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迷宮世界で男子高生で斥候職で  作者: 多真樹
Obstinate Dragonewt and Field dungeon.
34/65

第34階層 危急到来

 男は斥候と荷役をやると言い、常にパーティの先頭に立って岩場を音もなく歩いた。その後ろを防具で固めつつも端々にギャルのキラキラ感を残すふたりが緊張感のないお喋りに興じつつ歩き、むすっとした龍村がしんがりを務めた。

 龍村は無意識に男の後ろ姿をジッと追っている。もちろん背後の警戒も怠っていない。ギャルふたりに言わせれば「警戒のしすぎ」らしいが、ほぼ確実に咄嗟の行動が取れないのがギャルふたりだろう。黒髪の男は不思議と場慣れしているように感じた。警戒しすぎてもいないが、気を抜きすぎてもいない。そんな感じだ。

 それに、身のこなしは悪くなかった。敵の捕捉も早く、最後尾とはいえ五感に優れる竜人族の龍村よりも早く見つけ出している。しかし戦闘能力がないので、男の後ろを歩くふたりに先を譲り、魔物を倒してもらっていた。締まらない姿だ。


 出現する魔物は大型犬ほどもある芋虫だった。壁や天井、地面にへばりついて動かないときもあれば、岩肌の苔を食事中ということもあった。一階層はほとんど動かず、まさに的だ。経験値が入るので道中倒していくが、天井にへばりついた芋虫はさすがに放っておいた。

 ジメジメしたエリアのようで、全体的に湿っぽい。だから苔も生えるのだろうか。その苔を主食にする芋虫が大発生なのか。どうでもいいことか。


 移動は思ったよりも速かった。無駄がないのだと、男の動きを見ていて気づいた。倒した魔物から素材となるものを選別する動作、休憩のタイミングなど、合理的で文句の付け所がない。その癖、文句も言わず自身がいちばん動いているのだ。斥候に、休憩の合間のカロリー補給と、準備はすべて瞬く間に男が用意した。

 なぜジメッとした洞窟の中で、折りたたみの椅子に腰掛け、湯気の上がるレモンティーを飲んでいるのか。ギャルのふたりはキャッキャッとはしゃぎながら、皿受けのクラッカーをついばんでいる。

 これが迷宮攻略なのか。龍村はここまでに一度も槍を振っていないことに気づく。


「口に合わなかった? よければおかわりもあるけど」

「……もらおう」


 なんというか、余裕があった。その余裕がなかったから、龍村はこれまでの臨時パーティでギスギスしていたのだ。そして、その余裕を生み出しているのが、まさしくこの男だ。


「あっし、これ知ってる~。執事みたいな~」

「執事喫茶で働きなよ☆」

「うーん……それよりも迷宮のほうが稼げるからね」


 男が一瞬視線を逸らした。あまり突っ込んでほしくない話題なのかもしれない。そもそもが高レベルの召喚獣を所持している時点で、普通の生活を送る意味がわからない。その一体をうまく使えば、ソロでだって攻略ができるだろう。少なくとも、この学校でトップレベルと呼ばれる三年生クランの最前線で戦えることは間違いない。


「小遣いどころじゃないもんね、収入。それわかるわ~」

「家建つもんねー☆」

「そういえばこの間のライブどうだったの?」


 会話する男をじっとりとした目で観察する。その間も警戒はしているから、もはや性分だった。そしてレモンティーをこくり。おいしい。口に広がるレモンの酸味と紅茶のわずかな渋みが休憩にちょうど良い。なんで迷宮でこんな贅沢をしているのか。いままでの自分を完全否定しているようだ。生肉を食べて腹を壊したり、空腹で倒れたり、恥ずかしくて涙が出る。本当に溢れそうになったそれを、ゴシゴシと目元をこすることで誤魔化す。誰にも見られなかったようだ。

 まるで大砂漠地帯を徒歩で横断しようとする龍村の努力を、冷房の効いたジープであっさりと抜き去るような格差を感じる。それでもレモンティーはうまかった。追加で三杯もおかわりした。


 男はごく自然体に振舞っているようで、油断しているわけではないだろう。ひとりだけ座らずに喋り、時々通路の両端に目をやっている。抜け目ないのだ。だからエルフのエルメスもたらしこむことができたのだろう。

 龍村は狡猾な人間が好きではなかった。祖父がお金に頓着しない人柄で、いい顔をして近づいてきた男に相当の財産を騙し取られたことがある。いい顔をして近づくのは、相手から油断を引き出すためだ。誰かが祖父に注意していたのを幼心に覚えている。祖父は「騙されるのもまた人生」とカカっと笑うような偉丈夫だったが、龍村はなんとなく人間を素直に信じてはダメだと教訓にしたのだ。それが今日まであとを引いて、友達作りのできない娘に育ってしまったのかもしれない。言い訳だろうけど。


「九頭さん、紅茶のお代わりは?」

「……もらう」

「了解。これが最後ね」


 反応は淡白で、必要以上に気を使っている素振りはない。ギャルふたりが休憩後にくつろぎ出す前に、男は出発を告げた。ブーブー文句を垂れるふたりに苦笑しながらも、ささっと後片付けをすませる手際を見てやはり感心する。切り上げ方は割とタイミングを得ていて、これ以上の休憩はだらけてしまう。疲労感が余計に残ってしまう前に動き出すのは大事だ。


 その後も男の案内のもと、一日の終わりには三階層に到着していた。ペースは無理をせず余裕をもってといった感じだ。戦闘に慣れた様子のギャルふたりが意外だった。以前組んだ同じクラスのふたりに比べて、キャーキャー言いつつも魔物を的確に仕留め、物怖じしないところに好感を持った。コウモリ娘の方の支援魔術は体を軽くし、疲労を回復させるため、一日歩き通しだったのにほとんど疲れていない。男が支援魔術の優秀さを褒めていた。


 問題という問題は特に起こらなかった。女三人と男ひとりのパーティである。男の雄の部分が出たら容赦なく斬り捨ててやろうと思っていた龍村だが、彼は暇を見つけると何やら書き物をして時間を潰していた。興味を持ったギャルの小さい方が尋ねながら覗き込むと、男は笑顔でノートを見せていた。

 道中でギャルや龍村から会話の端に聞き出したスキル構成やジョブの特性をメモっていたのだ。更に自分ならどんなスキル構成にするかと聞いてもいないのに語り出し、しかもその顔が嬉々としていたものだから、小さいギャルは思わず「気持ち悪いっ!」と叫んでいた。なんだか胸がすくような罵倒だったので、心の中でもっとやれと願ってしまったほどだ。しかし、話す内容は龍村にとっても興味を惹かれるもので、ちょっと男と腰を据えて話したくなった。一方的に敵視しているので語り合うことはないが。


 そして数日にわたって監視していたが、男はついぞ情欲の目を見せることはなかった。着替え、清拭(体を拭くこと)、排泄、就寝中など、三人の女がいて気にならないのだろうか。頑丈なパーテーションパネルまで用意して、完全に覗きをシャットアウトしている。どこかに自分が覗くための穴が開いているのかと思いきや、本人は空いた時間を資料を読み込んだり、ご飯の支度に使っているので囲いに覆われた場所に近づきもしない。あるいは同性愛者なのかという話だが、同じことを思ったのだろう、こうもり羽の生えたギャルがニヤニヤしながら問いかけると、そんなことはないと言う。


 階層と階層の、いわゆるセーフティエリア。魔物が一切近づかないため休憩に打ってつけの場所だ。だから、コウモリ娘が、「じゃあこれはどう?」と胸元の革当てを指で引っ張り、谷間に隙間を作り見せつけたところで周囲に危険はない。

 男は恥ずかしそうにしながら顔を背けている。下がろうとする男の腰にロリ娘がしがみついて退路を断つと、もはや露骨な色仕掛け大会と化した。なんだこれは。

 あまりに順調に迷宮攻略が進むから、ギャルたちも暇を持て余しているのだろう。胸のないふたりに密着された男は、身を硬くして耐えていた。「一瞬の、若い過ち、身の破滅」と五七五調で声を絞り出している。なんだそれ。


「うりうり~。あっしとかどう~?」

「ちょっと離れようよ、夜蘭さん。いまは仕事中だから」


 困ったような、それでもどこか嬉しそうに男は言う。むっつりか。少なくとも女が嫌いでないことははっきりしたと思う。


「ねぇねぇ、ギャルってどう思う~? 乳ない子はどう~?」

「ツルペタの白ギャルだよ☆ 君はお好き?」

「いや、可愛いと思うよ、うん。でも好きかと言われると……」

「じゃあ黒ギャルは~?」

「黒ギャルで巨乳は?」

「…………」


 男は否定も肯定もしないまま、赤い顔を逸らした。ギャルたちで言うところの、ギルティだ。


「こいつ正直だ~。ムッツリリーダー……ムッツリーダーだ~」

「黒ギャル巨乳が好きなんだねー☆ あたしと反対だー……しょぼん」


 ロリドワーフはぺたぺたと寸胴の幼児体型を触って俯いてしまったが、たぶん落ち込んだフリだろう。からかって遊んでいるのだ。男は真面目に仕事をするし、生活面でのサポートは完璧だから、どうしてもちょっかいをかけたくなる。それがギャルなりの感謝なのだと思う。龍村には逆立ちしてもできない感謝の仕方だ。

 しばらく男の困り顔を眺めていたが、龍村は紅茶が空になったことに気づいた。いまの休憩中も、調子に乗って六杯も飲んでいる。そして込み上げてくる尿意。


「ほら、もう行きますよー! 支度してー!」

「はーい☆」

「九頭さんも準備、大丈夫?」

「……あ、ああ」


 本当なら用を足したかったのだが、素直に言えなかった。素直な自分を男に見せるのは癪だったのだ。ここ数日は、ギャルたちに乗じて、用を足していた。だから彼女らがトイレを希望しないと、準備はされないのだ。

 男は特に気づいた様子もなく頷くと、ギャルふたりを追い立てて片付けを始め出した。その動きはテキパキしており、折りたたみ式のテーブルと椅子を小さくたたんでアイテムボックスにしまい、茶器も生活魔術で生み出した水と洗剤を混ぜて洗い流し、最後に乾拭きをする細やかさであった。


 ギャルふたりがスマホを片手にだらだらと支度を終える頃には、男は斥候に出た帰りで、二百メートルほど先にゴブリンの小集団を発見していた。ギャルふたりが極端に遅いわけではない。男の行動が極端に早いのだ。動きに無駄がなく、やるべきことを最短で行っているのがわかった。龍村はその間、木陰で用を済ませようか悩み、適当な場所を探しているうちに男が戻ってしまった。もっとゆっくりすればいいのに、と数日前とは逆の憤りを覚えている自分がいる。


「じゃあ、いつも通り夜蘭さんの支援魔術で準備して、九頭さんが正面を受け持つ。幅が割と狭い通路だから、半分を押さえればゴブリンは一体ずつしか前に出てこれない。そこを緒流流さんが叩いて」

「OK~」

「りょ☆」

「……」


 龍村はトイレに行くのを我慢したことを後悔した。戦闘に入ればしばらくは休憩できないからだ。


「歩きスマホ禁止ね。車の代わりに何が飛び出してくるかわからないんだから」

「何それ~、笑える」

「でもこのエリアって芋虫とゴブリンしかいないよね☆」


 コウモリ娘の方が全員に切れていた支援魔術をかけて回る。戦闘中だと大した効力のない防御呪文もあったが、不意の奇襲でダメージを負うときには、あるとないのとでは大違いだったりする。それに、スキルを成長させる上でも使えるときに使った方がいい。

 尿意を堪える龍村が先頭でゴブリンと接敵した。自分がふたりいれば通路を塞いでしまえるほど狭いところで、密集して襲い掛かってきたゴブリンたちは、お互いに体をぶつけ合って動きにくそうだ。雪崩れ込んで集団で袋叩きにするという、戦略でも何でもない戦い方をするゴブリンたちは、あっさりとロリドワーフの槌にプチプチ潰されていった。


 攻略はサクサク進む。トイレ休憩を言い出せる雰囲気ではなかった。男は斥候に出て、様子を探ってくると、適度な陣形を伝えてくる。

 今回はゴブリン五体の中にリーダーがいるということで、また龍村が先頭に呼ばれた。込み上げるものを我慢し、盾に力を込める。いざ接敵すると、槍で牽制しつつ攻撃を一手に受け、三体ほど相手取っている間にロリドワーフが一体ずつ始末していく、という流れができていた。

 順当な戦法を男は好んだ。その方が突発的な危険は少ないからだ。龍村としても納得のいくフォーメーションだと思う。

 そして、人知れず我慢の時間は続く。


 その後も連戦が続いた。どうやらゴブリンの巣が近くにあるらしい。巣と言ってもそこでゴブリンが生産されているわけではなく、この階層でゴブリンが出現するスポットが近いということだ。通路はいまのところ一本道なので、ゴブリンスポットを回避することは不可能だった。ゴブリン戦士がわらわらとやってきて、龍村は休憩もなく立ち回りを余儀なくされた。


「ちょっと下がろう。リーダーを倒せば次の集団までちょっと時間を稼げますから。緒流流さん、最後の仕上げお願いします」

「あいよー☆」


 威勢のいい声とともに、ロリドワーフが槌をゴブリンリーダーの横っ腹に叩き込む。

 他のゴブリンに比べて一回り大きな獣の骨を被っていたリーダーは、口から緑色の血を吐いて悶絶し、絶望の表情で血溜まりに沈んでいった。「なんじゃこりゃあ!」と聞こえそうな死に様だった。


「夜蘭さん、ふたりのスタミナの回復をお願いします」

「任された~」


 にゃむにゃむと詠唱し、コウモリ娘からスタミナ回復の支援魔術を受けた。正直、ゴブリン相手に回復など不要だ。もっと言えば、一時撤退も必要ない。早く叩き潰して休憩を一秒でも早く取るべきだ。しかしそう提案することが龍村にはできなかった。


「これは練習なんです。戦闘訓練って言えばいいのかな。次にどう動いたらいいのか、体に染み込ませるつもりで動いてもらってるんです。前に出るだけだと、いざというときの引き際がわからなくなりますから」


 顔に出ていたのか、走っているとき男が隣に寄ってぽそっと呟いた。言われてみれば確かにその通りだ。龍村はその裁量が下手で、とにかく暴れ回ることしかできない。


「頼りにしてます。まったく揺るがないタンクがひとりいるだけでパーティがどれほど安定するか」


 抜かりない男だな、と思った。思った途端になぜか忘れていた尿意がこみ上げてきた。ぶるっと震えたのを見られただろうか。


「? どうしました?」

「……いや、なんでもない」

「……わかりました。でも何かあれば言ってくださいね。心配ですから」

「……っ」


 優しい言葉をかけるな、と言いたい。笑顔が腹立たしい。何より、少し嬉しくなっている自分が悔しかった。そして意のままにならない膀胱が恨めしかった。

 休憩とも言えない休憩は、本当に息を整えるだけで終わった。戦闘をリセットして再挑戦することの重要性は、龍村もわかっている。人によってマイナスな場合もあるが、呼吸を整えるだけでも違う。ギュッと締め付けられていた血管が緩まり、脳の隅々まで活性するイメージだ。集中力を切らさないよう体を休められれば、精神的に余裕が生まれる。しかし今回に限っては悪手だ。いまの龍村は時間の経過とともに余裕が失われていく。下腹部にぎゅっと力を込めた状態が続き、汗がダラダラと流れ落ちた。


「では、行きましょう」

「支援魔術~、支援魔術~」

「やってやるです☆」


 男の掛け声に同調し、ギャルたちも意気込む。巣からゴブリンがちょうど姿を現し、果敢に挑んでいく。意識がブレるも前に出て、ゴブリンの棍棒を受けた。「くっ」と声を漏らす。腕からの振動が体を伝わって下腹部へ間接攻撃を仕掛けてくるのだ。攻撃を受けないように槍を振るうと、槍先に当たる振動が下腹部に伝わって(以下略)。

 そんな戦いが一時間は続いた。


 我慢を重ねに重ね、そろそろ積むものもなくなってきた。五回はゴブリンの集団を返り討ちにした。ゴブリンは独自に横穴を掘っており、突然脇の壁から襲いかかってきたときはかなり焦った。撃退できたものの、それまでうまく盾でいなしていた攻撃を正面から受ける羽目になり、力んだ拍子に「うぐっ!」と声が出た。もはや冷や汗がダラダラだ。


 不審がって体調を聞いてくる男に素直に答えればいいと思うだろう? 無理だ。素直になれたらいいのだろうが、「ここまで来ておしっこ我慢してました、トイレ行きたいです」と打ち明けるのも勇気がいる。結局言えなかった。だくだくと嫌な汗をかいた。


 奇襲部隊を撃退した直後だったか、奥からゴブリンリーダーが三体現れ、編隊を組んで向かってくる。もう足がプルプルして一歩も動きたくないが、ゴブリンに言っても仕方ない。

 お腹を刺激しないように、ゆっくり、すり足で移動する。


「龍村さん、下がっていた方が」

「わ、私の役割だ。口を出さないでもらおう……」


 顔は青ざめ、目が血走っている。ギャルふたりは鬼気迫る姿に恐れをなし、ちょっと距離を置いている。


「ば、バーサーカーだ~」

「あれはまさに荒ぶる蒼竜☆」

「え、その厨二ネームはないんじゃ……」


 後ろが喧しいが、龍村の耳にはほとんど入ってこない。緑の顔に兜を被った醜悪な小鬼どもが一斉に斬りかかってくる。わけのわからない耳障りでけたたましい声を上げて、龍村が突き出した盾にぶつかってくる。


「ぐっ、ぐぅぅ……はぅぁ!」


 ち、チビってない……まだ大丈夫、まだ大丈夫だ……。


 槍を振る手にまともな力が入らない。及び腰となってしまうのだ。しかも守りに入っていると見るや、これ幸いとばかりにリーダーどもがガンガンと盾を叩いてくるし。


「タッちゃんのピンチはほっけないよ☆」

「オルちゃんマックスでゴ~!」


 コウモリ娘から支援魔術をこれでもかと掛けられたロリドワーフが、全身から淡い光を放って横合いからリーダーに殴りかかる。一撃で粉砕されるその姿はもう虐殺であったが、彼らを憐れむ気持ちはこれっぽちも湧いてはこなかった。


「無理しないでくださいよ。支え合うのがパーティなんですから」


 そばにはいつの間にか男が立っていた。気づけば肩を支えられている。龍村の方が若干身長が高い所為もあって、寄りかかる体勢になる。

 水を湛えたダムがいままさに決壊しようとしていた。限界のギリギリのところで、早く出せとノックしている。「出たいよう、外に出たいよう」とこじ開けようとしているのだ。


 男の目を見た。龍村の中の天秤が大きく揺れ、素直になるべきか、矜持を貫くべきかと迷う。いまは半々くらいだ。恥も、漏らす愚挙に比べれば我慢できる。


 チョロ……。


 尖兵がわずかな緩みを突破してきた。危急の事態である。わずかなりとも堤防を越えてきたことによって、龍村の中の天秤が大きく傾いた。男に屈した瞬間でもある。

 盾と槍を足元に落とし、男の肩に縋り付いた。もはや武人の顔は剝がれ落ち、りんごのように真っ赤で怨霊のように悔しそうに唇を噛む。年相応の余裕のない少女がそこにはいた。蛇目の金眼が恥ずかしそうに伏せられ、押し寄せる尿意の限界にモジモジと内腿を擦り合わせる、花も恥じらう十代乙女がいるばかりである。


「も、もう、我慢が……」

「え?」

「限界なんだ……」

「え? え? なにが?」


 顔と顔が触れ合いそうになるが、龍村の方には甘い感情なんて微塵もない。ただ声を出すことも危険で、小さい声が届くように顔を近づけているにすぎない。なのに男の方が顔を真っ赤にした。意外にウブだなと勝ち誇ったのも瞬間、すぐに下腹部の圧迫で苦痛が走り顔が歪む。「青春してんるんじゃない」と声を大して言いたい。しかし小の方が溢れてしまうので大きな声が出せない。


「出せ、出しなさい……」

「な、なにを?」

「お願い……」

「タ、タッちゃん大胆だね……☆」


 頬に手を添え、いやんいやんと腰をくねらせているロリドワーフ。何を勘違いしてるんだ。


「と、トイレだ……漏れそうなんだ……」

「あ、トイレね。トイレ。あー、はいはい」


 男の顔が真顔に戻った。それでも耳まで赤かったが。


「あー! リーダーいまエッチな想像してたー☆」

「タッちゃんみたいな巨乳がいいんだ~、へ~」

「はやくぅ……」

「い、いま出すから待って……」


 縋り付く手がプルプルと震えていた。涙も出た。悔しくって悔しくって。恥ずかしくて死んでしまいそうだった。

龍村「こんなのばっかりじゃないか、私は!」

夜蘭「ムッツリーダーが喜ぶ回だったね~」

龍村「なんでこんな目に……屈辱だ……」

緒流流「まあまあ☆照れ顔めっちゃ可愛いよ☆」

僕「確かにドキッとした……」


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― 新着の感想 ―
[一言] もうオムツすれば良いんじゃないかな?漏れて時間経ったら臭い匂いを発するけど。 老人のように尿臭いJKと、漏らして社会的に死ぬJK どちらがマシかという話になりそうだけどねw
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