった。
近くの魔物を殲滅するまで半日かかった。僕らは大岩の日陰にレジャーシートを広げて、暢気に昼休憩をとっている。陽射しは強いが、風が程よく吹く乾燥した気候なので、座っているだけでは不快というほどではない。
同じ階層で訓練している赤迫先輩たちの方も大砲の音が止んでいるので、とりあえず昼食にしているのだろう。闇音が食事をものすごい速さで掻き込むと、糸が切れたように大の字で眠っていた。ついでに夜蘭の膝を枕にしていて、夜蘭の方は笑いながら頭を撫でている。
「いや-、いい汗掻いたわ。おっぱいの間に汗が溜まってぬるぬるしてる」
「実況しなくていいです、名無先輩」
胸元のシャツを引っ張って手団扇で扇ぐので、目のやり場に困った。下がパンツルックなので、胡座を掻いていても問題ないのが救いだ。しかし健康的な太ももが目に眩しい。闇音もさすがに黒マントを纏ってられないので、スポーツ用の肌に密着するタイプのシャツとパンツを着ていた。夜蘭はフリルのついたノースリーブのシャツにキュロットである。十分に町中を歩ける格好だ。僕は『寿司か焼肉か』と書かれた白Tシャツに短パンである。
「このまま二十九階層まで三日おきくらいで進めば、それぞれそれなりの技術は覚えるね」
「エリアの引きも良かったですね。ここは障害物も少なくて環境もいいですし」
「風が気持ちい~もんね~」
「最後に一大イベントも用意できて、こっちとしても面白い余興だよ。キミ、よく知っていたよね」
「調べるのは好きなんです。そのうち『解析』クランに入れてもらおうと思ってますし」
「アナライズ?」
夜蘭は小首を傾げ、名無先輩はどひゃ~とリアクションをとる。
「あんな変態集団に入ろうなんてやっぱり変わってるなあ。情報は武器だってのもわかるから、筱原教授さまさまなのは間違いないけど」
「戦闘ができない分、なにかで穴埋めしないとですから」
「十分すぎるほどだと思うよ。うちらなんか荷役のやつがいても飯係とか持ち回りだけど、ここだとキミが全部やってくれるじゃん? 洗濯からお風呂まで用意してくれるとは思わなかったよ」
「ほんとそれ~。リーダーが一緒だと迷宮で困らないよ~」
「風呂の方は完全に赤迫先輩の趣味ですね。僕は水と炎の魔石を用意しただけなんで」
拠点の中にだだっ広い浴場を男・女・性転換男と三つも用意していたのだ。赤迫先輩は水はさえ張れれば気分的に問題なかったようだが、お湯が作れるのだ、風呂にしない手はない。
「毎階層風呂を作るつもりなのかな、あの着ぐるみヤンキー」
「やー、作るんじゃないですか? 緒流流と時任さんの建築技術の向上もあるでしょうけど、あれはそれとは違った職人タイプですよ。何も言わなくても噴水とか作りますね、絶対」
「仮住まいなのに永久に住めそうな豪邸を作っちゃうところが凝り性出てるよな」
「あーしはいいと思うな~。打ち込んでる男の人って格好いいと思う~」
「さて、後輩の指導に打ち込むとするかな」
「新しい調合薬の開発に打ち込もうっと」
「男子って単純~」
夜蘭がけらけらと笑い、鼻を詰まらせた闇音が「ふがっ」と寝息を立てる。
そんな昼下がりの憩いの時間だった。




