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迷宮世界で男子高生で斥候職で  作者: 多真樹
When a dog walks, even a ogre's eyes bring tears.
43/65

第43階層 十人十色


 死に戻りから目覚めて姫叉羅が第一にとった行動は、ほかの死に戻りの人間を把握することだった。

 闇音と龍村が隣の寝台で眠っているのを確認すると、起こすことなく部屋を飛び出す。当たり前にリーダーの姿はない。彼はむしろ単騎無双するタイプなので、姫叉羅たちが全滅したと判断した瞬間に虎の子を解放するだろうというのは想像に難くない。姫叉羅が襲撃した連中を特定しようとするのは、リーダーは自分たちの障害になるような相手を絶対に許さないと思うからだ。戦う能力が一切ない様に見えて、誰よりも苛烈に決断できるのがリーダーだった。図体ばかりがでかくて悩みにがんじがらめの姫叉羅からすれば、はっとするような判断力は理想に近かった。脳筋の自分が少しでも力になりたいと思わせる魅力がリーダーにはあるのだ。


 一年グループや二年グループ、はては三年グループまで、迷宮内の圧縮された時間経過は現実世界ではほとんど変わらないため、向こうで数日分の誤差があろうと、こちらでは数分の誤差でしかない。いまも次々に簡素な台座に戻ってきている。

 パーティごとに区切られた扉のない部屋が廊下の左右に延々と続く。簡易休憩室のような六つの寝台があるだけの殺風景なところに、戦闘衣装の学生たちが眠っていたり起き上がっていたり。まず探すべきはあの襲撃者たちの覆面の格好だった。特定させないように似たり寄ったりの地味な格好は軽装の部類だった。次に六人全員死に戻りしているから、六人パーティが揃っているところ。姫叉羅のような人間が特定しようとすることは織り込み済みだろうから、きっとすぐさま逃げるか格好を変えるだろう。だから時間との勝負だった。

 何十という部屋にまばらに感じる人の気配。パーティごとに一部屋に死に戻りするので、その顔をひとりでも覚える。姫叉羅たちと同じくらい先行する一年パーティは龍村の元パーティメンバーの古代エルフのところしかないから、一年の仕業ではないと判断しても良いだろう。


 次の部屋、次、違う、誰もいない、ひとり、五人だが重装備、上半身裸の筋肉、クラン戦乙女隊のパーティ、いない、男女がキスしてる、ふざけんな! 次もいない――


 突き当たりの奥まで進んだが、該当するパーティはなかった。可能性のありそうな二、三年の軽装パーティはいくつかあった。そこを覚えておくべきか。


「姫叉羅、殺気振りまいてどうしたんですか?」


 折り返して怪しいと思ったパーティを記憶に刻みつける作業を行っていると、背中から声をかけられた。振り返るとダンス部の先輩が立っていた。

 大上真梨乃(おおがみまりの)。ピンと立った犬耳に、白黒の混じった印象的なストレートな長髪。戦乙女隊というクランに所属する、ダンス部の副部長だ。真面目が取り柄の部長と実務一切を取り仕切る有能な副部長の組み合わせは安定感がある。


「……マリ先輩はいま死に戻りしたんですか?」

「そうですね、槍隊とはいえ気を抜くと全滅してしまいますから」


 真梨乃の所属する戦乙女隊(ヴァルキリーズ)のクランは女子のみで構成されたクランだが、所属する人数が40名を超える大型クランでもある。ゆえにパーティを三つに区切り、上下関係を作っている。姫の名を冠する選抜された六名の花冠(カロナ・フローエ)と、その下の中級部隊、騎士槍(ランケアーズ)、さらにその下の浅層で経験を積む乙女靴(パルセーター)だ。真梨乃は準一軍の扱いなのだと、戦乙女隊ファンの猫耳里唯奈から聞いたことがある。


「先輩、プレイヤーキラーを知ってます?」

「知っていますよ。殺すのを楽しむ連中ですよね。一度狙われるとしつこいで有名ですから」

「先輩も遭ったことがあるんスか?」

「さすがに花冠にまで手を出すほどの実力はないですが、槍隊と靴隊は何度か遭遇してますね。全滅させたこともありますが、結局自分が死ぬことも楽しむようなサイコな連中です。……もしかして襲われましたか?」

「ええ、たったいま。だから見つけ出して正体を暴かないとと思って」

「難しいでしょうね。手際だけは一級品ですから。痕跡を残さず、獣人の私の鼻ですら誤魔化してしまいますから」


 狼獣人の真梨乃が言うのだから、そこまで狡猾な連中なのだろう。だがなにも見つけられないまま終わることに、姫叉羅は我慢できない。なにより何の役にも立たない自分が許せない。


「じゃあマリ先輩、アタシ行きます」

「はい、姫叉羅もがんばってください」


 ひらひらと手を振る真梨乃に頭を下げ、姫叉羅は駆けだした。結局、決定的な証拠は掴むことができなかった。それでもリーダーが三十階層を突破してひとりで戻ってくるまで、探さずにはいられなかった。




〇〇〇〇〇〇




 大和撫子の顔とは別に、興味津々に光る黒曜石のようなあの瞳に、龍村は強い苦手意識を感じ始めていた。嫌いではない。ただ好奇心の強い瞳に見つめられると、何やら落ち着かない気分になるのだ。

 清楚なイメージが強い元パーティメンバーの西蓮寺彩羽である。歌姫の異名を持つ海姫族の美少女であり、龍村にはない洗練された仕草が目を引く、女性とはかくあるべきというイメージをそのまま体現したかのような柔らかな物腰だった。

 いろんな顔を持つ彩羽だが、いまは龍村の片付けの行き届かない部屋で、世話好きが発動して片付けを手伝ってくれている。私服姿の彼女は、くるぶしまであるチェックのスカートに、白いセーターを着ていた。腕まくりをして、髪をポニーテールにまとめ、白い細い腕を剥き出しにしながらテキパキとゴミを仕分けしている。龍村はパンツルックに七分丈のシャツで、動きやすさしか求めていない面白みのない格好で廊下に追い出されていた。龍村は彩羽が仕分けたゴミ袋を寮のゴミ捨て場に運ぶ役目だった。


「……襲撃者からリーダーを守ろうとして前に出たが、結局力足りず全滅してしまったんだ」

「一定数いるんですね、そういうことをする人は。人の脚引っ張ってなにが楽しいのでしょう。プンプンですよもう、プンプン」


 片付けながらも会話は続いており、彩羽の愛嬌のある幼い反応は、教室で見せる楚々とした姿からは想像もできない。龍村のパーティに関する話題ではすごい食いつきで、ころころと表情を変える。特に龍村が人生で初めて直面している恋愛相談には、ものすごい好奇心を前のめりで見せている。


「私はなにをすれば正解だったのだろうかと、いまでも考えてしまう」

「これって龍村さんの株を上げるチャンスではないですか」

「どこがだ。私はリーダーを守れなかったばかりか、死んで足手まといになってしまった」

「龍村さんの生真面目なところは好きですけど、今回はちょっとお馬鹿さんなので却下です」


 ばっさりと切って捨てる彼女に悪気はない。むしろ当事者である龍村に見えないものをすでに見ていて、遠回しにアドバイスをくれようとしているのが最近ようやくわかり始めた。単純に面白がって混ぜっ返しているようにも見えるが、きっと龍村のためになることを言っているはずだ。たぶん。

 さらさらな海を思わせる青の髪が頭の後ろで揺れている姿は、それはそれで似合っていた。小首を傾げながら、考えて考えてと催促するように微笑んでいる。女の龍村から見ても魅力的な女性の仕草だ。龍村も深海のような青みがかった黒髪を後ろで縛っているが、毛先が固いのか、はたまた髪のケアを怠っているためか、放っておくとつんつんと外に跳ね出すのだ。ストレートだが風を孕んだようにふわふわと浮く彼女の髪とは質が違っていた。


「犯人捜しなんてものは私の頭にはまったく思い浮かばなかった。そういうところは姫叉羅の方が上手だった。死に戻りしてすぐに犯人特定に動いたのはさすがとしか言い様がない。結局犯人はわからなかったが、救護室で死に戻りしていた二年生以上という条件で、かなり絞り込んでいた。私たちが死に戻りすれば、リーダーは必ず翼蛇を出して襲撃者を返り討ちにすると考えたんだ」

「龍村さんは愚直ですからね。でもそれでいいと思いますよ。頭を使う方向にも得意不得意はありますから。龍村さんが抑えるべきは、争いごとになったときの鉄壁の防波堤ですね」

「それは承知している。それしかできないのはやはり歯がゆいが」

「何言ってるんですか。龍村さんの背中に守られてリーダーさんがきゅんきゅんしちゃうかもしれないじゃないですか」


 リーダーがそういった人間ではないのは断言できる。無力なりに自分の力で切り開こうとするタイプだ。難攻不落の砦を前に足を止めるより、手持ちの能力で砦のどこを切り崩すかを延々と模索する貪欲な人間だった。だからこそ折れない強さに惹かれたのだ。彼には妥協という言葉がほとんどない。一対一でやり合えば万に一つも負けることはないが、勝負に持ち込むまでにあらゆる手を使って有利に運ぼうとする。彼の考え、そして行動に置いて行かれないようにするだけでもひと苦労だった。そういう意味では、彩羽はリーダーに似ているところがある。違うとすれば、策謀を思い浮かべても実行せずに考えるまでに留めるだけということか。もし、彩羽がその頭脳を本気で実現したら、リーダーは勝てるだろうか。ぞくりと背筋に走る悪寒は、龍村がどちら側に立っているかをまざまざと意識させるものだった。それでも龍村は、彩羽とも本気でぶつかり合いたいと心の奥底で思っていることに気づいた。これが彩羽の言う変化なら、とんでもないことだった。龍村の飼っている獣を剥き出しにしろと言っているのだから。


「龍村さんのところのリーダーさんは、襲撃者を特定するつもりなんですよね? 迷宮内ならいざしらず、こちら側では丸腰で危ないんじゃないですか? もし襲撃者のところに乗り込むにしても、どんな悪漢にも対処できてしまうスーパー用心棒がいれば心強いと思うんですけどね」

「なるほど。それは確かに。ちょっと行って護衛してくる」

「いけいけ龍村さん。男子寮だって何のその」


 やっぱり煽って楽しんでいるようにしか見えないが、柔軟な思考には感謝しているのだ。扉を勢いよく開けて飛び出したが、すぐに引き返した。


「掃除を手伝ってくれて済まないと思っている。だが、あの……」

「後はやっておきますよ。親友のよしみで。いまは一分一秒が大事ですからね」


 ぐっとサムズアップして、晴れやかな笑みを浮かべる彩羽。とても頼もしく、以前よりも活気のある表情や一歩も二歩も近づいた関係に龍村は満足していた。


「助かる。何かあれば私も彩羽の力になろう」

「そのときはよろしくお願いしますね。洗濯は任せてください」


 ベッドの下から出てきた埃被った下着を彩羽につまんで掲げられて、龍村はまた申し訳ない気分に襲われるのだった。




〇〇〇〇〇〇




 闇音はのそのそと男の臭いがする布団から顔を出した。

 どこだここはとキョロキョロし、そういえばリーダーの部屋に寝泊まりするようになったのだと思い出す。自分の部屋より片付いた、むしろ物の少ない殺風景な部屋だ。掃除が行き届いているせいで近くに食べ物がない。自分の部屋なら手の届くところにある菓子やペットボトルがまったくない。


「うう~、ごはん~」


 返事はない。部屋の中にリーダーはいないようだ。迷宮からひとり生還したリーダーは、静かに怒っているようだった。姫叉羅は犯人を特定できずに気を落としていたが、龍村は次こそはリーダーを守ると息巻いていた。闇音からすれば、終わったことをとやかく言っても仕方ないと思う。いまはぐぅぐぅと鳴るお腹を満たす方が大事だと思うのだ。

 リーダーから部屋を出るときは変装を義務付けられているので、闇音は仕方なく自分に〈擬態〉を施す。日が落ちるのが早いからか段々と元気の出てきた闇音は、いつもの黒ローブで頭からすっぽり覆って廊下に出た。


「おっとごめんね!」


 そう言ってバタバタと廊下を駆け抜けていったのは、ジャージ姿の覆面集団。太い体型からひょろいのまで揃っている。男子寮には自分みたいな奇抜な連中が多いようだ。


「廊下を走るな! 変人集団め!」


 その後ろを制服に腕章を付けた生真面目そうな男子は風紀委員で、早歩きで追いかける。バカ真面目に廊下を走らないギリギリで追いかけているようだが、それではいつまでも追いつけないだろう。それをわかって全力で逃げないあたり、ジャージ集団も真面目くんをからかい目的で煽っているのだろう。あのジャージ集団は変な名前のクランだった気がする。

 教えられた食堂を目指して歩いて行くと、長テーブルの一角になにやら人だかりができている。「クルセイダーズとビッグ・サンタ・マウンテンがまた喧嘩してるよ」と野次馬の声が聞こえてくる。「どっちも色物クランなのにな」「バッカ、クルセイダーズは冗談通じねえんだから、おまえ執行されるぞ」と囁き声を闇音の人狼の耳が拾った。

 体操着のような白いシャツで揃えたほうがクルセイダーズ、通称白騎士団のクランで、サンタの格好っぽい赤いコートや、赤鼻やトナカイの角のカチューシャを付けたコスプレ側がビッグなにがしであろうか。どちらかといえば煽るサンタに怒り心頭の白集団といった様子。見た目からしてサンタはおちゃらけたお祭り集団なのが見て取れる。それを真面目一辺倒な白集団が許せないといった光景。さっきの覆面と風紀部も同じ構図だった。


「コスプレの後輩たちを教え導くのが俺たちの優しさなんだZE?」

「貴様らに教導される筋合いはない! 我々は孤高なる正義の集団だ!」


 どっちも関わりたくはないが、あえて肩を持つとしたらサンタの方だろうか。なんだか白い方は狂信的な正義感を持って周りを威圧しているみたいに感じる。有り体にいうなら風紀部よりガチそうだ。それに、迷宮の中でなら好きなように振る舞えば良いが、普段の生活にまで正義感を持ち出さなくてもいいだろうとは思う。みんな好きなようにやって、迷惑かけなければいいじゃないかと。自分の部屋でボヤ騒ぎを起こしたことなど記憶の彼方に忘れ去っている闇音である。

 闇音は我関せず、カウンターで肉多めの焼肉定食を注文をして、お膳を持って人気の少ない隅っこに運んでいく。まだ食事の時間に早い所為か、食堂は食事よりもボードゲームや打ち合わせなどに使われて賑やかだった。女子バレー部が固まっているかと思えば、隅っこで陰気な連中が集まってなにやら怪しいポーションの取引をしているし、盤面を広げてカードゲームに勤しむ陰キャたちや、ひとり武器を磨いているぼっちっぽいレンジャーの格好の男子もいる。かと思えば制服を着た男女が肩を寄せ合いながらイヤホンを片方ずつ繋いで甘酸っぱい青春を送っていたりと、この混沌のるつぼこそこの学校の日常だった。

 いや、一番目を引くのは黒光りしたムキムキの肉体を様々なポージングで誇示しながら、立て看板に『クランメンバー募集してマッスル!!』と意気込みだけ溢れる『マッスルボディ』の人たちだろうか。女子がほしいですと看板の隅っこに書かれているのが割と切実だった。「ふん!」と暑苦しさが部屋の隅にまで届くような気さえする。見た目はサンタよりもインパクトがあるが、何分鍛え上げた体というのは嘘を吐かない。この学園は奇抜であるほど実力者であることが多いので、クラン『マッスルボディ』も例外ではなかった。通り過ぎる人に向けてニカっと笑い白い歯が輝くさまは、メンタル強者のすごみを感じて闇音はいっそう近づき難さを感じるのだった。基本的に圧が強い人間が闇音は苦手だ。


「こら! 止まりなさい! 許可のないダンス活動は禁止です!」

「うぇうぇうぇうぇ~い!」


 さっき廊下ですれ違った覆面ジャージ集団が、凜とした女生徒を筆頭にした風紀部と食堂の外で追いかけっこしている。風紀部を煽って何が楽しいのだか。なぜかオタ系ダンスに生き甲斐を見出しており、申請すれば良いのに無許可でゲリラダンスを実行し、風紀部の目に留まっては不毛ないたちごっこをしている変な人たちだ。心なしか男子に追いかけられるより嬉しそうな逃げっぷりである。小学生男子か。

 本当にこの学園は奇特な人間しかいない。迷宮学校というのを抜きにしても、自由すぎる校風だった。迷宮に潜る人間は頭のネジがどこかしら飛んでいるからこそ、こういう光景になるのかもしれない。自分のやりたいことをやりたいようにやる。責任は自分で取る。そこに躊躇はいらない。迷宮では躊躇することの愚かさを身をもって味わうから、結果的に奔放になってしまうのだろう。姫叉羅のように二の足踏んでいるタイプの方が少ないと思う。そういう子は迷宮科にどうしても馴染めず、退学か普通科に転科するからだ。

 もぐもぐしながら次の焼肉を口に運ぼうとしたところ、食器がトレイごと吹っ飛んだ。横合いから大の男がすっ飛んできて、テーブルの上の物をすべて吹き飛ばしたのだ。


「おう、すまねえな」

「ごはん……」


 横を見ると天使がいた。金髪の髪に白い翼。綺麗な顔立ちに青い瞳である。女子制服を着ているが、クリーム色のカーディガンに、スカートはすねまで届くほどに長かった。背丈は闇音とどっこいくらいに小さいのに、胸の膨らみはそこそこ盛り上がっている。トランジスタグラマーというやつである。しかし気になるところはそこではない。肩に担いだ釘バットである。可愛い顔なのに、荒んだ不良っぽい目つきは穏やかではない。


「てめえ! ただ声かけただけじゃねえか! いきなり凶器ぶん回すとか頭のネジ飛んでんのか?」


 オウムの鮮やかな黄色い冠羽根を逆立てながら、鳥人の男子が頭から血だらけで起き上がった。顔は鳥だが、背中に翼があって、二本の腕もある。金髪天使と同じ種族かと思いきや、くちばしのある鳥顔だ。一方で天使のご尊顔は人型洋ロリ系である。しかし表情がヤンキーのそれだ。耳にピアスまで空いている。普段から釘バットを持ち歩く人間が頭のネジ飛んでいないわけがないだろう。天上天下唯我独尊と書かれたコートを着ていても違和感ないくらいの雰囲気だ。


「可愛いだとか抜かすからだろうがボケ。盛ってんじゃねえよ、発情カラスが」

「オウムだよ! この美しい羽根の色が見えないのか? 口の悪さが最悪じゃねえか……」

「口臭えっていきなり言われてキレないやつがいんのか? ああん?」

「可愛いって言っただけだろ! なんで口臭レベルになんだよ!」

「口臭えんだよ、塞いどけ、ペリカン野郎」

「だからオウムだよ! おめえが口臭えって言ってんじゃねえか!」


 キザな動作で冠羽根を撫で上げる鳥男と、不満爆発寸前の金髪ヤンキー天使。いったいなにを見せられているのだろうか。それにしてもまだ二口しか食べていなかったのに。


「うちのごはん……」


 闇音は立ち上がって、殺気をばらまいた。言い合いしているふたりが弾かれたように、ほぼ同時に闇音を見る。


「うちのごはん!」


 そしてカラスかペリカンかよくわからないスカし鳥男に襲いかかった。


「なんでオレ!?」

「よっしゃやってやるぜぇぇぇ!」

「肉返せええええ!」


 勢いで釘バット女に加勢することになった闇音は、その後虎牟田先生が騒ぎを聞きつけて乗り込んでくるまで、スカし鳥男をふたりでボコボコにしてやった。手には記念品の黄色い羽根が何本も握られている。見ればヤンキー天使の手にも毟られた冠羽根があった。


「くおら、暴れ取るやつはどこじゃ!」

「逃げんぞ、チビ!」

「うううう、うちのごはん!」


 虎牟田先生に捕まらないように、食堂の窓を開け放って飛び出し逃げる。ヤンキー天使は窓硝子をバッドで叩き割って飛び出していたが、器物破損する必要が果たしてあったのか。ノリと勢い。そんな感じ。すっかり暮れた建物の裏道を駆けながら、ヤンキー天使はけらけらと笑っていた。


「ははっ! おまえ気に入ったぞ!」

「うちのごはんんんん!」

「そればっかりかよ! あははっ! アタシ鶲輝(ひたき)ってんだ! よろしくな!」

「うち、ウチ、ごはん!」

「飯じゃねえんだ、名前言えボケ」


 ぎゅいいいいっと手を握られて、闇音は思わず叫ぶ。


「あんねぇぇぇぇ!」

「アッハハハッ! 闇音ってのか! 覚えといてやるぜ」


 ヤンキー天使と顔見知りになった闇音であった。見た目は天使みたいに可愛いのに、中身は悪魔だ、と心に刻んだ闇音であった。お腹がぐーぅぅと鳴った。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、飯弁償してやれよ・・・
[一言] これは新たなパーティメンバーとなるのか、それともどこかで敵対する相手なのか、それとも……
[良い点] ものすごく久しぶりだけど、やっぱり面白い。 是非とも続けて欲しいです。
感想一覧
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