side/B
夏の制服の少年たちが歩いてくる。
その中にいる筈のない顔を探す自分に気がついて、苦笑する。
もう何年も経っているのだ。
忘れようとして、忘れた。
細い体にしなやかな筋肉が綺麗についていた。
うわごとのように何度も私の名を呼ぶ声が、耳の裏側から聞こえる。
女を扱うための技巧など何も持たず、剥き出しの感情のままの彼はまだ、少年だった。
10歳も下の男と戯れて、それが未来につながるなんて私には思えず
永遠の感情なんてありえないのだと、繰り返して伝えても
何度かの恋の中で、私が学習した事柄のひとつに過ぎないことは
彼にとって理解できないことであり、理解したくないことだった。
夏の制服の白いシャツが私の部屋から出て行くたびに
いつか、彼は私の所から飛び立って行ってしまうことを強く思った。
私はもう制服など着ていない、彼よりもたくさんの季節を過ごしてしまっているのだと。
彼の望むがままに私の生活を変えることなどできず
――昨夜はどこに行っていたの。誰と一緒だったの。
ひとつひとつ確認する彼が痛々しかった。
――僕があなたを欲しがるほど、あなたは僕を求めてはいないじゃないか。
そうではないのだと言葉を尽くすほどに、彼の顔からは無邪気さが消えていき
これは私の罪なのだろうかとすら考えた。
まっすぐな彼の眼差しが、いつ私から逸れてしまうだろうかと、そればかりを思いながら。
彼の前で年齢を重ねたくない。
彼が私に夢を見ているうちに、私を欲しいと思ってくれているうちに
彼の目の前から消えてしまわなくては。
――もう自由になりましょう。
私が、自分自身に言った言葉だった。
彼が私から離れようとした時に、しがみつく自分を見たくはなかった。
夏の制服の少年たちは、何がおかしいのか一際大きな笑い声をたてる。
出逢った頃の彼の姿が見える。
以前、恋をしたわ。
あなたたちによく似た少年と。
私は少年たちとすれ違い、前を向いたまま歩き続ける。
お読みいただき、ありがとうございました。