第56話 白熱する勧誘合戦
闇音さんアイテムボックス売っちゃったのにステータスにあるよと感想で教えていただきました。
姫叉羅さんのステータスから一時的にお借りしていたのかもしれません汗。8/21修正しました。
年が明けると本格的にクラン勧誘が熱を帯びてくる。
一月にもなると十階層を超えた一年が四割を超えており、十階層攻略済みというクランへの勧誘条件が解放されるために、十階層攻略の直後に声を掛けられるのが定番になりつつあった。
勧誘するのはクランの二年生がほとんどだ。三年は年度末行事のクラン対抗戦に向けて少しでもレベルアップに勤しむし、卒業後の準備もある。これからクランを背負っていくことになる二年が中心となって、次なるクランのメンバーを吟味するのだ。中には三年しかいないキワモノゲテモノクランが、やり方を間違った勧誘で一年に逃げられる光景というのも、毎年の風物詩といえば言えてしまうのだった。見えるところでいうのならば、油を塗っているのかてかてかと黒光りした筋肉を冬にも関わらず惜しげもなくさらし、海パン一丁でポージングを決めるだけの勧誘をする『筋肉同好会』のマッチョたち。向こうでは竜人オンリーの『青龍党』と鬼人を中心とした『ビック棍棒』のクランが並んで睨み合っている。
「しかし声をかけるってのは、あれだな? 緊張するな。クランのためとはいえ、僕はもう僕の代でクラン潰してもいい気がしてきた」
「いや、諦め早えだろボケ。男相手なら緊張しねえだろ。なんなら一言もしゃべらずに胸倉掴むだけで解決するじゃねえか」
「ダメだって。虎牟田飛んでくるって。そしたらぼく逃げるからな。赤迫だけで相手にしろよな」
「そんときは名無を生贄に逃げ切ってやるぜぇ?」
「……はぁぁぁぁ、ふたりともうっさいよ。同学年の女子とまともに話せない君らが、一つ下の女の子なんてもう宇宙人か何かに見えてるんじゃないかな? だろ? ボクもなんだよ……」
「『クルセイダーズ』の次期クラン長サマがよく言うぜ」
「藤磨って顔はイケメンだけど、残念イケメンってやつだから」
「モテることと女性が得意ってことは別の土俵なんだ」
並んで話している二年の三人組、実は全員クランは違うが、同じクラスメイトであった。
『しゅき兄』のスピードスターこと名無零士。
『クルセイダーズ』白の断罪士、藤磨守。
『ビッグサンタマウンテン』リーゼント特攻隊長、赤迫珀弥。
クラン同士の仲はお世辞にも良くはないが、クラスメイトである彼らは個人間では休みの日に遊びに行くくらいの友人であった。
そんな三人が並んでダンジョンエントランスで屯しているのは、一年の勧誘に駆り出されたからに他ならない。しかし三人とも共通しているのが、女子への免疫がないこと、同学年男子にも恐れられるクランであることだ。方向性は様々だが二年にしてそこそこの知名度を持っているため、一年にも変な噂が浸透し始めており、勧誘合戦に乗り遅れているのが実情だった。
そうでなくとも勧誘するのにガチガチの白鎧を身にまとった藤磨は恐れ多くて近づき難いだろうし、その隣の高身長リーゼント釣り目男は、なぜか短足ハムスターの着ぐるみ(手製)を着ているから、情報量が多すぎな上に、意味が分からな過ぎて遠巻きにされる。ハムちゃん顔のフードもあるのだが、リーゼントが崩れるという理由で絶対に被らないし指摘すればキレ散らかすのも、ツッコミどころが多すぎていっそ笑えてくる。唯一地味な名無にしたって、アニメ少女のプリントTシャツを着ている時点でお察し。
「ところで名無、そのアニメ、僕は見たことないぞ」
「何言ってんの藤磨、これは三年の水冠姫である嵯峨崎純恋さまをアニメ調にデフォルメした姿なるぞ」
「なんでリアル女をTシャツにしてんだよ。許可は取ったのかよ」
「取ってない! 取ってないけど義理の姉だからセーフ! バレたら嫌われる可能性があるけど!」
「これ、もしかして田吾作先生の?」
「そう、田児に描いてもらった! で、それを早河にTシャツにしてもらった!」
「全部他力本願でウケる」
田児と早河はどちらも『しゅき兄』のクランメンバーである。どちらも例に漏れずオタクに区分されるタイプ。
「そのTシャツいいなあ。ボクにも好きなアニメでTシャツ作ってくれないかな」
「最近田吾作先生はBLにハマってるから、たぶん藤磨と赤迫の絡みTシャツを作られちゃうね」
「そうなるとボクが攻めで赤迫が受けだろうな」
「キメーよ。なんで知らないところでBLにされてんだよ。受けってなんだよ」
「え? 赤迫のお尻に藤磨の藤磨がぶっ刺さることだけど?」
「テメェ!」
「イッタァァァァァ!! なんでボクが殴られたぁぁぁぁっ!? せめて鎧の部分を殴ってくれよ! 防具の意味がないだろうに」
「オレぁまだ童貞だぞ。なんでケツの処女を男に捧げなきゃいけねえんだよ」
「ああ、そんなセリフを公共の場で叫んだら腐った方々の妄想が捗っちゃう」
ちょっと離れたところに女子率が多いクラン『死霊館』のパーティがひそひそ男三人を見て話しているが、十中八九、腐の猛者たちであろう。赤迫は関心がないのか気にしていないが、BLを知る名無からすれば、オラオラ系のくせに童貞と豪語する押しに弱そうな赤迫と、ぱっと見は爽やかイケメンで金髪優男なのに強引なところのある藤磨は格好の題材だろう。クランメンバーの田児がすでにふたりの創作物をこさえているのはここだけの秘密である。
「まぁ落ち着けよ、ボケども。ともあれ結果を残さなくちゃここにいる意味がねえ。雑談がしたいなら教室でできる」
「赤迫だっていつものノリで話していたじゃない」
「それはそれ、これはこれだ。オレぁ次に通る一年を勧誘するぜぇ」
威勢のいいチンピラみたいな目つきで通りがかる人間すべてに睨み付ける赤迫から目を付けられるとは、災難以外の何物でもない。そして運悪く迷宮から出てきた一年パーティに赤迫がずかずかと近づいていく。
「あ、赤迫、その子たちはやめたほうが……」
「聞いてないよ? ああ見えてテンパってるんだと思うな。ところで名無くん、やめたほうがいいとは?」
「おらぁ、一年、ちょっと面貸せや」
赤迫がその高身長と無駄に愛らしいジャンガリアンな着ぐるみで道を塞ぐと、一年パーティのいちばん小さい金髪の少女が前に出てきた。
「あぁ? 誰に物言ってんだハゲ。ケージから出直してきな、ヤンキーハムスターが」
「ちょっと鶲輝、先輩相手にやめなって」
「おお? 威勢がいいじゃねえか。嫌いじゃねえぜ。その耳の牙のピアスもイカしてるしよォ」
「そういうアンタの頭は大砲かなんかかよ? 弾出んのかあ?」
「んだとチビガキがァ」
「あー? 最初にシャシャってきたのはそっちだろーがよ?」
「龍村、この子とめてー」
「了解した」
青髪ポニーテールの竜人族少女が白い翼の生えた少女を後ろから羽交い締めにすると、足が浮いて空を蹴った。その間に藤磨と名無も赤迫に追いついて、頭を下げ合う。
「この前は《荷役》で世話になったね、パーティの女の子がまた増えたみたいじゃない。うちのバカ野郎たちがまた九頭さん連れて迷宮一緒に探索したいって言ってたよ」
「その節はどうも、名無先輩。僕もいろいろ手伝ってもらったんで、むしろお礼を言いたいくらいです」
女の子の多いパーティの中、ひとりだけ影の薄い少年に名無が話しかける。『しゅき兄』の中で是非とも加入してもらいたいランキング一位の少年だが、彼は自分でクランを作るらしいので断られたことがある。しかし兄弟クランとして仲良くしようぜと今後のお付き合いも見据えているのだ。雪山エリアでまた龍村さんとダンジョン探索したいです、と太っちょがもじもじしながら週一くらいで言っているのである。ひとえに女の子ばっかりで羨ましいというモテない村の住人たちの悲しき夢である。
「名無の知り合い? なら話は早いね。『クルセイダーズ』に興味はない? いまなら手取り足取り最前線まで攻略法を伝授するよ」
「横合いから抜け駆けするんじゃねえよ。オレが最初に話しかけたんだっつうの。とまあそういうわけだ。『ビッグサンタマウンテン』のクランに入る気はねえか? いまならオレがオーダーメイドで着ぐるみ作ってやるぞォ」
「いや、いらねえけど。つか自分で作ったのかよ……」
なおも足をぶらぶらさせたまま、金髪天使が呆れた顔をして言った。
「クランに入るのはごめんなさい。あ、名無先輩、今度土魔術の要塞構築と斥候近接の基礎を教えてもらいたいんですけど、ふたつのパーティで迷宮探索してもらえます?」
「いいよ、斥候はぼくができるし、土魔術は筱原かな」
「おいおい、面白そうな話をオレ抜きでするんじゃねえよ。オレだって土系の魔術師だぜ」
「それなら自分は近接戦闘は得意だ。タンク系の立ち回りを教えてあげられるよ」
一年の少年は腕を組むと、少し考えるそぶりをした。
「……臨時パーティってことですか?」
「それも面白いかもね」
「ちょっと相談してからでいいですか?」
「ああ、いいぜぇ」
そういうことで後日、一年パーティと二年の三人組が合同訓練を行うことが決まった。女の子と迷宮に潜るという悲願が叶って、藤磨と赤迫は男子寮で吼えるほど喜んでいた。ちなみに名無は三年の嵯峨崎と仲が良くふたりきりで迷宮に潜ったりするため、三人組の中でいちばん陰キャな見た目なのにリア充でもあった。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
二年の三人組と迷宮で訓練することになった。
階層は二十一階層から三十階層ボスまでである。
こちらのパーティは僕と闇音、鶲輝と緒流流、夜蘭、貫太郎の六名だ。
緒流流と夜蘭はクランを見据えて勧誘中で、パーティの様子を見るために仮参加だった。闇音と同じ留年組の時任貫太郎がいるのは、十階層到達の一年ノルマを鶲輝と同様手伝った折に、割とパーティ参加に積極的になっているからだ。
サポートが手厚いところが琴線に触れたようだが、普段から「おまえならボクのパーティにいれてもやらなくもない」とツンデレのような態度なので本心がよくわからない。今回の参加に関しては曰く、「未来の自分からこのタイミングで参加するように置手紙があった」らしい。貫太郎のジョブはレアに分類される《時空術師》であり、スキルで一時的に未来の自分と交換することができる。それなんて十年〇ズーカ?
救済措置の際に何度かスキルを見せてもらったが、真面目で神経質っぽい眼鏡男が上等なコートを着て登場した。その未来の自分からこっそりと荷物に手紙を忍ばされていたらしい。未来自分の召喚中は現在自分の意識が眠りについている状態なのだという。それ自分の体が一時的に消えているんじゃと思ったが、貫太郎はあまり気にしていないようだ。短い間でも未来から呼び出すのはタイムパラドクスとか発生しないのだろうかと寝る前に考えてしばらく寝付けなくなったが、そもそも答えは出ない問題である。
ともあれ、未来の自分からの手紙でクランに入れてくれと頭を下げられたので――いや、下げてないか。「未来のボクからパーティに入るように言われた。未来のボクが言うんだ、この道に進めば間違いないということだ」という感じで押し切られた。姫叉羅とかあからさまに嫌そうな顔だったが、戦力になるならと文句を飲み込んでくれたようだ。
しかし貫太郎に反対したものがいた。鶲輝だった。
「オレのパーティにオマエはいらねえ」
「キミのパーティじゃないと思うんだが?」
「オレが選んだ舎弟だコラ」
「ならキミはキミでパーティを立ち上げたらいいじゃないか。舎弟なら何も言わず入ってくれるだろう? 自分に自信があるならそうすべきだと思うね」
「……それはやだ」
最初はヤンキー少女の威圧感にビビっていた貫太郎だが、初めて舌戦で勝利した瞬間だった。鶲輝も本当は自分に自信がないのだろう。これまでうまくいかず、誰ともパーティを組めていなかったのだから。
そういう経緯で六人パーティとなった。今回は龍村と姫叉羅はお休みだ。エルメスと藤吉、海姫族の彩羽と臨時パーティを組んで腕試しをすると言っていたので、それはそれでいい経験になるだろう。
とまあ彼女らとは別行動だが、昨日拉致されてちょっと怖いんだよなあ、というのが本心。そういうことも言っていられないのだが、姫叉羅なんか僕に縄をかけるとき鼻息が荒かったし、龍村は冷静に見えて目がずっと据わっていて、殺意か何かが肌にピリピリくるほどだった。冬休み中に鍛錬した結果をこんな形で知りたくなかった……。
すったもんだありつつ。
迷宮二十一階層は赤茶けた大地が延々と続く荒野エリアだった。大岩が時々ビルのように建っており、植生は茶系の灌木がぽつぽつと生えていた。このエリアの主な魔物は地を這うように駆ける鳥と筋肉達磨の一つ目オークであった。地を這う鳥は大岩を登れるようで、数十メートルの高さに巣があるのが視えた。攻撃的ではないのか遠巻きにこちらを見ている。陽射しは夏場のようにギラギラと差してくるが、空気が乾燥しているので汗ばむことはあまりない。だが水分を取らないときついので、ずっと日向にはいられない。大岩の日陰を目指して移動する。地平まで続くかと思われたエリアに、ぽつぽつと集落のようなオークの棲み処があったので、倒せるなら倒して進む。鶲輝が鉄バットを担いで意気揚々と突っ込んでいく。五、六体ならひとりで蹴散らしてしまう程度の強さしかない。ほとんど武器という武器も持っていない。ヒーラー&バッファーの夜蘭が戦闘前に付与魔術でバフを掛けているので、鶲輝は戦いやすいようだ。貫太郎はひとり少し距離を取って静観。闇音はやる気がなく暑さでバテている。緒流流はいつでもフォローに入れるように大槌を手に控えており、僕は周辺を注視していた。そんな感じで数時間進むと、次層へ続く階段が大岩の根元に刳り貫かれているのを発見した。そこにはすでに二年の先輩方が待っており、順調に合流を果たした。
「……名無先輩?」
「びっくりするかもしれないけど、これが最善と言うことになって」
何を言っているのか僕にもわからないが、二年の三人組は女になっていた。実際に目の前に男の頃の特徴をかすかに残しつつ、女になっている先輩方を前にして立ち尽くすしかなかった。
鶲輝は噴き出して爆笑し、先輩とは初見の緒流流と夜蘭は首を傾げ、貫太郎は明後日の方を見て笑いを堪えていた。闇音は興味がないのか日陰に座り込みくわっと欠伸を漏らす。
「性転換薬をうちの部長からわけてもらってね」
「あれが穏便な交渉なら、泥棒さんもサンタさんになっちゃうわね」
「AHAHAHAHA!」
なんでこの人たちは性転換した途端に手を叩いて笑うアメリカンコメディになってるんだろう。
「つまり、今回の訓練中は後輩たちを不必要に怖がらせないように女になってみたの。アタシ名無零子」
「うふふ、赤迫珀代よ」
「藤磨守里って呼んで。んちゅ」
投げキッスまでして女性になっているのに、あえて男声の野太いものを出してポージングするさまは、抜けきれない男臭さが漂っている。いや、普通に顔は女性なのだが。
「それは無用な気遣いと言いますか……」
「ん?」
「あ、なんでもないです。ところで先輩、なんか“女に”慣れてませんか?」
名無先輩はそっと目を背けた。これは性転換の常習犯確定である。そして三人は三人とも赤迫先輩の手製と思しきフード付きの着ぐるみだった。どこのうぇーい系の舐めプかと思う。町中をゴーカートで走る観光外国人じゃないんだからと言いたい。本来迷宮に着てくる格好ではないのだが、三十階層以降を主戦場にしている彼女(?)らにすれば、秋葉原で観光しているような海外ニキのテンションでも問題ないらしい。僕らのパーティが、いまさら一から十階層で危険を感じないのと同じことなのだろう。
名無先輩の着ぐるみルームウェアは白い馬――フードの馬の頭に角があるのでたぶんユニコーンで、藤磨先輩は獣耳の先端と手足の先だけが黒い、黄地の狐だった。このふたりは女子になっても一般受けする姿だが――ぶっちゃけ可愛い部類なのだが、赤迫先輩に関してはなんだか様子が違った。ひとりだけジョ〇ョの世界から抜け出してきた顔の彫りの深い女キャラみたいになっている。自慢のリーゼントが角二本みたいなお団子と後ろ三つ編みになっていて、まるで空条家の女性主人公のようだ。唇が黄緑色なのはなんでだろうね?
「アタイらが魔術の極意、教えるわよ」
「そうよ。なんでも聞くといいわ」
赤迫先輩のなぜか深みのあるアルトボイスと、藤磨先輩の落ち着いたお姉さんボイスの対比が地味に笑える。女性になると髪が伸びるのか、藤磨先輩の金髪ストレートロングは百七十の背丈も相まって、モデルかスポーツ選手のような健康的な美があった。
一方で赤迫先輩はなぜそうなったと言わんばかりのムキムキボディ。着ぐるみを脱いだら女マッスルが出てきそうだ。
「オカマ~」
「あれオカマだ☆」
「二丁目……」
僕のところの女性陣が赤迫先輩を指差してひそひそしているが、女集団の視線って男のメンタルを深く傷つけるからやめてさしあげて。しかし女になってアイアンハートを手に入れたのか、頼んでもいないのにマッスル&セクシーポーズを披露してくれる先輩たちである。何しに来たのか目的がぶれそうだった。
ともあれ、僕たちは二パーティ合同の訓練生活が始まった。どうなるかと思ったが、教え方は至極丁寧だった。性転換薬で心まで女性に近づいているのか、男性の性的視線が失われた途端に女性慣れするという不思議。
「アタイらの目的は、新人を勧誘したって名目で何かしらの活動を残すことにあるわよ。新人を引っ張ってきたかはこの際問題じゃないわ」
「はい、勧誘した人数がものを言うと思うのですが」
「入りたいヤツはなにしたって自分からやってくるだろ、わよ」
「慣れないならやめていいんですよ?」
頭をボリボリ掻く赤迫先輩から、藤磨先輩が引き継いだ。
「特にアクが強いクランは、強引に加入させたところで早晩逃げ出すに決まってる。だから、ウチのクランをどういうものか知ってもらう活動のほうが、遠回りだが加入希望者が現れるってこと」
「おいおい、クルセイダーズは怪しげな合宿を迷宮で行って、新人を洗脳するって聞いたぞ」
「……まあ、なにが正義足るかの研修は行うかな。特撮ヒーローみたいなビデオも撮ったりするし、ボクはそれが楽しくて入部したようなものだから」
藤磨先輩は柔和な笑みを浮かべているが、割とオタク気質なのかもしれない。
「赤迫のクラン(BSM)は技工士抱え込んで迷宮でライドパーティするって聞いたよ。そっちのドワーフのお嬢さんを実は狙ってるでしょ。うちの田児が結構加入がしつこかったって言ってたし」
「はぁ? 荒野ステージでワイスピごっこするのが最高に面白いんだろうが。次はニトロを機体に積めるかが課題なんだよ。ようやく時速三百キロの壁に届きそうなんだ」
「迷宮を攻略しろ」
「もちろん攻略を進めながらだぜ。ちょうどいいエリアを見つけたら爆走するって楽しみを両立させてこそのウチのクランだからよぉ」
「もうそれチキチキマシーン〇レースだよね」
「いつかクラン対抗レース大会を開きたいもんだぜ」
「盛大に脱線してて草」
ノリの良さは相変わらずである。迷宮を自分たちなりに全力で楽しんで、そのついでに攻略を進めているトップクランたちだった。何の楽しみもなく階層を更新することだけが目的なところが僕にもあったが、先輩たちの迷宮への向き合い方が本当は理想だった。確率数パーセントの魔物を手に入れるため、レア個体の出現場所を何十回、下手すれば何百回も周回する気持ちがわかってしまうのだ。
「脱線こそ我が人生。作られた道に満たされるものなどなく、自ら切り開いた道にこそ生を実感する」
「自ら開いた股にこそ性を実感する? 赤迫さんたらもう」
「おいおい、珀代さん、女の体で下ネタ言うんじゃねえですのよ?」
「てめえらいっぺん殴らせろや」
三人のコントを見ているみたいだ。女の姿でわちゃわちゃやっているのが滑稽で、それを見て鶲輝が腹を抱えてケラケラと笑っていた。彼女はお笑いの番組がいっちゃん好きだった。部屋にはディスクが揃っているらしく、ときどき闇音が付き合わされている。闇音は振り回す側だとばかり思っていたが、鶲輝のほうが相手の事情を考慮しない主人公タイプなので、舎弟認定の闇音に逃げ道はない。




