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 夏休みの直前、試験期間が終わって部室に集まったとき、こんなことがあった。

「合宿をします」

 テストの出来を話している最中に、天水が突然言った。唐突なのはいつものことなので別段驚くこともなく、三人は天水に顔を向けた。天水は会話を中断した三人を見て、顔の横に小さく手を挙げて、控えめに、

「合宿を、したいです」

 提案になった。

「うん」

 古泉が頷いた。

「いつですか?」

 悩むこともなく、夏川が言った。

「え? 反対しないの?」

 天水は意外そうな顔をした。

「日程が決まらないことには何とも」

 そう言った水上も反対ではないようだった。話し合いの結果、日程は混雑が解消され、バイトの休みも取れそうなお盆明けに決まった。

「それじゃあ次は行き先だね。行きたいところがある人ー?」

「はい」

 提案した段階では反対されると思っていたのか、日程を話し合う辺りから天水の仕切りに興が乗ってきた。手を挙げたのは古泉だ。

「古泉君、どうぞ」

水上家(みなかみけ)

「はい決定。いざ水上家」

 天水が即決して拍手をし始め、古泉も「いざー」と言いながら手を打ってはやし立てた。夏川も拍手しようとしたら水上に睨まれたので、やめた。

「水上家は一般公開されておりません」

 と、水上が言った。冗談かそうでないか、はかりかねているようだ。

「発言は挙手のあと、指名されてから行ってください」

 天水が打って変わって真面目な調子で言った。彼女の脳内では国会答弁のようなものが繰り広げられているのかもしれない。

 水上は右手をまっすぐ挙げ、左手で脇の下を隠した。古泉は吹き出した。

「水上君、どうぞ」

「はい。厭です」

「なんでですか?」

「合宿の行き先としてふさわしくないからな。ただの民家だし。それに遠い」

「それなら大丈夫。水上くんちの建築美を堪能しようってわけじゃないから。あわよくばトーキョーにも行こうと思ってるし」

「ならトーキョーでよくね」

 多数決で決めることになった。その時点で結果は分かりきったようなもので、案の定三対一で水上家に決まった。

「どうせなら水上くんちに泊めてくれない? 経費削減で」

「いやー、親がムリって言うだろうなー。残念だなー」

「聞いてみて」

 白々しい水上に古泉が言った。水上は諦めてメールを打った。

「少数意見を尊重するって言いますけど、黙殺されてますよね」

「こんなもんだよ。一応、トーキョーにも行くし」

「それ、もともと天水さんの意見では?」

「気にしない気にしない」

 夏川が多数決の欠点を嘆いていると、返信が来て、水上は三人に携帯電話を見せた。

『いいよ』

 本文はそれだけだった。

「さすがは水上の母堂」

 古泉は感心したように言った。

 

 で、今。終点の一つ前の駅で天水は目を覚まし、古泉もだいぶ落ち着いたようだった。

「船に乗るの、やめとくか」

 水上は船酔いの心配のある二人に聞いた。

「うん」

「やめとく」

 二人同時に答えた。

「それなら、先にトーキョーに寄りませんか。まだ早いですし」

 夏川の提案に異議を唱えるものはいなかった。

 特急は終点に着き、四人は新幹線の指定席の切符を買った。宿泊費が抑えられたのでこういう所にお金をまわせる。

 この短篇は視点移動が多いです。

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