第40階層 ボヤ騒ぎ
闇音はずぼらだ。これまでの人生で日記など書いたことがないし、書こうと思ったこともない。日中は吸血鬼の特性上、昼行衰弱によりやる気が起きないし、日が暮れると獣の本能によってヒャッハーしてしまうので、真面目くさって紙に向き合うことができないのだ。だから勉強も捗らないし、学期末試験も雲行きが怪しい。二度目の一年生だというのに、だ。
部屋ではいつもごろごろしている。一度も自分で片付けたことがない一人部屋は、混沌のるつぼである。購買で買い溜めした菓子やら飲料の空容器やら、脱ぎっぱなしの衣服や制服、洗ってない下着等々。それはもう酷い有様だ。見かねたミノタウロスのような見た目の寮長がまとめてゴミを捨て、闇音ごと衣類毛布を洗濯してくれるのだが、それだって異臭がして隣の部屋から苦情があればと最低限である。闇音の特性を知って寮長は不憫に思うところもあるだろうが、結局は本人の意志の弱さが問題だった。
授業のない休日は、特に誘われるでもないと一日中ベッドの上でゴロゴロしている体たらくっぷりである。そして闇音を誘うような友人は皆無だった。ソシャゲのデイリーイベントを何も考えない頭で適当にこなすくらいしかやることがなく、日中は集中力が続かないので漫画や据え置きゲームにハマることもない。物心ついたときから闇音はこんな感じだった。両親はそんな闇音を心配したが、成長するに従って手が付けられなくなり、ついに匙を投げられ全寮制の学校へと押し込められた。
「喉かわいた……」
それでも動くのが億劫なのが闇音という少女である。風呂に入るのが面倒くさいと数週間入らなかったこともある猛者だ。どうしても空腹に耐え切れなくなったとき、手近にあったティッシュを水に浸して食べたこともある。寮の食堂へ行けという話である。
そんなズボラを絵に描いたような黒いお餅の闇音は、喉の渇きに耐えきれずに何かが浮いたペットボトルに手を伸ばした。何が浮いているのであろう。いつ買ったのかもわからない、半分よりちょっと少ない中身の茶色の内容のペットボトルだ。麦茶なんか買った覚えはないと首を傾げる闇音だが、そういう些細なことには気にしないタチである。つまみ上げようとしたのだろうが、しかし目測を誤って指に触れた途端に倒してしまう。キャップが緩んでいたのか、倒れた拍子に中身がトクトクとあふれ出していた。
「ああ~、やっちった」
それでも動かないのが闇音である。ぷーんと臭ってきた異臭に飲まなくてよかったかもとぼーっと思うくらいである。中身が広がり、無造作に散らかった衣類へ染み込み、漫画が水を吸い込んでいる。こういうことが重なって放置した結果、異臭に繋がるのである。そして不運なことに、倒したときにタコ足のコンセントへもかぶってしまっていた。刺さったプラグからプスプスと火花が発し、やがて白い煙が上がり始める。
「あ~、めんどうくさい……寝よ」
寝返りを打った闇音の背後で、しばらくしてパチッパチッとコンセントから音が鳴り、瞬間発火した。手近なシャツに火が移り、じわりじわりと火の勢いは広がっていく。闇音は狼獣人の母を持つので、嗅覚が優れている。電気が焦げ付いたようなイオン臭を比較的初期に鼻に感じていたが、面倒くさくて顔を上げなかった。
「なんか、熱い……」
部屋は暖房の効いていない十二月のうら寒い状態だ。各部屋完備の暖房をつけるためにリモコンを探すのが億劫で以下略。いつも黒いローブにくるまっているが、それで完全に暖まっているわけではない。だというのに部屋が暑い。それから空気が少し煙っている。
ゆっくりと寝ぼけ眼の顔を上げた闇音は、目の前にチロチロと燃える火を見て、「あれ? ここは迷宮の中だっけ?」と錯覚する。リーダーがいつもたき火を用意してくれるので、その火をじっと見つめるのが好きなのだ。しかしよくよく見れば、ここは自分の部屋。そして燃えているのは、学校に着用していくシャツとスカートがくしゃっと積まれた衣類の山ではないか。
「ああ~、詰んだ……」
二酸化炭素中毒で意識を失ったあとに丸焼きになるか、生きたまま火に炙られるかの二択である。逃げようと思ったのだが、入り口は燃え広がりだした炎に塞がれている。
『おい! パイセン! 焦げ臭いにおいがするんだけど、なんか燃やしてないよな? 返事しろ!』
そこに救いの手がやってきた。ガンガンと扉を叩くのは、同じパーティに所属する姫叉羅に違いない。
「へるーぷ! 死ぬ~」
扉を壊す勢いで姫叉羅が部屋に入ってくる。
「なんで部屋で火遊びしてんだよ!」
「ちゃうねん、誰かが放火したねん」
「どうせパイセンが失火の原因作ったんだろうが! 本当にいつか死ぬぞ、馬鹿! ここは迷宮じゃないんだぞ、阿呆!」
姫叉羅は炎を颯爽と飛び越え、闇音をむんずと掴みあげるなり部屋から脱出した。騒ぎが大きくなり、寮生たちのバケツリレーの甲斐あって、燃えたのは部屋の中だけで済んだ。しかし壁紙や天井が焦げてしまい、部屋を丸々リフォームして綺麗にしなければならなくなった。
その日は寮長からこっぴどく絞られ、闇音は正座のつらさを味わう羽目になった。
「……どこに住もう」
「アタシのとこは絶対無理! 寮長のとこにいけ!」
姫叉羅に助けを求めたが、とりつく島なく断られてしまった。
本当にどこへ行こうと闇音は首を傾げたが、すぐに面倒になって考えるのをやめた。生きていればなんとかなる。さっきは火に巻かれて死にそうになったが、割と何度も似たようなことは経験していた。その度に両親が青い顔をしたので、闇音も慣れたものだった。
夜が近づいている。意味もなく元気が湧いてくる時間が、闇音は好きであった。
〇〇〇〇〇〇〇〇
女子寮の寮長は、ミノタウロスのような猛牛にして鉄の乙女と名高い牛獣人だったが、男子寮の寮長はカメレオンのような見た目の近寄りがたい痩せ男だった。
ぎょろっと動く目からは感情が窺えず、内心を見透かすように無言で見つられめるので、大半の寮生は気味悪がっていた。もやしのような青白い肌に、鳥の骨のような手足からして貧弱さがにじみ出しており、オラオラ系の輩から安易に目をつけられそうなものだが、二年三年の力を誇示しそうな輩ほどこの寮長を心底怖がっている様子だった。品行方正に過ごしている人間には首を傾げるような話だが、悪いことをしてみたい年頃の生徒たちは、いっときの愉快な代償に、目を覆いたくなるほどの不条理な罰則を受けるという。
見た目通り腕っ節が強いというわけではない。カメレオンのような、という印象はまさに的を射ており、この寮長の前に隠し事はほとんどできないのだった。寮内に隠しカメラが設置されているんじゃないかとまことしやかに囁かれるほど、生徒たちの行動は寮長に筒抜けであった。煙草、飲酒、女性を連れ込んでの異性交遊。これらの禁止条項を破ったものの罰は重い。具体的には、人様にばらされたくない性癖、隠し事といったものを、もっとも知られたくない相手へとリークする謎の行動力がこのカメレオン寮長にはあるのだ。寮生の秘密を解き明かすことだけを生き甲斐にしているといってもいい。この学校にはマジでろくな人間はいないようだった。
そんなカメレオン寮長は、何気に僕のことも監視対象としてチェックしている。そういうのはなんとなく視線でわかる。ジョブが六つあって召喚獣を持っている、というのは半信半疑だろうが、古代エルフに勝ってしまったのは、当人が否定しないことから事実として広まっている。どうやらそのいくつかが耳に入ったようで、寮長の関心を買ってしまったようだ。秘密を暴かんと、ときどき廊下の角ですれ違うから不気味である。素行不良な行動はまったくないわけではないが、入学以来藤吉と女子寮に干してある下着を見に行ったくらいな可愛いレベルのものだから、あまり寮長のことを気に留めたことはなかった。
しかしここにきて、ちょっとやばいことになったかもしれない。
目覚めた途端、横に闇音の寝顔があった。頭からすっぽり黒いローブを被り、顔だけ出している。そんな黒い塊が隣で知らぬ間に息づいているのだ。規則正しく上下しているが、勘弁してほしい。燃えるゴミの日にさっさと捨ててしまいたい。そんな光景。
「なんで闇音がいるの。女子を連れ込んだら罰則を受けるのに!」
「……ふわぁ、おはちゅん」
「おはちゅんってなんだよ。朝ちゅんなんかしてないよ畜生。いや、暢気に言ってる場合じゃないし。ここ男子寮。女子寮はあっち」
壁の一部を指さすが、そちらの方向に女子寮はある。しかし闇音は顔を上げることすらせず、黒いお餅となってベッドを占拠している。
「いやー、部屋が燃えちゃって、寝るとこがなくて」
「姫叉羅に相談してよ」
「あいつ寮長のところに行けってうるさい。うちのこと養ってくれない」
「姫叉羅は当たり前のことを言っているようにしか思えないんだけど」
「うち、あの鼻息荒いミノタウロスも苦手。ブモーブモーってうるさいし、目つき怖いからやなんだよね」
「だからって男子寮来るんじゃないよ。こっちにだって怖い寮長がいるんだから」
カメレオン寮長のことを話すが、闇音はだからどうしたと慌てた様子は微塵もない。
「全部屋にカメラか盗聴器が仕掛けられているかもしれないんだから」
「そうしたら一緒に罰を受けよう、リーダー」
「なんで共犯みたいになってるのさ。僕を巻き込まないでくれよ」
「どっちみちもう手遅れじゃん?」
「開き直ったよこの人!」
さすがにカメラや盗聴器の類は部屋に仕掛けられていないと思う。生徒のプライベートを盗撮していたらそれはもう犯罪だ。ばれたら大事だから、可能性があるとしたら廊下と外だろう。後はカメレオン寮長が自身の姿を周囲に溶け込ませて探っているとかはありそうだ。カメレオンらしい擬態能力である。
「闇音はどうやってこの部屋まで来たの?」
「夜の間に外でいっぱい走り回って、疲れたから段ボールに入って休んだの。表にリーダーの名前を書いておいたら、目が覚めたときには、びっくりお部屋に到着した」
「到着したじゃないよ。セキュリティがザル過ぎて泣けてくる」
これなら段ボールを被って廊下を移動しても、誰の目にも留まらない可能性がある。どんなスニーキングミッションだよ。そういえばベッドの横に見覚えのない段ボールの空き箱があるなとは思ったのだ。部屋には基本鍵がついていないから、心優しい誰かが闇音入りの段ボールを朝一で家主を起こさないように、わざわざ部屋まで運んでくれたのだろう。心遣いに涙が出るね。どうせならゴミ捨て場に捨ててきてほしかった。
入ってしまった時点で、もはや引き返すことはできない。また段ボールに入れて運ぶくらいしか罰を受けずに闇音を放り出す方法は思いつかない。
「ぼーん」
「なにするんだ!」
考えていることを読まれたのか、段ボールの空き箱へと闇音はダイブし、ボコボコに壊してしまった。こういうことだけは妙に勘がいい。日常生活に活かしてほしいと心から思う。
「これでうちを追い出す手段はなくなった」
「また新しい段ボールを持ってくればいいだけの話」
「何度でも壊す所存」
平行線である。闇音が寝入ったときにこっそりと部屋の外に捨てに行こう。
「逆に考えるんだ。うちがいてもいいさって考えるんだ。開き直ったやつは強い」
「それ、受け容れてもらう側が言うことじゃない……」
問題はまだある。今日は月曜日で登校日なのだから、学校に行かねばならない。
「もう諦めちゃって世話しなよ。いまなら生乳見れちゃうよ」
「別に見たくないんだよ」
「うちのお世話なんて迷宮でいつもしてるじゃん」
「学生生活でまで面倒を見るのが嫌なんだよ!」
「そこをなんとか~」
「戦略的撤退!」
僕は闇音を残して自室を飛び出し、白猫の友人の部屋に転がり込んだ。
「助けて太刀衛門~!」
「突然なんですか? 丸は丸です。えもんじゃないです」
白猫太刀丸の部屋は、猫タワーが三つもあり、ベッドの上は毛布と寝床になっている。他にテーブルや家具は一切なく、あるとしたらボールやら猫じゃらしやらのおもちゃが床に散乱している。ときどき遊んで飽きたら放置なのだろう。片付けとは無縁だが、猫人族をお世話したいという変わり者がいて、そいつが適宜掃除を行っているらしい。太刀丸はさらりと感謝しつつ、ざらざらの舌で毛繕いをして過ごしているのだとか。マイペースなのはやはり猫だからか。
僕は朝起きたら闇音が転がり込んできたことを話した。
「メスを囲うの、男の甲斐性です」
「そう野性的になれないっていうか、あれをメスとして受け入れろってことに抵抗があるっていうか……」
「子ども産めれば、みんなメスです。丸も狙ってるメスいます」
「どうして獣さんはアグレッシブかなあ? 在学中はできちゃうことはしちゃだめだよ?」
確かに闇音は女性だ。胸もささやかながらあるだろうし、日焼けしていない真っ白な肌にはアザやくすみや湿疹もない。身ぐるみ剥いでお尻を突き出すようにすれば、どこに出しても恥ずかしくないまっちろい桃尻があるのを知っているが、それでも劣情に任せて襲うのかと自問すれば、それは絶対にないと言い切るだろう。むしろ夜半に暴走した闇音から逆レ〇プされる心配をした方がいい。
あの生活能力皆無のズボラさと、清貧とは無縁の金遣いの荒さ、みみっちさがどうにも引っかかるのだ。それが解消されたところでお付き合いしたいかと問われれば御免被る。何を迷ったか結婚なんてことになってしまえば、一生養っていかなければならない未来が見えている。起こしてご飯を与えて着替えさせてと、もはや介護である。
「嫌なら追い出せばいいです?」
「部屋から出すのも一苦労なんだよ。寮長に見つかったらどんなペナルティがあるかわからないし……」
「それもそうです。藤吉は寮長にえっちぃ本を見つかって一週間首から提げさせられていたです」
「あれは酷かった。性癖が暴露されて、しばらくあだ名が『鼻フックマゾ吉』だったから」
本の内容は推して知るべしである。周りから「これもご褒美なんだろ?」と笑われていたのを思い出す。藤吉にしてみれば、羞恥心はあまりないのでほぼノーダメージだったが、男から羞恥プレイされても嬉しくはなく、女性に酷いことをされるから悦びが生まれるらしい。少し理解できてしまうのが男の性だろうか。その一件があっても平然としているメンタルの強さは純粋にすごいと思った。
「授業あるのにこのままってわけにもいかないし。でも一緒にいるところを誰かに見られるのもやばいし」
「丸は構わないですが、向こうはそうは思ってないようです」
太刀丸がちらりと扉の方を見たので、僕も振り向く。ここにいてはならない黒い生き物が少し開いた扉からこちらを覗き込むようにべったりと張り付いていた。闇音である。顔が青白いので、ホラーチックで怖い。
「なんでここにいるの!」
「臭いを辿ってきた。今日からうちのご主人様だからね。にゃん!」
「君は犬だろぉぉぉぉ! 犬はワンだろぉぉぉ!」
そこは譲れない一線だった。傍から見たらどうでもいいかもしれないが。寮長に見つかる前に部屋に招き入れたものの、廊下が監視されていたらもはや手遅れかもしれない。
「大丈夫じゃない? だってうち、〈擬態〉のスキル使ってるし」
「僕らには何にも変わってないように見えるけど」
「丸には線の細い男子に見えるであります」
「言われてみれば……」
「何も考えない闇音さんじゃないのさ。キラッ☆」
目元にピースはイラッとするのでやめていただきたい。緒流流信者なのはわかったが、ウインクが絶妙に下手で、閉じていない方が引っ張られて半開きである。
「今日はここで寝るの? うちもリーダーと一緒する」
「ここに居着くなら丸と戦争です」
「え、太刀丸さんそこまでなん?」
「あー、お腹空いた。リーダー、ご飯まだ?」
話題がコロコロと変わる闇音について行けそうにない。そもそもついて行ったこともなかったと思い直し、話半分に聞き流そうと思った。
「丸はごはん食べに行きます。お腹空いたです」
「そっか。もう朝ご飯の時間か」
「じゃあ行こうよ。ごはんを食べに」
キラッ☆と指を添えるのをやめていただきたい。朝なのでローテンション気味なのが微妙に合わないのだ。寮長に見つかる恐れもあるので部屋で大人しくしていてほしい。
「やだ」
言うと思った。
闇音に強く言ったところでしたいことをしたいようにするだろう。ということは口で止めても無駄なのだ。一刻も早く《調教師》のジョブを取得して、彼女の行動を制限すべきだ。非人道的なのはわかっている。だが、だが、他の人にも迷惑がかかる前にこちらで調整してあげた方が世のため人のためではないだろうか。実際女子寮の部屋でボヤ騒ぎを起こしてるのだ。
そういうわけで部屋を出て、いざ寮の食堂へ向かおうとしたところで、廊下にあろうことか寮長がぬるりと立っていた。
カメレオンのようにぎょろぎょろと左右別に動く目の動きが不気味な、眼鏡をかけた神経質な痩せ男だ。髪はいつも七三に分けられている。
「おや、狭間くん、奇遇ですね、ちょうど話したいことがありまして。時間はありますか? ありますよね。これから食堂でごはんですか? その前に数分でいいのでお時間とってもかまいませんね?」
ぎょろぎょろの目が、首に巻くように乗った太刀丸と、僕の後ろの闇音へと向けられる。早速見破ったのではとドキリとした。
「その後ろの彼、寮生ではないようですが、ボクの記憶違いでなければ寮生ではないですよね? 入寮の申請は受けていませんが、狭間くんともあろうまじめな寮生が忘れているわけではありませんよね? まさか規則を知らないわけではないはずですが、いま一度確認を取る必要があると感じましてね」
寮長に嘘はほとんど通じないと思っていい。闇音の〈擬態〉は効果を発揮しているようだが、どこからばれるかもわからない。僕の部屋から擬態した闇音が出てきたことも知った上での詰問に違いない。
「ええ、寮長。この子は男子寮の寮外の子です。ルールを知らずに部屋に勝手に忍び込んできてしまったようです。事情があって、今日から数日僕の部屋で泊めることになったので、申請書もこれから出します。その話をいま太刀丸としていまして、結果的に僕の部屋になったので、これから寮長に話しに行かなきゃと思っていたところだったんですよ」
慎重に言葉を選びながら話す。「これから」と「思っていた」というワードがミソだ。嘘を一切吐いていない上に前向きに検討していました、という姿勢を見せることができる。
「えー、泊めてくれるの? リーダー最高。一生養って」
「こっちは一時的なつもりだから。ちょっと黙ろうか」
闇音が余計なことを言ってばれる可能性に背筋が寒くなる。
「ふむ。ところで後ろの君、女の子のようにも見えますが、男の子ですよね? ボクの目の錯覚でなければ、六割の確率で男性なのですが」
「キラッ☆」
なんでそこでピースをするのか。余計なことを言わないだけマシだが。
「寮長、そういえば女子寮の子から聞いた話なんですが……あ、その前に寮長、女子寮の寮長のことを知ってます?」
「ええ、存じていますよ。ミノタウロスのような女性でしょう? 筋肉ムキムキですね。いかにもなパワー系で女子寮を守っているそうですが、それが何か?」
「その女子寮のミノタウロスさんがですね、実はお付き合いしたことがないらしくて、誠実な男性を探しているらしいんです。寮長はその手の話に興味ありますか?」
「……処女ですか?」
「ええ、処女で間違いありません。お付き合いしたことも男性の手を握ったこともないと言っていましたから」
急に何を言い出すのかと思ったが、話を合わせることの方が大事だ。そして闇音から気を逸らさせることも。ちなみに手を握った云々の女子寮寮長だが、男の手を握り潰したことなら何度かあるそうだ。
「ボクは常々、意中の異性のみに身を捧げ、生涯を通して互いに尽くすべきと思っていまして。そういう身持ちの堅さは評価できますね。女性の容姿に関してはボクはあまりうるさくないタチなので、つまりは処女ということの方が重要なわけです」
「そういうことです、寮長」
どういうことなんだかわからないがフィーリングである。時代錯誤的な価値観については大いに処女厨氏ねと言いたいが、とりあえずヨイショ作戦で切り抜けよう。
「女子寮の子もミノタウロスさんに相手がいないのを心配していまして、寮長がよろしければ紹介する機会を用意しますが」
「それは嬉しいご相談ですね、狭間くん。ですがやめておきましょう。お互いのことをまず知るのが先決だと思うわけです。そうあからさまにお見合いをしてしまっては、がっついているように思われるわけです」
「ねえ、お腹空いたから食堂先行っていい?」
横から口を挟むなよ、いまいいところなんだから。手でしっしとやって、忘れていた太刀丸を闇音の頭に乗せる。ふたりに食堂に行ってもらう間に、寮長を懐柔しよう。
「ええ、わかります、寮長。自然なふうを装って、まずは知り合うことから始めましょう。僕も全力で協力しますよ。寮長の幸せは、ひいてはこの寮で暮らすみんなの幸せですから」
意訳)おまえが女にうつつを抜かしていれば、その分寮則がガバガバになるからな。
「君は話がわかる子だ、狭間くん。どうやら嘘をついている様子もないですし、少し部屋で話しましょうか。偶然知り合うためのきっかけが必要ですからね」
「ええ、寮長」
誘導はうまくいった。このあと登校ギリギリまで、どうでもいい「偶然の出会い」について検討した。おかげで朝食を寮長と相席で摂ることになって、メシマズな上にとても愉しくない食事の時間であった。
しれっと更新始めたら割と見てくれてる人多くてうれしいです
感想が励みになります
☆
話は変わりますが、感想で聞かれたのでいくつかお答えします。
連載中の『異世界旅行は落ち着かない』は更新できなくて、
ノクターンに移して書き直している『性魔の赤魔導士~ハーレム目指す!~』が
『迷宮世界で男子高生で斥候職で』の投稿に区切りついた後、更新すると思います
いずれノクターンのほうが追い付いたら、全年齢版のほうはしれっと消してノクターン一本にまとめようかなと思ってます
未成年キッズよ、すまぬな。少ないとは思うけども




