表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮世界で男子高生で斥候職で  作者: 多真樹
When a dog walks, even a ogre's eyes bring tears.
50/65

第50階層 迷宮コアの恩恵

〇感想にいろいろあったので補足

・主要人物の名前読みについて

狭間(はざま)真名(まな)…主人公

霧裂(きりさき)姫叉羅(きさら)…苦労人の鬼娘

九頭(くず)龍村(たつむら)…侍系竜娘

(まゆずみ)闇音(あんね)…自堕落系黒もっこり

岩成(いわなり)緒流流(おるる)…軽音ドラム担当ドワーフ娘

古森(こもり)夜蘭(よらん)…軽音ギター担当コウモリ娘

大上(おおかみ)真梨乃(まりの)…メス犬系狼先輩


以降、章変わりでルビ振るようにします。


・クラン名『猫股股旅団』と『猫又股旅団』どっちが正しいの?

A.『猫又股旅団』にします。

 ボス部屋を前にやったことと言えば、スタミナポーションで疲労をある程度回復したことくらいだ。水分補給をして、防具の留め金を確認すると、僕らはボス部屋へと飛び込んだ。

 薄い泥水の中からゆっくりと姿を現したのは、人型の蛇と言えばいいのか。


「腕が四本ある蛇だぜ。真梨乃パイセンは大丈夫っスか?」

「う~、大丈夫じゃないです。この迷宮は私のことが嫌いなんですか?」


 腕がある時点でトカゲかと思うが、足はなかった。立ち上がっているという表現に相応しい姿は、インドの蛇神様のようでもある。顔は蛇で、腕が四本生えていて、そのすべてに曲刀を持っていた。よくよく見ればカメレオンの指のように、二本と三本の二股に分かれて剣を握っている。


「ナシャーガ、レベルは72。ステータスは姫叉羅より上だから注意が必要だね」

「私より下なら問題はないですね」

「弱くて悪かったな」

「何を言ってるんですか。攻撃力はいちばんなんですから、いうなれば分業ですよ。私たちはひとりではできないことを、パーティで成し遂げるんです。我々のリーダーがその最たるものじゃないですか」


 ふたりの目が僕に集まった。確かに戦う能力はない。だからこそ戦う力を自分以外に求めることにした。忸怩たる思いがあるのは、間違いなく僕だろうし。


「いい機会ですし、首輪の所有権をリーダーにしちゃいましょう。姫叉羅に経験を積ませたいのであれば、私をコントロールしてしゃしゃり出ないように、《調教師》の能力で指揮下に置いてください」


 にこりと笑って見えない手綱を真梨乃は押しつけてくる。これを受け取ってしまえば、真梨乃をもはや仲間として認めないわけにはいかない。下手に出ているようで強引に押し売りしてくるという、選択肢があるようで選ばされているこの感覚はなんだろうか。


「怖いんですか?」

「思い通りに行かないのがちょっと」

「人生なんてそんなものですよ。選べるだけ幸せじゃないですか?」

「本当に選んでるんだか……」


 指にナイフで切れ込みを入れて血を滲ませると、真梨乃の首輪に触れる。そして魔力を流せば契約者の登録が完了する。一瞬だけ契約紋が浮かび上がり、首輪に封じられた。流れ込んでくる情報が、真梨乃のものだと理解できる。それでも一部だ。まだ繋がった感覚があるだけにすぎない。麾下にも置けていない。それだけジョブのレベル差があるのだ。


「これで一心同体ですね」

「どうかなあ、乗っ取られそうだ……」

「では、蛇退治と参りましょうか」

「酒を飲ませて弱体化するとかだったらありがたいんだが。酒なんて買えねえけどさ」

「あら? 鬼にも酔わせて討伐する伝説ありましたよね?」

「アタシのご先祖じゃねえよ。ケルベロスだって酒に浸したパンで眠った逸話があるじゃねえか」

「私、狼なので」

「リード渡した家犬のくせによく言うよ……」


 蛇の戦士は剣を振って構えている。こちらの出方を待っている様子だ。その余裕を借りて軽口が叩けるのだが。


「たぶん連携うんぬん私はできないと思うんで、そこは臨機応変に」

「アタシがぶっ倒しても文句言うなよ、真梨乃パイセン」

「頼もしい後輩で嬉しいかぎりですね。だけど、先輩のすごいところも見せてあげますよ」


 真梨乃の手には二本の短刀が握られていた。これまで見たことのない、鋭いイメージをそのまま形にしたような洗練されたナイフだ。ふたりの背中は頼もしく、僕はその背中を見送った。




〇〇〇〇〇〇




 蛇の戦士ナシャーガ。

 蛇に一歩近づくごとに、真梨乃の毛が逆立っていくのが手に取るようにわかった。向き合う横顔に怯えはない。むしろ笑顔を絶やさないでいるが、それが張り付いた笑みなのがこの数日間でわかるようになった。感情が乱れるときほど笑顔になっている。そうなるように自分を偽ってきたのだろう。


「ああァァァあぁァアァッぁぁぁぁ――――」


 だが、その偽りの仮面が剥がれ、剥き出しの感情が露わになった。

 それが嫌悪する蛇に対するものなのか、自分の素顔が見せられる場所になったのか、それは姫叉羅にはわからなかった。だが、ひとつだけ姫叉羅は感じたことがある。真梨乃は自分より自由に生きている。内に秘めた破壊衝動をリーダーの許可で吐き出していた。

 姫叉羅の倍のスピードでボスに迫り、四本腕から繰り出される剣戟をことごとく躱す。そして後ろに回ったところで姫叉羅が蛇のボスと対峙する。武器を振り下ろして隙のあるところに、鉄棍を思い切り振り抜く。ボスはすかさず四本腕の剣を交差してガードを作り、破壊力を乗せた鉄棍を受け止めた。姫叉羅よりも目線の高さが上で、それなりに重量もあるようだ。ずしっとした感触があって、押し切れないのがわかった。そのまま押さえつけるように踏ん張ると、ボスの背後から真梨乃が現れ、素早く口から飛び出していた舌を切り落とした。

 防御されていない首でも、目でもなく、最初に舌を切る意味がよくわからなかったが、動揺したのか重量が消えて押し切ることができた。続けざまに鉄棍を振り下ろすと、中途半端に二本の剣で受けたので、そのまま叩き壊して肩口に重い一撃を落とした。

 弱ったところに、真梨乃はダメ押しで両目にナイフを突き立てる。流石、PKパーティの常連だったことはある。エグい攻撃に躊躇がない。そのおかげでがら空きの土手っ腹に鉄棍を振り抜くことができた。

 宙に浮いて吹っ飛んだボスが水飛沫を上げて倒れる。


「〈尖鋭刃(シャープエッジ)〉」


 真梨乃が唱えたのは切れ味を増すためのスキルだ。上体を起こそうとしたボスの腕を短剣で斬り飛ばす。

 真梨乃は暗殺者寄りの戦士だが、攻撃力が低いわけではないのだ。ボスの敵意を引きながら一度も攻撃に当たらず、姫叉羅の攻撃の好機を作り、自らも敵意が外れた一瞬で奇襲を行う。かと思えば決定打を入れる攻撃力まで持っているのだから、引き出しが多くて嫌になる。それだけ真梨乃が積み上げてきた経験であり、二年分の時間を姫叉羅が羨むのはお門違いということもわかっている。

 二本目の腕を斬り飛ばしたところで、姫叉羅が土手っ腹に二度目のインパクトを叩きつける。硬直した隙を突いて残りの腕も斬り飛ばす真梨乃。振りかぶった姫叉羅が、最後にボスの頭を叩き割って終了だった。


「最後は蛇に戻ってましたね」

「せっかく蛇から進化して生やした腕を台無しにしやがったのは真梨乃パイセンでしょ」

「虫の羽根千切るみたいで楽しかったです」

「どんな遊びを昔にやってきたんスか……」


 龍村と連携して戦った雷僧兵シャクラも、龍村が攻撃を全部請け負ってくれたので戦いやすかった。真梨乃も危うげなく攻めて、姫叉羅に攻撃の機会を作ってくれて楽をしたという気持ちが強い。特に流れるような連係攻撃が決まると、ダメージを負ったナシャーガはほとんど反撃の余地がなかった。真梨乃ひとりでも問題なく戦える相手だったが、姫叉羅ひとりだと消耗戦になったと思う。最初の一撃で硬直させるまでに、姫叉羅が無数の傷を負った可能性は十分に考えられた。役割の違いと言ってしまえばそこまでだが、ひとりで何もできないと思われるのが恥ずかしい。


「ラスボスを倒したら迷宮のコアが出てくるんでしたか?」

「どこかにコアに続く道が出現すると思うんスけどね」


 リーダーはいつの間にかボスの死体に屈み込み、剥ぎ取りと魔石の取り出しを行っている。真梨乃は蛇から離れたところであたりを探っていた。この部屋への異界の入り口以外に出入り口はないため、何か変化があるか探しているのだろう。姫叉羅も周囲を見渡したが、蔦が絡まった円形の闘技場であること以外に変化はない。


「おお! これはなかなかレアな素材! こっちはなかなかのサイズの魔核だなあ」


 リーダーの無邪気な声を聞きながら、探知魔術の使えない姫叉羅は迷宮のコアというやつを探していた。ふらふらあてもなく歩いていると、視界に入った真梨乃がちょいちょいと手招いてくる。犬耳なのに招き猫みたいだと思ったのは内緒だ。


「なんスか?」

「ここの水なんだけど、なんか光ってると思いませんか?」


 すらっとした繊細な指を下に向ける真梨乃の指先を追ってみれば、確かに濁った水の中で、ほんのり緑に光っている気がする。


「私が先に触れたらどうなると思います?」

「少なくともリーダーの心象は悪くなるんじゃないっスか?」

「ですよね。ほら、姫叉羅がどうぞ」


 挑発的な真梨乃だ。本音を引き出されて、こちらの考えを測られているように思えてならない。しかし真梨乃からどうするつもりもないようなので、姫叉羅は泥の中に手を突っ込んだ。泥を掻き分け探ってみると、指先につるっとしたものが触れた。

 その瞬間、頭に浮かんだものがある。


 ――スキルスロット追加。

 ――迷宮の管理者権限。

 ――アイテム『緑沼の雫』。


 これが噂の迷宮の核なのだろう。


「頭の中にこの迷宮をどうするかの選択肢が浮かんでる」

「ちょっと待っててください。こういう判断はリーダーを呼んできて決めたほうがいいですよね」


 真梨乃がリーダーに声を掛けた。姫叉羅としては、スキルスロット追加の一択ではないかと思うのだが、緑沼の雫とやらが何なのか、レア度もどんなものなのかも見当が付かないので、確かに自分で決めないほうがいいかもしれない。

 リーダーが慌てて駆け寄ってきた。


「選択肢は何がある? 権限者以外で」

「スキルスロット追加と、緑沼の雫ってアイテム」

「アイテムはたぶん、環境系の効果があるんじゃないかな。フィールド一帯を沼にするみたいな。だったらスキルスロットのほうが有用だね。種族ジョブのほうのスロットを増やしてみて」


 沼地を召喚したところで有効活用などしようもないから、ここは言われたとおりスキルスロット一択だろう。《鬼闘士(グラディエーター)》と《重戦士(ヘビィアタッカー)》のふたつのうち、《鬼闘士》のほうのスキルスロットを増やす。

 何か変わった実感はないが、迷宮の核が自分の中に取り込まれていくのは感覚でわかった。


「終わった? なんか拍子抜けだな」

「いやいや、なに言ってるの。これがどれだけレアなことかわかってないよ。いまからなんのスキルを追加するか楽しみじゃない?」

「これが外の迷宮の特典ですか?」

「今回は当たりだったね。ハズレはアイテムかスキルくらいしかないんだ。大当たりはジョブスロットを増やせる」

「……外の迷宮の実情を隠したがるわけですね。知ってるものだけで占有して強化、というわけですか」

「今回の迷宮はそれほど難易度は高くなかったよ。Lv.100超えが一階層からうろついて、ボスはLv.1000超える魔物とか普通にあるし」

「リミットがないどこかのハクスラゲームみてえな話だな。そのうち万超えの侵略者が現れるんだろうよ」

「そうなったら一瞬で全滅ですね」

「だから生きてることに感謝だよ。毎回ね」

「そんな心配しながら毎回潜りたくねえよ……」


 覚悟がいる。少なくとも、リーダーは自分が死ぬことすら選択肢に入っている。そういう意識を持っているかどうかで、普段からの態度にも現れてくる。学校の迷宮で終始余裕なのは、野良迷宮の恐ろしさに比べれば、本当に児戯なのだとわかるからだ。この経験は、姫叉羅にも確実に活かされる。学校の迷宮では死ぬことが生きるための選択肢にある、という認識が、がらりと世界を変えてしまう。ただの仕様だと思っていたことが、本当の意味で形を持ち、自分の中に刻まれたのだ。


「じゃあ帰ろうか。汚れを落としてゆっくり休みたいね」


 肩をぐるぐる回しながら、リーダーが言う。確かに疲労感や足の重さは意識した途端にずしりとのしかかってくる。学校の迷宮なら一日くらい動き回ったところでそこまで疲労感を覚えないが、やはり死ねない環境で命のやりとりをしたという精神的な重さがあったのだろう。サラマンダーに足を持って行かれて、空中に飛び上がったときはひやりとした。体が自然に動いて撃退できたが、脳裏によぎった大怪我と死のイメージは心臓をバクバクにした。学校では薄れた感覚が、ここでは鮮明に感じられた。


「来て良かったですね。たまには緊張感のある戦闘も大事です」

「死にたくはないんで、頻繁にはごめんスけどね」

「私はリーダーが行くなら付いていきますけどね?」

「そういうところで競ってねえから」


 リーダーが異界の扉を覗き込み、外に通じていることを確認したので、迷宮が消えるまでボス部屋で休憩することになった。足場が水場なので下にレジャーシートを敷くことはできない。なのでテーブルを置いて、その上で休憩することになった。靴を脱いで上がり、桶に溜めた水で汚れを落とす。沼臭さだけでも落として電車に乗りたいところだと姫叉羅が思っていたところに、リーダーが衝立やらシャワーやらを用意し始める。


「浴槽も出しておこうか。熱石で温めるからちょっと時間いるけど、入る?」

「入る。ぜってー入る」

「ご相伴与ります」


 姫叉羅が先にシャワーで泥を落とすことになった。その間にリーダーがお湯を温めてくれる。真梨乃は休憩だ。

 装備を外して水桶に突っ込んでいく。こちらも泥を落とす必要があるし、インナーともども後で揉み洗いしなければ泥のシミが落ちないだろう。

 衝立に囲まれた中で姫叉羅は全裸になり、汗のぬめりや髪に絡まった泥を洗い流していく。自然に優しいシャンプーやボディウォッシュで隅々まで磨き、褐色の肌から汚れを落としていく。さっぱりとした体を優しい匂いのついたタオルで拭き、顔だけ衝立の外に出す。


「リーダー、風呂は大丈夫か?」

「ちょっとぬるいかもしれないけど、もう入れるよ」

「サンキュ」

「あ、装備品の汚れ落としとくから、それだけちょうだい」

「わかった」


 タオルを巻いただけの恰好で桶を外のリーダーに渡すとき、リーダーが何も見ないようにそっぽを向いていた。内心「やべっ」と思ったが、見ないようにするリーダーの気遣いに甘えてしまった。


「男性がいるのに裸になるってドキドキしますね」

「真梨乃パイセンだって男と迷宮に潜ったことあるだろ」

「体を拭くことはしますが、裸になったことはないですよ。戦乙女隊のみなさんがこの場に居合わせたらと思うと笑ってしまいますね。リーダー、両断されてるかもしれません」

「死に戻り出来ねえんだから笑えねえよ……」

「でも、びっくりしました。姫叉羅は私よりも大胆ですね」


 真梨乃よりも異性を意識しない自分に、姫叉羅は顔が熱くなるのがわかった。何ヵ月も過ごして当たり前になったことが、ほかの人間には恥ずかしいことだったときのギャップである。確かにタオルを巻いただけの恰好を晒す自分に、姫叉羅ははしたなさをいまさら感じていた。

 浴槽に沈み込む勢いで浸かりながら、真っ赤な顔をごまかすために頭まで浴槽に沈んだ。







 全員が身綺麗にしたあと、やがて迷宮が崩壊を始めたので、リーダーの指示で異界の扉に飛び込んだ。そこは入り口の石仏の並ぶ登山道であった。


「陽の光が気持ちいい~。迷宮の中はずっと曇り空だったから」


 暮れ始めた太陽を眺めてリーダーがぼんやりと漏らす。その後ろで、姫叉羅は真梨乃に耳打ちした。


「結局リーダーを品定めしてたっスよね。このままウチらのチームに入る気あるんスか?」

「当たり前じゃないですか。外の迷宮に初デートで連れてくる頭おかしい人、ほかにいないですよ」

「デートじゃねえ」

「可愛い後輩もいますしね。私は割と本気ですよ。これからも一緒に迷宮攻略頑張りましょうね」

「面の皮が厚すぎる、この人……」


 下山して電車に乗る。姫叉羅、リーダー、真梨乃の並びで、ほとんどひとのいない車内で並んで座った。夕日が差し込み、暖かな空間に眠気が襲ってくる。数駅進む間にリーダーは早々に意識を手放してしまい、姫叉羅に寄りかかって眠っていた。肩にかかる重みに安心感がある。


「真梨乃パイセンをリーダーはパーティに入れると思ってるんスか?」

「入れると思いますよ。実力は示せたと思いますし」

「まあ、斥候は欲しい人材ではあるっスから」

「リーダーは人をあんまり信用しないタイプだと思います。自分でできることは自分でしたいと思ってますね。こちらから裏切らないことが大事ですよ」

「アタシは裏切るつもりねえよ。必要だと思われるのは、嬉しいからよ」

「姫叉羅は尽くすタイプですもんね」


 地頭がいいのはわかっていたが、どちらかと言えば謀略に長けていそうな悪い笑みを浮かべている。リーダーなら真梨乃のことを『信用しつつも信頼はできないタイプ』と判断するだろう。しかし首輪を付けて隷属を誓ったところに今回の肝がある。


「アタシのことはいいでしょ別に。敵に回したいんスか?」

「仲良くやっていきたいですよ。味方になってほしいって思ってますね」


 真梨乃は実力を示し、そして信頼を勝ち取るために自らのすべてを差し出したのだ。実力を加味すれば、一瞬にして姫叉羅や龍村を追い抜いていったまである。


「これからとっても面白くなると思うんです。なんか学校を巻き込んでひっくり返してしまいそうな予感がしますね。ワクワクです」

「でも先輩は今年で卒業じゃないっスか」

「何言ってるんですか。今年は留年するに決まってるじゃないですか」

「……冗談?」

「本気と書いてガチぃです」


 眠っているリーダー越しに、ピースして屈託なく笑う真梨乃のなんと無邪気なことか。

 リーダーに将来まで差し出す覚悟なのには目を剥いた。そこまで割り切れる真梨乃の思いきりの良さが恐ろしい。三年間仲を深めてきた同級生よりも、自分の直感を信じて一年の新人にすべてを賭けるというのだ。やはりこの学校の生徒はどこかしら頭がぶっ飛んでいる。

 闇音のように人として大事なネジが抜けているまでは必要はないが、しかし自分の気持ちに正直でいられることが原動力になっているのも事実だった。自分の行動を縛るのが自分なら、自信を持って背中を押すのも結局は自分なのだ。


「私ね、姫叉羅が後輩で良かったと思ってます。本気で殴ってと言ったら、本当に殴ってくれましたから」

「殴って喜ばれてもこっちは嬉しくないんスけど」

「そういう意味じゃないですけど、ほんのちょっと被虐心が満たされたのもありますね」

「わかってるっスよ。悪いことは悪いと叱ってもらった方がすっきりするって話でしょ?」

「そうそう、姫叉羅は一本気のある真っ直ぐな性格ですから。それだけに他人を巻き込んだ問題を解決するのはなかなか苦手だと思いますけど、それでもなんとかなるとは思ってます」

「また勝手なことを」

「悩んで苦しんでいる姫叉羅を、周りが放っておかないですよ、きっと」


 ウィンクしてみせる真梨乃は、何かを確信しているようだった。自分に見えないものをいつだって見通している。姫叉羅は二年後、自分が彼女のような余裕のある女性になっているだろうかと思って、詮無いことだとかぶりを振った。なにごとも経験して、少しずつ強くなるしかない。それしか、自分を強くする方法はない。

 学校最寄りの駅に着いて寝惚けるリーダーを起こし、学校へ向かう。


「野良迷宮で真梨乃先輩の実力は問題ないと判断しました。三年生だし、トップクランに数えられるパーティで戦ってきた経験はいまの僕らには得難いものです。戦闘を見ればお手本のような無駄のない動きでしたし」

「ということは?」

「まあそうですね。首輪に契約もしてしまいましたし――」


 話しながら学校の門を潜ると、ダンス部の三年の先輩である頼岡(よりおか)咲紗(さしゃ)の姿を見かけた。向こうもこちらを見つけるなりダダダッと圧を感じさせる勢いで近寄ってくる。


「おい真梨乃! ちょっと顔出せクォラ」


 姫叉羅ほどの身長はないが、間違いなく女子でもガタイのいい咲紗先輩は、金色のたてがみヘアーを後ろに流した獅子系の獣人である。休日なので薄紫のパーカーを着ていたが、胸元が胸筋と乳房ではち切れそうになっている。


「おまえどうしちまったんだよ。学校辞める気かよ」

「そんなことするわけないじゃないですか。むしろ長く居たいと思ってますよ」

「わっかんねえなあ? それでなんで身辺整理になるんだよ。わっかんねえ。アタシバカだから、とりあえず部長のとこに連れてくから」


 ひょいと真梨乃を小脇に抱え、咲紗は姫叉羅に軽く笑顔を向けて挨拶すると、さっさと連れて行ってしまった。嵐のようだと思ったが、咲紗先輩はいつだってあんな感じだ。考えるより即行動。脳筋とは言うまい。


「途中で遮られちまったな」

「加入は問題ないけど、あっちで片が付くまで正式な合流は難しいかな」

「戦乙女隊のパーティだって男嫌いで有名だし、穏便に抜けたわけじゃないだろうから、そっちでもまだまだ荒れそうだな」

「下手に実力がある人だから、しがらみが多いんだね」

「それをいきなりぶっちぎろうとしたあの人の性格がすげえよ……」


 ふたりきりになってちょっと緊張をしていた姫叉羅だが、すぐにその空気はぶち壊される。


「おお! おまえを探しとったんじゃ。学外に出とったとはなあ」


 にこやかな顔で、今度は虎牟田先生が校舎から近づいてきた。いつものジャージ腕まくりのムキムキおっさんである。あいかわらず顔が傷だらけで、ガラガラ声に喋り方も相まってヤ〇ザにしか見えない。


「おまえに限ってないとは思うがぁ、不純異性交遊は退学処分じゃからな?」

「やだなあ、先生。いまどき男女で出かけるくらい当たり前ですよ。同じパーティメンバーですし」

「まあええ。ちぃと面倒みてもらいたいアホがおってのぉ」

「いまからですか?」

「いや、今度でええんじゃが、手伝ってほしいこともあるんじゃ」

「わかりました。いまから行きますよ」

「休みの日にすまんのぉ」


 リーダーが「ごめんね」と済まなそうに手を振った。姫叉羅は行ってこいとばかりにしっしっと払う仕草をした。虎牟田先生が生徒を頼るというのはなかなか珍しい光景だったが、リーダーが落第寸前の生徒への救済措置として十階層までサポートする仕事を虎牟田先生から引き受けているのを知っているので、いまさら疑問に思うことはない。留年している闇音だってそうだし、元のパーティを解散した龍村や姫叉羅もその恩恵で彼のパーティに仲間入りしたのだから。

 ひとりになった姫叉羅はどうしようかとケータイを弄りだした。里唯奈だったらいまから掴まるだろうか。メッセージを送ると、「いまどこぞ?」と即レスが返ってきた。「校門前」と打つとすぐに既読になり、「おけおけにゃ」という文字と、猫のスタンプが送られてきた。迎えにでも来てくれるのだろうかと思いつつなんとはなしに顔を上げた姫叉羅は、そのまま固まってしまった。正面には、不安げな顔をした私服姿の女子学生がふたり。

 それは姫叉羅が最初にパーティを組んだ女子ふたりだった。

〇ステータス表その2〇



霧裂姫叉羅 鬼人族Lv.108

 《鬼闘士》☆Lv.59

  〈咆哮〉Lv.21 〈筋力値+〉Lv.25 〈赤狂鬼〉Lv.13 〈空き〉Lv.0

 《重戦士》Lv.49

  〈破岩斬〉Lv.19 〈メイス〉Lv.22 〈骨砕き〉Lv.8


HP:2400/2400

MP:0/30-30

SP:570/570


HP:1800/1800+600

MP:0/20-20

SP:690/690


STR(筋力値):900+1850

DEX(器用値):210

VIT(耐久値):580+600

AGI(敏捷値):300

INT(知力値):230

RES(抵抗値):430+600



 メインジョブの昇格とスキル枠+1で確実に強化されている。ひとりきりで完結しない戦闘スタイルにもやもやを感じているが、上級生相手に一撃必殺を食らわせるパワーがあることを本人は気づいていない。

 ついに〈アイテムボックス〉を外して、荷物一式をリーダーに預けたが、大事なものはポーチに入れて本人以外開封禁止にしている。

 友人関係で引きずっていることもあって悩みは尽きないが、最近は急に台頭してきた真梨乃の存在にヤキモキしている。闇音と一緒にリーダーの部屋に住み始めないか心配で夜に起きてしまうとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >本当に選んでるんだか…… 強気なマゾは相手に性癖を強要するエスでもある、というアレに近い気がするね! >そういうところで競ってねえから ほんとぉ? いやしかし、刺し殴られの関係ではあ…
[一言] キサラちゃんSTR値が凄いことになってる… これで殴られて歯が折れるだけなの地味にすごいな
[一言] クラン名は『猫股又々股旅旅団』ですよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ