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迷宮世界で男子高生で斥候職で  作者: 多真樹
High school life of the parallel world.
17/65

第17階層 因縁の……

 ボスを倒した直後で気が抜けていたのは認める。

 だが、どんなときでも斥候としての役割はしっかりと果たしたいと思っている。つまるところ、周囲への警戒だ。

 ボス攻略直後で、何か危険が近づいていると警鐘が鳴ったのだ。


 それは音もなく近づいてきて、闇音の首を後ろから、右から左へ滑るように動いた。


「え?」


 闇音の首が宙に飛ぶ……こともなく、寸前で首根っこ掴んで引き寄せた。

 闇音が身軽なのが功を奏した。姫叉羅を狙われていたら引っ張って刃を避けることは叶わなかっただろう。

 忍者刀の鈍い色が一瞬だけ見え、そして何もなかったように気配も消えた。


「どうしてここにいるのかとか聞きたいことはあるけど、まずは殺しはしないんじゃなかったの?」

「主君変われば心も変わるです」


 影からゆらりと白猫が現れた。四つ足でゆっくりと近づいてくるのは、背中に忍者刀を背負った太刀丸であった。


「昨日の友は今日の敵です。親からもらったその命、丸が全部まるっと頂戴するです」


 太刀丸の姿がぶれた。僕はスキルを発動し、首を下げた。ヒュンと音を裂いて、忍者刀が通り過ぎる。避けなければ頸動脈がパカッと開いて即死だった。

 太刀丸が敵に回ったのは厳しい。僕ならなんとか避けられるものの、他を狙われては堪らない。

通っているそばから棒立ちの闇音を狙われ、僕は後ろからローブをぐっと掴んで小柄な彼女を引き寄せる。次々に攻撃が来て、それを闇音を引っ張り回して回避していく。


「こんなに動けたの知らなかったです」

「見せなかったからね」

「何かのスキルです?」

「単純にステータス差だよ」

「種族レベルいくつです?」

「一〇〇越え」

「え? 百越え?」と横合いから姫叉羅。眉が顰められた。

「びっくりです。奥の手、まだあったです?」

「見せる機会がなかっただけだよ」


 突然現れたように姿を見せた太刀丸は、相変わらずつぶらな瞳で地面に座っていた。足元に忍者刀を置き、目を丸くして見つめてくる。


「太刀丸こそどうして心変わりしたのさ。クランに入るって話だったよね」

「実力知りたかったです。君なら殺し殺されても禍根残さないと思ったです」

「……まぁ、そうだけどさぁ」


 伊達に気まぐれな太刀丸と友だちをやってきてはいない。どっちが死んでも明日は一緒に日向ぼっこしてることだろう。お互いに相手を憎む気持ちはないのだから。太刀丸が脳筋寄りだと知っているし、僕が人間関係に執着しない淡白なやつだと太刀丸も見抜いている。でなければ藤吉に陰口を叩かれて少しは凹んでいただろう。


「それで、誰に言われて襲ってきたんだい?」

「君の知ってる人です。藤吉もいるです」

「やっぱり……」


 太刀丸の姿が消えた。また刃が迫る。


「わわっ」

「ごめん、余裕ない」


 今度は僕が狙われた。近くにいた闇音の腰を抱えてその場を飛び退く。追撃の刃は二度、三度と迫り、何とか目で追える速度だったので回避していく。


「ひゃぁぁ、猫つぇぇ」

「随分と余裕があるみたいですけど、さっきから一撃必殺の攻撃されてんですよ。当たれば即死だって気づいて」

「ぐっ!」


 今度は姫叉羅を狙われた。だが、戦士の本能で攻撃を悟ったのか、腕を交差して喉への攻撃を防いだ。腕の手甲の上を滑って攻撃を防いだが、次の足元や、脇を狙う攻撃にはほとんど対応できずに血を流している。


「黛さん、影魔術、範囲拘束のやつ!」

「つーん。名前呼んでくれないとやったげない」

「なんでこんなときにぃ!」

「つつつーん」

「闇音、影魔術! 範囲拘束! 急げ!」

「がってんしょうち!」


 闇音が詠唱を始めると、太刀丸は狙いを闇音に絞ったようだ。僕は彼女を引っ張り回して攻撃を避けていく。その間も詠唱を途切れさせない闇音の肝の太さはさすがだ。

 太刀丸の刃が届く寸前に詠唱は完成し、〈影縛り〉により足元に墨をぶちまけたような闇が広がる。その闇に触れた瞬間、僕の足が掴まれるのを感じ、まったく動かせなくなるのがわかった。動き回っていた太刀丸も、四つ足を闇に浸して動けなくなっている。


「よし、これで無力化した。闇音、降ろすんで太刀丸を捕まえてください」

「ごめんちゃーい、うちも拘束されて動けなくなるの」

「なんでやねん……」


 拘束魔術で自分まで動けないとか、アホすぎる。


「じゃあしょうがない。とっておきを使おう」


 僕は〈アイテムボックス〉からふたつの小瓶を取り出した。ひとつは生傷から血を流す姫叉羅に投げる。彼女は受け取ると蓋を外して飲み干した。綺麗な喉元がゴクゴク動き、いい飲みっぷりを見せる。

 もうひとつのほうを蓋を外して太刀丸に投げた。コツンと頭に当たって、「にゃ」と鳴いた。中の粉末が撒き散らされ、頭から太刀丸を包み込む。


「くしゅん! くしゅん!」


 太刀丸はくしゃみが止まらなくなった。粉末の正体は調味料用のコショウである。


「モンスター〇ール投げればいいのに」

「生憎と《召喚士》はトレーナーじゃないんだよ」

「くしゅん! くしゅん!」


 僕と闇音が阿呆なやり取りをしている間も、太刀丸はそれどころではない様子だ。鼻をしきりに擦るが、粉をすべて落とすことはできないだろう。白猫が鼻を前足で掻いてむずがる様子は、不謹慎だが見ていてほのぼのする。


「丸、まだやるか?」

「白旗です……くしゅん!」

「闇音、術を解いてくれ」

「りょうかーい☆」


 闇が足元から消えると、太刀丸はくしゃみを連発しながらごろんとお腹を見せた。姫叉羅はなんとも言えないムズムズした顔で太刀丸を見ている。白猫は好きなようだ。対して闇音はあまり太刀丸に目を向けない。興味がないのだろう。

 僕は太刀丸に近づき、〈アイテムボックス〉から取り出した濡れタオルで鼻を拭った。太刀丸は戦意を失くしているのかされるがまま。お腹を持って持ち上げると、くたっとなって甘えてきた。姫叉羅の目がキラキラ輝いている。闇音は横目で見ながら、けっと唾を吐きそうな勢いだ。なぜだ。


「丸以外にもやり合うことになるんだよね?」

「リベンジしたいそうです。丸は先鋒です。召喚獣を引き出すまでが役目です。でも失敗したです」

「そもそもなんで追いかけてこられたんだよ。尾行したと言っても続けて門を潜ったら別のところに飛ばされるはずだよね?」

「丸は詳しくないですが、同じ通路に入る方法は藤吉が探してたです。規則性があること、昔の生徒が見つけてたらしいです」

「藤吉も執念深い性格だよな」


 特に迷宮の規則性を見つけるまで新人階層に挑んだ過去の卒業生の努力の無駄遣いにはほとほと呆れる。好きなあの子を追いかけたいとかいう邪な理由だったら呆れを通り越して称賛するね。攻略しろよ。

 顎の下を掻いてやるとゴロゴロと喉を鳴らした。姫叉羅は声を上げたいのをグッと堪えた様子で、手を伸ばそうとしたり引っ込めたりして、赤ちゃんを前にしたような恐る恐るといった感じ。太刀丸は誘うように姫叉羅の指先に尻尾を当てて楽しんでいる。ときどき感極まって「はぅわ!」と声を上げる姫叉羅の姿が面白いようだ。


「姫叉羅は猫触らないの?」

「アタシが近寄ると動物って逃げるんだ」

「丸は大丈夫じゃない?」

「……ひどいことするです?」

「しないよ! リーダーみたいなコショウ投げつけるような鬼畜なことは絶対にしない」

「なら、どんとこいです」

「鬼畜ってひどいな……あれがなかったら丸を無力化できなかったのに」


 釈然としないが、姫叉羅は太刀丸の無防備なお腹に触れ至福の表情を浮かべている。和やかな雰囲気になりつつあるが、本命がついにボス部屋に到着したようだ。


 サル顔のクラスメイトと、神秘的なプラチナブロンドを持つ耳長エルフが主従のように連れ立って現れた。サル顔の方は僕を見るなり憎々しげに顔を顰める。彼と仲直りするにはまだ時間がかかるようだ。対してエルフは尊大な様子で口元に笑みを浮かべている。一度コアトルにチリも残さず燃やされたというのに、恐れを抱いていないようだ。


「やいやい、太刀丸を人質に取ろうなんて卑怯な奴め! 仲間騙して嗤ってた野郎は戦い方まで汚ねぇみてぇだなぁ!」


 チンピラ風情に落ちぶれた藤吉が、ポケットに手を突っ込みオウオウとメンチを切りながらガニ股で歩いてくる。

 エルフの方は無駄に優雅に、前回はなかった赤いマントをたなびかせて、白い絹の上下に意匠を凝らした革鎧を身につけている。その革鎧も赤い革であり、おそらく上級魔物の革だろう。


「前、おまえにつけられていた泥、拭きにやってきます。今度が敗北になることはおまえです」


 相変わらずめちゃくちゃな翻訳魔術だ。しかし装備を整えて自信があるのか、こちらを見下すように目を細めていた。目は口程に物を言うとはよく言ったものだ。


「召喚獣に勝つことができました。ゆえに死ぬことはおまえでしょう!」


 僕を指差して高らかに放つ言葉は意味をあさっての方向に間違えていたが、狂気的に見開かれた彼の眼は否応なく殺意に染まって僕を射抜いた。イケメンな面が醜く歪んでいる。

 エルフの彼――エルメス・アールヴが重力魔術をこちらに向ける前に、僕は即断した。

 召喚獣を呼び出す。


「じゃあアンコールにお応えして登場させちゃおうかな。お願いだから再挑戦はこれきりにしてよ」

「必要なくなくなります。なぜというなら、私は勝ちます」


 ――シューシューシュルルルルル、シューシュー。


 召喚獣(コアトル)が呼び出された。

[ファンタジー高校生の日常 人物紹介編9]


名前 / エルメス・アールヴ


年齢 / 40歳(5月20日)

種族 / 古代長耳(エンシェントエルフ)族Lv.80(※種族レベルは職種レベルの合計値)

職種 / 重力術師(グラビディマスター)Lv.48 精霊術師(エレメンタルマスター)Lv.32 

ポジション / アウトサイドアタッカー


HP:520/680(+160)

MP:900/900

SP:740/740


STR(筋力値):63

DEX(器用値):355

VIT(耐久値):152

AGI(敏捷値):140

INT(知力値):900(+300)

RES(抵抗値):700


《重力術師》 重力球Lv.16 重圧殺Lv.18 断裂弾Lv.14

《精霊術師》 風の精霊Lv.16 水の精霊Lv.16

パッシブスキル / アイテムボックスLv.1

種族スキル / 精霊契約Lv.50


古代エルフと呼ばれる純粋培養の高慢エルフ。エルフのイメージに漏れず長命。平均寿命は500歳。本人は40歳と成人前。口調がおかしいが、それは翻訳魔術のせい。

幼児傾向があるようで、体を丸めて指を咥えるスタイルがいちばん落ち着くらしい。その姿を見せられるのは幼馴染の委員長だけ。龍村は例外的。トカゲ女と呼んで侮蔑している。

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