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迷宮世界で男子高生で斥候職で  作者: 多真樹
High school life of the parallel world.
13/65

第13階層 非戦闘職

 パーティを組んだ五日後、放課後十八時。

 夕暮れの中、僕らは迷宮入り口に集まった。それぞれに武装を整え、これから十階層を目指して攻略する予定である。

 ここ半年で慣れたが、女子が皮鎧を着ている姿は本格的なコスプレとそう変わらない。ビックサ〇トで行われる年二回の祭典では、有名どころの冒険者のコスプレが流行っているとか何とか。


 周りを見渡すと放課後攻略を終えたパーティが並んで帰っていたり、収穫の分け前を相談していたり、体育館ほどの広さを持つエントランスは賑やかである。

 死に戻りした人間はエントランスと併設された救護室の祭壇のような寝台で復活するのでこちらには基本的にこない。

 三人パーティもいれば、十人以上なんてグループもある。前者が一年の十階層攻略を目指す駆け出しパーティで、後者がクランと呼ばれる上級生の集団。


 そんな中で視線を集めるパーティがある。

 全身黒尽くめのローブ姿で、何が楽しいのかケラケラと笑ってテンションの高い黛闇音。過激な格好をする女子を見てにやにや、ボロボロの装備で帰るところの男子を見てニタニタ、あまりに卑屈な笑い方なので周りから苦情が来ないうちに、彼女の三角帽子をぐっとずり下げて顔を隠した。

 その隣で身長差六十センチはありそうな霧裂姫叉羅が遠い目をして呆然と立っている。言いたいことはわかる。アタシ、なんでこんなパーティに入ってるんだろうって顔だ。長袖長ズボンの上から革鎧を身に着けているが野暮ったくはなく、それだけでプロポーションがいいのがわかる。通り過ぎる男子の目のほとんどは姫叉羅に向けられている。


 パーティ的な目線から考えるなら、どちらも攻撃的なスキルが多いのでタンクが欠けた状態だった。ヒーラーは僕が適宜回復薬で補うとしても、十階層まで攻略した手応えとしては、全員がアタッカーでも戦闘以外に支障がなければ余裕だと見ている。その戦闘以外は、僕の領分でもある。

 それに、十階層を攻略した報酬なのか、アイテムボックスのレベルが上がり、拡張されていた。十階層までならゆっくり攻略して十日、その間の三人分の食糧は余裕を持って賄うことができた。だいたい一畳程度の押入れに積み込める量がいまの僕のアイテムボックスの総量だろう。

 旅行カバン程度から随分膨らんだと思うが、今後の攻略では十階層分進むのに体感時間がひと月を超えることもあるという。むしろ畳一畳分では足りない。必要なのはなにも食糧だけではない。寝具から調理道具、衣類や小物、僕なら調合道具や素材などの管理も必要である。

 だから彼女らのアイテムボックスにも自分の食糧をある程度は積み込んでもらいたかったのだが……。


「売ったぁぁぁ?? アイテムボックスを?? 三百万で? バカなの? 死ぬの?」

「実際アイテムボックスなしに攻略できずに死んでるから笑い事じゃないよねー、くひひ」


 夜になってテンションが上がっている闇音はどこまでも能天気にポリポリとお尻を掻いているが、ホンモノのアホを見たような気がする。


「その大金はどうしたの? アイテムボックスなんて他の迷宮じゃA級レアなのに……」


 ちなみにA級の上にはS級、SS級、SSS級がある。S級は秘宝級、SS級は伝説級、SSS級は神物級と呼ばれ、S級の最低価格は一千万をくだらないという話だ。

(※読み…シングルエス、ダブルエス、トリプルエス、WSやTS、S級以上は複製不可能なことからアーティファクト、神クラスという呼び方もある。別の意味で用途不明、意味不明の魔道具を失笑の意味合いから神クラス(笑)と呼んだりする。蛇足)


「このローブと帽子と、余ったお金は全部ご飯に消えちゃった(。・ ω<)ゞてへぺろ♡」

「「……(゜Д゜)ハァ?」」


 もうちょっと仲が良かったら頭を引っぱたいていただろう。僕も姫叉羅も、闇音の頭は叩きやすい位置にある。

 この残念な子にお金の管理は絶対に任せられないな。公私が分けられず、感情優先でお金を使ってしまうタイプだ。昼夜のテンションの違いに振り回されるのは種族特性でどうしようもないとはいえ、フラットに抑えようとする努力を放棄している時点でダメだろう。


「そんな目で見ないでよう。別に何に使おうとうちの勝手じゃん」

「ソーデスネー」

「スキルストーンを売っちゃうところがアタシには理解できない。あれって学校側からの支給物でしょ? どうやって使わずに持ってったんだか……」

「金に目がくらんだのか」

「三百万の札束を見たことある? すんごい分厚いんだから」

「いや、だからなんだ。〈アイテムボックス〉って三百万以上の価値があると思うし」

「え?」


 目を丸くする闇音を放置し、荷物の確認に入る。

 姫叉羅の装備は革鎧と腰に差した短剣が四つ。剥ぎ取り用のナイフ、ボロ布、タオルや魔石袋などの細かい道具は〈アイテムボックス〉にしまわず、リュックサックひとつに入れている。容量一杯に食糧や水、寝袋や着替えを入れているため、すぐに使うものはなるべくリュックサックを活用していると言う。戦闘に支障がないように考えられた荷物選びに頼もしさを感じる。


「短剣だけで戦うの? 軽戦士じゃないけど」

「これは補助武器で、メイン武器は別にある」


 金棒?とか聞いたら機嫌を損ねるだろうか? やめておくのが賢明だろうな。どうせすぐにわかることだし。姫叉羅の態度から、迷宮の外ではあまり持っている姿を見られたくないようだ。姫叉羅は目立つ外見によらず乙女な部分が多い。


 一方で闇音の荷物が問題だった。誰も突っ込まなかったが、登山に行くのかと言わんばかりの大荷物である。自分の頭のてっぺんよりも盛り上がったザックを背負い、右によろよろ、左によろよろしている。あれか。〈アイテムボックス〉のスキルを覚えなかった弊害か。アホだ。


「で、闇音さんそれで行くの? 長距離歩けるの?」

「ムリ!」


 笑顔で言い切った。十階層までは基本的に淡々と歩き続けるのだ。戦闘時間より移動時間の方が圧倒的に長い。まだ初心者の階層だから、その階層に適した装備や荷物を持てなければ突破は危ういというわけではないが、自分がどれほど無駄なことをしているのかわかっているのだろうか? わかってないんだろうな。勘弁してほしい……。





 闇音の荷物を整理して僕の〈アイテムボックス〉にしまっていたら、いつの間にか十九時半になっていた。迷宮は二十時までと決められているのでかなり急いだ。おかげで荷物がリュックサック程度に落ち着いた闇音だが、僕の《薬術師》のスキルで使用するはずだった素材を三割ほど置いて行かねばならなかったので結果的には僕だけが痛手を被った。なぜだ。


 最初から躓きつつある僕らは、坑道のような一階層の一本道を進んでいた。ふたりが並んで通れるだけの狭い道であり、バットとか振るとギリギリだろうか。姫叉羅が振ったら間違いなく壁を抉る。それくらい狭い。

 そして圧迫感がひどい。壁と天井には等間隔に木材の補強がなされているので落ちてくるようには感じないものの、カビ臭さと埃っぽさのブレンドに早くも闇音が音を上げ始めていた。年長者がいちばん頼りにならないという事実。


 たまに頭の位置にランプがぶら下がり、蛾が集まって飛んでいるのが見えた。蛾は魔物ではなく、普通の虫だ。どこから入ったんだろうね。

 道は直線ではなく、常にカーブしており、見通しはそれほど良くない。乾いた土の臭いが充満する中を、僕らは淡々と歩いた。

 道が狭いため、先頭に僕が立ち、気配を感じると度々斥候役となって先を覗きに行った。カタカタと骨を鳴らすスケルトンがこの低階層の出現魔物のようで、小集団に遭遇すると、それらを誘導してきて姫叉羅にすべて倒してもらった。

 姫叉羅のメイン武器は金棒のようなメイスだった。鬼に金棒、姫叉羅にメイス、とか言ったら絶対に怒るだろうな。

 両側の壁が近いため、振り回すことはできないものの、突いたり振り下ろしたりと姫叉羅のメイス捌きは圧巻だった。

 戦闘後にメイスを担ぐ姿はなんというか……。


「まさに鬼だね☆ 赤くならないの?」


 言いにくいことをズバッと言ってのける闇音。そこに憧れないし痺れもないが。こうしてパーティ内で不和を生み出してきたのだろうと察した。自業自得だ。


「センパイ、それ以上言わない方がいいですよ。アタシ、怒ると真っ赤になるらしいんで」

「見てみたいけどにゃあ」

「ご自由に」


 何が「にゃあ」だ。可愛い子ぶるなよ。猫獣人の里唯奈さんのほうがもっとあざといんだぞ。

 姫叉羅の様子をちらりと見たが、ひらひらと手を振って気にしていなかった。躱し方を知っているのだろう。ただ、女子は不満を溜め込む生き物なので、単に顔には出さないだけかもしれない。

 荒れるかもしれない空気を想像し、僕は肝を冷やした。


 お気づきかもしれないが、闇音はひとつ学年が上の先輩である。言動からはまったく年上の威厳を感じないのだが、むしろそのほうがありがたい。いまのところ魔術師にありがちな魔術を見せびらかす無様さもないし。闇音と同じ留年生の《時空術師》さんならスケルトン相手にオーバーキルな大技を撃ち込んでドヤ顔しそうだ。周囲の冷たい視線に気づかなそうだし。


 闇音はすでに数回こなしている戦闘に一度も参加していないが、根っこが不真面目だからか、戦闘を姫叉羅に任せっきりで楽をしている。こんな狭い場所で《闇魔術師》の闇音を投入して、パーティごと巻き添えにしての死に戻りは御免であるから、プライドが高くないほうがやりやすいのは確かだ。でも最初からやる気を見せないのはどうかと思うな。暇だからってスマホをいじるな。ちょいやっ! さすがに見かねてチョップを三角帽子の上からお見舞いした。


 姫叉羅の方は、迷宮では戦闘を手堅くこなす真面目なタイプだった。ひとって見かけによらない……。このパーティ、ふたり戦わないから姫叉羅ひとりだけで戦闘をこなしている状態だし。比重が圧倒的に姫叉羅に寄ってる。

 周囲に規律と公正を求める生真面目な性格ではなさそうなので、あくまで自分の仕事はきっちりとこなそうとする個人主義な子だ。さりとて安心できるわけでもなく、三人の仕事量のバランスが崩れた状態が続くとどこかで不満が爆発しそうで怖い。


 姫叉羅はダンス部に所属しており普段から制服を着崩してギャルのようだが、迷宮では革鎧をぴっちり着こなしている。手甲と脛当ては付けているが、肌着が半袖のシャツとショートパンツなので、晒された二の腕と太ももは健康的な小麦色が眩しい。グラマーな胸と腰のラインが革鎧の上からでもはっきりとわかるので、太ももとか筋肉質なのだけどむっちりしていたりして、とても目の保養になった。チラチラ見るのも悪いからあんまり目を向けてないけど。


 そして戦闘面。カタカタいわせて歩いてくるだけのスケルトンに物足りなさを感じているようだ。いまも竹刀のようにメイスの素振りをしてるし。戦闘に関しては何も心配していない。自分で考えて多対一でも凌ぎ切るし、必要なら援護の要求もしてくる。優秀なアタッカーだ。


 前方からいくつかの気配があったのでちょっと偵察に出てみると、五百メートル先にスケルトンの小集団を確認した。戻って見れば、闇音はまるで自室にいるような調子でボリボリとノンフライチップスを食べていた。荷物のどこに隠していた。仕分けしたはずなのに……。

 土臭い中に、ポテトの香ばしい匂いが混じる。お腹が空くからやめてほしい。姫叉羅も闇音の横から数枚摘んで頬張り、少し仲良くなった様子だ。これではチョップをできないではないか。もしやそれがわかって姫叉羅を抱き込んだか。むむっ。


「僕にもちょうだい」

「いいよー」


 雰囲気には乗っていくタイプである。周りの空気を作るより同調していった方が角も立たないのだ。


「この先にモンスターがいるけど、特に注意することはないね。罠もなし。 連続戦闘もない。まだ一階層だからね」

「お手並み拝見だね、鬼っ子さん☆」

「センパイも戦ってくださいよ」

「あたし、通り名がバーサーカーですし」


 闇音は顎に指を添え、可愛いらしさアピールのつもりか口を突き出す。惜しむらくは指がお菓子の油でベタベタしていることか。


「なんでバーサーカー? だって《闇魔術師》ですよね?」

「敵味方問わず殺すから☆」


 えへ☆って顔をした。えへじゃないよ。罪悪感仕事しろ。


「……それは、えっと……わざとじゃないですよね?」

「魔術の操作がちょっと下手なの☆」

「……ちょっとどころじゃないわー」


 まだ闇音は戦闘に立っていない。そのときは遠からず来るだろう。情報では味方殺しの話を聞いていたが、それがどれくらいの規模か、まだ自分の目で確かめていない。


「まあ、巻き込まないようにお願いしますよ」

「善処しまーす☆」

「じゃ、雑魚はアタシがなんとかするってことで」


 メイスを振り回し、姫叉羅が気合を吐く。しかし残念かな、口の端に食べカスがくっついていた。

 我らのパーティの進行を妨げるのはスケルトンオンリーだ。両手をだらりと下げて、コツコツと音を鳴らしている。こちらに気づくとゆっくりと距離を詰めてきた。

 先手必勝。メイスを両手で持ち駆けだした姫叉羅は、スケルトンのたちの中心に飛び込むなり、彼らが攻撃に入る前にメイスを振り回して骨という骨を砕いた。

 身長差もあり、まるでスケルトンの中心に暴風が発生したようだ。吹き飛んだ骨は壁に当たって砕け、まともに復活できないほどであった。ちょっと壊される程度なら寄り集まって復活するのにね。


「おおう、風がこっちまでくるわ。迷宮はカビ臭くて敵わないから、常に涼風を吹かせてほしいなあ」

「あれがミニスカートならなあ。ふわりと浮いて綺麗だろうに」

「あんな巨体でも?」


 あんな巨体ってなんだ。闇音さんはぺったんこのチビじゃないっすか。


「むしろ肉感的でいいですよね。革鎧とか味気ないけど、躍動的なところとか魅力的だと思います」

「うち、肉ないし、きのこ生えてるし」


 否定はすまい。せめてカビが生えてないことを祈るばかりだ。


「〈獣化〉すれば頼もしくなると思いますけどね。獣人の血は伊達ではないでしょ」

「良く調べたね。キモいなー」


 確かに情報が大事なのは間違いない。獣人と吸血鬼のハーフでどちらの特性も引き継いでいるレア中のレアとか、正直心弾ませる内容だった。だが、プライバシーの詮索はそのひとにとって良い思いはしない。わかってはいるが、真っ向から言われると地味に傷く。ガラスのハートなのだ。


 メイスを振り回して埃を払うと、背中の留め具に引っかけこちらに戻ってくる。その姿は一階層ながら、戦士としての風格がにじみ出ている気がした。


「ヒュ~、かっくいい☆」

「姫叉羅さんはド派手な立ち回りが映えるね」

「君も戦わないの? 男の子でしょ?」

「僕には攻撃手段がないから。奥の手はあるんだけどね」

「召喚獣? ジョブ六つ? ここ一週間で聞いた噂は最悪だったよ。どこまで本当なの?」

「だいたいホント。でもジョブ六つあっても攻撃系の戦士職、魔術師職、支援職が壊滅的でね。唯一の攻撃スキルがある<斥候>ですら攻撃スキルが発現しないんだ」

「そうなの――なぁ?!」


 姫叉羅が驚き、声を上げた。

 彼女の隙を突いて、僕がナイフを構えて懐に潜り込んだからだ。

 油断した姫叉羅の懐に潜り込むのは案外容易い。そしてナイフを腰だめに、首元をひと息に狙う。

 しかし、ぐるんと――世界が反転した。


「――あ、あれ?」

「いきなりなにすんだ、おい」


 気づけば僕の顔は地面とくっつき、完全に拘束されていた。腕を捩じられてナイフを蹴り飛ばされ、背中に姫叉羅の膝が乗っている。姫叉羅の恫喝するような低い声がすげえ怖い。


「見ての通り、隙を突いても攻撃職の足元にも及ばないんだよね。むしろ足の下に敷かれて動けないわけですが」

「いきなりなにすんだって聞いてんの」


 姫叉羅さんの声が冷ややかだ。答えに間違うとパーティが分裂しかねない。まあお互いに信頼関係を積んでないから、こういうことをすると危うくなるのはわかっていたことだけど。


 《斥候》の上級職は《暗殺者(アサシン)》や《追跡者(シーカー)》と呼ばれる超接近戦タイプへの派生もある。得物は短刀が多く、相手の油断を突いて接近することを得意とする場合が多い。

 《斥候》には罠解除や罠設置を得意とする《罠師》や、地形を把握することに長けた《地図士》なんて派生もある。僕は頭を使うことが多いので比較的こっちの方が伸びがいいが、敏捷値もそこそこ伸びているのだ。それでも前衛職の姫叉羅に敵わなかったわけだが。


「僕は攪乱くらいならできるけど、正面からの殴り合いは無理。魔物を倒すのに臆病になってるとかじゃなくて、なんて言ったらいいんだろう、攻撃できない呪いにでもかかっているんだと思う。その呪いをかけた元凶が、召喚獣。僕の召喚獣は僕が望んで手に入れたわけじゃなくて、向こうから僕に憑りついたんだ。たぶん、そのときに呪われたんだと思う」

「そんな話聞いたことないんだけど」

「うちもないなー。自ら召喚されるために契約される魔物なんて聞いたことないし。普通戦って瀕死にさせてから契約するもんでしょ」


 召喚獣を手に入れるための順序は、まず魔物を弱らせて動けなくする。それを瀕死状態というのだが、その状態で《召喚士(サモナー)》の持つ〈契約〉というスキルで魔物を従えられれば召喚獣の完成だ。召喚獣はスキルスロットをひとつ埋めるため、〈契約〉のスキルでひとつ埋まっている以上、最大で二匹しか呼び出すことができない。

 〈契約〉のスキルを外すと召喚獣との契約も消えてしまうので外すことができない。そして僕としては〈契約〉スキルを外して召喚獣を解放したいのだが、どうしても外すことができない、というか召喚獣側に外させない力があるらしく、そこにも呪いがかかっている。


 姫叉羅がようやく背中からどいてくれたので、僕は土を払って立ち上がる。ふとお腹の奥でなにやら〈召喚獣・コアトル〉が蠢いた気がした。宿主をいつでも喰らうことができるぞ、と脅しているのだ。本当にわけのわからない関係である。

 《召喚士》は他にも召喚獣を強化するスキルを覚えられるので、そのスキルでひとつを埋めると、結果三つあるスキルスロットはすべて埋まり、召喚獣は一匹だけということになる。《召喚士》の人気がそれほど高くないのも、その使い勝手の悪さにあるのだろう。


「唯一の攻撃手段が〈召喚獣〉だから、基本的に僕は戦闘の役に立てないんだ。ただ敏捷が高いから回避はできる。最悪囮になるから」

「そこをうちが殲滅という」

「しねえよ。僕まで巻き込むつもりですか」

「アタシまで巻き添え喰らいそう」

「まぁうちにはこの貢ぎ物があるから、戦闘になっても大船に乗った気でいたまえ」


 僕が交渉の際に送った魔道具を見せつけてくる闇音を白い目で見る。


「それ、売ったら怒りますからね」

「稼ぎ次第かもね~」

「なにそれ?」


 ローブの下で闇音の狼尻尾が左右にパタパタと振られている。ご機嫌なようだ。姫叉羅に見せびらかしている。


「アタシはもらってないんだけど」

「……攻撃力+の魔道具でも探しておくよ」

「うう、うそうそ! そんなもの貰っても困るから!」


 姫叉羅は魔道具の価値を知っているようだ。豊満な胸の前で両手をぶんぶん振って遠慮している。普通の人間なら、魔道具一個をタダでもらうにも抵抗があるのだ。百万超えてたりするから、常識的に考えても怖くてもらえないのが当たり前。闇音の性根が腐っているのが明白になったな。

 彼女には期待しているが、これまでの経緯を考えると予防線は張っておいたほうが無難かもしれない。本当に転売したら請求書を送りつけて全額搾り取ってやる。

 そのための書類を実は揃えていることは内緒だ。パーティを組む際にいくつかの書類にサインをするのだが、その一枚に魔道具の貸し出しと紛失の際の全額賠償を記載した書類を滑り込ませ、「ちゃんと目を通してよ」と忠告したにもかかわらず要項をよく読まずにサインした闇音である。怪しい勧誘に引っかかること請け合いだ。

 念には念を、が僕の座右の銘だった。


 その後もサクサク進み、一階層を三時間足らずで越えることができた。

 いまのところ、パーティの空気は悪くない。

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[良い点] 設定は面白い [気になる点] なんだこれ、普通にストレス展開とかですらなく登場人物の半数位気持ち悪い人間関係ばっかで不快な展開 [一言] 主人公が口で言えば分かるのにいきなり殺傷行為働こ…
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