その音、朗報につき
「おめでとうございます。あなただけの特別な席が用意されました」
その通知を受け取ったとき、私はこれでようやく、底辺の生活から抜け出せるのだと本気で信じていた。膨れ上がった借金、鳴り止まない催促の電話、何もかもをリセットできる「特別な切符」を、自分だけが手に入れたのだと。
しかし、その狂喜が冷めやらぬうちに、世界は一変した。
あり得ないはずの場所から響く、冷徹なノックの音。
そして、その「当選通知」を受け取ったのは、私だけではなかったという冷酷な真実。
全人類が「特別席」に招かれたとき、そこに用意されているのは極上のショーなどではない。
それは、地球という巨大な劇場で始まる、最も残酷な終焉の特等席だ。
本書は
その音、朗報につき
「おめでとうございます!厳正なる抽選の結果、あなたに『特別席』が当選しました!」
スマホの画面に躍り出たポップアップ通知と、軽快なファンファーレ。それは間違いなく、このどん底の人生において最大の朗報のはずだった。
借金に追われ、四畳半のアパートで明日の食費にも困っていた男、大輔。彼は狂喜乱舞した。何の抽選に応募したかは覚えていなかったが、画面には「本日24時、お迎えの音が鳴ります。決してお聞き逃しのないよう」と書かれている。大輔は胸を高鳴らせ、その時を待った。
23:50
部屋の中は静まり返っている。大輔は耳を澄ませた。
23:59
時計の針が重なる。ついに、その音が聞こえてきた。
トントン
微かなノックの音。大輔は跳ね起き、ドアへ向かおうとした。しかし、違和感に足を止める。
音の方向がおかしい。玄関からではない。
トントン、トントン
音がしているのは、大輔の背後――窓の外からだった。ここがアパートの「4階」であることを思い出し、大輔の背筋に冷たいものが走る。
「……いや、何かの見間違い、いや、聞き間違いだ」
自分に言い聞かせる大輔。すると、スマホがブブッと震えた。新しい通知だ。
『お迎えの音が聞こえましたか?それはあなたにしか聞こえない、救済の足音。なお、当落の通知は“全員”に届いております。』
全員に?
大輔は慌てて、薄い壁の向こう、隣の部屋に耳をすませた。
壁の向こうから、隣人の狂ったような笑い声が聞こえる。「当たった!当たったぞ!」と叫んでいる。
さらに、下の階からも、上の階からも、地鳴りのような歓声が響き渡り始めた。
トントン、トントン、トントン、トントン
アパート中の窓という窓から、無数のノック音が鳴り響く。
『おめでとうございます。この世界の全人類が「特別席」に当選しました。それでは、まもなく開演です。』
大輔が恐怖に震えながらゆっくりと振り返ると、4階の窓硝子の向こう側、暗闇の中に**「それ」**がいた。
見たこともない異形のモノが、満面の笑みを浮かべ、歓喜に震える手でゆっくりと窓を叩いていた。
その音、人類滅亡の朗報につき
【了】
もう一度気になっていただけましたのならば光栄です。次を書きます よろしくお願い申し上げり




