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迷宮世界で男子高生で斥候職で  作者: 多真樹
High school life of the parallel world.
2/65

第2階層 友だちは白猫

連日投稿。たぶん全部で20話前後になるかと思われます。

 盾浜迷宮高校はほぼ全員寮生である。

 だけど学校外で暮らす生徒もいる。

 元から学校が家から近かったりするか、親族の家に下宿しているか、迷宮で手に入れたアイテムを売ってひと財産儲けた結果、家を建てるまでになったものまでと理由は様々だ。

 学生の中には毎日の朝夕を寮で食べたくないがために迷宮攻略を頑張り、ひと財産作って出ていくことを夢見ているものもいる。


 ……寮の食堂メシ、ほんとにまずいのだ。

 なんと言うか、旨味の抜けたカレーを食べているような、個人的には病院食に匹敵すると思う。

 かくいう僕も、寮を出られるのなら、迷宮攻略を頑張ってもいいと思っている。

 本当に稼いでいる学生は年収一千万を超えるほどで、若い身空で確定申告もしている。稼いでない三年は装備を整えるのにもヒーヒー言っているので、一概に冒険者が儲けられる職業とは言えないだろうが、可能性があるだけ一獲千金の仕事だろう。


「寮飯はクソ不味いけど、校内の食堂飯はクソ美味い件について」

「藤吉、それってどっちもクソが付くから美味しそうに聞こえないんだけど」

「寮飯、好き好んで食べたいものじゃないです。ツナ缶ないです」

「丸はお魚があれば特に文句言わないじゃん。ほら、ささみ」

「魚、好きです。ささみも大好きです。ありがとです」


 テーブルの上に正座して皿に顔を突っ込み、むしゃむしゃささみを食べる太刀丸の頭を撫でると、迷惑そうに耳がぷるぷる動いている。

 藤吉はずるずる味噌ラーメンを啜りつつ、スマホをいじって学内SNSで午後の選択授業について調べている。


「午後の選択授業は斥候、支援、戦闘の三つに分かれて話しを聞くみたいね」

「僕は純斥候だから困らないけど、ふたりは大変そうね」

「丸は戦闘です。でも忍者、支援職でもあります」

「オレっちも斥候職とサブタンクで戦士職なんだけど、最初に斥候を選んじまったからな。選択戦闘はいまから行きたいとは思わねえけど」

「なんでです? 授業楽しいです」

「丸コーは体動かすのが好きだからな」

「運動好きです」

「深くは言うまい」


 太刀丸は不思議そうにくりくりの目で藤吉を見る。

 選択戦闘の授業が理不尽の塊であることを知っている身としては、藤吉の方に分があると思っている。


「選択三つの職業がパーティを組む際の大雑把な指標になるらしい。オレっちは斥候だから戦闘職と支援職探してます、みたいな?」

「選択三つ以外にも、アタッカー、タンク、ヒーラーの最低限の三人がいれば一応はバランスが取れるよね。それだと戦闘ふたりに支援ひとりだけど」

「斥候、いらないです?」

「ぐ……」

「あはは……」


 僕と藤吉は痛いところを突かれたと苦笑する。

 藤吉はまだいい。サブタンクという壁役もこなせて、戦闘組に食らいついている。僕なんか純斥候だから、戦闘はからっきしなのに。

 太刀丸は純アタッカーだから苦労はしないだろうな。忍者として斥候もできるし。苦労とは無縁そうだ。猫だし。


「足りなければそれを補うためのスキルを取得したりするらしい。迷宮潜って経験値溜めればスキルも取りやすいってさ。一年は方向性を定める期間だからよ、戦士職から魔術職へ転換もありらしいぜ」

「魔剣士で回復もできたらソロでもいけそうだね」

「ぼっちは嫌です」


 太刀丸はたぶん、ぼっちにはならない。なんというか、マスコット的な可愛さがあるから。

 よしよしと頭を撫でると、食後だからか嬉しそうに頭を擦り付けてきて、首の下をカリカリすると目を閉じて喉をゴロゴロ鳴らし、眠そうに欠伸する。


「はふ……眠くなってきたです」

「昼寝したら? 五分前に起こすよ」

「優しいです。お言葉、甘えます」


 テーブルからとんと飛び降り、僕の膝の上で丸くなった。

 学ランを着ていても猫である。

 背中を撫でつつ藤吉と話す。


「もし三人組むとしたら太刀丸を誘うか?」

「いいんじゃないかな。僕がアイテムでヒーラーやって、藤吉がアタッカー兼タンク、太刀丸が純アタッカー。バランスはいいと思うな」

「そうなんだよなー。男臭さに目を瞑れば案外バランスがいいんだよなー」


 藤吉がぐぬぬと唸る。

 何を懸念しているかと言えば、メンバーに女の子成分がないことに不満なだけだった。いいじゃん、太刀丸可愛いし。タマが付いたオスだけど。


「悲しいことに十階層までは罠や宝箱もほとんどないし、斥候もあまり役に立たないってさ。アタッカー三人の火力でごり押しできる程度らしい」

「迷宮のチュートリアルのようなものってことだよね」

「ないこともないらしいんだけどな。罠に当たって全滅した先輩方もいるらしいし。ただ、当たったら不幸ってレベルだから。浅い層だからか、専門でなくともマッピングも可能って言うし」


 聞けば聞くほど僕の存在意義が薄れていく気がするなあ。斥候要らないんじゃあねえ……。


「でもでも、十階層以降はアタッカー三人じゃ続かないよね。きっとその先を見据えてパーティ組むことになると思うよ」

「まあな。でも十階層以降は六人パーティの編成になるらしいから、アタッカー三人が支援系三人加えるパターンが多いらしい。鬼人族の姫叉羅嬢みたく、女の子で純アタッカーは少ないから、最初は男三人で進めて、十階層以降は支援系の女子三人を加えることでトントンになるとかならないとか」


 斥候職の定めなのかもしれない。ならば戦闘以外で役に立つしかないよなあ。僕の場合は戦闘はできないから、それ以外のところでサポートに回る。炊事や家事は必要になってくるだろうし。どこかに女の子三人の前衛パーティはいないかしら。

 痒いところに手が届く猫の手のような。そんな男に僕はなりたい。膝の上にすでに猫はいるけども。


「呼んだです?」

「呼んでないです」

「ですです……はふ」


 太刀丸だけが僕の心のオアシスだよ。


「オレっちらは三人で結構バランスいいと思うんだわ。十階層は余裕っしょ、余裕。太刀丸の攻撃力にオレっちの防御力。あとは……………………おまえの斥候力」

「大したことないなら言わないでよ」

「悪い悪い。でもまああれだ。オレっちらは十階層のその先を見据えるべきだと思うのよ、なあ? 新戦力を三人追加したらよぉ、もしかしたら一年でもトップクラスの攻略組になれんじゃねえかあ?」


 椅子を寄せて肩を組んでくる藤吉。猿顔らしく、キキッと笑う。藤吉が肩を揺らすので、膝の上で丸くなっていた太刀丸がびっくりして頭をもたげた。白い尻尾がピンとなっている。


「キキッ、それって願望成分が多すぎないカナ?」

「ウチもそう思うー。いちばんを夢見るのは勝手だけどー」

「迷宮攻略がそんなに楽ちんなら今頃先輩たちはみんな一国一城家持ちだっつーの」


 トレイを手に立つギャル系の格好をした女子三人。ちなみに僕の知り合いではない。

 猿顔の女子。

 背の低いドワーフ女子。

 背中にコウモリの翼を生やした小悪魔女子。


「藤乃かよ」

「テメエの双子の姉の藤乃(ふじの)ダヨ」

「藤吉に姉弟いたんだ?」と僕。

「恥ずかしい姉だよ。あの羞恥プレイのような顔みりゃわかんだろ?」


 藤吉はそう言って、残念そうな目を猿顔女子に向ける……が、性別が違うだけで瓜二つだと思う。


「オマエの顔なんか猥褻物だろうがヨ!」

「語尾にきゃぴきゃぴ感だしてキモイんだよ!」

「猿に言われたくないヨ!」

「てめえも猿だろ!」

「ンだとコラァ!」


 ごめん、双子のお姉さん、女版藤吉だよ。自分の顔を恥ずかしがってやるなよ、藤吉。

 双子の姉の顔を見て吐く仕草をしないでー。それ自分にブーメランしてるよ。

 首をくいっと切る仕草を双子の弟にしないであげてってば。双子でしょうに。


「そっちの女の子たちは?」と水を向けると。

「あっしのダチ」と自慢げな女版藤吉……ではなく藤乃さん。

岩成(いわなり)緒流流(オルル)ー、よろしくー☆」

古森(こもり)夜蘭(ヨラン)っつーの。藤乃の弟めっちゃサルっつーか、サル(笑)」


「「うっせーよ!」」


 なぜか姉弟揃ってコウモリ娘を睨みつけていた。サルと呼ばれるのが嫌なのは姉弟一緒みたいだ。サルであることに誇りを持てばいいのに。ニホンザルに近い顔なんだし。


 ドワーフの方は舌っ足らずな感じで緒流流と自己紹介し、ちんちくりんという言葉がよく似合いそうなロリ具合である。これで同い年とか詐欺だろう。身長百二十センチくらいしかない。茶色と黒の間位の跳ねっ帰りの強い髪を、頭の左右で結んでいる。トウモロコシの房のようで、今後はメイちゃんと呼ばせていただきたい。冗談だけど。

 コウモリ娘の方は背が高く、全身がすらっとしたモデル体型。胸が薄いのが玉に(キズ)か。頭に角がないところを見ると、悪魔系ではなく蝙蝠系の獣人ぽい。三人とも制服にギャルっぽいアレンジを加えてキラキラしている。夜蘭は涼しげな顔立ちに、目元にふたつ赤い星のラメを入れている。髪をアップにしてまとめているけど、一目で気合入ってるとわかる。君たち迷宮高校でどこに力を入れているのかね?


「死ねヨ、クソ弟」

「てめえが死ね、ヤマンバ」

「ババアじゃねえシ!」

「古臭いギャルって意味だバーカ!」


 こんな応酬が繰り広げられた。双子仲は良いのか悪いのか……。

 ふたりがそんなことをしている間に、僕は膝の上で丸くなる太刀丸に目をキラキラさせた緒流流や夜蘭とお近づきになり、無垢な白猫をダシにしつつ適度に知り合うことができた。


「かわいいー☆ おにいさんの飼い猫? 学ラン着てるよー☆」

「耳がきんきんするです」

「喋ったっ! なにこれチョー受ける☆ 猫ちゃん喋ってるー!」

「根来太刀丸っていうれっきとしたクラスメイトだよ。猫人族っていうの」

「太刀丸です。うるさくしないでくださいです」


 ふたりとも香水とかは付けてないはずなのに、太刀丸を撫でるために近寄ってきたらすごくいい匂いがした。役得である。今度から太刀丸を肩に乗せて行動しようかな。

 太刀丸は女子ふたりの不躾な手を逃れるためか、俺のブレザーの中に潜り込んで避難し、胸元から顔だけ出した。


「いやーん、すごいかわいいー☆ 可愛すぎ。可愛すぎる。オルルの制服の中に入ってもいいですよー?」

「オルルのはほら、とっかかりがないから落ちちゃうって」

「そういう夜蘭こそ似たようなものだよ、ぷんぷん!」


 ふたりとも、しゃがみ込んで胸元を開くなんてダメだって。

 見下ろす位置にいる僕が肌蹴た胸元丸見えなのわかってないよね? あ、夜蘭のピンク色のブラがちらっと見えた。緒流流は、付けてない……だと? なんかピンクのぽっちが……。

 頭がくらくらしてきたので視線を太刀丸に落とした。彼は突然の女子ふたりを迷惑そうに見ている。おっぱらってと僕にうるうる視線を投げかけてくる。

 僕はふたりに視線を移した。彼女たちもまたキラキラした目をしていた。嬉しそうな女子に水を差すなんて、僕には……くっ、すまん。

 ブレザーから顔だけ出す太刀丸をふたりはパシャパシャとスマホで撮影していた。太刀丸はこれはダメだばかりにため息を吐いて、ぴょんとブレザーから抜け出した。


「うるさいの嫌いです。丸はもう次の授業行くです」

「ん。トレイは片付けとくよ」

「ありがとです。ばいばい」

「また後でね」


 白猫が二足で立ち上がって手を振る姿は癒される。そのあと忍者のようにしゅばっと消えたが、それもまた太刀丸らしい。


 僕? 当然ふたりとアドレス交換しました。太刀丸コレクションをいくつか交換する約束も取り付けた。なに僕、まるでリア充? 太刀丸可愛さの比重が高くて単に僕を男として見てないだけかもしれないけど、それはそれということで。

 緒流流も夜蘭も見た目はギャルで、顔の化粧は濃いけど普通に可愛い。彼氏がいないかどうか聞くべきだったかな。


 双子は別れる最後まで口喧嘩していた。

 藤吉とは入学して半年の付き合いだが、双子がいるなんて知らなかった。会えば罵り合う関係だからわざわざ紹介したくなかったのかも。クラスも違うしね。


「あのクソアマのインモラル顔を見てたら吐き気がしてきたぜ。せっかくのクソ美味い食堂飯が台無しだぁクソ。トイレ行って昼飯全部吐いてくる」

「う、うん……先に片付けとくね」

「おう」


 同族嫌悪なのか、僕には自分の顔を鏡で見て吐き気を催したと言っているようにしか聞こえなかった。あと、日常の救いである食堂飯が美味しく聞こえないからやめてほしい。風評被害甚だしい。

[ファンタジー高校生の日常 人物紹介編2]


名前 / 藤木(ふじき)藤吉(とうきち)(6月6日)

年齢 / 16歳

種族 / 猿人族(人族とのハーフ)Lv.7(※種族レベルは職種レベルの合計値)

職種 / 軽戦士(ライトファイター)Lv.4 軽業師(アクロバットマン)Lv.3

ポジション / サブタンク・サブアタッカー


HP:100/80 (補正+20)

MP:20/20 (補正+0)

SP:57/42 (補正+15)


STR(筋力値):32

DEX(器用値):70

VIT(耐久値):54+8

AGI(敏捷値):66+13

INT(知力値):32

RES(抵抗値):24


《軽戦士》 耐久値+Lv.1 刺突Lv.2 剣術Lv.1

《軽業師》 投擲Lv.1 敏捷値+Lv.2

パッシブスキル /

種族スキル / 猿猴面Lv.1


 主人公のいちばん近しい友人。ボケとツッコミを両方こなす器用貧乏。単体だと結構無茶をするタイプ。集団では勢いに乗っかるお祭り男。案外と精神面は打たれ強い。双子の姉がいるが、顔を合わせるたびに親の仇とばかりに暴言の応酬をするので、近寄らないことにしている。ただ本当に嫌っているわけではないみたいだが……。

 戦闘ではサブタンクとサブアタッカーを器用にこなす。状況を見て動くことが可能。投擲術も優れているのでサポート役として優秀。ただし調子に乗るところと能力が中途半端で火力を見込めないのが今後の課題。

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